喫茶うたたねの魔法

如月つばさ

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第4話 春のプリンアラモード

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「アイス珈琲貰おうかな。あと、キーマカレー。腹減ったんだよね」

「えー、こんな寒いのにアイス?」

「えっと、翼ちゃんだっけ。寒い日に冷たいのってもの良いよ。炬燵でアイス食べるとかもあるでしょ。決めつけは楽しみをひとつ減らすことになるよ」
 
それっぽく言われて翼さんが「まぁ、それはわかるけど」と口を尖らせた。

「鷹取がマスターなの? 凄いな」
 
運送会社の元同僚の桜木さんの腕は、長袖を着ていたって筋肉質だとわかる。

しばらく会わないうちに、更に倍くらいに太くなったような気がする。

「いや、マスターはシンさんで、今は出かけてるんです。最近、木曜日は何か用事があるらしくて」
 
言いながらキーマカレーの材料を冷蔵庫から出していると、シンさんが帰って来た。
 
開いたドアの隙間から、ひょうと三月にしては随分と冷え込んだ空気が流れ込んで、ドアに近い翼さんが「うほぅ」とわざとらしく身を縮ませた。

「おかえりなさい」

「ただいま。おや、お客さんが来てたんだね。いらっしゃい」

「お邪魔してます。桜木って言います。鷹取の元同僚で友達です」

 友達です――。
 
馴れない言葉に背中がむずがゆくなって「ま、まあ」と煮え切らない返事をしながら、忙しさで誤魔化すように人参の皮をいつもの倍の速さで剥いた。

「僕は一ノ瀬晋作。店ではシンさんって呼ばれてます。宜しくね」

「はい、シンさん。宜しくお願いします」
 
はきはきと喋る桜木さんの変わらない様子が嬉しい。

「キーマカレーね。じゃあ僕は珈琲を淹れるよ。準備してくるね」
 
そう言ってシンさんは二階に上がって行った。

レシピを見ながら、年末に練習したキーマカレーを作る。

フライパンの油の中で弾けるにんにくの、食欲をそそる香りが店内に広がる。

野菜を入れて炒め、挽肉も加える。

塩をひとつまみ。

トマト缶を入れて煮たら次はカレールウだ。

カレーの匂いは翼さんの食欲をも刺激して「あたしも食べたい」と言わせるには十分なものだった。

「うんまっ。キーマカレーの専門店できるじゃん」

夏の間に真っ黒に焼けた桜木さんは冬になっても白くなることは無いらしい。

際立つ白い歯でにっと笑うと、一心不乱にがっついた。


「面白い人だったね。桜木さん」

「えぇ。そうですね」
 
閉店後、自転車を押す翼さんとふたり並んで歩いていた。
 
桜木さんは、本当に今日、突然店に現れた。

相変わらず気まずい翼さんとの、息が詰まりそうな時間を過ごしていた俺には、救世主のような存在だった。

あっという間に翼さんとも話が弾んでくれたお陰で、彼女の気が逸れたのだ。

「また来るって言ってくれてたし、連絡先も交換したんでしょ。良かったじゃん」
 
帰り際に連絡先を聞かれて交換したときは、また連絡するなんて言っていたが、果たしてそんな事はあるのだろうか。

少なくとも俺から連絡する事は無い。

