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32、二人は婚約者に

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「俺、モテない男でよかったのかもしれません」

「バージル、それは少し間違っておる」

「どうしてです?父上」

「さっきも言ったであろう?王妃様と私は10年前から知っておったと」

「それが何か?」

「王妃様はミーティア王女殿下の、私はバージルの縁談を全て断り、話も全て潰してきたのだ」

「俺、モテなかったわけじゃないって事?」

「ちょっと、ジル!もう他のご令嬢はいらないわ、わたくしだけを見て!」

「もちろん、ティアだけに決まってる。俺の心にはティアが住む分の場所しかないからな」


ミーティアの膨れていた頬は戻り、代わりに真っ赤になった。


(俺の未来の嫁は可愛い!)


「あら、あなた達、もう愛称で呼び合ってるのね」

「ええ、ティアって呼んでってお願いしたら、俺はジルだって言われたから」

(ティア、これ以上ないくらい真っ赤だな・・・うん、俺のティアは可愛い)


「よし、わしもティアと呼ぼう!」

「お父様は呼ばないで!ティアって呼んで良いのはジルだけよ」

「ミーティア、父は悲しいぞ」


国王の頭にヘタれた耳、後ろには垂れ下がった尻尾が見えた気がした。


「ねぇ、ハリー、久しぶりに私の事も愛称で呼んでほしいわ!」

「いや、しかし、今はそういうわけには・・・」

「いいじゃない、28年も我慢したのよ?」

「・・・ああ、君はよく頑張ったよ、エリー・・・」


王妃が両頬に手を当てて赤くなっている。


「わしもエリーと呼ぼう!」

「陛下には許可しておりません」

「うちの女性陣はわしに厳しい・・・」


(陛下がダメージくらってる・・・)


「おほん、まぁ、話は逸れたが、この場に子爵を呼んだのは他でもない。待つ理由もないのだ、婚約の書面を交わしておこうと思ってな」

「そうですわね、もう10年も待ったのです、何日早めようが変わりませんわ」


その後、国王、ユリシール子爵ハリー、バージル、ミーティアがサインし、二人は婚約者となった。


「これにて二人を婚約者とする。1週間後の夜会で二人の婚約を正式に発表する。結婚式は1年後だ」


国王の宣言で、喜ぶ者、微笑ましく見つめる者、涙を流す者、安堵する者、反応はそれぞれであった。


「バージルよ、騎士団の職は離れ難いかもしれんが、今後必ず必要になる。一度帝王学や執務、領地経営などを勉強しておかないか?」

「陛下直々に教えていただけるなら光栄です」

「そう言ってくれると嬉しいものだな。わしにも息子ができたという事だな」

「善処します」

「バージル、夜会後は、午前中は王宮、午後は騎士団の職務にあたれ。ジャンク騎士団長にはこちらから話は通しておく」

「はい、承知しました」


国王とのこのやり取りが、のちに驚かされる事になろうとは、この時のバージルは知らない。




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