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レティシアが求めるものとは
しおりを挟む項垂れるヴィンセントと苦虫を噛み潰したような顔のマクシミリオンを連れ、近衛達が部屋から出て行った。ウィルフレッドは立ち上がり、レティシアを抱きかかえる。
「シア、帰ろう?」
「でも、まだ・・・ダンスも踊ってないわ・・・」
「ダンスより大事な事があるだろう?」
「ダンスより大事?」
「あぁ、俺にシアを独り占めさせろ・・・奴が触れたところを・・・上書きする」
「ふふっ、そうね・・・言われてみれば、なんだか気持ち悪いわ」
「だろ?さぁ、帰ろう」
蕩けるような笑みを浮かべ、ウィルフレッドはレティシアを抱えたまま歩き出す。馬車の中でも膝の上に乗せ、下ろさないまま。そして着いた屋敷の玄関で。
「シア、疲れただろう?湯あみしておいで」
「・・・」
「シア?」
沈んだ顔をするレティシアを心配そうに覗き込むウィルフレッド。
「・・・今日は言わないの?」
「何をだ?」
「他の男に触れられた女は嫌?もう、好きじゃなくなった?」
レティシアが泣きそうな顔でウィルフレッドを見上げる。
「何を言ってるんだ!シアを嫌いになるなんてありえない。逆に言うが、シア以外女として見ていないぞ?」
「じゃあ、なんで言わないの?」
「えっ・・・俺は・・・何を言ってないんだ?・・・おかえりシア、おかえりのキスは?」
「・・・うん」
二人は玄関先で軽く触れるだけのキスをする。唇が離れたが、レティシアの表情はまだ晴れないまま。
「今日は・・・ルシアンはいないから・・・ルシアンだけズルい!・・・でもないな・・・食事にしよう?・・・違うか・・・」
ウィルフレッドは普段のやり取りを思い出しながら、悩みながら口に出していく。
「今日も一緒に眠ろう?・・・違うのか・・・」
いろいろ試してみるが、レティシアの表情は変わらない。表情を伺いながら、さらに続けていく。
「今日は寝かさないぞ?・・・いや、これは言った事ないのか・・・一緒に・・・一緒に・・・う・・・ん・・・一緒に・・・湯あみしよう?・・・違うよな?」
苦笑いしながら天井を仰いだウィルフレッドだったが、急に腕を掴まれ前のめりになった。
「うぉっ!?シ、シア、どうしたんだ!?」
「・・・」
腕を掴んだままレティシアが歩き出す。
「シア?」
「・・・」
何度も呼びかけるが、前を歩くレティシアは何も答えない。歩いた先に行き着いたのは、いつも一緒に眠っているウィルフレッドの自室だった。
「・・・シア?」
何も言わないレティシアを、ウィルフレッドは後ろから静かに抱きしめた。
「・・・私・・・穢れてしまった?・・・もう、ウィルに求めて貰えない・・・っ・・・」
レティシアの瞳から一筋の涙が落ちた。それを涙を見て、そしてレティシアの言葉に、もうウィルフレッドの中には、遠慮というものはなかった。
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次回
だったらこれからは遠慮なんてしなくていいな
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