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01.当選から始まった

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「おめでとうございます!」
「おめでとうございます!」

 支援者らの歓声の響き渡る中で、私は壇上に登り深々と頭を下げた。マイクを手に取り「ありがとうございます」と笑顔を浮かべる。選挙の事務所には既に多くの人々とマスコミが詰め掛けている。これほど気持ちのいい日は久々だった。

「この度の選挙での快勝は皆様のおかげでございます。一丸となって勝ち取った勝利を、今後の地方及び国政に生かし、日本国の更なる発展を目指す所存です」

 再びわっと歓声が上がり部屋全体が揺れる。同時に舞台脇から司会が進み出てくると、私に筆を差し出し「さぁ、どうぞ」と促した。向かう先には机に置かれたダルマがある。

――やっとここまで来た。いいや、これからが勝負なのだ。

 私は目のないダルマを前に、万感の思いを込めて筆を握った。 

 私の名は鳥羽響子鳥羽響子トバキョウコ。日本国における衆議院議員であり、今回の選挙で四期連続の当選となる。もちろん小選挙区での代表であり、二位と大差をつけての当選だった。我が民民党の党首である首相からは、今回の政権での外務大臣の地位を約束されている。

 同じく外務大臣であった父の地盤を受け継ぎ早数十年。私を所詮は世襲政治家、あるいは女と舐め、甘い汁を啜ろうとした輩は片端から失脚させてやった。公職選挙法違反や政治献金問題などのマスコミへのリークもあったが、最も効果的だった攻撃手段はセックススキャンダルだろう。

 不倫にホストクラブにSM風俗まで、どれほど地位と名誉があろうと、人の下半身とは締まりのないものらしい。政敵の積み上げたキャリアが一瞬にして崩壊し、跡形もなくなるのはバベルの塔さながらだった。

 当然恨みつらみを受けこちらの腹も探られる。が、私は法律への対策は完璧であり、献金のチェックは一切怠らない。男については鼻から興味がなく、結婚も夫も息子も家庭円満を演出する道具のようなものだ。

 ただし道具の手入れは怠ってはいない。夫に対しては良妻、息子に対しては賢母であろうと勤め続けた。いくら私本人が潔癖であろうと夫が馬鹿な真似をする、あるいは息子がグレるなどと言うことがあれば、それも政治家として命取りとなってしまうからだ。

 いずれは初の女性首相となり、この腐り切った日本の病巣を根元からぶったぎる。それが私の唯一の欲望であり目的だった。

「では、議員、よろしくお願いいたします」

 司会の進行に私が大きく頷き、ダルマに目を入れようとした――次の瞬間のことだった。足もとに突如として数メートルの光の輪が生まれ、かっと輝くのと同時に中に穴が開いたのだ。

「……なっ!?」

 悲鳴を上げる間もなかった。一気に逆らい難い力で吸い込まれ、私は筆を手放してしまう。

「議員、議員!?」
「何が起きたの!?」

――それは私が一番聞きたい。

 そう思いながら私は意識を失った。
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