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六章 決別
二十八.血色の雪
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翔隆はあの時、風麻呂こと父が運んでくれた信長からの文を読み返した。
内容は、織田家で何が起こるか…であろう。
十一月には、武田に姫が嫁いでくる。
永禄九年には美濃の墨俣に砦を造らせ、
永禄十年には五徳姫を松平家康の嫡子・竹千代に嫁がせ、美濃を攻略して市姫を浅井に嫁がせる予定だ…と。
その、問題の十一月。
翔隆は諏訪勝頼を迎えに行くと言って躑躅ヶ﨑館を出た。
それから暫くして、勝頼(十八歳)が館で姫を迎える為にやってくる。
「勝頼、翔隆はどうした?」
「は? ここに居ると思って来たのですが…?」
「…?」
確かに〝勝頼を迎えに行く〟と言って出て行ったのだが…。信玄は苦笑する。
「まあ良い。行き違えたのだろう」
―――と、都合良く解釈されている頃、翔隆は〝信長再士官〟への第一歩を実践していた。
一族の者から、間もなく花嫁行列が駿河に入るという情報を得て、東海道に居たのだ。
暫く身を隠して待ち伏せていると、前方から騎馬や足軽の一団がやってくる。
〈あれか〉
翔隆は身を隠したまま、その中に見知った者がいないかを探す。
いきなり出て行って、成敗沙汰になっては困る。
すると、己の家臣の明智光征と椎名雪孝、そして佐々成政の姿を見付けた。
翔隆は頷いて一町先へ行き、立って待つ。
「何奴!!」
先頭の兵士が槍を突き付けてきたので、翔隆は一礼する。
「篠蔦三郎兵衛翔隆にござりまする」
「?! 翔隆?!」
慌てて佐々成政(二十八歳)が馬から降りて近付き、まじまじと翔隆を見て笑顔で翔隆の両腕を掴む。
「本当に翔隆じゃ!! 三年振りか…? 久しいな…」
「成政殿、お久しゅう…」
「こんな所でどうしたのだ! 確か諸国を回っていると…」
そう言われ、翔隆は真顔で成政を見つめる。
「此度は、姫の護衛に駆け付けました。…差し支え無ければ、ご同行させて頂きたく…」
「そうか……」
成政は、翔隆なりの再士官の方法だと悟って頷く。
「良いぞ。お主の家臣もおる。そっちへ行ってやるといい」
「ありがとう」
翔隆は笑顔で答え、光征と雪孝の下へ行く。
二人は、目を潤ませながらも主君を見つめた。
「翔隆様…!」
「…見ない間に、頼もしくなったな」
「いえ、まだまだです」
光征が答え、雪孝も苦笑して頷く。
翔隆は二人の肩を叩いてやる。
「雪孝、その髪はどうした?」
「あ…」
言われて雪孝は恥ずかしそうに短く切った髪を触る。
「一族と戦った折に焦げまして……面倒なので切りました」
「…そうか…無茶はするなよ?」
優しい主君の言葉に、雪孝はじんと胸が熱くなり涙ぐむ。
それを見て、光征が話題を変える。
「武田家にいらしたのですね」
「うむ。…お菊姫とは、もしや信秀様の…」
「はい。信長様の妹に当たる方で、年は十八、肌が白い美しい姫です」
そんな事を話している時、翔隆は殺気に気が付く。
駿河は危険な場所…〝長〟となった義成が、こんな好機を逃す筈も無い。
〈この〝気〟は…!!〉
翔隆は調べてから蒼白し、二人の間に立ち小声で言う。
(…強者五人が待ち構えている)
「え…!」
(何事も無い振りをしろ。奴らが出たら、すぐに光征は輿を守れ。雪孝は《力》を使え! いいな?)