恐らく文章を作るだけで四苦八苦で、小一時間は掛かるだろう。

そして結局、送信なんてする勇気もなく削除して終わりなのだ。

そんな小心者で情けない自分が容易く想像できてしまう。

「じゃ、またね」
 
公園を出たところで、翼さんがポニーテールを揺らして自転車に跨る。

「はい。また」
 
颯爽と走り去っていく後姿を見送る。
 
柿色から牡丹色へと混ざり合う残照の空の下を、翼さんのシルエットが遠ざかる。

公園と駅に横たわる横断歩道に足を踏み出そうとしたとき、視線を感じた気がして何気なく振り返った。

「やあ、こんにちは」

「こんにちは。お散歩ですか」

「まあね」
 
今日も変わらないスーツ姿の男性が池の方から階段を下りて、天使像にもたれかかる。

すらりと長い革靴の足を悠然と交差して立つ姿は、モデルみたいに絵になる。

「さっきの女の子は友達?」

節の目立つ長い指で、翼さんが帰った道を指す。

「まあ……」
 
友達、と言えるのだろうか。

三十歳の俺と大学生の翼さんを友達と呼ぶものなのかというのもあるし、何となく彼女のなかにある敵意のようなものが、そう呼ぶのを躊躇わせてしまう。
 
男性は何とも言えない暗い顔の俺を見て、くすくすと笑った。

「君、名前は?」

「鷹取敦士です」
 
もう何度も会っていたのに、そういえば俺はこの人の名前すら知らない。

「僕は笹井航平。多分、君とそう大きく年齢は変わらないんじゃないかな。三十五歳なんだけど」

「僕は三十です」
 
笹井さんは「ほらね」と嬉しそうに眉を上げてみせた。

「あの子、最近どう?」

「翼さんですか?」
 
俺が訊ねると、笹井さんは「そうだよ」と頷いた。

知り合いだろうか。
でも、そうだとしたら、ずっとこの森にいるのだから自分で声を掛ければ良い話だ。
 
そんなことをひとつ考えたら、次の疑問が浮かび上がる。
 
彼はどうしていつもここにいるんだろう。
 
それを言い出すと俺もいつもこの森にいる人なのだが、彼が喫茶店に来る姿も見たことが無い。

いつもこうして森の中にいる姿しか見たことが無い。

「あ――」

「ん?」

「あ、えっと、その……」
 
ふと小鈴ちゃんが思い浮かんだ。

この森で話した事がある男性がいると。

でもその人との事は口止めされていると言っていたから、ここで聞くのはまずいだろうか。
 
ケンさんの話では幽霊同士は干渉できない。

それが出来るとしたら、この人は――。

「どうかした?」

「いえ。何でもないです。すみません。元気だとは思います」

「そうか。あのね、敦士君。お願いがあるんだ」
 
笹井さんが改めて真っ直ぐ目の前に立ち、鳶色の瞳で見つめてきた。

まつ毛が長くて濁りの無い、澄んだ瞳だった。

「翼ちゃんの傍にいてあげて欲しい。僕の事は決して話さないで。何も、だよ」

「笹井さんの事をですか」

「そう」

「……わかりました」
 
笹井さんの真剣な目が、俺の返事を聞いて一瞬で緩んだ。

潤いのある、柔らかい目の色だ。

「君に嫌な事を言ったりするかもしれないけれど、それは彼女の本質じゃないんだ。もし何か悩んでいたりしたら翼ちゃんのせいじゃないって事だけ、君の言葉として伝えて欲しい」
 
