魔術師は黒猫がお好き-転生使い魔の異世界日記-

東 万里央(あずま まりお)

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第一話「月の光と胸の痛み」

037.お月様にお願い(5)

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 クルトはクマ男の「相棒」呼ばわりに、「何を言っている」と苦笑していたけれども、それから十秒もしないうちに、がくんと片膝をついて、その場にくずおれてしまった。キメラの杖が硬い音を立てて転がる。

「クルトーっっ!!」

 私は今度こそガレキと倒れた人の散らばる中を、まっしぐらにクルトに向かって駆けていった。

「クルト、クルトっ!」

 怪我だらけの身体を抱きかかえ、膝の上にクルトの頭を乗せる。するとまぶたがうっすらと開けられて、青い瞳に人の姿の私が映し出された。クルトは驚いたと言ったふうに、目を二、三度大きく瞬かせる。

「……君は?」

 私は答えの代わりにクルトの額に手を当てた。血を拭いながら耳元にくり返しささやく。

「クルト、今はもう眠って。もうだいじょうぶだから」

「もう大丈夫……?」

「うん、もうだいじょうぶ。ほんとうだよ!」

 私は顔からも手からも足からも血を流すクルトに、涙が込みあげてくるのを必死に抑えていた。クルトが目を閉じるのを確かめると、一滴でもこぼれ落ちないようにと、夜空に輝く二つのお月様を見あげる。

――お月様、どうかお願い。

 マーヤの街で傷ついたみんなを治してあげて。みんないっしょうけんめい戦ったの。私の力をみんな使ってもいいから。

 私の祈りを聞きとってくれたのだろうか。小さな添え月がきらりと光ったかと思うと、淡く優しい金と澄んだ銀の混ざる、柔らかに輝く光の雨が静かにふり注いだ。

 雨は私たちだけにではなく、マーヤを包み込むかのように広がって、傷ついたみんなを癒していく。五分もすると倒れていた皆が、不思議そうな顔をしながら、ひとりひとり起きあがっていった。

「おい、しっかりしろ……ワイバーンは?」

「それより何だ、この雨は。……綺麗だなあ」

 怪我人がひとり元気になるごとに、私の身体からは力が抜けていく。

 あれえ、なんだか、疲れたにゃあ。身体が、どんどん小さくなって……。

 私は全身のけだるさに逆らえずに、クルトの胸にぽすんと頭を預けた。小さな黒猫に戻っているのにも気づかずに――。

 同時にクルトがゆっくりと目を開けて、胸の上に横たわる私の背に手を当てた。

「……ルナ?」

 私を腕に抱いて起き上がる。

「あの人はどこへ……?」

 クルトはそれから十五分ほど、誰かを探して辺りを歩いていた。それでも見つからなかったのか、やがて空を仰いでお月様を見あげる。

「夢、だったのか……?」

 光の雨はまだふり続けている。私はそのしずくを受けながら、ついに広い胸の中で眠ってしまった。
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