「はっ!」
答えて光征はそれとなく前へ行き、雪孝は《力》を使う為に〝気〟を集中する。
言ってから一刻と経たずして、〔一族〕が現れて雑魚を切っていく。
―――が、雪孝は驚愕して立ち尽くしてしまう。
「きゃあっ!!」
「何処の者だっ!!」
すぐ様翔隆が守りに入って叫ぶ。
「光征、守りながら走れ! 成政、早く逃げろ!!」
「おう!!」
〔一族〕の力を知っている成政はすぐに部下達を走らせた。
光征も姫を乗せた板輿を守りながら走る。
すると、五人の内の清修(五十八歳)と〝京羅三人衆〟が一人、真柳種嗣(二十七歳)の二人が一行を追って行き、陽炎とその他二人が残った。
翔隆は雪孝に駆け寄り、肩を掴む。
「どうした?!」
「教えてやろうか」
答えたのは、見知らぬ者の内の一人。
「そ奴は…雪孝は我らの末の弟…この雪臣が双子の弟よ」
「――――!」
思わず雪孝を見た。彼は蒼冷めながら震えて言う。
「…雪宗…雪臣―――!!」
すると、長男である椎名雪宗(十九歳)が嘲笑って言う。
「久しいな、雪孝。…臆病なお前が不知火に付くなどと、夢にも思わなかったわ」
すると、もう一人の双子の兄・雪臣(十七歳)が冷笑する。
「どうせ唆されたのであろう。どうだ? 抱かれ心地は。さぞ良いのであろうな!」
「うるさい黙れっ!! そんな…そんな事でこの人に仕えたんじゃない!!」
「ハッ! 〝仕えた〟だって。聞いた、兄さん」
「随分と面白い事を言う」
雪宗も冷笑して言った。
「うるさい!!」
雪孝は嘲笑う二人に、力の限り叫ぶ。
その間、翔隆も陽炎と睨み合っていた。
「陽炎…っ! よくも私の前に現れたな…!!」
「一人前な言葉を。お前もちょこまかとよく現れるものだ…」
「貴様…っ!!」
すぐにでも斬り掛かりたい衝動を抑え、翔隆は後退りながら雪孝の側に行く。
「翔隆様…」
「その二人は〝兄〟か」
「はい。でかいのが雪宗、もう一人が双子の兄・雪臣です」
「―――殺れるか?」
「………」
「もし〝兄〟を敵に回すのが心苦しいのならば、考え直せ。お前はまだ〝一度〟しか裏切っていないのだから、やり直せる」
「とっ…っ!?」
「…後悔するやもしれん。もっと辛くなるぞ」
それを聞いて真っ先に笑ったのは、雪臣だった。
「ハーッハッハッハッ! これはいい! 何が仕えるだ? その主君とやらに見放されているではないかっ!」
「翔隆様…っ!!」
そんな雪孝の悲しげな声には答えず、翔隆は陽炎を睨む。
「…もう貴様などに大切な人を殺させはしない…よくも義輝様を…父を殺したな!!」
「…あんな奴は、死んで当然なのだ!」
陽炎は憎悪の瞳で吐き捨てるように言った。それに対して翔隆は厭悪が増した。
「…殺す!!」
そう言った後、翔隆は《力》を放出する。
一気に雨雲が広がり、雷が激しく落ちる。
その中で、三人相手に戦い始めた。
―――雪孝には、それが何を意味するのかがすぐに分かった。
〈いつでも、私が敵に回ってもいいように…背を向けて…〉
以前、疾風から聞いた事がある…。
翔隆に戦いを挑んだ時に、刃を向けてこなかったと。
…そして、〝殺せるものなら殺せ〟と言われ、何も出来なくなった、と……。
「憎んでいる兄、陽炎に対しては本気で戦っても、ただ敵対していただけの自分には躊躇していた。〝己の正義を貫け〟…と、言われてな」
だから、翔隆と共に居る事にした…と、言っていた。
〈疾風様と戦うのは、辛かった…だから考え直せ、と―――だが!〉
雪孝は刀を抜いて構える。
「私とて、虚栄に生きる〔狭霧〕に大事な人を殺されたくはない!!」
そう叫んで兄に斬り掛かっていった。
生半可な気持ちで翔隆に仕えた訳ではない。
この人になら命を捧げてもいいと思ったからこそ、これまで仕えてきたのだ!