そう言うと「引き留めてごめんね。それだけお願いしたかったんだ」と、笹井さんは陽も落ちた幽寂な池に続く道へと消えてしまった。

その日の夜、連絡が来たのは桜木さんでは無く翼さんだった。

【ねぇ、今日の帰り誰と喋ってたの?】 
 
絵文字も何もない淡白なメッセージが届いたのは、そろそろ布団に入ろうとしていた十時過ぎだ。

「誰とって……」
 
もしかして、何かあって戻って来ていたのか。
見られた――?いや、ただ単に鎌をかけているということもあるかもしれない。

 幽霊なんているわけないじゃん。

 人間、死んだら終わりだよ。

 強く思い込んで、いつの間にか真実みたいになってしまったんだよ。

「そうだったら、良いんだけどな」
 
もう春もすぐそこだ。

夜の闇に沈んだ風景も、春になれば山々は桜色に染まり、穏やかな清風がこの部屋にも流れるだろう。

「敦士」
 
部屋にいると思っていた父さんの声が、襖を二回ノックした。

「なに」
 
どうせ言われることはわかっているから、妙に返事に棘を持たせてしまう。

「ちゃんと家の契約は進めたのか」

「明日だよ。来週には出ていくから安心してよ」
 
向かいの父さんの部屋の襖が閉まる音がした。

もうこの部屋ともさようならだ。

一度は引っ越しを止めようと思ったが、毎日顔を合わせるたびに「まだか」と言われると、流石に嫌気がさしてしまう。

父さんはいつだって表情の変化が乏しい分、そういう言葉は特に冷たく感じる。

母さんに引き取られたかと思うと恋人に殴られて追い出され、父さんとのこの家が唯一の居場所だった。

外で何を言われても、帰る場所があるというのはそれだけで安心するものなのだと思う。

布団に寝転がり、ぼう、と天井を見つめる。

古臭い蛍光灯からぶら下がる紐が、ぷらりぷらりと夜風に揺らいでいた。

 キンコン♪
 
スマホから陽気な効果音が流れて、表示したままだった翼さんとのメッセージ欄にコメントが追加された。

【幽霊なんて、いないんでしょ?】

 またその話か。
 
電源ボタンを押して真っ暗になった画面に、しかめっ面の自分の顔が映る。

どうしたら良いのかわからないまま適当に放り投げたスマホは、畳の上を滑り、テーブルの下に入って壁にぶつかった。

 キンコン♪

「知らないって、もう」
 
電気を消し、布団をかぶって音を遮断する。

そのあとも二回、恐らく翼さんからのメッセージが届いていたようだが、全て無視して眠りの世界に逃げ込んだ。

あの店の人なら受け入れてくれると思っていた自分が馬鹿だったんだ――。



「敦士君、新しい家はどう?」

「静かで良い所です。店にも歩いて通える距離になったし、便利になりました」
 
BGMはエリック・サティのジムノペティ一番。

カードに書いて額に差し込んだ。

「おっと――」

「す、すみません。いらっしゃいませ」
 
入り口のすぐ横に立っていた俺に驚いた高塚さんが、カードが入った額を見て「こういうの嬉しいよね」と上機嫌でソファ席に座った。

「自分が作ったものをずっとこうして飾ってもらえるなんてさ。このランプもそうだもんね」

ステンドグラスのランプの傘を指先でそっと撫でながら「綺麗に手入れもしてくれてるし」と満足そうに微笑んだ。

「真弓がデザインして、僕が作って。ここに来たら真弓がいた証に会えて嬉しいって思えるようになったんだよね」
 
高塚さんは「敦士君の絵のお陰だよ」と続けた。
 
ごう、と唸る春一番が森の木々をいたぶる。

今日は開店時間がお昼からになった。

木曜日のシンさんが出かける日なので、午前中は俺ひとりで店を開けるつもりだったが、

