魔術師は黒猫がお好き-転生使い魔の異世界日記-

東 万里央(あずま まりお)

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第一話「月の光と胸の痛み」

039.マーヤにさよなら(2)

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 今日はお日様がご機嫌のお天気だ。旅立つにはちょうどいい日でもある。私は城門を出るとクルトの肩から降りて、平野に伸びる一本道に目を向けた。

 ここからまた次の街へ行かなければならない。ところが今日はいつもの旅立ちと違って、なんと道の先にアーベルさんと、エリカお姉さんが待っていたんだ。

 どうして? 誰にもないしょで街を出るはずだったのに!

 クルトと私がびっくりしていると、アーベルさんがほうとため息を吐いた。

「まったくこんなことじゃろうと思った。さよならくらい言わせてほしいもんじゃ」

 エリカお姉さんは頬を膨らませている。

「二人とも黙って出ていくなんてひどいわ!」

――だって。

 私はうつむくことしかできなかった。

 私がそうしたいってクルトに頼んだの。マーヤの皆が大好きになっていたから、誰にも「さよなら」を言いたくなかったの。私たちの旅ではどの街も一度きりで、「また会おうね」とは言えないから――。

 立ちつくすクルトと私に、二人は頷き合って歩み寄る。そしてエリカお姉さんがクルトに、一つ目の小さな革袋を手渡した。

「……これは?」

 首を傾げるクルトにアーベルさんが答える。

「フーゴからじゃ。五〇〇ゴールド入っておる。頭一個分だと言っておったぞ。山分けじゃのう」

「……!!」

 アーベルさんは「フーゴが上手じゃったの」と笑っている。エリカお姉さんは目を白黒させるクルトに、もう一つの一抱えもある革袋を押しつけた。

「こっちは私と宿屋一同からです。ササミと魔マスのくんせい一か月分。ルナちゃん、食べ過ぎには気を付けてね?」

『エリカお姉さん……!!』

 私は胸がいっぱいになるのを感じていた。「ありがとう」とお礼を言うのがやっとだった。今にも泣き出してしまいそうだった。

 アーベルさんが腰をかがめて、そんな私の耳にそっとささやく。

「なあ、ルナ、人化できたことを、クルトに言わんでいいのかの?」

『……!!』

「クルトは喜ぶと思うんじゃがのう」

 私は前足をそろえてしゅんと顔を落とした。

『だめなの……。言えないの……』

 あれからどんなに力を込めても、私は人の姿にはなれなかった。ワイバーンが襲ってきた時にはできたのは、「かじばのばかぢから」だったんだと思う。

 私は「クルトには絶対にないしょだよ」と、アーベルさんに耳打ちをした。

『だって恥ずかしいもん。一度きりじゃできたことにはならないよ』

「そうか……」

 アーベルさんは隣で首を傾げるクルトをちらりと見あげた。それからまた私を見て「罪作りじゃのう」と苦笑する。

 つみつくりってはじめて聞いた言葉だ。それって美味しいのかにゃ?

「まあ、ワシはルナの友だちじゃからの。わかった。ルナ、二人だけの秘密にしておこう」

 こうしていつもの旅立ちとは違って、私たちは二人に見送られて、マーヤの街をあとにすることになった。二人はいつまでも、いつまでも手を振っていてくれた。

 マーヤの城門が彼方に消え去る直前、クルトはたった一度だけ街を振り返った。そして、ぽつりとこう呟いたのだ。

「……また会えるだろうか」

 クルトは夢見るような、それでいてどこか切ない目をしていた。

『……クルト?』

――あの黒髪の美しい人に、またいつか会えるだろうか?



【第一話終→次話に続く】
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