双方、《力》を使っての乱闘。
雷や氷や猛吹雪で、相手の姿もまともに見えない中での戦いとなる。
陽炎の攻撃を躱すと、雪宗が攻撃を仕掛けてくるので反撃がままならない。
〈二対一では不利か?! しかし…〉
雪臣相手に苦戦している雪孝の方へ、雪宗を向かわせる訳にもいかない。
一方の雪孝も、何とか翔隆の助勢をしようとするのだが、雪臣に阻まれてどうにもならずにいた。
「翔隆様…っ!!」
「よそ見をする暇があるのかっ!?」
そう言い雪臣は雪嵐を雪孝に向ける。
少し視界が開け、雪宗が前に出て翔隆を殺そうとする。
が、陽炎の槍とぶつかってしまう。
「!! ぬっ!?」
「ちぃっ!! 邪魔をするな雪宗!!」
「何だと?! 手柄を横取りする気か!?」
二人は睨み合い、距離を取って翔隆の前後に立つ。
「………」
翔隆は息を整え、豪雨を起こして雪を溶かしながら陽炎に斬り掛かる。
「はああっ!!」
「甘いわあっ!!」
翔隆の剣を容易く弾くと、陽炎はすかさず突く。
「…っ!!」
それを躱して着地した所を雪宗に攻撃されたので、紙一重で避けて蹴りを食らわせる。
そこにまた陽炎の槍の、戦斧のような刃が振り下ろされるので転がって躱して立ち上がる。
〈くっ…このままでは……〉
息も切れ、剣を持つ手も震えてきた。
このまま戦うのは危険だ。
「雪孝!!」
叫んで雪孝を見ると、雪臣ともつれ合いながら転がっていったのが見えた。
その時、援軍として駆け付けた高信率いる一族が現れ、陽炎達は即座に退散して行った。
吹雪が斑雪に変わる。
「長! ご無事で…」
「私は……」
言った後に、雪孝と雪臣が転がっていった方向を見ると、そこに雪孝が倒れていた。
「雪孝!!」
翔隆はすぐに駆け寄って、雪の上で血だらけになっている雪孝を抱き上げた。
「しっかりしろ雪孝!!」
雪孝は左腕を失い、右脇腹を内蔵が見える程切り裂かれている。
「と…翔隆様…っ!」
「死ぬな! 死ぬにはまだ早い…っ!!」
《治癒》を使おうにも、《力》の限度がある。
今の翔隆には、こんな重傷を治す程の《力》は無い…。
《力》を回復してから治せるような傷ではない。
「死ぬな…!」
翔隆は精一杯の《治癒》を施す。
「すみませ…こんな、事…で…」
「喋るな! …今治す…治すからっ!!」
「貴方に、会えて…幸せ…………どうか、一族、を……!」
雪孝は血を吐き、そのまま力尽きた…。その顔に微笑を浮かべて…。
「雪孝ーーっ!!」
叫んで翔隆は雪孝を抱き締める。
雨雪が微雨となり、それが止むまでずっと…。
血に染まった大地を見つめながら、ずっと抱き締めていた…。
内容は、織田家で何が起こるか…であろう。
十一月には、武田に姫が嫁いでくる。
永禄九年には美濃の墨俣に砦を造らせ、
永禄十年には五徳姫を松平家康の嫡子・竹千代に嫁がせ、美濃を攻略して市姫を浅井に嫁がせる予定だ…と。
その、問題の十一月。
翔隆は諏訪勝頼を迎えに行くと言って躑躅ヶ﨑館を出た。
それから暫くして、勝頼(十八歳)が館で姫を迎える為にやってくる。
「勝頼、翔隆はどうした?」
「は? ここに居ると思って来たのですが…?」
「…?」
確かに〝勝頼を迎えに行く〟と言って出て行ったのだが…。信玄は苦笑する。
「まあ良い。行き違えたのだろう」
―――と、都合良く解釈されている頃、翔隆は〝信長再士官〟への第一歩を実践していた。
一族の者から、間もなく花嫁行列が駿河に入るという情報を得て、東海道に居たのだ。
暫く身を隠して待ち伏せていると、前方から騎馬や足軽の一団がやってくる。
〈あれか〉
翔隆は身を隠したまま、その中に見知った者がいないかを探す。
いきなり出て行って、成敗沙汰になっては困る。
すると、己の家臣の明智光征と椎名雪孝、そして佐々成政の姿を見付けた。
翔隆は頷いて一町先へ行き、立って待つ。
「何奴!!」
先頭の兵士が槍を突き付けてきたので、翔隆は一礼する。
「篠蔦三郎兵衛翔隆にござりまする」
「?! 翔隆?!」
