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四章 礎
二十七.浅葱
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それから、翔隆は睦月を必死で探し回っていた。
明智光征や矢苑忠長、嵩美にも手伝ってもらったが、何の手掛かりも無いまま無情に時が過ぎていく…。
雪のちらつく十二月。
侍女達はお産の準備に追われ、翔隆は出仕に行く…。
〈…睦月……何処にいるんだ…っ?! 無事でいてくれ……!!〉
そう思いながら、空を見上げる。すると、信長が側に寄ってきた。
「…また何かあったか?」
「あ……申し訳ございません…。只今…お茶を…」
「茶はいらん。…武田の事か?」
「あ、いえ……私事でございまして……」
悲しそうに翔隆が答えると、信長は苦笑して翔隆の頭をくしゃりと撫でる。
「暇をやる故、行ってくるがいい」
「……はっ…!」
翔隆は深く一礼して立ち去った。
翔隆があんな顔をする時は、〝師匠〟達との事以外に考えられない。――――故に、許したのだ。
睦月を探しに行こうかとも思ったが、翔隆は美濃の竹中半兵衛重虎(十七歳)の下に行った。
菩提山城に着くと、本丸に通される。
半兵衛重虎に会う時は、いつも集落か外だったので、ここに来たのは初めてだ。
お茶を出されて小姓が下がっていくと、翔隆は落ち着かない様子で立つ。
その内に、竹中重虎がやってきて苦笑した。
「殿……茶でも飲まれておられれば宜しいものを…」
そう言って、重虎は座る。
「あ、ああ……済まん。どうも、城は落ち着かなくてな…」
重虎の前に座ると、笑われた。
「大将となれば、いずれ城持ちになりますぞ。慣れておかれなされ」
「う、うむ…」
そわそわとして落ち着かない様子の翔隆を見て、重虎は真顔になって尋ねる。
「何か、重大な事がありましたか?」
「む…睦月がっ! 私の《術》で、睦月が谷に落ちてっ! どうしたらいい?! 見つからぬのだっ…!」
翔隆は、狼狽しながら懇願するように重虎の肩を掴んで言う。
余程の事と見て、重虎は翔隆の両肩を掴んでじっと目を見つめて言う。
「殿。深呼吸をして、落ち着いて説明して下され」
言われて翔隆は、焦心しながらも深呼吸をして俯く。そして一部始終を、重虎に話した。
重虎は頷いて考える。
「…いないという事は、どこぞの民に介抱されているか………もしくは、〔狭霧〕に連れ去られたか、ですな」
冷静に判断して言うと、翔隆が見る間に蒼白した。
「狭霧に…?!」
「有り得るでしょう。裏切り者とはいえ、刺客として放つ程信頼されていた御仁なのですから。私も、矢佐介に伝えて探させます故…」
話す途中で、重虎は眉をひそめる。
翔隆が蒼冷めて冷や汗を掻きながら、小刻みに震えていたからだ。
「殿! しっかりなされよ! たとえ狭霧に捕らわれていたとしても、すぐに殺されたりはしませぬ!」
「そう……なのか…?」
なんとも情けない顔で翔隆が聞く。
狭霧の人間に対して、こんなにもうろたえるとは…。
そう思いながらも、重虎はそれを表情に出さずに微笑すると、力強く頷いた。
「はい、確信はありまする。…まず第一に、〔狭霧導師〕の守る存在である事。そして、その拓須殿は狭霧に一目置かれる存在……。これらを照らし合わせても、すぐにどうこうするという事は、まず有り得ませぬ」
重虎は、きっぱりと言う。
それを聞いて、翔隆は少し安心したかのように小さく溜め息を漏らす。
「…では、頼む…私も出来る限り探すから……」
「はい」
翔隆は、肩を落としながら城を出た。それを見送り、竹中重虎は溜め息を吐く。
「睦月殿、か…。殿にとっては、本当にあの御仁達が…何よりの支えとなっておられるのだな…」
呟いて、重虎は立ち上がって空を見上げた。以前の義成の時といい…いなくなって混乱する程の支えであるという事は、逆に致命的な弱点でもあるという事。
「厄介だな………この先、何もなければ良いが…」
親のように、兄のように慕い過ぎて、それに捕らわれなければいいのだが…。
邸に着くと、似推里が駆けてきた。
「お生まれになりましたよ!」
「生まれた……」
言われて、はたと気付く。篠姫が産気づいていたのだ!
