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第四幕 νήμα(ニーマ) 紡ぐ
νήμα12 婚約者に!
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レストランでポトフを食べながらマリミエドが聞く。
「お兄様は、良い方がいらっしゃいましたか?」
「ああ、クレメンス家のエレノワール嬢を探しているよ」
そう言うと、マリミエドがむせて咳き込む。
「リュミ、大丈夫かい?」
「ケホケホ……お、お兄様…その方とは何処で?」
マリミエドは水を飲みながら聞く。
「王女のパーティーの時にね、おしとやかに立っていたのでダンスに誘ったんだ。ローズクォーツの髪を結い上げて深緑のドレスを着こなしていたよ」
それを聞いて、さすがのマリミエドもエレナだとは言えなくなっていた。
けれど、これはエレナが幸せになるチャンスなのでは無いのか…?
〈今までわたくしにばかりかまけていたのだから、エレナが幸せになるにはお兄様と結婚した方がいいわ!〉
2人を応援したい…そう思ってマリミエドは急いで食べた。
「リュミ?」
「早く帰ってやる事がありますの!」
「そうか…でも食事はゆっくりしなさい。喉に詰まらせるよ」
「ケホ!」
「ほら…」
ギルベルトはマリミエドの背を叩きながら水を注いだ。
「エレナ! 来て‼」
屋敷に着くとマリミエドはエレナの手を引いて衣装室に飛び込んだ。
「ほら、エレナのドレスを選んで!」
「え? 私は出席しませんが…」
「式の後は自由参加でしょう⁉ ほら、水色か薄藤色はどう?」
「…どうなされたんですか?」
エレナが尋ねると、マリミエドはドレスを見つめながら言う。
「お兄様が、エレノワール嬢がいいって言うの」
「はっ⁈」
「結婚相手よ! エレナだと分かってないの…だから、だからとにかくダンスを踊ってメロメロにさせてしまえば、きっと婚約者になるわ!そうしたらエレナは幸せに…」
「駄目ですよ、お嬢様。私は婚外子なのです…由緒正しき侯爵家の方とは釣り合いません。ギルベルト坊ちゃまには、もっと相応しい方がいらっしゃいます」
エレナは苦笑して言う。
「エレナ…! そんな事無いわ! 貴女は公爵家の血を引いているのよ!」
「いいえ、父親は男爵家です。しかも行方知れずで……とにかく駄目です」
「エレナ……」
マリミエドはどうしたらいいか考えて言う。
「では命令よ! エレノワール、ドレスを選んで明日のダンスに参加なさい!」
「お嬢様…」
「…貴女が幸せにならないなら、わたくしも結婚しないわ!」
そう涙ぐみながら叫ぶ。
「…仕様のないお嬢様……分かりました。明日は参加しますが…それ以降は、もうメイドとして生きさせて頂きますね?」
「きっと心変わりするわ! …お兄様でなくても、シャルハサード卿もいい方よ?」
「勧めないで下さいな」
そう言い笑う。
そのドアの向こうに、立ち去る影があった…。
部屋に戻ってきたギルベルトは上着を脱いでため息を吐いて椅子に座る。
「そうか…エレナが……」
そう呟く。
マリミエドの様子がおかしいからこっそりとついて行って、話を聞いてしまったのだ。
〈エレナがエレノワール嬢…〉
そう言われてみれば、確かにそうだ…。
ギルベルトは、今までのエレナの振る舞いを思い出していた。
マリミエドの為だけに尽くし、いつでもマリミエドを支えてくれたメイド。
しかし、素顔はまだうら若き乙女そのもので…美しいと思った。
何よりも、エレナになら殺されてもいいとーーーそう思ったから、誓約書を書いたのだ。
命を預けてもいい、と…。
だがしかし、エレナは…エレノワールはどう思うであろうか?
命を懸けられても迷惑だっただろうか?