慌てて佐々成政(二十八歳)が馬から降りて近付き、まじまじと翔隆を見て笑顔で翔隆の両腕を掴む。
「本当に翔隆じゃ!! 三年振りか…? 久しいな…」
「成政殿、お久しゅう…」
「こんな所でどうしたのだ! 確か諸国を回っていると…」
そう言われ、翔隆は真顔で成政を見つめる。
「此度は、姫の護衛に駆け付けました。…差し支え無ければ、ご同行させて頂きたく…」
「そうか……」
成政は、翔隆なりの再士官の方法だと悟って頷く。
「良いぞ。お主の家臣もおる。そっちへ行ってやるといい」
「ありがとう」
翔隆は笑顔で答え、光征と雪孝の下へ行く。
二人は、目を潤ませながらも主君を見つめた。
「翔隆様…!」
「…見ない間に、頼もしくなったな」
「いえ、まだまだです」
光征が答え、雪孝も苦笑して頷く。
翔隆は二人の肩を叩いてやる。
「雪孝、その髪はどうした?」
「あ…」
言われて雪孝は恥ずかしそうに短く切った髪を触る。
「一族と戦った折に焦げまして……面倒なので切りました」
「…そうか…無茶はするなよ?」
優しい主君の言葉に、雪孝はじんと胸が熱くなり涙ぐむ。
それを見て、光征が話題を変える。
「武田家にいらしたのですね」
「うむ。…お菊姫とは、もしや信秀様の…」
「はい。信長様の妹に当たる方で、年は十八、肌が白い美しい姫です」
そんな事を話している時、翔隆は殺気に気が付く。
駿河は危険な場所…〝長〟となった義成が、こんな好機を逃す筈も無い。
〈この〝気〟は…!!〉
翔隆は調べてから蒼白し、二人の間に立ち小声で言う。
(…強者五人が待ち構えている)
「え…!」
(何事も無い振りをしろ。奴らが出たら、すぐに光征は輿を守れ。雪孝は《力》を使え! いいな?)
「はっ!」
答えて光征はそれとなく前へ行き、雪孝は《力》を使う為に〝気〟を集中する。
言ってから一刻と経たずして、〔一族〕が現れて雑魚を切っていく。
―――が、雪孝は驚愕して立ち尽くしてしまう。
「きゃあっ!!」
「何処の者だっ!!」
すぐ様翔隆が守りに入って叫ぶ。
「光征、守りながら走れ! 成政、早く逃げろ!!」
「おう!!」
〔一族〕の力を知っている成政はすぐに部下達を走らせた。
光征も姫を乗せた板輿を守りながら走る。
すると、五人の内の清修(五十八歳)と〝京羅三人衆〟が一人、真柳種嗣(二十七歳)の二人が一行を追って行き、陽炎とその他二人が残った。
翔隆は雪孝に駆け寄り、肩を掴む。
「どうした?!」
「教えてやろうか」
答えたのは、見知らぬ者の内の一人。
「そ奴は…雪孝は我らの末の弟…この雪臣が双子の弟よ」
「――――!」
思わず雪孝を見た。彼は蒼冷めながら震えて言う。
「…雪宗…雪臣―――!!」
すると、長男である椎名雪宗(十九歳)が嘲笑って言う。
「久しいな、雪孝。…臆病なお前が不知火に付くなどと、夢にも思わなかったわ」
すると、もう一人の双子の兄・雪臣(十七歳)が冷笑する。
「どうせ唆されたのであろう。どうだ? 抱かれ心地は。さぞ良いのであろうな!」
「うるさい黙れっ!! そんな…そんな事でこの人に仕えたんじゃない!!」
「ハッ! 〝仕えた〟だって。聞いた、兄さん」
「随分と面白い事を言う」
雪宗も冷笑して言った。
「うるさい!!」
雪孝は嘲笑う二人に、力の限り叫ぶ。
その間、翔隆も陽炎と睨み合っていた。
「陽炎…っ! よくも私の前に現れたな…!!」
「一人前な言葉を。お前もちょこまかとよく現れるものだ…」
「貴様…っ!!」
すぐにでも斬り掛かりたい衝動を抑え、翔隆は後退りながら雪孝の側に行く。
「翔隆様…」
「その二人は〝兄〟か」
「はい。でかいのが雪宗、もう一人が双子の兄・雪臣です」
「―――殺れるか?」
「………」
「もし〝兄〟を敵に回すのが心苦しいのならば、考え直せ。お前はまだ〝一度〟しか裏切っていないのだから、やり直せる」
「とっ…っ!?」
「…後悔するやもしれん。もっと辛くなるぞ」
それを聞いて真っ先に笑ったのは、雪臣だった。