「午前中は休みにして、引っ越しの荷解きをしてしまったらいい」
 
と提案してくれたのだ。
 
荷解きと言っても家具らしい家具も無いので、テーブルを置き、布団や少ない洋服を押し入れに仕舞い、日用品を適当に並べただけ。

ちなみに電気屋には行ったものの、洗濯機を買う余裕など自分には無いと改めて思い知らされ、洗濯はコインランドリーで数日おきに纏めて済ませることにした。

風呂とトイレは一緒。

駅から徒歩五分という近さながらも、築四十年超えの階段無しアパートの三階いう事もあって、家賃は月一万五千円。

シャッター商店街ではあるが、スーパーなどもあり必要最低限の暮らしは問題無い。
 
そして何より住人が俺を入れても三人しかいないので、静かで落ち着くのは気に入っている。

「今日は翼ちゃんは来ていないんですね。大学は春休みじゃなかったっけ」
 
高塚さんは「アイス珈琲とフレンチトーストをお願いします」と、メニューを開かないままスタンドに戻した。
 
翼さんの名前が出て、反射的に足元のリュックに視線が動いた。

サイドポケットに突っ込んだスマホ――結局、彼女からのメッセージは確認していない。

怒っているだろうか。

もちろん返すのを忘れていたわけじゃないが、正直俺としては来られても話す気にもなれないので安心している。

「えぇ、そうですね。でも僕より先に出かけたのでわかりません」

「シンさんって翼さんと同じ家に住んでるんですか?」

「そうだよ。一年くらい経つかな」
 
シンさんはネルを取り出した俺に「濃いめにね」と念を押した。

ネルドリップでアイス珈琲を淹れる俺の隣で、シンさんが食パンにカスター液を浸す。

厚い食パンに、じわりと液が染みていく。

それを、バターをたっぷりひいたフライパンで焼いていくのだ。

きつね色に綺麗に焼きあがったフレンチトーストにとろりとメープルシロップが垂れるのはもう芸術だ。

「お待たせしました。フレンチトーストです」
 
アイス珈琲を飲んで待っている高塚さんにフレンチトーストを運び、キッチンに戻ったら指定席にケンさんが座っていた。

にっこり笑ってのんびりと手を振っている。
 
もちろん振り返すわけにもいかず、目を合わせて、やんわりと口元を緩めるくらいしかできなかった。
 
シンさんのことを気に掛けて欲しいと言っていたが、何の事なのだろう。
 
シンさんに何かあるのなら心配だが、笹井さんの事と言い、こんなにも幽霊に寛容になるなんて、この数カ月の俺はどうかしていると思う。
 
小鈴ちゃんの事があってからだろうか。

真弓さんが幽霊だと知ってからも、嫌悪感を抱きにくくなっているのだ。

ふと髪の長い女の事を思い出して、身体中に鳥肌が逆立った。
 
こうやって気を許していると、碌なことにならないんだ。

「敦士君、どうかした?」
 
とっくに泡の流れたフライ返しをいつまでも洗っている俺を、シンさんが心配そうに見ていた。

「大丈夫です、すみませ――」
 
ふと顔を上げて目に入った窓の向こうに、あの女が立っていた。

紺のブレザーに赤いネクタイ。

青白く細い手足の、虚ろな目をした女は、その風景にはあまりに異様なものだ。
 
暴風にも髪一本乱れさせない女は、のれんのような黒髪の隙間からこっちを見ていた。

色の無い唇がゆっくりと開く。

 あそぼう。

「敦士君、大丈夫かい」
 
膝から崩れ落ちた俺の頭の中で、シンさんの声が反響する。

なんで。
なんであんなものが見えるんだ。
もう嫌だ。いい加減にしてくれ。
見たくも無い。
俺はいつからあんなものが見えた?
生まれてから、物心がついてから?
 
