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第2章.今現在の聖女
10.聖女は苛立つ
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結城さんは昔こっぴどくわたしを振った人だ。これ以上の接触はないだろうと軽く考えていた。ところがわたしの予想は大きくはずれ、結城さんはメンテナンスや外回りにかこつけて、何かとわたしの前に姿を表すようになった。
会社の電話やメールに食事の誘いが来たこともある。傷つけないよう遠まわしに断った後で、公私を分けてくださいと釘を刺した。ところが今度はプライベートの連絡先をよこせと言う。面倒だと思いながらこれも適当にかわし、同僚や部下には個人情報の厳守を確認しておいた。
更にはある日いつものファミレスに行き、山田さんとお昼を取っていた時、彼女からとんでもない話を聞かされたのだ。
山田さんは店内に同僚がいないのかを確認し、テーブルに身を乗り出し声をひそめた。
「主任、最近うちの課で噂が出回っているんですよ」
「噂? 何の?」
「主任がFシステムの結城さんと付き合ってるって」
「……は?」
わたしのぽかんとした顔を見て、山田さんは「やっぱり~」と頬杖をつく。
「主任から恋する桃色オーラなんて全然出てなかったですし~、ないないって言っておいて正解だったなぁ」
山田さんは同期からそれとなく聞いてくれと言われ、それとなくは無理だと直球でわたしに尋ねたのだった。
「じゃあ、昔結城さんと付き合ってたってのは本当ですか?」
「……」
わたしは溜め息を吐き首を振った。この質問で噂の出所を確信する。結城さんはわたしと付き合っていたころ、関係を他人に知られることを嫌がり、わたしも彼に従い誰にも言わなかった。だから、結城さんがわたしの彼氏だった、そう証言できる人自体が本人以外いない。
「確かに同じ高校と大学ではあったけど、単なる先輩後輩よ」
当時はなぜ紹介してくれないのかと悲しかったけれども、今となってはそれでよかったとつくづく思う。
結城さんはいったい何を考えているのだろう。
外堀を埋めるかのような行動に、さすがに気持ちが悪くなってしまう。そんなことをする暇があるのなら、仕事により熱心になってほしいものだ。
それでも取引先の担当と言うこともあり、わたしはできるだけ穏便にことをに収めたかった。いよいよしつこくなれば課長に相談し、苦情を申し立てる手もあったけれども、それだけは最終手段にしたかった。
こうしてわたしが頭を悩ませる間にアプローチも徐々に減り、やっと諦めてくれたかと胸を撫で下ろした数ヶ月のことだった――
会社の電話やメールに食事の誘いが来たこともある。傷つけないよう遠まわしに断った後で、公私を分けてくださいと釘を刺した。ところが今度はプライベートの連絡先をよこせと言う。面倒だと思いながらこれも適当にかわし、同僚や部下には個人情報の厳守を確認しておいた。
更にはある日いつものファミレスに行き、山田さんとお昼を取っていた時、彼女からとんでもない話を聞かされたのだ。
山田さんは店内に同僚がいないのかを確認し、テーブルに身を乗り出し声をひそめた。
「主任、最近うちの課で噂が出回っているんですよ」
「噂? 何の?」
「主任がFシステムの結城さんと付き合ってるって」
「……は?」
わたしのぽかんとした顔を見て、山田さんは「やっぱり~」と頬杖をつく。
「主任から恋する桃色オーラなんて全然出てなかったですし~、ないないって言っておいて正解だったなぁ」
山田さんは同期からそれとなく聞いてくれと言われ、それとなくは無理だと直球でわたしに尋ねたのだった。
「じゃあ、昔結城さんと付き合ってたってのは本当ですか?」
「……」
わたしは溜め息を吐き首を振った。この質問で噂の出所を確信する。結城さんはわたしと付き合っていたころ、関係を他人に知られることを嫌がり、わたしも彼に従い誰にも言わなかった。だから、結城さんがわたしの彼氏だった、そう証言できる人自体が本人以外いない。
「確かに同じ高校と大学ではあったけど、単なる先輩後輩よ」
当時はなぜ紹介してくれないのかと悲しかったけれども、今となってはそれでよかったとつくづく思う。
結城さんはいったい何を考えているのだろう。
外堀を埋めるかのような行動に、さすがに気持ちが悪くなってしまう。そんなことをする暇があるのなら、仕事により熱心になってほしいものだ。
それでも取引先の担当と言うこともあり、わたしはできるだけ穏便にことをに収めたかった。いよいよしつこくなれば課長に相談し、苦情を申し立てる手もあったけれども、それだけは最終手段にしたかった。
こうしてわたしが頭を悩ませる間にアプローチも徐々に減り、やっと諦めてくれたかと胸を撫で下ろした数ヶ月のことだった――
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