上 下
397 / 524

なくなってしまうから

しおりを挟む


ウィルフレッドがレティシアの手ずからクッキーを食べている光景に、唖然としていたミリアと所在なさげに困っていたアイオロス。


「ミリアも副騎士団長様に差し入れ持ってきたんでしょう?いただいてもらったら?」

「俺に!?」

「へっ、あ・・・えっと・・・」


ぱぁっと笑顔になったアイオロスがミリアの手元に目をやる。


「う、うまくできたかわかりませんけど、作ってきましたの・・・」

「なんと!手作り!?」


目の前でウィルフレッドとレティシアのあーんを見せられ、アイオロスも期待したが、ミリアにはまだそれはできそうにはなかった。カゴごと手渡され、少しだけ残念に思いながらも、隣に座ったアイオロスは、ミリアの作ってきた菓子に伸ばしかけた手を止める。アイオロスはミリアから渡されたカゴを両手で抱え、困ったように中を見ていた。


「確かに上手にできたとは言えません。ですが、食べれない程のものではないと思いますけど・・・」

「あ、いえ、そうではなくて・・・食べてしまったらなくなってしまうから・・・勿体無くて・・・」

「食べ物なのですから、いつまでも取っておくことはできませんわ!」

「でも・・・」


尚も菓子に手を伸ばさないアイオロスにミリアはとうとう手を伸ばす。


「はい!」

「んぐっ!」


痺れを切らしたミリアはアイオロスの口に無理矢理菓子を押し込んだ。もぐもぐと無言で口を動かしているアイオロスはまだ困ったような顔をしている。


「もう・・・また作って差し上げますから」

「・・・んっ、本当ですか!?では、これは頂いてしまいます!ミリィ、美味しいですよ!ミリィは料理上手なのですね。可愛いのに料理上手で・・・本当に最高の婚約者です」


アイオロスが満面の笑みでそう言うものだから、ミリアは真っ赤になってそっぽをむいてしまった。


「それにあーんもして貰えましたし」

「こ、これは数には入りませんわ!」

「いいえ、紛れもなくあーんでした」


ニコニコと見つめてくるアイオロスに耐えきれずミリアは赤面して俯いてしまった。


「ミリアったら、副騎士団長様に翻弄されっぱなしね」

「アイオロスも意外とぐいぐいいくタイプだったんだな・・・」


面々様々な感想を抱きながら二人の様子を見守っていた。しばらくすると飽きたのか、ウィルフレッドがレティシアの膝を陣取った。


「なに、お昼寝するの?」

「少しだけ」


ウィルフレッドは静かに目をつぶると途端に寝息を立て始めた。目の前で繰り広げられる二人の様子にミリアはただただ驚くばかり。随分と前からレティシアにご執心なのは知っていた。だがここまで二人が人前で仲睦まじい様子を見せるとは流石に思わなかった。そんな事を考えているとふと視線を感じる。何だろうと横を見ると、菓子を全て食べ終わったアイオロスがジッと見つめてきていた。



しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

二番煎じな俺を殴りたいんだが、手を貸してくれ

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:404pt お気に入り:0

狂愛アモローソ

BL / 連載中 24h.ポイント:234pt お気に入り:5

妖精のいたずら

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,803pt お気に入り:393

ラグナロク・ノア

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:213pt お気に入り:3

さよならイクサ

現代文学 / 完結 24h.ポイント:695pt お気に入り:0

アンバー・カレッジ奇譚

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:92pt お気に入り:0

逢魔刻に氷菓を手折り

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:40

処理中です...