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聞いたことのあるような台詞
しおりを挟む2日も続けてエルサが同じ寝台で寝てくれた。コルテオはその事実に嬉しさが込み上げる。だがどこまで喜んでいいのか。自分一人が舞い上がっていやしないか。隣に眠るエルサの顔を眺めながらそんな事を考えていた。
「・・・えぇ、決めましたの・・・」
「ん?」
ぼんやりと考え事をしていたら、突然エルサがそう言った。何を決めたんだ?コルテオは目をパチパチっとさせながらエルサを見るも、またとばかりに寝言だったようだ。
「どんな夢を見ているんだい?」
コルテオは優しい視線をエルサに送る。
「・・・夫に・・・彼しか」
「えっ?」
夫?エルサは確かにそう言った。夫・・・決めた・・・どこかで聞いたことのあるような。そうだとコルテオは思い出した。ウィルフレッドが大泣きしたあの夜会・・・レティシアの台詞だ。彼を夫にするって決めましたの。あれは衝撃だった。でも、ウィルフレッドは嬉しかっただろうななどと考えていた。
「お父様が何と言おうと・・・決めましたの」
「誰なんだろうな、エルサ嬢に気に入られた男は・・・」
寝言を言っているエルサが可愛くて、けれども一体誰を想ってそんな事を言っているのかなどと考え寂しくなって。エルサの言動ひとつにコルテオは心を揺さぶられる。
「・・・ん・・・おはよう・・・ございます」
「ん?あぁ、エルサ嬢、起きたんですね、おはようございます」
やはり寝起きは可愛い。普段凛としていてしっかりもののエルサからはあまり想像がつかない姿だ。このときばかりは少しだけ幼く感じる。こんな表情を見れるのも自分だけの特権でありたい。いずれは誰かのものになるのだろう。だが今だけは、今だけは独り占めしてしていたいと、チクりと胸の痛みを感じながら、少しだけ憂いを帯びた表情でエルサの顔を見ていた。
「コルテオ様?どうなさいましたの?」
「え?何も・・・」
「何もないことはないと思いますわ。何だか思い詰めたような、そうですね、お辛そうな?」
「大丈夫ですよ、寝起きでいつもと違うように見えただけではないかと」
コルテオは何でもないと、安心させるようににこりと笑いかける。だがエルサにはそうは見えなかった。しかしコルテオがそう言うのだから納得せざるをえない。そしてエルサには、起きたら開口一番伝えようと思っていたことがある。
「コルテオ様、お身体の調子はどうですか?」
「はい、ゆっくりと休ませて貰いましたし、何ともありませんよ」
「よかったですわ。では、屋敷に戻りません事?」
「そうですね、砦に設置されている通信機にも問題はなさそうですし」
「そうと決まればまずは朝食ですわ!」
勢いよく起き上がったエルサに驚くも、そのあともまた驚かされる。
「はい、口をあけてください!」
「い、いや、もう大丈夫ですから!」
「あーんですわ!」
「え、えぇ?」
身体はもう何ともないと言ったはずなのに、エルサは毎食せっせとコルテオの口に食事を運ぶ。世話をしている内に楽しくなったのだろうななどと思っていた。コルテオはぐいぐいと迫るエルサに必死で、視線には全く気づいていなかった。使用人達の暖かくも、期待するような視線に。
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