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コルテオに足りないもの
しおりを挟む一通り過去の話を吐露し、少しだけ表情が柔らかくなったコルテオ。医師のドーランが口を開く。
「古傷はもう、15年近く経っているという事か・・・その時にきちんとした処置とリハビリを行っていればもう少しマシだっただろうにな・・・」
「仕方ありませんよ。両親にとって大事なのは兄。次男の僕なんて、どうだってよかったんです。騎士で身をたてるなんて言っているが、お前に何ができると言うんだという目でいつも見られていました。相手の婚約者であった彼女の家とは事業の提携をする予定でしたから・・・それを危うく失いかけたのです。何て事をしてくれたんだと思っていたでしょうね。事業の提携も、あちらに有利な条件が多かったと聞きました。両親は・・・僕の事を疫病神でも見るように、忌々しく思ってますよ。当時、怪我をして担ぎ込まれた僕に対してしたのは、一時的に医師を呼び、止血の処理と薬を受け取っただけ。将来身体がどうなるかなどの心配などなかったのだと思います。医師を呼んだのは表向きの体裁の為で、血で屋敷を汚されるのを嫌っただけ。薬は出されたから受け取っただけ。まともに身体を動かせない僕は寝台の住人になったまま数ヵ月を過ごしました。リハビリどころか寝たきりですからね・・・筋力も活力も無くなるわけです。ですが・・・僕にはあの屋敷に居場所はなかった・・・怪我をした僕はただの役立たず。うまく行くはずだった事業も損ばかり。兄にとってはそれこそ婚約者を押し付けられて・・・ただの被害者ですよ。ですから・・・自分の足で動けるようになり、身の回りの事がある程度できるようになってすぐに騎士団の宿舎に戻りました。針の筵になるよりはいいですからね」
コルテオの寂しそうな表情に、エルサは、彼は愛に飢えていると直感する。ゆっくりと診察台に近づくと、床に膝をついて視線を合わせる。
「エルサ嬢?」
エルサはコルテオの手を両手で包み込むと、ふわりと微笑んだ。コルテオの頬が赤く染まる。
「辛かったですね。お話・・・聞かせてくれてありがとうございました」
「いえ・・・こんな話聞かせても何も面白くはなかったでしょう?」
「いいえ、コルテオ様に何が必要なのかがわかりました」
「必要なもの?」
「えぇ」
にこりと笑うエルサの笑顔に、コルテオの心がほぐれていくようだった。
「次は私の番ですね」
「エルサ嬢の番?」
「えぇ、私の話、聞いてくださいますか?」
「もちろんですよ。エルサ嬢の話ならなんでも聞きたいです」
二人の様子を見て、ドーランはそっと救護室を後にした。
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