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七章 帰参
二十二.役回り
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三月十六日。
霊力が回復した翔隆は、久方振りに越後に飛んだ。
だが春日山城に上杉弾正少弼輝虎は居らず、代わりに宿老の直江大和守景綱(六十四歳)が出迎えた。
「おお、お主か。息災であったか?」
直江大和守景綱は翔隆を差別しないでくれる数少ない人だ。
「はい、ご無沙汰しております。あの…お屋形様は…」
「今ご出陣なされておられる」
「えっ?!」
聞けば、越中の一向一揆と椎名康胤が武田家と通じたので、制圧に向かったという。
出陣して十日は経つとの事。
翔隆は一礼して城を飛び出した。
〈今頃は二・三城は軽く薙ぎ払っている筈だ〉
そう思い、魚津で立ち止まる。
〈その椎名の城が何処にあるか知らないな…〉
仕方無く、翔隆は輝虎の金色掛かった澄んだ紅蓮の〝気〟を探した。
夕方にもなると、やっと輝虎が守山城を攻撃しているのが分かり、急いでそちらへ向かった。
陣中に着いたのはすっかり日が暮れた酉の一刻であった。
翔隆は周りに睨まれながらも輝虎の居る陣幕に入る。
「お久しゅうござりまする」
「翔隆…!おお、久しいな…戦場にまで来るとは、どうかしたか?」
「あ…直江様よりこちらだと聞き……その、長らく出仕しなかった事を詫びに参りました」
「ふっ…左様か」
輝虎はただ笑う。翔隆のその微笑んだ顔で、再士官したのだという事が分かったからだ。
「戦場では何もしなくて良い。そこらに座っておれ」
「ですが…」
「お主は伽衆だ。要らぬ事はするな」
沈着な口調だが、その厳しい眼差しが反論を許さなかった。
理由は分かっている………伽衆などが間違ってもしゃしゃり出て武功でも立てては、家臣団の結束が乱れるからだ。
「はっ…申し訳ござりませぬ…」
そう言って翔隆は大人しく陣幕の、端に下座した。
しかし生来、じっと傍観が出来ない性分だ………次第にそわそわとしてくる。
三日目になると、陣内をうろつき出した。
「あの…何か手伝う事はありませぬか?」
そう言い近習や兵を困らせていた。
そこへ柿崎和泉守景家(五十三歳)が通り掛かって怒鳴る。
「兵を掻き乱すでない!こんな時に奇襲でもあったら何とするのだっ!」
「申し訳ござりませぬ…」
「伽衆がこんな所をうろつくなっ!」
「はっ…」
「お屋形さまの物好きにも困ったものよ」
柿崎景家は翔隆をじろじろ見ながら、ぶつぶつ言い行ってしまう。
翔隆は静かに溜め息を吐く。
〈日を改めた方がいいが…次はいつ来られるか分からないからな……〉
しかし、この〝伽衆〟という立場は何とかならないものか…今度違う何かにしてもらえないか聞いてみたいものだ。
そう思いながらも翔隆は本陣に戻った。
本陣ではてる床几に座っている。
「て…お屋形様、お願いがございます」
「なんだ?」
「どうかわたくしめに仕事をお与え下され!何かお役に立てる事はございませんか?!」
「…そろそろ言い出すだろうと思っておった」
輝虎はそう言うと、笑って鉢巻を投げ渡す。
「これは…?」
「椎名め、一向衆の支援なぞ受けておるからか中々落とせん。…怪我人も多いから手当てせよ」
「はっ!」
翔隆が笑顔で鉢巻を付けると、小姓が側に寄ってくる。
「ではこちらに」
「う、うむ…」
翔隆は疎まれているのを覚悟しながら付いていく。
するとその小姓は笑い掛けてきた。
「すっかり良くなられていて安心しました。息災でしたか?」
「ああ………もしや、東原…殿?」
