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第一章 始まりの館

Chapter64 夢の時間

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 カシアンがカバンを4つ持って帰ると、アルシャインがカウンターで沈んだ様子で俯いていた。
「ただいまー……何?どうした?」
そう聞くと、お土産の掃除をしながらマリアンナが言う。
「さっきね…小さい子供が〝このお人形カワイイ~欲しい~〟って言って…売ってあげたの」
「あー…あの朝に作ってた人形?」
「うん…目もビーズとかでやったから、すごく可愛いの分かるし…アイシャママ、そういうの断れないから…」
「ほら元気出して、また一緒に作ろうよ」
リナメイシーがアルシャインを励ましている。
「あれお気に入りだったのよ~…同じの作れるかなー?」
そう言うアルシャインは本当に涙目だ。
泣く泣く手放すとはこの事なのか、と感心しながらカシアンが近付く。
「アイシャ、カバンどこに置く?」
「4つ?!さては執事じいやが保管してたのね…。いいわ、部屋に入れて置いて」
そう言ってアルシャインは部屋の鍵をカシアンに渡して立ち上がる。
「よーし、もっと可愛いの作るんだから~!」
「うんうん。お土産用も作ろうね」
アルベルティーナが笑って言い、みんなで仕込みをした。

カシアンがアルシャインの部屋にカバンを置いて戻ると、手の空いたルベルジュノーやノアセルジオ、アルベルティーナとユスヘルディナ、それに宿泊客がディナーを食べていた。
「ほらカシアンも食べちゃって!」
マリアンナが言いカウンターにステーキとスープとパンを置く。
クリストフもパンを食べていた。
「このミートパイ、ホールごと頂けませんか?!」
客の女戦士らしい人が興奮しながらキッチンに来て言う。
「えー…今日食べられる?」
アルシャインが聞くと、女戦士は考えてから言う。
「今日は半分で、残りは明日食べたいです!」
「…じゃあ、明日ホールを用意してあげるから、今日は食べられる分だけ頼んでね」
「いいんですか?!お願いします!あ、じゃあ今は4つ下さい!部屋で食べます!」
「それなら私もパウンドケーキ丸ごと欲しいですー!」
僧侶アポストルらしい女の子が言う。
「明日持って行くの?」
アルシャインが聞くと、コクコクと頷く。
「じゃあ明日…そうね、予約として書いておくから!」
アルシャインが笑って言うと、他の客もアップルパイやスコーンやクッキー、コロコロドーナツを頼み出した。
予約注文はマリアンナが書いて、先に支払って貰う事にした。
冒険者マーセナリー一行の2組、4人と6人の分だけでも相当だ。
「…ヤバイわ、これリンゴとか足りるかな?」
リナメイシーが在庫を確認してフィナアリスとアルベルティーナが小麦粉を用意しておいた。
そこにディナーのお客さんも来て、みんなは慌てて出迎えた。
「いらっしゃいませー!」
「デミグラスハンバーガー2つとステーキハンバーガー2つー!」とメルヒオール。
「コロコロドーナツ30個?はーい!」とティナジゼル。
「クッキー持ち帰り?今用意しておきますか?」とクリストフ。
「あ、そのコースターも?先に支払い?はい!」とレオリアム。
みんなが大忙しで歩き回る。
今日はすぐにコロコロドーナツとクッキーが無くなって、頼んだ人の分だけ追加で作った。

「今日はみんないっぱい食べたい日だったのかな…全部売り切れたね」
ノアセルジオが苦笑気味に言うと、コーヒーを飲んでまどろんでいたリサイクル屋のハンクが笑って言う。
「だって昨日は休みだったろう?もうここの味無しじゃ生きて行けないんだよ~…あ、持ち帰りに何か作れるの無いかな?」
「えー……そうね、みんなの夜食も作るついでなら…ベーコンとチーズのサンドイッチかしら」
「え、書いてないけど…」
「あら、じゃあ…」
アルシャインが何か言い掛けると、すぐにルベルジュノーが言う。
「10G!サンドイッチ3つで!」
「いいね!2つ頼むよ!」
ハンクが言うと、アルシャインがアゴに手を当てながら言う。
「3つなら、一つはハムとチーズでいいわね!」
そう言うので、ルベルジュノーが黒板に
サンドイッチ3つ(ベーコンとチーズ2つとハムとチーズ) 10G
と書いた。
「アイシャ、これ持ち帰りとランチだけにしたらどうかな?お昼は女性がお茶会に来るし、軽食にいいと思うよ」
ノアセルジオがパンを焼きながら聞くと、アルシャインは笑って答える。
「それいいわね!」
するとルベルジュノーがさっきの物を消して書き直す。