遠い、遠い記憶の中。あれは確か、幼稚園児だ。

四歳くらい。満開だった桜が春風に舞い散る頃だった。
 
 あそぼう。

さっきの女の姿が、遠い記憶の蓋をこじ開けた。
 
そうだ。最初に見たのは――。



「お姉さん、何してるの?」

まだ子供だった俺は今よりもずっと警戒心も薄く、躊躇いなく女に声を掛けた。

どこかの高校の制服だろうか。
自宅近くに中学があるがそこはセーラー服だ。

目の前の女は、紺色のブレザーに赤いネクタイ。
ボックスプリーツのスカートの見慣れない制服だった。
 
新しく引っ越してきた家族がいるらしい、自宅の裏にあるアパートの外階段の前だ。

らしい、と言うのは母さんから聞いたからだ。

あんなボロい文化住宅に引っ越してくるなんて、よっぽど金が無いのねと鼻で笑っていた。
 
母さんはそういう人だった。

自分だって裕福なわけでも無いのに、自分より下の人を見つけては勝ち誇った気になれる人。

でも、父さんの前ではそんな姿は見せない。

父さんの前では、俺の事も大切にしてくれていた。
 
ひとり二階を見上げて佇むその女は、引っ越してきた家族のひとりだろうか。

女の腰ほどの背丈しかない俺を、ゆっくりと見下ろす。

「何――」
 
幼い心に恐怖を覚えるほど低い声だ。

陰鬱とした瞳が、髪の間から覗いていた。

が、その瞳は俺をとらえると、みるみる冷たさや拒絶、威圧の色が薄れていくのがわかった。
 
女は膝を折り曲げて、目線を合わせてきたかと思うと、今度は俺の頭から足の先までを測るように何度も視線を上下させる。

「ひとりで何してるの。帰らないと駄目なんじゃないの」
 
その声はさっきまでの怖さは纏っておらず、寧ろ幼い子供を前にしたときの他の大人と同じ口調――愛でるような優しい喋りになっていた。

「家には、帰れないよ」
 
帰れるわけがなかった。父さんは仕事。母さんは家にいる。

帰れないのは、父さんとは違う男が家にいるからだ。
 
母さんは時々、父さんを見送った後に知らない男を家に連れてくる。

幼稚園が休みの場合、邪魔者の俺は外で遊んで来なさいと放り出されてしまう。

「友達は?」

「……いない」
 
女は「ふうん」と、今度は俺の目を真っ直ぐに見る。

「じゃあさ、私が友達になってあげる」

それが俺とあの女との最初の出会いだった。



確かに俺はあの時、友達になってもらえると聞いて嬉しかった。

それは、あいつを人間だと思っていたからだ。
 
あの女もまた生きていないと知ったのは、それから二年経った頃。

母さんに引き取られた後だ。

家の前で遊んでいるところを、煙草を買いに出ていた母さんの恋人に見られた。 

 誰と喋ってんだ――。
 
勿論、女を普通の高校生のお姉さんだと思っていた俺はその通りに話した。

すると、咥えていた煙草を背中に押し付けられた。
 
それからも俺の顔を見るたびに嘘つきだなんだと罵られ、殴られる。

そういう怪我は全て服で見えない所に付けられた。

感情的になっているにも関わらず、全く器用なものだと今となっては思う。

そして、いつも風呂は父さんが帰ってくる前に入る事で隠し通す。

たまに顔に傷ができた時、母さんは、階段から足を滑らせ、盛大に顔面から落ちたのだと説明するのだが、当時の俺は反抗する気力も失っていた。

「敦士君、顔色が悪いよ。二階で休んでおいで」

「大丈夫です。ただ……」
 
シンさんは「どうした?」と俺の隣にひざまずいた状態で訊く。

「すみません。今日は帰らせてください」
 
送って行こうかと言ってくれた高塚さんの申し出を断り、鞄を掴んで店を出た。
 
店を出る間際、シンさんと高塚さんに挨拶をする後ろで、ケンさんは窓の向こうを見ていた。

幽霊同士は干渉できない。

その言葉通り、彼にはあの女をどうする事もできないのだろう。

「うわっ」
 
外は予想以上の狂風だった。

ごおう、ごおうと唸りながら土ぼこりを巻き上げる風によろめき、思うように真っ直ぐ進めない。

 あそぼう
 
すぐ後ろを着いてきている女が、もう何度目かもわからない言葉を繰り返す。

 あそぼう
 
女の声が頭の中に反響する。

脳内に直接話しかけられて、両耳をふさいだ。

「うるさい、うるさい、うるさい、うるさ――」
 