「はい、あれからもう四年も経ちまするな…こちらに」
「ありがとう」
翔隆は笑顔で東原について行った。
春日山城で大怪我を負った時に介抱してくれた小姓なので、安心出来た。
それから五日程、介抱に当たってから戻る事にした。
尾張に戻る前に挨拶に行くと、頷かれた。
「また必ず参れよ?今の所、一成で構わぬが…次は戦の無い時に参れ」
「はっ!」
答えて翔隆は本陣を後にした。
そのまま帰るのも申し訳ないので、痛み止めの丸薬などを調合してから帰った。
尾張の屋敷に戻ってから、翔隆は広間で報告書を読んでいた。
そこに葵達が料理を運んでくる。
「もうそんな刻限か…」
呟くと、拓須が隣に座る。
翔隆は不思議がりながらも出された焙じ茶を飲む。
「…?」
「お前はもう女を娶らんのか」
「ブーッ!ゲホッゲホッ!」
急な言葉に茶を吹いてむせていると、また拓須が言う。
「茶ぐらいちゃんと飲め…それで、娶る女は居ないのか」
「ゲホッ…急に…何…っゲホッゲホッ」
手拭いで口を拭いていると浅葱がこぼした茶を拭いてくれる。
「ととさま、好いた女子が居るの?」
「い、いや居ない………ああ驚いた。何、睦月に何か言われた?」
「………」
拓須は何かを言い掛けて口をつぐみ、溜め息を吐く。
〈ならば嫡子を迎えに行けと言っていいものかどうなのか…〉
拓須は、近江の武宮が翔隆の嫡子を産んだ事を知っていて、言うべきか否かを惑っていたのだ。
こういう事は、本来〔不知火〕の者が言う事なのだが…どうして各地の不知火共はこうも宛にならないのか。
これが焔羅であれば、言うまでもなく連れて来るのだが…勝手が分からないのでどうにもやりようがない。
〈確か四年前だ……何故ここに清修やら修隆やら清隆といった翔隆の叔父らが居らんのだ…〉
何故翔隆と敵対しているのか、さっぱり理解が出来ない。
拓須が苛付いて腕組みして指をトントンと弾いていると、目の前に膳が置かれる。
「どうぞ」
冬青が置いていくと、拓須は目で追う。
〈翔隆が先であろうが…!〉
何やら何もかもが狭霧とは違い過ぎて余計に苛々する。
「…もういい」
拓須はそれだけ言って己の部屋へと行ってしまった。
「拓須ー?冷めるから早く戻ってくれよ?」
翔隆が言うと、奥から
「分かっている!」
と機嫌の悪そうな拓須の声が聞こえた。
そこに睦月がやってきて翔隆の隣に座る。
「…あれ?もしや拓須の分…?」
「ああ…何故か部屋に行ってしまって」
すると翔隆と睦月の膳が運ばれてくる。
「どうぞ、今日捕れたサワラの味噌焼きです」
「サワラかぁ、美味そうだな」
翔隆は笑顔で言う。
夕餉の後、拓須はそのまま狭霧に向かった。
館では京羅が一人で書を書いていたので、その隣に座る。
「ん?どうした拓須」
「何故不知火共は翔隆の下に行かぬ?」
「急だな…どの不知火の事だ?」
京羅は拓須に向き直って茶を飲む。
「清修らだ」
「………アレらは…確か、羽隆が憎いのでこちらに回った筈だな。その子供だから憎いのではないのか?」
「………役回りが多いのだ…」
拓須は長い溜め息を吐いて、文机にもたれ掛かる。
「役………翔…」
翔隆と言い掛けて、京羅は周りを見回す。
今日は焔羅達兄弟は違う館に行っている…。
「翔隆の世話でも焼いておられるのか?拓須が?」
「………疲れる」
本当にげっそりとして言う姿を見て、京羅はクッと笑う。
「楽しそうで重畳」
「いっそ狭霧のやり方にしてしまえば楽なのだ…」
「…戻られてはいかがだ?」
「睦月が許すまい…焔羅の事とて捕らえて来いと言うのだ…」
「ククッ…そちらは楽しそうだな」
笑いながら言い、京羅は立ち上がる。
「土産に都の茶を持っていかれるか?」
「…ああ」
答えて拓須も立ち上がる。
