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四章 礎
十七.他者の存在
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宿雨が止んだ九月も半ば。
翔隆が一人、昔からの修行場で基礎から《術》の鍛練をしていると、突然禾巳を連れた拓須が現れる。
「―――っ!?」
ちょうど現れた所に《炎》を放とうとしていた翔隆は、驚いて向きを逸らした。
《炎の矢》が飛び、その勢いで拓須の長い髪が靡く…。拓須は無言で髪を掻き上げた。
「………」
「た…拓須!! どうしたのだ?」
「…何だその醜態は」
「あ…その……」
「出しかけた術一つ、収められんのかっ!」
いきなり怒鳴ると、拓須は《風》で翔隆を吹き飛ばす。そして、禾巳を見る。
「…良いか、これより陰陽の五行(木・火・土・金・水の五つの元素)の力を身に付ける為の修行を行う。修験とも言うか…まあどちらにせよ、まずは滝に打たれて来い」
「は、はい!」
禾巳は、飛ばされた翔隆を気にしながらも、冷たい滝壺に入って行った。
それを見送り、拓須は無表情で茂みから出て来た翔隆を見た。
翔隆は、何とも申し訳なさそうな顔をしている…。
〈…こ奴は私が味方ではない、と理解しているのか…?〉
拓須は溜め息を吐いて腕を組む。
「お前も行ってこい」
「え……あ、はいっ!」
言われて翔隆は、慌てて禾巳の隣りで滝に打たれる…。
攻撃されようが、裏切られようが、翔隆にとっては唯一の《霊術》の師匠なのだ。
その姿を見てまた溜め息を吐くと、拓須は二人の側に行く。
ドドド…と降り注ぐ水の中、禾巳は必死になって立っていた。対して翔隆は、臨の印を結んで何かを唱えている。
「…何も考えるな。水と一体になれ」
言われて、翔隆は唱えるのを止める。拓須が余り話さないので、滝の音だけが響く。
〈…水と一体………〉
禾巳はとにかく、言われたままに頑張る。
隣りの翔隆は、無心で滝に打たれていた。
激しく打ち付ける水の中、激流…濁流…清流…全ての水を肌で感じ取る。
その内に、空でゴロゴロと雷鳴が轟く。
翔隆が無意識に呼んだのだろう。
それを見上げ、拓須は敢えて無視した。
今稲妻が落ちれば、被害に遭うのは《力》を持たない禾巳――――。
それに翔隆が気付かなければ、この修行の意味も無い。
わざわざ禾巳を連れてきたのは、睦月に
「翔隆に一人の時とは違うのだという事を、教えてやってはくれぬか?」
と…頼まれてしまったからだ。
そうでなければ、わざわざ憎い奴の顔など見にくるものか。
禾巳を育てている方がよっぽどいい。
〈…もう落ちるな…〉
拓須が思うのと、翔隆がハッと気付くのとが同時であった。
「ら、雷壁!」
翔隆は咄嗟にそう唱えて、雷を逸らして大地に落とす…すると、拓須がまた《風》で翔隆を滝から飛ばした。
「〝壁〟で充分だ! その間に禾巳が打たれる!」
「はい…っ」
「陰陽もまともに頭に入っていないようだな…修行し直せ」
翔隆に冷たく言い放ち、拓須は禾巳を浮かせて滝から出してやる。
「滝の行はどうだ」
「寒くて痛いです!」
その正直な返答にふっと微笑し、拓須は禾巳の周りに炎の円を作り出す。
「その中で印を結び、炎を消してみろ」
「はい!」
禾巳が精神を集中して印を結ぶ…拓須はふと翔隆を見て言う。
「…お前もやるか」
「い、いえ…」
翔隆は眉を寄せて情けない顔で返事をしてから、禾巳を見た。
〈…無事で良かった………〉
そう考え、ハッとして拓須を見つめた。
「拓須…もしや」
言い掛けるが、拓須に言葉を遮られてしまう。
「何をしている! そのままでは火あぶりだぞ」
言われて禾巳は必死に炎を消そうとする。
〈…まさか、な…〉