ランチと持ち帰りのみ
 サンドイッチ3つ(ベーコンとチーズ2つとハムとチーズ) 10G

そう書いた。

お客さんも帰って門とドアを閉めてから、アルシャインは片付けられたダイニングを見回して言う。
「じゃあ、みんな2階に行くわよ!私の部屋に集まって!」
そう言い2階に上がってドアを開ける。
みんなが中に入ると、アルシャインはカバンを手にした。
「さあ、夢の時間よ!」
そう言って一つ目を開けてみると、中には畳まれたドレスやワンピースなどが入っていた。
「あ、小さい頃に気に入っていた物だわ~!」
そう言ってテーブルやベッド、床に広げていく。
ちょうどティナジゼルやリナメイシーやマリアンナやユスヘルディナに合いそうな大きさだ。
「うわあ!ドレスだ!リボンとレースがすごーい!!」とティナジゼル。
2つ目はアルベルティーナやフィナアリスに合いそうな大きさの物。
「素敵…」
ため息をついてフィナアリスが呟く。
カバンの底にはそれぞれの年代のアクセサリーが入っていた。
「あ、これも小さい頃から大切にしてきたアクセサリーよ。…これはお祖母様に頂いた物だわ…懐かしい」
そう言いアルシャインはペンダントを付ける。
そして、大切な物以外のアクセサリーをソファーに並べた。
「これからも人が増えるだろうから…2着!一人2着選んで!」
「え…それって…」
アルベルティーナが両手を口に当てて言うと、アルシャインは笑顔で言う。
「2着あげるから好きな物を選んで!アクセサリーは一つずつよ!」
「きゃーー!!」
アルシャインが言った途端に悲鳴が上がって、女の子達はドレスを手にして大はしゃぎする。
「ピンク可愛いー!」とユスヘルディナ。
「やだ迷う~!」とマリアンナ。
「えっと、これ素敵、あ、こっちかな…」とフィナアリス。
「このラベンダーいい!」とリナメイシー。
「ミントもいい!あ、黄色も可愛い!」とアルベルティーナ。
「これ、一個は絶対にこれ!!」とティナジゼル。
その中でアルシャインは最後のカバンを開けて、端にいる男の子達の前に服を置いていく。
「これはね、伯爵家の制服やもう要らない上着やベストやズボンよ。騎士の制服もあるし、従者ヴァレットの制服もあるわ。紋章は無いから着れると思うけど…どう?」
そう言って広げると、男の子達は目を輝かせた。
「すげー…この上着カッコいい…」とリュカシオン。
「え…いいの?」とレオリアム。
「いいのよ。貴族は施しが好きなんだから。気に入る色はあるかしら?」
出した制服の色は紺や紫、緑に赤、水色に青もある。
するとカシアンが笑って言う。
「懐かしー!見習いの頃は水色だったよ!」
「その次は?」とルベルジュノー。
「次が配属ごとに青、赤、緑だ。紺や紫は、偉い人達だよ…」
「じゃあ紺かな」とノアセルジオ。
「僕は赤がいい」とルーベンス。
「うん、赤ってカッコいいな」とリュカシオン。
「青カッコいい!」とルベルジュノー。
「僕は緑がいいな…」とレオリアム。
「僕、水色!」とクリストフ。
「僕も」とメルヒオール。
どうやら男の子はすぐに決まったようだ。
「カシアンはいいの?」
アルシャインが聞くとカシアンは苦笑する。
「まだ赤や青の制服持ってますよ。…また人数増えるだろうから、取っておきましょう」
そう敬語で言い残りの制服をしまうと、みんながじーっとカシアンを見る。
「なんか変」とクリストフ。
「言い方がヤダ~」とマリアンナ。
「いやいや、初めはこんな喋り方だっただろう?!」
「似合わない!」
みんなで言って笑う。
「そんなに笑うなよ~…つい言っただけだって。…あれ?」
カバンの底に、手紙があった。
「アイシャ、これ…」
「あら、お父様からね…後で見るわ」
そう言いアルシャインは女の子達のドレス選びを手伝う。
「フィナアリスはシックな物も似合いそうねー…ほらこれ!」
ドレスを前に当ててドレッサーで見る。
「このペンダントいいの?!」
リナメイシーとマリアンナが言ってくる。
「ええ、大事な物は外してあるから大丈夫よ」
「やー、迷う~!」
女の子達は大騒ぎだ。
男の子達はそれぞれに服を部屋に持ち帰って大切にしまった。
女の子達は夜遅くまで迷っていた。
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