上 下
6 / 6

4 準備と祝福

しおりを挟む
「準備できたー? もう召喚していいー?」

 50メートルほど離れた場所からフェデリカが訊いてきた。
 それに僕は「もう少し待って!」と返す。

「りょーかーい」

 フェデリカの返答に軽く片手を上げて応えてから、僕はフェデリカを待たせてしまわないよう急いで残りの準備に取り掛かる。

「準備運動はこれでよし、と。あとは装備とスキルの確認だね。――ステータス」


 フォン――。

 と、こちらの世界ではあまり耳馴染みのない電子音のようなものが鳴って、僕のすぐ目の前に長方形の薄い青色をしたメニュー画面が表示された。
 こうしてステータスと一言唱えるだけで、すぐに自分の基本情報を確認できる。この世界に来たばかりの頃、まるでゲームみたいだ、と思ったことを覚えている。


「ええと、まずは……ひさしぶりだし、ちゃんと基本ステータスも見ておこう」

 もちろん、それら基本情報は今でもしっかり頭の中に入っているけれど、これは僕の“勇者としてのブランクがないか”をチェックする大事な模擬戦だ。
 相手はフェデリカがアイテムを使って召喚する上位クラスの魔物。
 慢心、油断のないよう、きっちり準備しなくちゃ。

 僕は、宙に浮いたメニュー画面を指で軽くタッチして、基本ステータスを表示した。




名前  :セナ・サクヤ
称号  :救世の勇者

種族  :人間
年齢  :21
職種  :勇者

レベル :90  (MAX)
HP   :5850
MP   :2500

生命力 :300 (MAX)
力   :286
知恵  :105
信仰  :53
俊敏  :300 (MAX)
幸運  :268

加護  :勇者の奇跡
     救世の軌跡
     帰還の祝福[EX]




「……? なんだこれ?」

 スクロールしながらステータスを確認していると、加護の項目で目が止まる。
 他はすべて以前と変わりないもので、何も問題はなかったのだけれど、この項目だけおかしかった。


「【帰還の祝福カムバックボーナス】? こんな加護知らないぞ……?」

 そもそも、三つ目の加護があること自体おかしかった。
 加護とは本来、一人につき二つまでしか与えられない。
 生まれるときに付与される一つ目と、強大な敵の討伐や未開拓ダンジョンの踏破など、何かを成し遂げたときに冠される“称号”によって付与・変化するものの二つ目だ。
 これら加護は、パッシブスキルのように常時発動していて、僕らに特別な力や効果をもたらしてくれる。

 そう、加護は特別なんだ。
 気がついたら増えていた、なんてことがあるだろうか。

「しかも、なんか[EX]って謎の表記まであるし。……うーん、なんだろ」

 加護効果の詳細を確認しようとタッチしてみた。




 帰還の祝福カムバックボーナス[EX]

 その昔、世界を救い死地から帰還した原初の勇者は、星の神々から七つの祝福を与えられたという。
 この伝説に倣い、待つ者の下へ帰還した救世の勇者へ、これから七日間に渡り一日に一度ずつ、祝福を与える。

 効果:一日に一度、【帰還の祝福】詳細画面を開くことでボーナスを取得できる。
    すべてのボーナスの取得が終了した後、この加護は消滅する。



「一日に一度のボーナス……?」

 と、次の瞬間――



『一日目の【祝福】を取得しました。一日目の【祝福】は、レベルキャップ解放です。』





「え? え? レベルキャップ解放?」

 表示されたメッセージに困惑する。
 本当になんなんだ、これ。

 僕にボーナスでいろいろくれるらしいってことは、説明を読めばもちろん分かることなんだけど、それがなぜなのかが分からない。
 こっちの世界に帰って来たことで何かしらの隠し条件を満たして、この加護が付与されたのだろうか。



『一日目の【祝福】の効果により、セナ・サクヤのレベル上限が100になりました』

『これに伴い、各種パラメータの上限もそれぞれ+50されます。』


 現れては消えるメッセージ。
 僕はそれらを訝しげに眺めていたのだけど、どれもはっきりとプラスになる効果ばかりで――。


 ……あ。
 そういえば。

 そこでふと思い出す。
 こちらに転生することを決断した日、管理者さんが何か言っていたような……。


「そうだ、そうだよ。管理者さんが言ってた。確か……、『向こうに帰ったらちょっとしたプレゼントをやろう。まぁ、楽しみにしておくんじゃな』とかって」


 ああ、なるほど、あのおじいさんの仕業かこれ。
 あの時、いじわるな顔して笑ってたなぁ、そういえば。
 

「……それならそうと、ちゃんと教えてくれたっていいのにな。見覚えのない加護があったらびっくりするっての」


 こんなボーナスをくれたのだから、感謝の気持ちはもちろんあるけれど。
 まったく、本当にイタズラ好きな管理者さんだ。

 はぁ、と僕は溜息をついて、今はやるべきことをやろう、と模擬戦の準備を再開するのだった。


しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...