ギルベルトはバルコニーに出て、外を眺める。
〈…これから魔族と関われば、暗殺者も増える……エレナであれば、心強いのだが…〉
「血筋か…証明さえあれば、父も納得するだろうに…」
ボソッと呟くと、目の前にハチドリが現れる。
ハチドリは光によって七色に見えた。
「なんだ…?」
手を差し出すと小さなハチドリは指に止まり、ハチドリの目から何かのウインドウが出た。
聖魔塔でよく見た記録装置などに似ていた。
そのウインドウに、エレノワールに似た女性が映し出される。
何処かを見て、歌を歌っている。
「貴女は…」
思わず聞くと、その女性がこちらを見た。
「誰…?」
「あ…その、貴女は…エレノワール嬢の母君、ですか?」
そう聞くと女性はコクリと頷く。
「貴方、エレノワールを知っているの?赤子の内に父上に取り上げられたの……ねえ会わせて!」
「あ…その……」
「…精霊さんに言っても駄目よね……」
そう言って女性は宝石箱からネックレスを取り出す。
「ねえ精霊さん、娘のエレノワールに会ったら、これを渡して頂けない? クレメンスに代々伝わる琥珀のネックレスなの。中に世界樹の葉が入っているのよ」
そう言って女性はネックレスを渡してくる。
ギルベルトがそれを受け取って見ると、裏にクレメンスの紋章があった。
「貴女の名は…」
「メディステラ…クレメンス大公家の4女、メディステラよ」
その言葉を聞くと、映像が消えてハチドリは世界樹の実の形となって消えた。
「今のは…世界樹の実の力か…!」
メディステラ公女の噂なら聞いた事がある。
確か随分前に病死したと聞いたが…幽閉されているのだろうか?
〈明日…エレノワール嬢に会ったら渡して、母君の事を伝えよう〉
エレノワールがクレメンスの者だという証を持てば、父も説得出来る。
しかし、自分の申し出をエレノワールが受け入れるだろうか?
もしかしたら、生涯をマリミエドに捧げたがるかもしれない。
ギルベルトはネックレスを手に、空を見つめた。
「お兄様は、良い方がいらっしゃいましたか?」
「ああ、クレメンス家のエレノワール嬢を探しているよ」
そう言うと、マリミエドがむせて咳き込む。
「リュミ、大丈夫かい?」
「ケホケホ……お、お兄様…その方とは何処で?」
マリミエドは水を飲みながら聞く。
「王女のパーティーの時にね、おしとやかに立っていたのでダンスに誘ったんだ。ローズクォーツの髪を結い上げて深緑のドレスを着こなしていたよ」
それを聞いて、さすがのマリミエドもエレナだとは言えなくなっていた。
けれど、これはエレナが幸せになるチャンスなのでは無いのか…?
〈今までわたくしにばかりかまけていたのだから、エレナが幸せになるにはお兄様と結婚した方がいいわ!〉
2人を応援したい…そう思ってマリミエドは急いで食べた。
「リュミ?」
「早く帰ってやる事がありますの!」
「そうか…でも食事はゆっくりしなさい。喉に詰まらせるよ」
「ケホ!」
「ほら…」
ギルベルトはマリミエドの背を叩きながら水を注いだ。
「エレナ! 来て‼」
屋敷に着くとマリミエドはエレナの手を引いて衣装室に飛び込んだ。
「ほら、エレナのドレスを選んで!」
「え? 私は出席しませんが…」
「式の後は自由参加でしょう⁉ ほら、水色か薄藤色はどう?」
「…どうなされたんですか?」
エレナが尋ねると、マリミエドはドレスを見つめながら言う。
「お兄様が、エレノワール嬢がいいって言うの」
「はっ⁈」
「結婚相手よ! エレナだと分かってないの…だから、だからとにかくダンスを踊ってメロメロにさせてしまえば、きっと婚約者になるわ!そうしたらエレナは幸せに…」
「駄目ですよ、お嬢様。私は婚外子なのです…由緒正しき侯爵家の方とは釣り合いません。ギルベルト坊ちゃまには、もっと相応しい方がいらっしゃいます」
