12 / 26
第2章.今現在の聖女
12.聖女の孤独
しおりを挟む
昔、わたしは結城さんが好きだった。けれども結城さんはわたしを好きではなかったのだと思う。いつか別れ際に言われたように、慣れない街で一人になるのが寂しく、手近なわたしが便利だったのだろう。三年前までわたしはそんな彼と、馬鹿な自分とを恨んでいた。
けれども、今はそれも人間のひとつの側面であり、仕方がないことだったのだと思う。きっと結城さんもどうしようもなかったのだ。誰でも一人ぼっちはひどく怖いし寂しい。
わたしもカレンドールに来たばかりのころ、初めはフェレイドに対してそんな思いを抱いていた。無邪気に好意を寄せてくれる彼を、孤独や不安を紛らわすために利用したのだ。
フェレイドは田舎に残してきた愛犬のタロウみたいで、何をしでかすのか分からずに目が離せなかった。この人はわたしがいなければダメなのだと思い込むことで、聖女としてではない、自分の価値を確認したかったのだと思う。わたしはお守りをしていたんじゃない。わたしこそがフェレイド支えられていたのだ。
旅の中で彼と過ごす間にわたしの心は柔らいで行った。フェレイドがわたしを大切にしてくれたからだ。それは野原で摘んだ珍しい花だったり、雨や風や雪の盾となってくれたり、命がけでわたしを守ることだったりと、様々な形を取りわたしを包み込んだ。
カレンドールでの日々はいつ死ぬのか分からなかった。なのにわたしは傷一つ負わなかった。フェレイドが代わりにすべて引き受けたからだ。
心は一方的に尽くされても尽くしても満たされるものじゃない。互いに手を差し伸べ合って初めて温かさが生まれる。カレンドールでわたしはそんな当たり前の理を思い知った。
なのに、わたしは山田さんのように飛び込む勇気がなかった。失うものばかりを考えていた。だから、捨てられる前にフェレイドを捨てたのだ。どうせあなたも心変わりをするのだからと、フェレイドにありもしない決め付けを押し付けて。わたしは、いつか自分が受けたものと同じ仕打ちをフェレイドにしていたのだ。
「あなたは寂しくて、わたしもあなたに振り向いてもらえずに寂しくて、わたし達の関係はただそれだけだった。やり直すなんて無理よ。わたし達は初めから恋人なんかじゃなかったんだから」
結城さんは呆然とその場に立ち尽くしていたけれども、やがてはっと我に返りわたしの肩を掴んだ。思いがけない強い力にわたしはたじろぐ。
「ちょ……離してください!!」
「さっきから聞いてりゃ一方的に何だよ。そんなので納得できると思うのか!?」
「離して……!!」
わたしが強く結城さんの手を振り払った次の瞬間だった。
身体のバランスが崩れ車道側に倒れ込む。そこに運悪くトラックが突っ込んできたのだ。わたしの10メートル手前でブレーキが踏まれ、タイヤとコンクリートが擦れる。同時に耳をつんざく高い音が聞こえた。
何が起こっているのかが分からない。わたしは目前に迫る車体とを凝視しながら、その場に座り込むしかなかった。最後に見たものは目前に迫る眩い光――それに重なる記憶にある白い輝きだった。
けれども、今はそれも人間のひとつの側面であり、仕方がないことだったのだと思う。きっと結城さんもどうしようもなかったのだ。誰でも一人ぼっちはひどく怖いし寂しい。
わたしもカレンドールに来たばかりのころ、初めはフェレイドに対してそんな思いを抱いていた。無邪気に好意を寄せてくれる彼を、孤独や不安を紛らわすために利用したのだ。
フェレイドは田舎に残してきた愛犬のタロウみたいで、何をしでかすのか分からずに目が離せなかった。この人はわたしがいなければダメなのだと思い込むことで、聖女としてではない、自分の価値を確認したかったのだと思う。わたしはお守りをしていたんじゃない。わたしこそがフェレイド支えられていたのだ。
旅の中で彼と過ごす間にわたしの心は柔らいで行った。フェレイドがわたしを大切にしてくれたからだ。それは野原で摘んだ珍しい花だったり、雨や風や雪の盾となってくれたり、命がけでわたしを守ることだったりと、様々な形を取りわたしを包み込んだ。
カレンドールでの日々はいつ死ぬのか分からなかった。なのにわたしは傷一つ負わなかった。フェレイドが代わりにすべて引き受けたからだ。
心は一方的に尽くされても尽くしても満たされるものじゃない。互いに手を差し伸べ合って初めて温かさが生まれる。カレンドールでわたしはそんな当たり前の理を思い知った。
なのに、わたしは山田さんのように飛び込む勇気がなかった。失うものばかりを考えていた。だから、捨てられる前にフェレイドを捨てたのだ。どうせあなたも心変わりをするのだからと、フェレイドにありもしない決め付けを押し付けて。わたしは、いつか自分が受けたものと同じ仕打ちをフェレイドにしていたのだ。
「あなたは寂しくて、わたしもあなたに振り向いてもらえずに寂しくて、わたし達の関係はただそれだけだった。やり直すなんて無理よ。わたし達は初めから恋人なんかじゃなかったんだから」
