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ウィルフレッドの提案
しおりを挟む「レイバンが孤児院育ちなのは陛下もご存知ですよね?」
「あぁ、知っている」
「イズヴァンドの街には仕事がなく、若い者、小さな子を持つ親が出稼ぎへと出て行って、街には老人子供、弱い女性などしか残っていない状態だったようです。次第に街は衰退の一途を辿っていき、子を置いたまま親だけが街の外へと出稼ぎに出るようになっていたそうです。そうすると必然的に子を預かる場が必要となります。はじめは近所で助け合いなどが行われていたようですが、それも難しくなると孤児院へ預ける事も増え、そのまま戻らないままという事も多々あったそうで・・・神父様はそう言った子達を引き取り育てていましたが、その子達も大きくなるにつれて街を離れていく。イズヴァンドはいつしか荒れた土地へと変化しました。現状は・・・自給自足で食い繋いでいるような状態です」
「確かに税収が途絶えていたのは知っていた。だがまだ人が住んでいたとは・・・」
「レイバンに会いたいと・・・レイバンの帰りを待っている者達がいます」
ウィルフレッドはこれからは提案する事が国王に受け入れられるのか、うまく行くだろうかと内心気が気ではなかった。だがしかし、レイバンの帰りを待つ者がいる。損得でも利益感情でもなく、渡す先を失ったままだった無償の愛を持って。
「陛下、提案を一つよろしいでしょうか」
「申してみよ」
「牢に捉えていたレイバンの処遇ですが、イズヴァンドの地の再建と復興に尽力する事を科すというのはいかがでしょう」
「それは荒れた地に送る罰・・・と言う事か?」
「そうではありません。ある方に後見を頼み、再建に力を貸して頂こうと思っております」
「ある方?」
「北の辺境伯クレイドル様です」
その名を聞き、国王レオナルドは一瞬目を見開いたが、次第に表情が緩み、ふっと笑いを漏らした。
「義弟か・・・いいだろう」
ひとまず許しを得た事でウィルフレッドはホッとしていた。
「イズヴァンドは北の辺境領と隣接しておりますし、クレイドル様は陛下から見ても私から見ても信用にたる人物かと」
「彼の地は・・・沢山の過ちによっていろんなものが失われてしまった。もちろんその過ちは王家によるところが大きいだろう。王家としても再建と復興に力を最大限貸すことを約束する」
「ありがとうございます!」
レイバンの胸中は複雑だろう。あの時王家がもっと力を貸してくれていたら。もっと早くに寄り添ってくれていたら・・・そうやって受け入れられない心と葛藤する事もあるだろう。だがイズヴァンドは、そしてレイバンの人生はここからなのだ。ここから作り上げていけばいい。そして、報われない死を遂げた者を弔う為にも、イズヴァンドは忘れられてはいけない土地なのだとウィルフレッドは強く思っていた。
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