翔隆はすぐに篠の部屋に行く。
と、篠は生まれた赤子を抱いて乳を与えていた。
「殿、可愛らしい女子にござりまする……したが、掟によれば…この子は…」
篠姫が、悲しげに言った。翔隆は微笑んで篠の横に座り、抱き締める。
「女子だからといって、殺させはしない。安心しろ」
「殿…」
篠姫は大きな瞳で、翔隆を見つめる。それに、翔隆は力強く頷いた。
「名は浅葱。朝焼けの空の色だ…いいな?」
「あい…!」
篠姫は、喜びと安堵で涙を流した…。
十二月二十四日の事である…。
明智光征や矢苑忠長、嵩美にも手伝ってもらったが、何の手掛かりも無いまま無情に時が過ぎていく…。
雪のちらつく十二月。
侍女達はお産の準備に追われ、翔隆は出仕に行く…。
〈…睦月……何処にいるんだ…っ?! 無事でいてくれ……!!〉
そう思いながら、空を見上げる。すると、信長が側に寄ってきた。
「…また何かあったか?」
「あ……申し訳ございません…。只今…お茶を…」
「茶はいらん。…武田の事か?」
「あ、いえ……私事でございまして……」
悲しそうに翔隆が答えると、信長は苦笑して翔隆の頭をくしゃりと撫でる。
「暇をやる故、行ってくるがいい」
「……はっ…!」
翔隆は深く一礼して立ち去った。
翔隆があんな顔をする時は、〝師匠〟達との事以外に考えられない。――――故に、許したのだ。
睦月を探しに行こうかとも思ったが、翔隆は美濃の竹中半兵衛重虎(十七歳)の下に行った。
菩提山城に着くと、本丸に通される。
半兵衛重虎に会う時は、いつも集落か外だったので、ここに来たのは初めてだ。
お茶を出されて小姓が下がっていくと、翔隆は落ち着かない様子で立つ。
その内に、竹中重虎がやってきて苦笑した。
「殿……茶でも飲まれておられれば宜しいものを…」
そう言って、重虎は座る。
「あ、ああ……済まん。どうも、城は落ち着かなくてな…」
重虎の前に座ると、笑われた。
「大将となれば、いずれ城持ちになりますぞ。慣れておかれなされ」
「う、うむ…」
そわそわとして落ち着かない様子の翔隆を見て、重虎は真顔になって尋ねる。
「何か、重大な事がありましたか?」
「む…睦月がっ! 私の《術》で、睦月が谷に落ちてっ! どうしたらいい?! 見つからぬのだっ…!」
翔隆は、狼狽しながら懇願するように重虎の肩を掴んで言う。
余程の事と見て、重虎は翔隆の両肩を掴んでじっと目を見つめて言う。
「殿。深呼吸をして、落ち着いて説明して下され」
言われて翔隆は、焦心しながらも深呼吸をして俯く。そして一部始終を、重虎に話した。
重虎は頷いて考える。
「…いないという事は、どこぞの民に介抱されているか………もしくは、〔狭霧〕に連れ去られたか、ですな」
冷静に判断して言うと、翔隆が見る間に蒼白した。
「狭霧に…?!」
「有り得るでしょう。裏切り者とはいえ、刺客として放つ程信頼されていた御仁なのですから。私も、矢佐介に伝えて探させます故…」
話す途中で、重虎は眉をひそめる。
翔隆が蒼冷めて冷や汗を掻きながら、小刻みに震えていたからだ。
「殿! しっかりなされよ! たとえ狭霧に捕らわれていたとしても、すぐに殺されたりはしませぬ!」
「そう……なのか…?」
なんとも情けない顔で翔隆が聞く。
狭霧の人間に対して、こんなにもうろたえるとは…。
そう思いながらも、重虎はそれを表情に出さずに微笑すると、力強く頷いた。
「はい、確信はありまする。…まず第一に、〔狭霧導師〕の守る存在である事。そして、その拓須殿は狭霧に一目置かれる存在……。これらを照らし合わせても、すぐにどうこうするという事は、まず有り得ませぬ」
重虎は、きっぱりと言う。
それを聞いて、翔隆は少し安心したかのように小さく溜め息を漏らす。
「…では、頼む…私も出来る限り探すから……」
「はい」
翔隆は、肩を落としながら城を出た。それを見送り、竹中重虎は溜め息を吐く。
「睦月殿、か…。殿にとっては、本当にあの御仁達が…何よりの支えとなっておられるのだな…」
呟いて、重虎は立ち上がって空を見上げた。以前の義成の時といい…いなくなって混乱する程の支えであるという事は、逆に致命的な弱点でもあるという事。
「厄介だな………この先、何もなければ良いが…」
親のように、兄のように慕い過ぎて、それに捕らわれなければいいのだが…。
邸に着くと、似推里が駆けてきた。
「お生まれになりましたよ!」
「生まれた……」
言われて、はたと気付く。篠姫が産気づいていたのだ!
翔隆はすぐに篠の部屋に行く。
と、篠は生まれた赤子を抱いて乳を与えていた。
「殿、可愛らしい女子にござりまする……したが、掟によれば…この子は…」
篠姫が、悲しげに言った。翔隆は微笑んで篠の横に座り、抱き締める。
「女子だからといって、殺させはしない。安心しろ」
「殿…」
篠姫は大きな瞳で、翔隆を見つめる。それに、翔隆は力強く頷いた。
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