拓須が去ると、京羅はフッと笑って西の空を見た。
霊力が回復した翔隆は、久方振りに越後に飛んだ。
だが春日山城に上杉弾正少弼輝虎は居らず、代わりに宿老の直江大和守景綱(六十四歳)が出迎えた。
「おお、お主か。息災であったか?」
直江大和守景綱は翔隆を差別しないでくれる数少ない人だ。
「はい、ご無沙汰しております。あの…お屋形様は…」
「今ご出陣なされておられる」
「えっ?!」
聞けば、越中の一向一揆と椎名康胤が武田家と通じたので、制圧に向かったという。
出陣して十日は経つとの事。
翔隆は一礼して城を飛び出した。
〈今頃は二・三城は軽く薙ぎ払っている筈だ〉
そう思い、魚津で立ち止まる。
〈その椎名の城が何処にあるか知らないな…〉
仕方無く、翔隆は輝虎の金色掛かった澄んだ紅蓮の〝気〟を探した。
夕方にもなると、やっと輝虎が守山城を攻撃しているのが分かり、急いでそちらへ向かった。
陣中に着いたのはすっかり日が暮れた酉の一刻であった。
翔隆は周りに睨まれながらも輝虎の居る陣幕に入る。
「お久しゅうござりまする」
「翔隆…!おお、久しいな…戦場にまで来るとは、どうかしたか?」
「あ…直江様よりこちらだと聞き……その、長らく出仕しなかった事を詫びに参りました」
「ふっ…左様か」
輝虎はただ笑う。翔隆のその微笑んだ顔で、再士官したのだという事が分かったからだ。
「戦場では何もしなくて良い。そこらに座っておれ」
「ですが…」
「お主は伽衆だ。要らぬ事はするな」
沈着な口調だが、その厳しい眼差しが反論を許さなかった。
理由は分かっている………伽衆などが間違ってもしゃしゃり出て武功でも立てては、家臣団の結束が乱れるからだ。
「はっ…申し訳ござりませぬ…」
そう言って翔隆は大人しく陣幕の、端に下座した。
しかし生来、じっと傍観が出来ない性分だ………次第にそわそわとしてくる。
三日目になると、陣内をうろつき出した。
「あの…何か手伝う事はありませぬか?」
そう言い近習や兵を困らせていた。
そこへ柿崎和泉守景家(五十三歳)が通り掛かって怒鳴る。
「兵を掻き乱すでない!こんな時に奇襲でもあったら何とするのだっ!」
「申し訳ござりませぬ…」
「伽衆がこんな所をうろつくなっ!」
「はっ…」
「お屋形さまの物好きにも困ったものよ」
柿崎景家は翔隆をじろじろ見ながら、ぶつぶつ言い行ってしまう。
翔隆は静かに溜め息を吐く。
〈日を改めた方がいいが…次はいつ来られるか分からないからな……〉
しかし、この〝伽衆〟という立場は何とかならないものか…今度違う何かにしてもらえないか聞いてみたいものだ。
そう思いながらも翔隆は本陣に戻った。
本陣ではてる床几に座っている。
「て…お屋形様、お願いがございます」
「なんだ?」
「どうかわたくしめに仕事をお与え下され!何かお役に立てる事はございませんか?!」
「…そろそろ言い出すだろうと思っておった」
輝虎はそう言うと、笑って鉢巻を投げ渡す。
「これは…?」
「椎名め、一向衆の支援なぞ受けておるからか中々落とせん。…怪我人も多いから手当てせよ」
「はっ!」
翔隆が笑顔で鉢巻を付けると、小姓が側に寄ってくる。
「ではこちらに」
「う、うむ…」
翔隆は疎まれているのを覚悟しながら付いていく。
するとその小姓は笑い掛けてきた。
「すっかり良くなられていて安心しました。息災でしたか?」
「ああ………もしや、東原…殿?」
「はい、あれからもう四年も経ちまするな…こちらに」
「ありがとう」
翔隆は笑顔で東原について行った。
春日山城で大怪我を負った時に介抱してくれた小姓なので、安心出来た。
それから五日程、介抱に当たってから戻る事にした。
