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休戦と胸の痛み
しおりを挟む言い争いのような雰囲気の二人を残しレイラはドアを締める。レイバンはドアが閉まったのを確認するとライエルを睨んだ。そして小声で言う。
「一時休戦だ」
「休戦も何も、争っているつもりもないのですが・・・」
「とにかく、行け」
ライエルはしょうがない人だなぁという苦笑いを残し去っていった。レイバンはレイラの部屋のドアを背に、ずるずるっと崩れるように座り込む。
「何をやってるんだ俺は・・・」
好いた女が蔑ろにされ、遊ばれている一時的な関係なんだと勝手に思い込んでいるレイバン。ライエルが思うように、単なる勘違いで、完全なとばっちりである。レイバンはその後も悶々と考えながら、レイラの部屋を守る護衛のように、一時もその場を離れようとはしなかった。ライエルがレイラの側についていてやらないと言うのなら、自身が守ってやりたいし、側にいてやりたい。例えレイラに望まれなくとも、こっちがやりたいだけでしている事。そう自分に言い聞かせていても、脳では理解していても、胸の痛みは押さえようがなかった。幼い頃しか知らない互いだが、一時も忘れることはなかった。元気にしているだろうか、無事でいるだろうか、誰かと恋仲になって、もしかすると家庭を持ったかもしれない。何年もの間、ずっと想い続けてきた。派遣で来たライエルとはあまりにも積み重ねてきたものが違いすぎる。どれくらいそうしていたのだろう。気付けば陽も落ち、明かりの少ない通路は暗くなっていた。今宵は風が強い。外に立っている木に申し訳程度についている葉がさわさわと揺れる。建物の古さ故、時折窓もカタカタと揺れていた。冷えもするし、気付けば昨晩から何も口にしていない。腹減ったななどと考えていたが、その思考が簡単に吹き飛んだ。
「いやっ!やめて!いやっ!」
レイラの切羽詰まった声がした。レイバンは慌ててレイラの部屋のドアに手をかける。部屋の中に駆け込むと、寝台にレイラの姿はない。また誰かに連れ去られたかと心が焦る。だがよく考えれば、ドアの前には自分がいたし、ここは二階。侵入するなら窓しかないが、閉まっている。どこに・・・と周囲を見渡せば、部屋の隅に、何かに怯えるように、耳をふさいだレイラがうずくまっていた。
「レイラ!どうした!?大丈夫か!?」
レイバンは駆け寄ると床に膝をつく。レイバンの声にほっとしたのか、レイラはおずおずと顔をあげる。その瞳には涙をたくさん浮かべて。
「レイバン様・・・」
目の前で震えるレイラの手を引くと、そのまま閉じ込めるように抱き込んだ。子どもをあやすようではあるが背中を優しくトントンと叩く。レイラはその暖かさに、ただただ身を任せていた。
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