影は落ちました

agapē【アガペー】

文字の大きさ
上 下
78 / 116

55、一言の破壊力

しおりを挟む


男爵家の屋敷に滞在しているオーロラとノアール。公爵家からは距離がある為、一泊の予定である。男爵は客間を用意してくれたようだったが、オーロラではなく、ノアールが拒否をした。


「ノアール、いくら仲がいいと言っても、まだ婚前だ。何か間違いが起きてもいかんのだぞ?」

「大丈夫、心配はいりません」

「お前の心配はしていない。オーロラ様の心配をしているんだ」


兄、ラッセルも援護射撃に加わる。


「そうだぞ、ノア、長距離の移動でお疲れだろうし、ゆっくり休んで貰わないと・・・寝る時ぐらい離して差し上げれば?」

「嫌だ」

「お義父様、お義兄様、お気遣いありがとうございます。でも、ノアールの言うとおりにいいのですよ?」

「いや、しかし、親としては・・・そういうわけにも」

「あら、でも、そうしないと、ノアールの情けない姿をお見せする事になってしまいますわ」

「オーロラ様、それはどういう?」

「一緒に寝れないのならせめて近くにいたいと、私が眠る部屋のドアの前で枕を抱きしめて、泣きながら床にうずくまって居座りますが、大丈夫ですか?」

「・・・」

「うわぁ・・・そんなに・・・」


無言でポカンと口を開く父。不思議なものを見たとばかりの表情の兄。何でもないと平然としているノアール。


「もうすでに一週間前から一緒に寝ておりますし、お義父様が心配するような事はおきませんわ。きっと離れると眠れずにノアールが憔悴しきってしまいますわ」


ニコニコと微笑むオーロラを見て、男爵はもうどう言っても、止めても無駄なのだと悟った。


「私はノアールの部屋で休みますわ。では、お義父様、お義兄様おやすみなさいませ」

「あぁ、ゆっくりやすんでください」

「おやすみなさい」


別れたあと、二人はノアールと一つの客間に入る。15歳から城の侍従見習いとして出仕していたノアールの部屋は、随分と前に違う用途で使用されている為今はない。


「ノアール」


オーロラはソファに座ると、自身の足をポンポンと叩いている。ノアールは何かがわからず首をかしげる。


「あら、膝枕嫌い?」

「はっ!!・・・いいの?オーロラの膝枕・・・オーロラにされたい!」


気付けばダイブしていた。さながら膝の上でゴロゴロしている猫のようだ。


「ノアール、公爵家に帰れば、お父様からの教育と引き継ぎが始まりますわ」

「あぁ、頑張るよ」

「ノアールに負担を強いたのではないかと不安なのよ」

「そんなの気にしなくていい。これまでだって城でこき使われてきたんだ。公爵自ら手取り足取り教えてくれるなんて逆に嬉しいよ。しかも、毎日疲れて戻ってきてもオーロラがいる。何よりのご褒美だ。城にいた時はなかった高待遇だな」


ノアールはオーロラに髪を梳かれ、気持ちよさそうに目を閉じている。


「オーロラ、大好きだ・・・愛してる」

「えぇ、私も愛してるわ」


ノアールは目を見開いて固まった。オーロラからの初めての言葉に思考が停止してしまった。


「ノアール?」

「・・・」

「ノアール、どうしたの?」

「あぁ、すまない・・・思ったよりも・・・その、なんだ・・・クルものがあるんだな」

「何が?」

「もう一回行言って」

「ノアール、どうしたの?」

「それじゃなくて!」


ノアールは起き上がって、オーロラの言葉をじっと待っている。


「ん?・・・愛してる」

「・・・・・・・」


ノアールは両手で顔を覆って悶えている。


「ノアール、私はノアールが好きよ、大好き。このサラサラな黒髪も、鍛えられた身体も好きだし、私を抱きしめてくれるこの腕も好き。私を一途に愛してくれて、私だけを見つめる・・・」


オーロラは言葉の途中でノアールの手を顔から離させる。


「私だけを見つめるこの真っ赤なルビーのような瞳も好きよ。あと・・・」

「ま、まだ言うのか!?」

「えっ?いくらでも言えるわよ?まつ毛長くていいなって思うし、ノアールの手はやっぱり男の人だなって思うの、大きいわよね。ノアールってね、左耳の後ろにほくろがあって、キュートなのよ。この首筋にも色気を感じるわ」


真っ赤になって黙って聞いていたノアールだったが、すっと立ち上がると歩き出し、寝台に倒れ込むようにうつ伏せになり静かになった。


しかし、ノアールの心は大騒ぎだった。



(オーロラが!オーロラが!俺のこともの凄く観察している!俺の事見てる!!しかも・・・愛してるって・・・愛してるって!!!こんな事あっていいの!?夢じゃないよね?覚めないよね!?)




かなり悶絶していた。




ーーーーーーーーーーーーーーー


次回

そんなノアール嫌いよ

嫌だ!嫌わないで!

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

悪役令嬢、キャバクラ始めました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:56pt お気に入り:471

身近にいた最愛に気づくまで

恋愛 / 完結 24h.ポイント:34,648pt お気に入り:1,071

私のバラ色ではない人生

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:108,503pt お気に入り:5,725

鬼の黒騎士は小さな黒兎がお好き。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:259

【完結】没落令嬢の結婚前夜

恋愛 / 完結 24h.ポイント:85pt お気に入り:811

男だけど幼馴染の男と結婚する事になった

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:180

転生したらドラゴンに拾われた

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:71pt お気に入り:5,840

処理中です...