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55、一言の破壊力
しおりを挟む男爵家の屋敷に滞在しているオーロラとノアール。公爵家からは距離がある為、一泊の予定である。男爵は客間を用意してくれたようだったが、オーロラではなく、ノアールが拒否をした。
「ノアール、いくら仲がいいと言っても、まだ婚前だ。何か間違いが起きてもいかんのだぞ?」
「大丈夫、心配はいりません」
「お前の心配はしていない。オーロラ様の心配をしているんだ」
兄、ラッセルも援護射撃に加わる。
「そうだぞ、ノア、長距離の移動でお疲れだろうし、ゆっくり休んで貰わないと・・・寝る時ぐらい離して差し上げれば?」
「嫌だ」
「お義父様、お義兄様、お気遣いありがとうございます。でも、ノアールの言うとおりにいいのですよ?」
「いや、しかし、親としては・・・そういうわけにも」
「あら、でも、そうしないと、ノアールの情けない姿をお見せする事になってしまいますわ」
「オーロラ様、それはどういう?」
「一緒に寝れないのならせめて近くにいたいと、私が眠る部屋のドアの前で枕を抱きしめて、泣きながら床にうずくまって居座りますが、大丈夫ですか?」
「・・・」
「うわぁ・・・そんなに・・・」
無言でポカンと口を開く父。不思議なものを見たとばかりの表情の兄。何でもないと平然としているノアール。
「もうすでに一週間前から一緒に寝ておりますし、お義父様が心配するような事はおきませんわ。きっと離れると眠れずにノアールが憔悴しきってしまいますわ」
ニコニコと微笑むオーロラを見て、男爵はもうどう言っても、止めても無駄なのだと悟った。
「私はノアールの部屋で休みますわ。では、お義父様、お義兄様おやすみなさいませ」
「あぁ、ゆっくりやすんでください」
「おやすみなさい」
別れたあと、二人はノアールと一つの客間に入る。15歳から城の侍従見習いとして出仕していたノアールの部屋は、随分と前に違う用途で使用されている為今はない。
「ノアール」
オーロラはソファに座ると、自身の足をポンポンと叩いている。ノアールは何かがわからず首をかしげる。
「あら、膝枕嫌い?」
「はっ!!・・・いいの?オーロラの膝枕・・・オーロラにされたい!」
気付けばダイブしていた。さながら膝の上でゴロゴロしている猫のようだ。
「ノアール、公爵家に帰れば、お父様からの教育と引き継ぎが始まりますわ」
「あぁ、頑張るよ」
「ノアールに負担を強いたのではないかと不安なのよ」
「そんなの気にしなくていい。これまでだって城でこき使われてきたんだ。公爵自ら手取り足取り教えてくれるなんて逆に嬉しいよ。しかも、毎日疲れて戻ってきてもオーロラがいる。何よりのご褒美だ。城にいた時はなかった高待遇だな」
ノアールはオーロラに髪を梳かれ、気持ちよさそうに目を閉じている。
「オーロラ、大好きだ・・・愛してる」
「えぇ、私も愛してるわ」
ノアールは目を見開いて固まった。オーロラからの初めての言葉に思考が停止してしまった。
「ノアール?」
「・・・」
「ノアール、どうしたの?」
「あぁ、すまない・・・思ったよりも・・・その、なんだ・・・クルものがあるんだな」
「何が?」
「もう一回行言って」
「ノアール、どうしたの?」
「それじゃなくて!」
ノアールは起き上がって、オーロラの言葉をじっと待っている。
「ん?・・・愛してる」
「・・・・・・・」
ノアールは両手で顔を覆って悶えている。
「ノアール、私はノアールが好きよ、大好き。このサラサラな黒髪も、鍛えられた身体も好きだし、私を抱きしめてくれるこの腕も好き。私を一途に愛してくれて、私だけを見つめる・・・」
オーロラは言葉の途中でノアールの手を顔から離させる。
「私だけを見つめるこの真っ赤なルビーのような瞳も好きよ。あと・・・」
「ま、まだ言うのか!?」
「えっ?いくらでも言えるわよ?まつ毛長くていいなって思うし、ノアールの手はやっぱり男の人だなって思うの、大きいわよね。ノアールってね、左耳の後ろにほくろがあって、キュートなのよ。この首筋にも色気を感じるわ」
真っ赤になって黙って聞いていたノアールだったが、すっと立ち上がると歩き出し、寝台に倒れ込むようにうつ伏せになり静かになった。
しかし、ノアールの心は大騒ぎだった。
(オーロラが!オーロラが!俺のこともの凄く観察している!俺の事見てる!!しかも・・・愛してるって・・・愛してるって!!!こんな事あっていいの!?夢じゃないよね?覚めないよね!?)
かなり悶絶していた。
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次回
そんなノアール嫌いよ
嫌だ!嫌わないで!
応援ありがとうございます!
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