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ミリアとオリバーの相手
しおりを挟む食ってかからんばかりの勢いだった宰相も、アルバートに諌めされ落ち着きを取り戻したようだった。
「宰相殿、昔、ミリア嬢が誘拐されかけた事、覚えていらっしゃいますか?」
「勿論です」
「ミリア嬢はその時助け出してくれた一人の騎士にずっと想いを寄せているんです」
「騎士に・・・」
「はい、当時その騎士は第一騎士団の小隊を率いる者でした。王都の街の巡回中に家紋のない見慣れぬ馬車に違和感を感じたその騎士は確認を要請しました。もちろん御者は嫌がったと思いますよ。その騎士の勘は正しかった。ミリア嬢とシアが縄で縛られ、口も聞けぬ状態で馬車に押し込まれていたそうです・・・あぁぁぁぁ・・・」
「どうしたんだ、ウィルフレッド?」
「殺してやりたいです」
「本音がダダ漏れだね」
「その時シアを俺が助け出したかった・・・」
ウィルフレッドは怒りを露わにして、目の前のテーブルを睨みつけている。
「出会う前の事だったんだ、仕方がないだろう?」
「アイツが羨ましい・・・」
「恋されていた事にか?」
「はい・・・」
アルバートはふっと笑った。
「僕も羨ましいよ?だって相手から想って貰えるなんて。ウィルフレッドもそうだもんね?想い続けて追いかけてやっと手に入れた愛しい者だ。だが考えてみて?僕たちはもう手中にある。その騎士は・・・まだ形にもなってないんだろう?」
「そうですね。今更妬いても、羨ましがっても仕方ありませんでしたね」
ウィルフレッドとアルバートの会話を聞きながら宰相はソワソワとした様子を見せている。それもそのはず、何を言っても誰を勧めても首を縦に振らなかった娘が、ようやく誰かと一緒になる事を考えているのだ。相手が平民?どうとでもなると宰相は考えていた。継ぐ爵位がない?そんなの何処かの養子にでも入れれば済む話。いや、なんならそのまま婿に貰えばいい。騎士であるなら、小隊を率いる力があるなら騎士爵なら与えられているだろう。オリバーが事件に関与して、夜会の騒動でも一枚噛んでいた。第一王子ヴィンセントの側近から外されたオリバーに、宰相の息子として伯爵家の当主となることは、一生その傷が入った経歴を持ち続けたままだという事なのだ。宰相に息子はオリバーのみ。泣く泣く次期当主の座を下ろした。今は婚約者である同じ家格の伯爵家の家に身を寄せている。事件に関わり、醜聞が付き纏い、その上側近からは外され、自身の家の次期当主としての地位も失った。そんなオリバーには用はないとなるかと思われていた。だが、オリバーの婚約者である伯爵令嬢は、オリバーを愛していた。何があってもオリバーと離れたくないと両親に直談判し、屋敷に招き入れた。はからずともその伯爵家は、一人娘だったので婿が欲しかった。何はともあれ義両親になる伯爵夫妻も最後には喜んでいたという。宰相はやはりソワソワしていた。
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