「ハーッハッハッハッ! これはいい! 何が仕えるだ? その主君とやらに見放されているではないかっ!」
「翔隆様…っ!!」
そんな雪孝の悲しげな声には答えず、翔隆は陽炎を睨む。
「…もう貴様などに大切な人を殺させはしない…よくも義輝様を…父を殺したな!!」
「…あんな奴は、死んで当然なのだ!」
陽炎は憎悪の瞳で吐き捨てるように言った。それに対して翔隆は厭悪が増した。
「…殺す!!」
そう言った後、翔隆は《力》を放出する。
一気に雨雲が広がり、雷が激しく落ちる。
その中で、三人相手に戦い始めた。
―――雪孝には、それが何を意味するのかがすぐに分かった。
〈いつでも、私が敵に回ってもいいように…背を向けて…〉
以前、疾風から聞いた事がある…。
翔隆に戦いを挑んだ時に、刃を向けてこなかったと。
…そして、〝殺せるものなら殺せ〟と言われ、何も出来なくなった、と……。
「憎んでいる兄、陽炎に対しては本気で戦っても、ただ敵対していただけの自分には躊躇していた。〝己の正義を貫け〟…と、言われてな」
だから、翔隆と共に居る事にした…と、言っていた。
〈疾風様と戦うのは、辛かった…だから考え直せ、と―――だが!〉
雪孝は刀を抜いて構える。
「私とて、虚栄に生きる〔狭霧〕に大事な人を殺されたくはない!!」
そう叫んで兄に斬り掛かっていった。
生半可な気持ちで翔隆に仕えた訳ではない。
この人になら命を捧げてもいいと思ったからこそ、これまで仕えてきたのだ!
双方、《力》を使っての乱闘。
雷や氷や猛吹雪で、相手の姿もまともに見えない中での戦いとなる。
陽炎の攻撃を躱すと、雪宗が攻撃を仕掛けてくるので反撃がままならない。
〈二対一では不利か?! しかし…〉
雪臣相手に苦戦している雪孝の方へ、雪宗を向かわせる訳にもいかない。
一方の雪孝も、何とか翔隆の助勢をしようとするのだが、雪臣に阻まれてどうにもならずにいた。
「翔隆様…っ!!」
「よそ見をする暇があるのかっ!?」
そう言い雪臣は雪嵐を雪孝に向ける。
少し視界が開け、雪宗が前に出て翔隆を殺そうとする。
が、陽炎の槍とぶつかってしまう。
「!! ぬっ!?」
「ちぃっ!! 邪魔をするな雪宗!!」
「何だと?! 手柄を横取りする気か!?」
二人は睨み合い、距離を取って翔隆の前後に立つ。
「………」
翔隆は息を整え、豪雨を起こして雪を溶かしながら陽炎に斬り掛かる。
「はああっ!!」
「甘いわあっ!!」
翔隆の剣を容易く弾くと、陽炎はすかさず突く。
「…っ!!」
それを躱して着地した所を雪宗に攻撃されたので、紙一重で避けて蹴りを食らわせる。
そこにまた陽炎の槍の、戦斧のような刃が振り下ろされるので転がって躱して立ち上がる。
〈くっ…このままでは……〉
息も切れ、剣を持つ手も震えてきた。
このまま戦うのは危険だ。
「雪孝!!」
叫んで雪孝を見ると、雪臣ともつれ合いながら転がっていったのが見えた。
その時、援軍として駆け付けた高信率いる一族が現れ、陽炎達は即座に退散して行った。
吹雪が斑雪に変わる。
「長! ご無事で…」
「私は……」
言った後に、雪孝と雪臣が転がっていった方向を見ると、そこに雪孝が倒れていた。
「雪孝!!」
翔隆はすぐに駆け寄って、雪の上で血だらけになっている雪孝を抱き上げた。
「しっかりしろ雪孝!!」
雪孝は左腕を失い、右脇腹を内蔵が見える程切り裂かれている。
「と…翔隆様…っ!」
「死ぬな! 死ぬにはまだ早い…っ!!」
《治癒》を使おうにも、《力》の限度がある。
今の翔隆には、こんな重傷を治す程の《力》は無い…。
《力》を回復してから治せるような傷ではない。
「死ぬな…!」
翔隆は精一杯の《治癒》を施す。
「すみませ…こんな、事…で…」
「喋るな! …今治す…治すからっ!!」
「貴方に、会えて…幸せ…………どうか、一族、を……!」
雪孝は血を吐き、そのまま力尽きた…。その顔に微笑を浮かべて…。
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