離宮に隠されるお妃様

agapē【アガペー】

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サディアンの笑み

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「俺の婚約者となる女がな・・・密偵からな、純潔ではなくなったと報告を受けた」

「それは・・・つまり・・・」

「あぁ、妃となる資格を失ったと言うことだ」


純潔を失った。その言葉に、ローゼリアの脳裏に思い出したくもない光景が浮かぶ。ライモンドとミレーヌの不貞の現場。途端に吐き気が沸いてくる。


「・・・うっ・・・」

「お嬢様!」


メイドのララが隣で口元を手で覆ったローゼリアの背中をさする。


「すまない・・・思い出したくないことを口にしてしまったようだな」


罰の悪そうな表情でサディアンは頭をかく。


「い、いえ・・・」


目の前の他国の王子であるサディアンはどこまで知っているのだろうか。今、確かに思い出したくないことと口にした。と言うことは、ローゼリアがライモンドの婚約者であった事、その相手が公爵令嬢のミレーヌであり、ミレーヌが嫁ぐ話が出ていた他国の王子と言うのが目の前にいるサディアンと言うことになる。


「君が今考えていることを当ててやろう。公爵家のミレーヌ嬢の嫁ぎ先の他国の王子。それがこの目の前の男なのかと」

「っ・・・は、はい・・・」

「間違いなくその通りだ。まぁ、会ったこともない婚約者候補の女など興味はないが、人となりは知っておきたかったんだ。まぁ、密偵を送り込んで、自国で待っていてもよかったんだがな・・・妃にふさわしい女かどうかこの目で確かめたかった。まぁ、結局会うことはなかったが、報告だけでヘドが出るほど知れたんだ。もう十分だ。だが・・・この国に赴いていいこともあった」


サディアンはニコッとローゼリアに笑みを向けた。


「君に会えた」


サディアンの嬉しそうな表情に、なんとも言えない感情が込み上げるローゼリア。ライモンドとの婚約が破談にならなければ、こんなところにはいなかっただろうし、サディアンに出会うこともなかっただろう。いや、いずれ国の国母として、互いの国の代表として顔くらいは合わせたのかもしれない。だが、こんな出会い方はしなかったはずだ。


「何なら、俺はその女のかわりに君を自国に連れ帰りたいと思っている」


サディアンの言葉に耳を疑った。ローゼリアがライモンドの婚約者であった事を知っていると言うことは、侯爵令嬢であることも知っていると言うこと。言葉だけ聞けば愛の囁きのようにも聞こえるが、聞きようによっては、国家間の友好のための婚約の破談の詫びとして、替えを要求されているだけに過ぎないかもしれないと言うこと。その事実がローゼリアの心に暗く重い影を広げていった。





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