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当主と執事とお嬢様

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「だろうなとは思っていたが、エルサの方がグイグイと攻めてるとはな」

「えぇ、砦の使用人達から聞いた話だと、ここ数日で随分と様子が変わったようでして」


辺境伯の屋敷の執務室。当主であるクレイドルは、砦からの定期報告を受けた従者のジークと話をしていた。通常は砦の状況や騎士達の配置などの業務的なことがもっぱらだが、今回はエルサとコルテオの件も含まれ、随分と様相の違った報告もなされていた。そしてソハナスが奇襲とまではいかないが、エルサを連れ去ろうとした事実も。


「しかし、ソハナス側が手を出してきたか」

「えぇ、それもエルサお嬢様を連れ去るのが目的だと言っていたらしいです」

「国王か?」

「いえ、王子の方みたいですね」

「・・・まったく親子揃って・・・」

「どういたしますか?エルサお嬢様を一旦中央に避難させた方が」

「いや、それだと逃げるようでエルサが納得をしないだろう」

「しかし身の安全を第一に考えれば、叔父にあたる陛下に守って貰うのが一番安全ではあると思います」

「エルサが頷けば・・・だな」


クレイドルもジークも考え込む様子を見せ、しばしの静寂が訪れる。クレイドルにとっては、儚くなっても未だ愛し続ける妻が残した宝である娘。ジークにとっても幼い頃から成長を見続けてきたお嬢様。わかっていて放置するには危険であるということに、二人は気が気ではならない。だが、勝ち気なエルサを納得させる術がない。うーんと唸っているような重苦しい雰囲気。その沈黙と静寂を打ち破るように勢いよくドアが開け放たれた。



バタン!



「お父様!」

「!?・・・エルサか。ノックくらいしなさい」

「あら・・・ごめんなさい。気持ちが急いでしまって、申し訳ありません」

「それで?そんなに急いでどうしたんだ?」

「お父様!コルテオ様はとても素晴らしいですわ!」

「ふむ、随分と興奮しているようだが?何がどう素晴らしいんだ?」


クレイドルはあまりにも興奮していて、中身がない話に釘を刺す。砦からフィーノに相乗りして屋敷に着いた途端、こっちこっちとコルテオは腕を引かれ、何処にいくのかもわからないまま着いてきた結果、今の場面に遭遇している。そしてエルサはクレイドルに対してなにかを訴えたいようだが、興奮しすぎて話がうまく伝わらずにいた。コルテオはそんなエルサを見て、はしゃぐ姿も可愛いななどと考えていた。




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