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4、最初からいなかった
しおりを挟むリシェリアは旅行鞄一つに入る分の着替えなどの荷物をまとめ、両親がいる執務室に向かう。
「お父様、お母様、お話がございます!」
泣き腫らした顔で入ってきた娘に何事かと驚く。
「リシェリア、どうした、何があった!」
「私、すぐに家をでます」
「家を出るだと!?」
「リシェリア、何があったの!」
リシェリアは一瞬の沈黙の後話出す。
「アイスフォード殿下との婚約を解消してくださいませ」
「なぜだ?なぜそんな事を言うんだ」
「私は殿下の妃にはなれません。純血を奪われました」
「なっ、なんだと・・・」
「誰にそんな事を!」
「フラムウェル殿下です・・・その後側近のお二人にも・・・無理矢理・・・」
「なんと言う事だ!」
「私は屋敷を出ます。修道院も考えましたが、場所を知られるのが怖いのです・・・お父様、お母様、こんな別れになってしまいますが・・・今まで、ありがとうございました。娘は・・・リシェリアはいなかったのです。最初からいなかったのです。妹のミルフィが一人娘だったのです。どうか・・・どうか・・・お体はご自愛くださいませ・・・今までありがとうございました」
涙を流しながら必死に言葉を吐き出す娘を、夫妻はしっかりと抱きしめた。
「お前は何も悪くないのに、何故こんな目にあわないといけないのだ・・・お前が何をしたと言うのだ・・・くっ・・・少し待ってなさい」
侯爵は執務室の金庫から現金を取り出すと、リシェリアに持たせる。
「リシェリア、安全な宿を取るんだ。時期が経てば屋敷に戻ってきなさい。必ず連絡を寄越せ。お前は何があってもブルスト侯爵家の娘だ」
「うっ・・・うっ・・・ありがとうございます」
リシェリアは両親に見送られると、侯爵家の馬車で王都の外れまで送られた。
「お嬢様、どうかご無事で」
「トム、ありがとうね。体には気をつけて・・・お父様、お母様、ミルフィをよろしくね」
長年世話になった初老の御者に別れを告げ、市井の街へ入って行く。
侯爵は宿屋をと言っていたが、リシェリアはどこかに留まるつもりはなかった。乗り合い馬車などを乗り継ぎ、とにかく遠くへ、誰も知らない場所を求めて進んでいった。国を超えると記録が残り、居場所がバレてしまう恐れがある為、国境である辺境地を目指した。
侯爵家の屋敷を出てから5日、ようやく辺境領へ辿りついた。行くあてもない為、とにかく歩き続けた。疲れて足が動かなくなった時は、森の中にいた。動けなくなり、木に寄りかかるように座るとそのまま眠ってしまった。
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