怒り任せに大股で上った階段で、落ち葉に足を滑らせて激しく尻もちをついた。

目を開けると、俺を見下ろす女の顔。
漆黒の毛先が鼻先に触れた。

「あそぼう」
 
ぎょろりとした黒目がちの瞳が鼻の先に迫る。

女の口から紡ぎ出された声が、四歳の頃に出会った女の声と重なった。

「何をやってるんだ」

「さ、笹井さん」

「早く行きなさい。おっと、あなたは行かせないよ。今日は諦めるんだ」
 
笹井さんが俺と女の間に割って入った。

背中に回した手で「早く」と追い払う仕草をしてみせる。

「すみません。ありがとうございます」
 
 やっぱり笹井さんにはあの女が見えて、なおかつ干渉できるんだ。
 
公園を出て、田んぼ沿いの通りから二つ目の信号を左に入る。

商店街を抜け、古い民家が並ぶ住宅地の隅に立つアパートの前で、膝に両手を付いて息を整えた。

最後にゆっくりと息を吸いながら体を起こして、独り暮らしをしているアパートを見上げる。

「生霊」
 
息を吐きながら出た単語は、吹き荒れる春嵐の轟音にかき消された。


夕飯など食べる気にもなれなかった。

色あせた黄色い畳の上にあぐらをかくと、ささくれが素肌にちくちくと刺さる。

スマホを手に取り、実家に電話を繋いだ。

五コールの後、麻痺で活舌の悪い父さんが不愛想な声で出た。

「俺だけど」

「あぁ。敦士か」
 
気が抜けたように、声の緊張感が一瞬で緩んだのがわかる。

「そっちはどう?夕飯は食べた?」

「自分のことくらい自分でできる。お前は食べてるのか」

「うん、まあ。今から食べようと思ってたとこ。何か困ってること無い?」

「別に。なんだ、用はそれだけか」

「それだけかって……」

「敦士は、自分のこれからの事だけ考えろ」

「なんだよそれ――って」
 
一方的に切られた。

スマホを布団に放り投げ、ベランダで便所スリッパに履き替える。

朧雲が満月に掛かって、淡い月光を夜空に滲ませていた。

昼間の嵐が嘘みたいだ。

塗装の禿げた手すりにもたれかかり、涼やかな夜気を肌に感じた。

「あっ」

アパートの塀の上を歩く猫のシルエットが目に留まった。

しなやかな背中からお尻の曲線と、そこから空に向かって伸びる尻尾は、普通のそれの三分の一ほどしか無い。

 事故か何かで切れたのかな。
 
俺の気配に気づいたらしい猫が金色の瞳で俺を見上げ

「みゃあ。みゃああ」
 
と夜空を仰いで啼いた。

 可愛い。
 
食べ物でも持って行ってやったら近づけるだろうか。
あぁでも、野良猫に餌をやっちゃいけないって言うしな……。

「あれ?」
 
ひょいと軽やかな足取りでブロック塀を飛び降りたと思ったら、その姿が闇に溶けるように消えたのだ。

猫が消えた瞬間、細かな光の粒が猫の形をかたどり、粒子はさらりと吹いた微風にさらわれてしまった。

「またか……」

嘆息して俯いた視界の端に人影が写り込んだ。

アパートの敷地の入り口に立つのは、あの女だ。
 
体中の血液の波が一気に引いていくのを感じる。

 なんで。なんでここにまで来てるんだ――。
 
固まる俺と女の視線がぶつかる。

女は何か言うわけでも無く、ただ門の前で三階のベランダいにる俺を見つめ、やがて夜の闇に沈むようにして姿を消した。



「こっちは気にしなくて良いから。ゆっくり休んで」

「すみません。三日も休んで迷惑をかけてしまって……」
 
電話の向こうでドアベルの音が鳴った。

まだ開店時間前だから翼さんだろうか。

「良いの良いの。もし困った事があったら遠慮なく言うんだよ。食事は大丈夫?」

「大丈夫です。適当に買い貯めもあるので」

「なら良かった。買ってきて欲しいものがあるなら翼に届けさせるから連絡して」
 
するとシンさんの向こうから「ミルクティー、サービスしてくれるなら良いよ」と声がした。

やっぱり翼さんだったようだ。

四月にもなると大学が始まるから、それまでは頻繁に店に来ているのだろう。
 
それから電話を切って、閉め切ったままのカーテンを指先で少しだけ開けてみた。

麗らかな春の陽気を思わせる光が町に降り注いでいる。

アパートの前の電線でムクドリたちが歌い、そのうちの一羽がこちらに気付いたのか、小首を傾げて囀った。

