お嬢さんはある日森の中で熊さんに出会った

agapē【アガペー】

文字の大きさ
4 / 131

4、最初からいなかった

しおりを挟む


リシェリアは旅行鞄一つに入る分の着替えなどの荷物をまとめ、両親がいる執務室に向かう。


「お父様、お母様、お話がございます!」


泣き腫らした顔で入ってきた娘に何事かと驚く。


「リシェリア、どうした、何があった!」

「私、すぐに家をでます」

「家を出るだと!?」

「リシェリア、何があったの!」


リシェリアは一瞬の沈黙の後話出す。


「アイスフォード殿下との婚約を解消してくださいませ」

「なぜだ?なぜそんな事を言うんだ」

「私は殿下の妃にはなれません。純血を奪われました」

「なっ、なんだと・・・」

「誰にそんな事を!」

「フラムウェル殿下です・・・その後側近のお二人にも・・・無理矢理・・・」

「なんと言う事だ!」

「私は屋敷を出ます。修道院も考えましたが、場所を知られるのが怖いのです・・・お父様、お母様、こんな別れになってしまいますが・・・今まで、ありがとうございました。娘は・・・リシェリアはいなかったのです。最初からいなかったのです。妹のミルフィが一人娘だったのです。どうか・・・どうか・・・お体はご自愛くださいませ・・・今までありがとうございました」


涙を流しながら必死に言葉を吐き出す娘を、夫妻はしっかりと抱きしめた。


「お前は何も悪くないのに、何故こんな目にあわないといけないのだ・・・お前が何をしたと言うのだ・・・くっ・・・少し待ってなさい」


侯爵は執務室の金庫から現金を取り出すと、リシェリアに持たせる。


「リシェリア、安全な宿を取るんだ。時期が経てば屋敷に戻ってきなさい。必ず連絡を寄越せ。お前は何があってもブルスト侯爵家の娘だ」

「うっ・・・うっ・・・ありがとうございます」


リシェリアは両親に見送られると、侯爵家の馬車で王都の外れまで送られた。


「お嬢様、どうかご無事で」

「トム、ありがとうね。体には気をつけて・・・お父様、お母様、ミルフィをよろしくね」


長年世話になった初老の御者に別れを告げ、市井の街へ入って行く。

侯爵は宿屋をと言っていたが、リシェリアはどこかに留まるつもりはなかった。乗り合い馬車などを乗り継ぎ、とにかく遠くへ、誰も知らない場所を求めて進んでいった。国を超えると記録が残り、居場所がバレてしまう恐れがある為、国境である辺境地を目指した。

侯爵家の屋敷を出てから5日、ようやく辺境領へ辿りついた。行くあてもない為、とにかく歩き続けた。疲れて足が動かなくなった時は、森の中にいた。動けなくなり、木に寄りかかるように座るとそのまま眠ってしまった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王命って何ですか? 虐げられ才女は理不尽な我慢をやめることにした

まるまる⭐️
恋愛
【第18回恋愛小説大賞において優秀賞を頂戴致しました。応援頂いた読者の皆様に心よりの感謝を申し上げます。本当にありがとうございました】 その日、貴族裁判所前には多くの貴族達が傍聴券を求め、所狭しと行列を作っていた。 貴族達にとって注目すべき裁判が開かれるからだ。 現国王の妹王女の嫁ぎ先である建国以来の名門侯爵家が、新興貴族である伯爵家から訴えを起こされたこの裁判。 人々の関心を集めないはずがない。 裁判の冒頭、証言台に立った伯爵家長女は涙ながらに訴えた。 「私には婚約者がいました…。 彼を愛していました。でも、私とその方の婚約は破棄され、私は意に沿わぬ男性の元へと嫁ぎ、侯爵夫人となったのです。 そう…。誰も覆す事の出来ない王命と言う理不尽な制度によって…。 ですが、理不尽な制度には理不尽な扱いが待っていました…」 裁判開始早々、王命を理不尽だと公衆の面前で公言した彼女。裁判での証言でなければ不敬罪に問われても可笑しくはない発言だ。 だが、彼女はそんな事は全て承知の上であえてこの言葉を発した。   彼女はこれより少し前、嫁ぎ先の侯爵家から彼女の有責で離縁されている。原因は彼女の不貞行為だ。彼女はそれを否定し、この裁判に於いて自身の無実を証明しようとしているのだ。 次々に積み重ねられていく証言に次第に追い込まれていく侯爵家。明らかになっていく真実を傍聴席の貴族達は息を飲んで見守る。 裁判の最後、彼女は傍聴席に向かって訴えかけた。 「王命って何ですか?」と。 ✳︎不定期更新、設定ゆるゆるです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~

marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」 「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」 私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。 暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。 彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。 それなのに……。 やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。 ※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。 ※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

白衣の下 第二章 妻を亡くした黒崎先生、田舎暮らしを満喫していたやさき、1人娘がやばい男に入れ込んだ。先生どうする⁈

高野マキ
恋愛
その後の先生 相変わらずの破茶滅茶ぶり、そんな先生を慕う人々、先生を愛してやまない人々とのホッコリしたエピソードの数々‥‥‥ 先生無茶振りやめてください‼️

処理中です...