エレナは苦笑して言う。
「エレナ…! そんな事無いわ! 貴女は公爵家の血を引いているのよ!」
「いいえ、父親は男爵家です。しかも行方知れずで……とにかく駄目です」
「エレナ……」
マリミエドはどうしたらいいか考えて言う。
「では命令よ! エレノワール、ドレスを選んで明日のダンスに参加なさい!」
「お嬢様…」
「…貴女が幸せにならないなら、わたくしも結婚しないわ!」
そう涙ぐみながら叫ぶ。
「…仕様のないお嬢様……分かりました。明日は参加しますが…それ以降は、もうメイドとして生きさせて頂きますね?」
「きっと心変わりするわ! …お兄様でなくても、シャルハサード卿もいい方よ?」
「勧めないで下さいな」
そう言い笑う。
そのドアの向こうに、立ち去る影があった…。
部屋に戻ってきたギルベルトは上着を脱いでため息を吐いて椅子に座る。
「そうか…エレナが……」
そう呟く。
マリミエドの様子がおかしいからこっそりとついて行って、話を聞いてしまったのだ。
〈エレナがエレノワール嬢…〉
そう言われてみれば、確かにそうだ…。
ギルベルトは、今までのエレナの振る舞いを思い出していた。
マリミエドの為だけに尽くし、いつでもマリミエドを支えてくれたメイド。
しかし、素顔はまだうら若き乙女そのもので…美しいと思った。
何よりも、エレナになら殺されてもいいとーーーそう思ったから、誓約書を書いたのだ。
命を預けてもいい、と…。
だがしかし、エレナは…エレノワールはどう思うであろうか?
命を懸けられても迷惑だっただろうか?
ギルベルトはバルコニーに出て、外を眺める。
〈…これから魔族と関われば、暗殺者も増える……エレナであれば、心強いのだが…〉
「血筋か…証明さえあれば、父も納得するだろうに…」
ボソッと呟くと、目の前にハチドリが現れる。
ハチドリは光によって七色に見えた。
「なんだ…?」
手を差し出すと小さなハチドリは指に止まり、ハチドリの目から何かのウインドウが出た。
聖魔塔でよく見た記録装置などに似ていた。
そのウインドウに、エレノワールに似た女性が映し出される。
何処かを見て、歌を歌っている。
「貴女は…」
思わず聞くと、その女性がこちらを見た。
「誰…?」
「あ…その、貴女は…エレノワール嬢の母君、ですか?」
そう聞くと女性はコクリと頷く。
「貴方、エレノワールを知っているの?赤子の内に父上に取り上げられたの……ねえ会わせて!」
「あ…その……」
「…精霊さんに言っても駄目よね……」
そう言って女性は宝石箱からネックレスを取り出す。
「ねえ精霊さん、娘のエレノワールに会ったら、これを渡して頂けない? クレメンスに代々伝わる琥珀のネックレスなの。中に世界樹の葉が入っているのよ」
そう言って女性はネックレスを渡してくる。
ギルベルトがそれを受け取って見ると、裏にクレメンスの紋章があった。
「貴女の名は…」
「メディステラ…クレメンス大公家の4女、メディステラよ」
その言葉を聞くと、映像が消えてハチドリは世界樹の実の形となって消えた。
「今のは…世界樹の実の力か…!」
メディステラ公女の噂なら聞いた事がある。
確か随分前に病死したと聞いたが…幽閉されているのだろうか?
〈明日…エレノワール嬢に会ったら渡して、母君の事を伝えよう〉
エレノワールがクレメンスの者だという証を持てば、父も説得出来る。
しかし、自分の申し出をエレノワールが受け入れるだろうか?
もしかしたら、生涯をマリミエドに捧げたがるかもしれない。
ギルベルトはネックレスを手に、空を見つめた。
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