敷きっぱなしの布団の上でごろごろし、昼になったと気づいたのは、町のどこかにある屋外スピーカーから十二時を知らせる音楽が鳴った時だった。
 
ついさっき十一時を知らせるチャイムが鳴ったと思ったが、何もしないでいると一時間と言うのもあっという間だ。

ただ布団の上で怠惰に過ごしているあいだにも、そんな俺を放って世の中はしっかり進んでいる。
 
そう思うと、焦燥感よりも諦めに近い感情が湧いてきて、枕に顔を押し付けて叫んだ。

こんな事しなくても、このアパートの住人は俺を含めて三人。

他の住人は平日のこんな時間に家にいないだろうから、叫んだところで誰の迷惑にもならないと思うが。
 
珈琲を淹れようかとも思ったが、それもめんどくさい。

身体を起こそうと思っても、背中が布団に貼り付いたのかと思うほど、鉛のように重い。
 
テーブルの上でスマホの着信音が鳴り響いて咄嗟に飛び起きた。

画面に表示された名前に緊張して、通話ボタンを押すのを一瞬躊躇ってしまう。

「も、もしもし」

「鷹取、体調悪いのか? さっき店に寄ったら休みだって聞いてさ」

桜木さんの声の後ろでトラックのクラクションが響き渡った。

「いえ、体調は大丈夫なんですけど……」

こんなの一般的にはずる休み以外の何ものでもない。

はっきりと理由が言えないのだ。ただ何となく調子が悪い。

そう言うしかできないのに、疑うどころか寧ろ気に掛けてくれるシンさんの優しさに頭が上がらない。

「ちょっと今日時間取れないかな。無理には言わないんだけど。出てくるのが難しかったら、そっちに行くから」

「えっと、どうしたんですか?」

「どうしたっていうか……実は前から聞きたい事があってさ。一度ゆっくり話したいなって思ってたんだ」
 
いつも力強くて張りがある声の桜木さんの、どこか思いつめたような口調に胸がざわつく。

なんとなく嫌な予感もするが、桜木さんが綾瀬の森公園にいるというので、そこで待ち合わせすることにした。

「すぐに行きます」

「ありがとう。急がなくて良いから、気を付けて来てくれよな」
 
アパートから公園は徒歩で行ける距離だ。

財布とスマホだけをジーンズのポケットに突っ込んで部屋を出た。
 
公園に着くと、桜木さんが入り口の天使像にもたれかかって待っていた。

「悪いな、急に。思ったりより元気そうで安心したわ」

「いや、本当に体調は何とも無くて」

「そっか。まあそんな時もあるよな。俺も今そんな感じだし」
 
桜木さんが「あそこに座ろう」と誰もいない憩いの広場のベンチを指した。

ふたり並んで腰かけたベンチの頭上には、いつの間にか随分と膨らんだ桜の蕾がたくさんついていた。

所々、僅かに花弁のピンクが見える。枝葉の向こうにはパステルの水色の空。

緑が茂る木陰に、心地良い風がさあっと抜けていく。

「それで話っていうのは?」
 
桜木さんはかぶっていた青いキャップを外し「あぁ」と額を腕で拭った。

半袖シャツを肩まで捲し上げた腕は筋肉が盛り上がり、肘から下は筋張っている。

肌は汗を纏ってぎらぎらと反射していた。

「本当にずっと迷ってたんだ。でももう決めた。あのさ」
 
大きく息を吸い、体をこちらに向けた。

「鷹取がバイト辞めた日だけど。あの日、門の近くで何を見た?」

「なにをって・・・」

「前から噂にはなってたんだ。鷹取は霊感みたいなのがあるんじゃないかって」

「霊感、ですか」

「正直言うと俺は信じて無かった。でもあの日、鷹取が辞める日に、すげぇ怯えてただろう。それとさ……」
 
心臓の音が頭の中で急き立てるように響く。

血液がどくどくと脈打つのがわかる。
 
この先、何を言われるのか。どんな言葉を投げかけられるのかと思うと、怖くて手が震え始めた。
 
 桜木さんには気付かれたくなかったのに。
 
この人は、唯一俺を普通の人として扱ってくれる人だったのに。
 
桜木さんが「実はさ」と膝の上で拳を握る。

「鷹取の事、子供の時に知ってたんだよ。うちの近所に住んでただろ」

「え――」

「アパート。時々、来てただろ。窓から見た事があったんだ。でもあの時、とても声を掛けられる状況じゃなくてさ。母さんも精神的におかしくなっちゃって……二年くらいは住んでたかな。俺は祖母ちゃんの家に預けられたから、直接会う事は無かったけど」

