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縋り泣く騎士団長
しおりを挟む話もひと段落して、紅茶に手を伸ばそうとした時だった。勢いよく何にかが近づいてきたと思えば、レティシアの膝の上に、頭が乗っていた。腰にはしっかりと腕が回され、逃さないとばかりの格好だ。
「・・・ウィル?」
「シア・・・シアじゃないよな?」
「何が?」
「未来の王妃様に当てがあるって・・・」
「私じゃないわ」
「・・・本当か?」
涙で潤んだ瞳がレティシアを見上げている。あぁ、この人はどうしようもない人だ・・・そう思いながら頭を撫でた。
「はははっ、本当に、ウィルフレッドが飼い慣らされておるな!」
「凛々しい騎士団長も私の前では甘えた子犬ですもの」
地面に膝をつき、レティシアにしがみついて、足に頬を擦り付けて甘えるウィルフレッド。その光景を微笑ましげに、そして大笑いされながらも、ウィルフレッドは、それをやめようとはしなかった。身体を震わせむせび泣いている。レティシアが優しく抱きしめ背中をトントントンと叩けば、ウィルフレッドはドレスを掴み、抱き付いていた手を緩め、涙目で見上げてきた。レティシアはふわりと笑顔を向ける。それから国王に視線を向けた。
「・・・陛下、騎士団長から私を奪うとこうなります。使い物にならないのは困るでしょう?」
「全く、見事なものだな」
ウィルフレッドの変貌を微笑ましく眺めながら国王レオナルドは語った。
「私は、ウィルフレッドの母である公爵夫人の姉、クリスティアにずっと惚れていた。若い頃は、ずっと縁談を持ちかけては迫っていたものだ。だが、クリスティアには長年想ってきた男がいてな・・・それは公爵当主だ。ディアルドの事がずっと好きだったクリスティアは中々首を縦には振ってくれんかった。今のヴィンセントの気持ちが良くわかる。だが、ヴィンセントと違うのは、最終的にはクリスティアを手に入れられた事だ。だが、心には、ずっとディアルドがいたのだろうと思う。もしも・・・もしも、ディアルドではなく、先に私が出会っていたら・・・違ったのかと思ってな。だが、先ほど言われた・・・私を選べば王妃になれる・・・耳の痛い話だな。だからクリスティアは私を好きにはなれなかったのだろうな。ミシェリアがあんな風に育ってしまったのも、ヴィンセントがそう口にしてしまったのも・・・全て私のせいなのかもしれないな・・・」
寂しそうに俯く国王レオナルド。レティシアは、じっと見つめて言った。
「ですが、陛下。陛下がクリスティア様を手に入れたように、アルバート殿下は、欲しい者を手に入れましたよ?ヴィンセント殿下を必死に追いかけていた姉、マリーリアを。今は、二人は相思相愛のようです。あの強気な姉が翻弄されていますもの。意地っ張りで、素直になれない姉を、全てをひっくるめてアルバート殿下は愛してくださっている。親子って、似るものですね・・・」
「そうか・・・少しは、クリスティアも私を好きでいてくれただろうか・・・」
少し寂しげな笑顔を浮かべた国王レオナルドを、足に頬を擦り付けて甘えているウィルフレッドの頭を撫でながら眺めていたレティシアだった。
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次回
【ウィルフレッドside】
陛下は一体何をお考えなんだ!
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