魔術師は黒猫がお好き-転生使い魔の異世界日記-

東 万里央(あずま まりお)

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第一話「月の光と胸の痛み」

026.クマ男は語る(5)

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マーヤに帰ったクマ男は、お父さんの見習いをするようになった。小さなころとは違ったものが見えるようになっていた。

「うちの店ってぱっと見ガラクタばっかりだろ。武器も手入れはされているけど、結局古道具で高性能ってわけでもない。なぜこんなものばっかり売っているかって、実はこの店にある品のほとんどが、引退した冒険者が持っていたものなのさ」

 クルトが「そうだったのか……」と驚いている。クマ男は小さくうなずくと、「冒険者にとって道具や武器は女みたいなもんだ」とつぶやいた。

「次々と変えるやつもいれば、ひとりをずっとそばに置く一途なやつもいる。ここは後者の不器用なやつらが、長年の恋人を託しに来る店なんだ。型落ちや流行遅れ、古過ぎるからと文句を言われて、表通りの武器屋では引き取られなかったものが多い」

 子どものガキのチャンバラごっこにでも、初心者の使い捨てになるのでもいい。最後まで輝いていてほしい。ただでもいいから引き取って、ここに置いてくれないか……みんなそう頼んでくるんだそうだ。

  そして、どの商品もいつか誰かが買っていく。クマ男のお父さんはよく「この世には無駄なものも人も、ひとつもひとりもいないもんだ」って言っていたんだという。クマ男はやっとお父さんがどうしてこの商売を続けてきたのかわかった気がした。 

 けれども、半年後に思いがけないことが起こった。お父さんが店じまいをしていた時のことだった。とつぜん胸を抑えて倒れたんだそうだ。驚いて駆けよった時にはもう息をしていなかった。

 お葬式が終わってお母さんが代わりに店をやると言ったけど、荒くれ者も来る店だから女の人だけでどうにかなるものでもない。クマ男はお母さんに「俺が継ぐ」と告げた。もう心はすっかり決まっていたんだそうだ。

 クマ男は最後にクエストをこなしてから、冒険者をやめることを決めた。

 キラー・ビーのあのクエストは、クマ男がやろうと思っていた依頼だったんだ。それを私たちが受けたと聞いて、なんだか腹が立ってしまって、顔と戦い方を拝んでやる!!って腹立ちまぎれに森へ行ったったんだそうだ。そして、クルトの強さに腰を抜かした。同時に、心が浮き立つのを感じた。

 クマ男の黒い目がかすかに輝く。

「残っていた夢の欠片に火がついて……胸にくすぶる熱を感じた」

 いつかランクSSSに上り詰めて、最高のパーティを組んで、最高の戦闘をやりたい――それがクマ男の夢だった。クルトみたいな魔術師と一緒ならと思った。ワイバーンに勝っても逃げ帰っても、夢を燃やし尽くせると思ったんだそうだ。燃やし尽くしてしまえば、カイの輝かしいこれからも、心から喜んであげられると思った。

「ほんと、それだけの話だったんだよ。未練なく古道具屋の親父になりたかった。けどさあ……カッコ悪いだろ? だから、言えなくてよお」

 クマ男のほおがちょっとだけ赤くなる。

「ま、けど、さすがにバカだったかと反省して、そろそろ思い切らにゃならんと、昨日やっとその剣を店に並べたってわけさ。どっかのガキが買ってくれれば儲けもんだと思ってな」

 私はクマ男の話が終わっても、しばらくの間なにも言えなかった。私にはクマ男の話のほとんどはよくわからなかった。けれどもクマ男にとってはとっても大切なことなんだと感じた。私はどうしようとクルトを見上げる。クルトは窓を眺めたまま何も言わない。

 クマ男は話を変え「で、その杖はな」とクルトの持つ杖に目を向けた。

「ちょっと前爺さんの魔術師から八ゴールドで引き取った。向こうは一銅貨もいらないって言っていたけど、そういうわけにもいかないからな。武器は全員に最低八ゴールドは払っている。名前や身元は聞かないのがうちの方針だから知らん。ただわけのわからねえことは言っていた」
 
 クルトの肩がピクリと動く。

「わけのわからないこと……?」
「ああ。“こいつがこの店に置いていけ”と言っている。そういうわけだからよろしく頼むぞ”ってな」
「……」

 黙り込むクルトにクマ男は畳みかける。

「うちは八ゴールドで引き取ったら、二〇ゴールドで売ると決まっている。で、あんたはそいつを買うのか買わないのか?」
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