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盗られたくないが故に

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「そうかそんな事がな」


ソハナスの数人の男達が、王子であるダリオの命でエルサを拐う目的で襲ってきた事を話した。緊迫した話もつかの間。エルサの口からは、先ほどからコルテオは凄い、コルテオの身のこなしがいいと名を連呼し誉めちぎっている。エルサがあまりにも夢中になって話すものだから、クレイドルはなんとも言えない表情で苦笑しながら娘を、従者のジークは小さかったお嬢様がと感極まって。コルテオは顔をほんのり染めながら居たたまれなくもあって。それぞれの想いでエルサを見ていた。


「エルサ、コルテオ殿が素晴らしいのはよくわかった。ノックもせずに急いで入ってきたのは、素晴らしさを語るためじゃないだろう?」


クレイドルはしょうがないなとばかりに話を切り出す。


「そうでした。熱く語りすぎましたわ」


コルテオはクレイドルが話を元に戻したのだと思い、ソハナスの件にどう手を打つかなどの真剣な話をするのだろうと表情を引き締めた。だがその表情はいとも容易く崩れることとなる。


「お父様、私、結婚を致しますわ!」

「えっ!?」


驚いて、つい声が出てしまったコルテオは慌てて口元を手で隠す。エルサには婚約者はいないと聞いている。想っている人物がいたのだろうかと、コルテオの胸にチクりとなにかが刺さったような痛みがあった。クレイドルはどんな表情をしているのだろう。何も言わないということは、クレイドルも驚いている。無言なのが何よりの証拠である。コルテオは盗み見るように顔を上げずに目線だけをチラリとクレイドルに向ける。驚いている、困惑している、固まっている。そんな所だろうかと思ったコルテオの方が困惑した。クレイドルはジークが入れたお茶をゆっくりすすっている。自分を落ち着かせるためかと思ったが、どちらかといえば随分とリラックスしているようだ。最初から知っていたかの如くという様子。そして従者であるジークもニコニコと笑顔を見せている。あぁ、エルサの想い人は、辺境伯も、長年成長を見てきた従者も認めるほどに素晴らしい男なのだろうなとコルテオの心が沈んでいく。


「お父様、婚約者期間はいらないと思うのです」

「なに?すぐにでも夫婦にと言うことか?」

「えぇ、そうでもしないと他の女性に盗られてしまいますもの」


そこまで言うほどに相手の男を愛している。そうにしか聞こえなかった。


「エルサ、結婚に反対する気はない」

「えぇ・・・何ですの?」


なにか言いたげなクレイドルに、エルサは小首を傾げる。


「で?誰と結婚するんだ?」


その場がシンっと静まり返る。


「辺境にくる婿殿候補はこの事を知っているのか?」


クレイドルの言葉に、知りたい、いや、聞きたくない。コルテオは、複雑な気持ちで下を向いていた。




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