義弟の卒業~過保護な義姉さん押し倒される~

東 万里央(あずま まりお)

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そうだ、結婚しよう(4)

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 喉がカラカラに乾いて声を出せない。真琴はただ目を見開いて、薫の肩越しに天井を見上げていた。

 やがて、ひやりとした空気が素肌に触れ、ブラウスとキャミソールを脱がされたのだとはっとする。ブラジャー越しに胸に触れられ、その手の熱さに目を瞬かせた。

「か、おる、ダメだよ。ダメだって」

 恐怖からなのか混乱からなのか声が震える。

「ねえ、止めようよ。天国のお義母さんが泣くよ。お父さんだって――」

「義父さんも母さんももう死んでいる。だから、泣きも怒りもできない」

「……」

 血も涙もない言葉に首を横に小さく振った。

(こ、んなの、薫じゃない)

 薫はもっと思いやりがあり、ずっと優しい子だったはずだ。両親の命日には必ず花を買って帰り、傷付いた子猫を拾わずにはいられないような――

 目から言いたいことを察したのだろうか。薫はぞっとするほど冷たい笑みを浮かべた。

「俺が別人みたいに見える? 違うよ。初めからこうだった。でも、真琴に嫌われると思っていたから、ずっといい子の振りをしていただけだ」

 その言い分に「だったら」と思わず声を上げた。

「嫌われたくないなら、もう止めてよ。こんなことされたら私、薫を嫌いになっちゃうよ」

 だが、薫は服を脱がす手を止めない。ストッキングとショーツをまとめて脱がされ、ベッドの下に放り投げられた時には息を呑んだ。生まれたままの姿が薫の目に晒されたのだから。どうして明かりを消さなかったのかと後悔した。

「でも、もう真琴が俺を嫌いになるだなんて、ありえないってわかっているから止めない」

「……」

「真琴は何があったって俺を突き放せない。そうだろう?」

 確かにその通りなので黙り込むしかなかった。真琴にとって薫は絶対的な存在だった。元恋人に「俺と義弟とどちらを取るんだよ」と迫られ、欠片の迷いもなく薫を選ぶほどに。

 家庭がありながらも男に走った母の和歌子のように、子どもを捨てるような女にだけはなりたくはなかった。和歌子に瓜二つの容姿だからこそそうなることを恐れた。和歌子とはまったく違うのだと死んだ父に証明したかった。だから、何を引き換えにしても薫を育ててきたのである。

 薫に突き放されることはあっても、薫を突き放すことはできないだろう。和歌子と同種となってしまうから。それは、真琴が自身に掛けた呪いだった。

 薫はワイシャツを脱ぎ捨てながら語り続ける。

「俺は真琴がそばにいてくれるなら、もう理由はなんだっていい。そう、真琴の母親の名前……和歌子さんだったか?」

「ど……して」

 驚愕に声がかすれてそれ以上何も言えなくなった。当時の関係者は和歌子とその愛人、自分以外はすべて亡くなったはずなのに、なぜ和歌子が出て行った事情を、薫が把握しているのだろうか。

 ベッドの軋む音とともに体にずしりとした重みがかかる。

「言っただろう? 俺は真琴のことならなんでも知っているって」

「……」

 頬を優しく撫でる手が、かつては小さくよく繋いだ手が、今は何よりも恐ろしくてたまらない。

「真琴のそんな顔、初めて見る。……可愛いね」

 薫は「大丈夫、気持ちよくするから」と微笑んだ。

「優しくできるかはわからないけど」

 「待って」という叫びは薫の唇に塞がれ、ワインの香りが鼻をくすぐった。

「んんっ……」

 熱く、ぬるりとした舌が、わずかな隙間を強引にこじ開け、口内を容赦なく蹂躙する。逃れようとして捩らせた体は、呆気なく筋肉質な腕に押さえ付けられた。

 小学校から高校までは部活で、大学からは趣味として、ずっとテニスをやり続けて来たからだろうか。鍛えられ、引き締まった体躯はびくともしない。圧倒的な力の差に薫も男なのだと思い知らされる。

 薫はキスの最中も瞼を閉じなかった。真琴も見開いていたので、嫌でも目が合ってしまう。

 漆黒の双眸が熱と欲を孕み、「決して逃がさない」と語っている。逸らすこともできずに身を竦ませる間に、奥に逃れようとしていた舌を搦め捕られた。

「ん……ぅ」

 濡れた音が口の中で響き堪らない思いに駆られる。

(こんなの、いけないのに)

 乳房を薫の胸板に圧し潰されている圧迫感もあるが、繰り返される音での刺激に心臓が破裂しそうだった。

 数分後に薫がようやく唇を離し、体の間に十cmの距離を取ってくれなければ、死んでしまっていたかもしれない。

 だが、胸を撫で下ろしたのは束の間で、直後に薫のくせのない前髪が肌に触れて粟立つのと同時に、軽い痛みが首筋に走ったので驚いた。歯を立てられたのだと悟って絶句する。

「真琴の肌は変わらないね。ずっと白くて綺麗なままだ。このまま食べてしまいたくなる」

 今度は舌で同じところを労わるように撫でられ、喉の奥から「あっ」と声が漏れ出た。

(やだ、どうしてこんな声……)

 薫相手に何を反応しているのかと、羞恥心に体がたちまち熱を持った。いや、羞恥心だけからだったのか――

「そう、もっとそういう声を聞かせてくれ」
 
 薄い唇が体を丹念になぞっていく。

「……っ」

 真琴は耐え切れずに瞼をかたくとじ、右手でシーツを握り締めた。
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