拓須が自分に何かを教えてくれようだなんて、有り得ない。
いや、睦月に頼まれたとすれば――――。
真実はどうあれ、翔隆は心中で拓須に感謝して炎を操る訓練をした。
翔隆が一人、昔からの修行場で基礎から《術》の鍛練をしていると、突然禾巳を連れた拓須が現れる。
「―――っ!?」
ちょうど現れた所に《炎》を放とうとしていた翔隆は、驚いて向きを逸らした。
《炎の矢》が飛び、その勢いで拓須の長い髪が靡く…。拓須は無言で髪を掻き上げた。
「………」
「た…拓須!! どうしたのだ?」
「…何だその醜態は」
「あ…その……」
「出しかけた術一つ、収められんのかっ!」
いきなり怒鳴ると、拓須は《風》で翔隆を吹き飛ばす。そして、禾巳を見る。
「…良いか、これより陰陽の五行(木・火・土・金・水の五つの元素)の力を身に付ける為の修行を行う。修験とも言うか…まあどちらにせよ、まずは滝に打たれて来い」
「は、はい!」
禾巳は、飛ばされた翔隆を気にしながらも、冷たい滝壺に入って行った。
それを見送り、拓須は無表情で茂みから出て来た翔隆を見た。
翔隆は、何とも申し訳なさそうな顔をしている…。
〈…こ奴は私が味方ではない、と理解しているのか…?〉
拓須は溜め息を吐いて腕を組む。
「お前も行ってこい」
「え……あ、はいっ!」
言われて翔隆は、慌てて禾巳の隣りで滝に打たれる…。
攻撃されようが、裏切られようが、翔隆にとっては唯一の《霊術》の師匠なのだ。
その姿を見てまた溜め息を吐くと、拓須は二人の側に行く。
ドドド…と降り注ぐ水の中、禾巳は必死になって立っていた。対して翔隆は、臨の印を結んで何かを唱えている。
「…何も考えるな。水と一体になれ」
言われて、翔隆は唱えるのを止める。拓須が余り話さないので、滝の音だけが響く。
〈…水と一体………〉
禾巳はとにかく、言われたままに頑張る。
隣りの翔隆は、無心で滝に打たれていた。
激しく打ち付ける水の中、激流…濁流…清流…全ての水を肌で感じ取る。
その内に、空でゴロゴロと雷鳴が轟く。
翔隆が無意識に呼んだのだろう。
それを見上げ、拓須は敢えて無視した。
今稲妻が落ちれば、被害に遭うのは《力》を持たない禾巳――――。
それに翔隆が気付かなければ、この修行の意味も無い。
わざわざ禾巳を連れてきたのは、睦月に
「翔隆に一人の時とは違うのだという事を、教えてやってはくれぬか?」
と…頼まれてしまったからだ。
そうでなければ、わざわざ憎い奴の顔など見にくるものか。
禾巳を育てている方がよっぽどいい。
〈…もう落ちるな…〉
拓須が思うのと、翔隆がハッと気付くのとが同時であった。
「ら、雷壁!」
翔隆は咄嗟にそう唱えて、雷を逸らして大地に落とす…すると、拓須がまた《風》で翔隆を滝から飛ばした。
「〝壁〟で充分だ! その間に禾巳が打たれる!」
「はい…っ」
「陰陽もまともに頭に入っていないようだな…修行し直せ」
翔隆に冷たく言い放ち、拓須は禾巳を浮かせて滝から出してやる。
「滝の行はどうだ」
「寒くて痛いです!」
その正直な返答にふっと微笑し、拓須は禾巳の周りに炎の円を作り出す。
「その中で印を結び、炎を消してみろ」
「はい!」
禾巳が精神を集中して印を結ぶ…拓須はふと翔隆を見て言う。
「…お前もやるか」
「い、いえ…」
翔隆は眉を寄せて情けない顔で返事をしてから、禾巳を見た。
〈…無事で良かった………〉
そう考え、ハッとして拓須を見つめた。
「拓須…もしや」
言い掛けるが、拓須に言葉を遮られてしまう。
「何をしている! そのままでは火あぶりだぞ」
言われて禾巳は必死に炎を消そうとする。
〈…まさか、な…〉
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