尾張に戻る前に挨拶に行くと、頷かれた。
「また必ず参れよ?今の所、一成で構わぬが…次は戦の無い時に参れ」
「はっ!」
答えて翔隆は本陣を後にした。
そのまま帰るのも申し訳ないので、痛み止めの丸薬などを調合してから帰った。
尾張の屋敷に戻ってから、翔隆は広間で報告書を読んでいた。
そこに葵達が料理を運んでくる。
「もうそんな刻限か…」
呟くと、拓須が隣に座る。
翔隆は不思議がりながらも出された焙じ茶を飲む。
「…?」
「お前はもう女を娶らんのか」
「ブーッ!ゲホッゲホッ!」
急な言葉に茶を吹いてむせていると、また拓須が言う。
「茶ぐらいちゃんと飲め…それで、娶る女は居ないのか」
「ゲホッ…急に…何…っゲホッゲホッ」
手拭いで口を拭いていると浅葱がこぼした茶を拭いてくれる。
「ととさま、好いた女子が居るの?」
「い、いや居ない………ああ驚いた。何、睦月に何か言われた?」
「………」
拓須は何かを言い掛けて口をつぐみ、溜め息を吐く。
〈ならば嫡子を迎えに行けと言っていいものかどうなのか…〉
拓須は、近江の武宮が翔隆の嫡子を産んだ事を知っていて、言うべきか否かを惑っていたのだ。
こういう事は、本来〔不知火〕の者が言う事なのだが…どうして各地の不知火共はこうも宛にならないのか。
これが焔羅であれば、言うまでもなく連れて来るのだが…勝手が分からないのでどうにもやりようがない。
〈確か四年前だ……何故ここに清修やら修隆やら清隆といった翔隆の叔父らが居らんのだ…〉
何故翔隆と敵対しているのか、さっぱり理解が出来ない。
拓須が苛付いて腕組みして指をトントンと弾いていると、目の前に膳が置かれる。
「どうぞ」
冬青が置いていくと、拓須は目で追う。
〈翔隆が先であろうが…!〉
何やら何もかもが狭霧とは違い過ぎて余計に苛々する。
「…もういい」
拓須はそれだけ言って己の部屋へと行ってしまった。
「拓須ー?冷めるから早く戻ってくれよ?」
翔隆が言うと、奥から
「分かっている!」
と機嫌の悪そうな拓須の声が聞こえた。
そこに睦月がやってきて翔隆の隣に座る。
「…あれ?もしや拓須の分…?」
「ああ…何故か部屋に行ってしまって」
すると翔隆と睦月の膳が運ばれてくる。
「どうぞ、今日捕れたサワラの味噌焼きです」
「サワラかぁ、美味そうだな」
翔隆は笑顔で言う。
夕餉の後、拓須はそのまま狭霧に向かった。
館では京羅が一人で書を書いていたので、その隣に座る。
「ん?どうした拓須」
「何故不知火共は翔隆の下に行かぬ?」
「急だな…どの不知火の事だ?」
京羅は拓須に向き直って茶を飲む。
「清修らだ」
「………アレらは…確か、羽隆が憎いのでこちらに回った筈だな。その子供だから憎いのではないのか?」
「………役回りが多いのだ…」
拓須は長い溜め息を吐いて、文机にもたれ掛かる。
「役………翔…」
翔隆と言い掛けて、京羅は周りを見回す。
今日は焔羅達兄弟は違う館に行っている…。
「翔隆の世話でも焼いておられるのか?拓須が?」
「………疲れる」
本当にげっそりとして言う姿を見て、京羅はクッと笑う。
「楽しそうで重畳」
「いっそ狭霧のやり方にしてしまえば楽なのだ…」
「…戻られてはいかがだ?」
「睦月が許すまい…焔羅の事とて捕らえて来いと言うのだ…」
「ククッ…そちらは楽しそうだな」
笑いながら言い、京羅は立ち上がる。
「土産に都の茶を持っていかれるか?」
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答えて拓須も立ち上がる。
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