天然公女は諦めない！〜悪役令嬢(天然)VS転生ヒロイン〜

第三幕 想定外

vs33 マリミエドと家族

　翌日。
目を開けると、執事に着替えを手伝って貰うアルビオンが見えた。
アルビオンはきちんとしたコート姿で朝食を摂る。
ギルベルトはテントの中でチキンを食べた。
〈リュミはどうしているだろうか…あんな風に両親と喧嘩をして…気まずくないだろうか〉
心配でたまらない。


　アルビオンに抱えられてゴドニー滝に着くと、マリミエドが地面に座って岩の上で両手を枕にして眠っていて、ユークレースとレアノルドとクリフォードが静かに見ていた。
「どうし…」
言い掛けると、皆がしーっと指を口に当てながら言う。
「どうしたんだ」
アルビオンがユークレースに小声で聞くと、ユークレースも小声で答える。
「…どうやら、テントに帰らなかったようなんだ。一晩中滝の側に居たらしい…さっき俺達が来たら安心したようで眠ったんだ…」
それを聞いた子犬がアルビオンの腕の中から飛び出してマリミエドの周りをうろつく。
『なんて事だ！ リュミ、可哀相に…』
「ギルベルト、静かに…」
アルビオンが子犬を抱えようとすると、マリミエドが目を覚まして子犬を抱き締める。
「お兄様……わたくしもう家には帰らないわ…」
『駄目だよリュミ、両親と話そう』
「駄目なのよ…お兄様が居なくなってしまったから、わたくしなんてどうでもいいのだわ…」
そう言ってマリミエドが泣く。
『リュミ…どうしたらいいんだ…この姿では何も出来ないよ…』
そんなマリミエドと子犬を見て、アルビオンが手を差し伸べる。
「送ろう、きっと探している。ギルベルトに続いて君まで居なくなったら、ご両親も悲しむだろう」
「でも…子犬のお兄様を捨てようとなさったのよ…」
「話し合わなければ何も分からないだろう。さあ」
「俺達も付いている」
ユークレースが言い、レアノルドとクリフォードが頷いた。
マリミエドは涙を拭いながらその手を取って立ち上がった。

メイナード家のテントに行くと、テントの前に夫人と妹２人が居て外を見ていた。
「マリミエド！」
「お姉様！」
マリミエドを見て３人が駆け寄ってきたので、アルビオン達は少し離れる。
「何故帰って来なかったの！ 心配したのよ、熊や狼に殺されてしまったのではないかと…っ！」
そう言い、夫人が泣いてマリミエドを抱き締めてまた喋る。
「ごめんなさい、今まで冷たかったわよね……けれど、貴女が弱くならないようにと家庭教師に言われて、何も出来なかったの。皇后になるのだから、と言われて…でも、こんなに心配する事になるのなら、もっと幼い頃から甘えさせてあげれば良かったわ…！ ごめんなさい、リュミ！」
「お母様…わたくし…っごめんなさい…！」
マリミエドもそう言い、泣きながら母にすがる。
「マリミエド！」
そこに、父もやってきてマリミエドと母を抱き締めた。
「済まない…ギルベルトが居ない動揺でお前に辛く当たってしまった…」
「お父様…ごめんなさい…」
父は頷いて、少し離れてアルビオン達を見る。
「送ってくれたのか…ありがとう」
「いえ……その、ギルベルトは必ず帰ってきます、だからマリミエド嬢にもどうか優しく接してあげて下さい」
父は〝他人の家の事に口を挟むな〟と言おうとしてやめて頷く。
アルビオンが、ユークレースやレアノルド、クリフォードが真剣な顔をしていたからだ。
「こんなに冷えて…今温かいスープを用意させるわ」
そう言い夫人がマリミエドを連れて行った。
それに妹達も続く。
メイナード侯爵はじっと男４人を見て言う。
「……何か知っているのかもしれないが、言う気はないようだな…」
その言葉にギクッとしながらも、アルビオンは真顔で言う。
「俺達は…ギルベルトを良き友人だと思っています。だから、俺達も出来る限り探します」
全ては言えないが、真実を伝えた。
するとメイナード侯爵はフッと表情を和らげる。
「そうか、友人か……君の父とは違うのだな。何か分かったら教えてくれ、ギルベルトを失ったら我が家はおしまいなのだ……どんな些細な事でも構わん」
「はい」
そう答えるとメイナード侯爵もテントに入って行った。
４人は頷き合ってまたゴドニー滝に向かう。