結城さんは呆然とその場に立ち尽くしていたけれども、やがてはっと我に返りわたしの肩を掴んだ。思いがけない強い力にわたしはたじろぐ。
「ちょ……離してください!!」
「さっきから聞いてりゃ一方的に何だよ。そんなので納得できると思うのか!?」
「離して……!!」
わたしが強く結城さんの手を振り払った次の瞬間だった。
身体のバランスが崩れ車道側に倒れ込む。そこに運悪くトラックが突っ込んできたのだ。わたしの10メートル手前でブレーキが踏まれ、タイヤとコンクリートが擦れる。同時に耳をつんざく高い音が聞こえた。
何が起こっているのかが分からない。わたしは目前に迫る車体とを凝視しながら、その場に座り込むしかなかった。最後に見たものは目前に迫る眩い光――それに重なる記憶にある白い輝きだった。
2
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
ここに聖女はいない
こもろう
恋愛
数百年ぶりに復活した魔王を討伐するために、少数精鋭のパーティーが魔王のいる《冬夜の大陸》へと向かう。
勇者をはじめとするメンバーは皆優秀だが、聖女だけが問題児。
どうしてこんな奴がここにいる?
かなり王道ど真ん中かつ、ゆるゆるファンタジー。
噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される
柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。
だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。
聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。
胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。
「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」
けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」
噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情――
一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。
「帰ったら、結婚しよう」と言った幼馴染みの勇者は、私ではなく王女と結婚するようです
しーしび
恋愛
「結婚しよう」
アリーチェにそう約束したアリーチェの幼馴染みで勇者のルッツ。
しかし、彼は旅の途中、激しい戦闘の中でアリーチェの記憶を失ってしまう。
それでも、アリーチェはルッツに会いたくて魔王討伐を果たした彼の帰還を祝う席に忍び込むも、そこでは彼と王女の婚約が発表されていた・・・
いつか優しく終わらせてあげるために。
イチイ アキラ
恋愛
初夜の最中。王子は死んだ。
犯人は誰なのか。
妃となった妹を虐げていた姉か。それとも……。
12話くらいからが本編です。そこに至るまでもじっくりお楽しみください。
【完結】「私は善意に殺された」
まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。
誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。
私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。
だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。
どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します。
※他サイトにも投稿中。
※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。
「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」
※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!
ヒロインと結婚したメインヒーローの側妃にされてしまいましたが、そんなことより好きに生きます。
下菊みこと
恋愛
主人公も割といい性格してます。
アルファポリス様で10話以上に肉付けしたものを読みたいとのリクエストいただき大変嬉しかったので調子に乗ってやってみました。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる