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マクシミリオンの涙
しおりを挟む伯爵となり、イズヴァンドの領主になるようにと国王からの言葉に、レイバンはまだ爵位を受け取る力はないと言った。その話を横で静かに聞いていたマクシミリオンは、自身の犯した罪は小さくとも、レイバンと違い確固たる理由がない。何もかもうまくいかないことへの八つ当たりでしかない事に、いったいどんな処罰を受けるのだろうと後ろめたい気持ちだった。
「では、マクシミリオン」
マクシミリオンはビクッと反応し、俯いていた顔を上げた。国王の表情は読めず、一体どんな罰を与えられるのか想像がつかない。
「お前は北の辺境へと行ってもらう」
「はい・・・辺境・・・」
辺境でその身を差し出して戦えと言われているのか。マクシミリオンは次の言葉をじっと待つ。
「お前の罪はさほど大きくはない。だが、王族の寝室に忍び込むなどもってのほかだ。反逆罪と捉えられてもおかしくない。ランドルスト公爵より、公爵家の次期当主は縁者から養子をとると決めたそうだ。公爵はお前を廃嫡とすると・・・決めた」
「・・・廃・・・嫡・・・」
「マクシミリオン、辛いか」
「そう、ですね・・・」
マクシミリオンは唖然とした表情で床をじっと見つめていることしかできなかった。父を見返したい。父に認められたい。たったそれだけの事に意地になって無茶をしたばかりに人生を棒に振った。なんて自身は愚かなのだろうと考えていた。
「陛下・・・私は剣を握ったことがありません。辺境で武力として役立つとは思えません。ですから」
言いかけた言葉を国王が遮る。
「お前が騎士として役に立たぬであろうこと、そんなのは承知の上だ。それでも北の辺境へと行ってもらう」
「何故・・・」
「お前は曲がりなりにも第一王子であるヴィンセントの側近に選ばれただけはある。その優秀さは私も知っている。だからだ、騎士としてではなく、参謀として辺境で腕を磨き奮ってこい。父親に認められたかった、見返してやりたかったと、欲はあるようだしな。お前の頭と知恵で国を守れ。お前を廃嫡とした事を後悔させるぐらいに自分の価値を高めるのだ」
マクシミリオンは何も言えずただただ国王の事を見ていた。
「マクシミリオン、お前は頑張っていた。私はきちんと認めている」
国王のその一言で、何を言えばいいのか、どう感情を出せばいいのかわからなくなっていたマクシミリオンの瞳から涙が溢れ出す。泣くなと我慢してもダメだった。次から次へと溢れ出る涙は止まる事はなかった。公爵家の嫡男として厳しく教育を施されながら育った幼少期。どんなに褒められたくても、認めてもらいたくても、父親である公爵は結果が全てだった。結果の伴わない過程は見向きもされない。これまでの全てを、そのたった一言でマクシミリオンは救われたような気持ちだった。手を硬く握りしめ、俯いて涙を我慢していたが、溢れ出す感情を止める事は出来ず、とうとう声を出して泣き出してしまった。その様子を静かに見守っていたウィルフレッドは、同じ公爵家の嫡男という立場で、わかっているつもりではいたが、認められる、褒められるがこんなにも人格に影響を及ぼすものかとマクシミリオンを見つめていた。
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