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ウィルフレッドの憂鬱
しおりを挟む「はぁ・・・」
「さっきからため息ばかりね」
「仕方がないだろう・・・」
ウィルフレッドがレティシアを抱きしめる腕に力を入れる。肩や首にぐりぐりと頭を押し付けるたびにチャプチャプと水面が揺れる。国王や王子達と話を済ませた後、公爵家の屋敷に戻ってきた二人は夕食を済ませ、今は湯船に浸かっている。後ろからレティシアを抱きしめて、先程の話を思い出してはため息をついているのだ。
「とにかくシアの事は気付かれるわけにはいかない。この髪ではすぐに気付かれる」
「髪、染める?」
「・・・染める?」
「えぇ、ウィルなら、違う私も見てみたいんじゃないかと思って」
「・・・それは・・・確かに興味はある」
「でしょう?」
じっとレティシアを見つめていたウィルフレッド。頭の中で、違う色の髪や瞳のレティシアを想像するが、やはり今の色が一番だと結論づけた。
「シア、湯あたりするといけない。そろそろあがろう」
「えぇ」
ウィルフレッドはバスタオルを掴むと、レティシアを包んで抱え上げた。そのまま寝台へと運んでいく。静かに下ろすと、ウィルフレッドも横になり、後ろからタオルごとレティシアを抱きしめた。ぎゅうぎゅうと抱きしめていた腕も、時間が経つごとに少しずつ緩まっていく。しかしレティシアは気付いていた。ウィルフレッドの手が、迷っている事を。レティシアの腹部に回されていたウィルフレッドの手。最初は動きはなかった。だが、少しずつ、動かそうとしては止め、首に額を押し付けて擦り寄る。我慢しているのだろうかと考えるも、少し様子を見ていた。最後まで行為をしていない二人だが、十日の休暇の間にもそれらしい事はしていた。だが、休暇の途中から、正確にはソハナスの宰相と会い、レティシアがソハナスの元王女の娘であるという事を知ってからだろう。しかし、ウィルフレッドにとっては、それはどうでもいい事であり、気にしているのは他の事だった。
「しないの?」
「へっ?」
「迷ってる、もしくは我慢している」
「・・・」
ウィルフレッドは、見透かされていたようで、ビックっと反応し、固まってしまった。
「ウィル?」
「あ・・・あぁ・・・」
「ねぇ、ウィル、私達は夫婦だわ。そういう事になったって、誰も咎めないの。それに、お義父様やお義母様は孫を抱きたいと楽しみにしてらっしゃるわ」
「・・・」
無言になり、何も言わなくなったウィルフレッド。今は何を言ってもダメだろうと、レティシアはそのまま眠ってしまう。寝息の聞こえてきたレティシアを後ろから抱きしめ、ウィルフレッドも眠りに落ちていった。結局何も変わらないまま、いや、以前に増してその先に進めない二人だった。
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