「そうだったんですか」
 
あのアパートの近くで俺を見ていた。嫌な予感は確信に変わっていく。

女の姿が映像として蘇る。

「あそぼう」

「うわっ――」
 
突然背後から降って来た低い声に飛び上がった。

「ど、どうしたんだよ」
 
急に叫んだ俺に、桜木さんも驚いて立ち上がる。
 
俺たちが座っていたベンチの後ろに、あの女がいた。

「あそぼう」
 
はっきりと言葉にしながら、一歩、一歩と近づいてくる。
 
ブレザーに赤いネクタイ、ボックスプリーツのスカート。

あの時のまま。

目の前にいるのは、俺が昔、アパートの前で出会ったあの女だ。

「あそぼう」

「く、くるなっ」

「友達でしょう」
 
長い前髪の隙間から覗く細長い目は、恐ろしい闇を抱いて俺を見下ろす。

音もなく歩き、芝生で腰を抜かす俺の前で立ち止まった。

「お前らなんて友達じゃない」

「おい、鷹取」

「うるさい」

「鷹取、大丈夫かよ」

「うるさい、うるさいっ」

「何が見えてんだよ」

「おまえらのせいでっ――」

「鷹取っ」
 
がむしゃらに振り回した腕が何かを突き飛ばした。

「……ってえ」

「さ、桜木さん、すみません、俺っ」

「大丈夫、大丈夫」
 
二の腕を押さえながら「ほら、筋肉バカだから」と笑って見せるが、右腕には痛々しい切り傷と血が滲んでいた。

地面から飛び出していた木の根で傷つけたのかもしれない。

「と、とりあえず病院――そうだ、店が近いからそこで応急処置をっ」
 
桜木さんに駆け寄る俺の後ろで女が何か言ったが、無視して腕の傷を確認した。

傷は五センチほどのものだった。周りには擦って皮がめくれている所もある。

「大丈夫だって、落ち着けよ」

「でも――」

「さく、ら、ぎ」

「来るなっ」
 
桜木さんの前に立ちはだかった。

女がまた一歩近づいてくる。

その視線は俺じゃなく桜木さんに向けられていた。

「血……さくらぎ……」
 
その目はもう俺の事なんて映っていないように思えた。

感情の光を灯さない黒塗りだった瞳が、僅かに揺らいだように見える。

「あーっ、敦士君!大地君もいるじゃん、何やってんの?」

「つ、翼さん」

 最悪だ。なんでこんなタイミングで。

広場の前に自転車を止め、翼さんが手を振りながら走って来る。
 
しかも「大地君」って、いつから桜木さんを下の名前で呼ぶようになったんだ。

「だ、いち?」
 
その言葉に、明らかに女の顔色が変わった。

だらりと伸ばした指先が、俺の頬を通り過ぎて、桜木さんに触れようとする。

「やめろ――」

「だいち」

女が今度ははっきりした口調で言うと、その姿からみるみる毒気が抜けていく。

「大地」 
 
青白い指が桜木さんの傷口に触れ、ゆっくりと髪に触れ、そして頬に触れた。

何もわからない桜木さんは、俺と駆け寄って来た翼さんを交互に見る。

「どうしたんだよ、鷹取。一体何が」

「桜木さんの知り合いですか」
 
なんとか息を整える。桜木さんの横顔を悲しそうに見つめる女は、ゆっくりと俺に視線を移した。

「私の弟」

「弟……」

「ちょっと敦士君、誰と喋ってんの」
 
翼さんの視線が一気に鋭くなった。でも今はそんなのどうでも良い。

桜木さんも困惑して眉をひそめるばかりだ。

「桜木さん、今日俺を呼び出したのって、お姉さんの事ですか」

「な、なんでそれを」

「今、いるんです」

「いま?」

「と言うか、昔からずっと。アパートの前で出会った時から、ずっと俺の事を……」
 
追いかけまわしていた、と言いかけて言葉を飲み込んだ。

違う。理由は解らないが、多分、彼女は……。

「俺の事を、桜木さんと重ね合わせて気にかけてくれていました」
 
恐らくそうだ。桜木さんの名前を呼んだ時のあの表情の変わり様。

きっとこの人は自我を失っても、それでも弟を心配していた。
 
たまたま出会った同じ年頃の、孤独な俺を見て弟と重ね合わせたのだろう。
 
負の感情に潰されて成仏できずに彷徨い続けていたのは、弟を心配するがあまりだったのかもしれない。

「姉ちゃんが、俺と鷹取を重ね合わせてって」
 
姿を見ることのできない桜木さんの視線は、女の方を向いていても目が合わない。
 
それでも女は自分に反応してくれた事が嬉しいのか、初めてその顔にうっすらと笑みを浮かべた。

口元のえくぼが印象的な、すっきりとした一重の可愛い女性だった。
 
それから桜木さんは話してくれた。

彼が六歳、姉の美雨さんが十八歳の時。

あのアパートに引っ越してくる前の話だった。

「俺、小学生の時、引きこもりだったんだよ。一年生の時ね」
 
引っ込み思案で大人しい性格だった俺は、小学校で友達が出来ずいつも一人だった。
 
最初こそ頑張って出席してたけど、二か月目くらいから休みがちになって、二学期からは不登校になった。

ひとり親だったうちは、そんな中でも明るい姉ちゃんのお陰で暗くなることも無かったんだ。
 
その年の秋。担任の教師が家まで訪ねてきたんだ。

「来週は遠足があります。もし大地君が嫌じゃなければ参加してみませんか。クラスの子供たちも、みんなで行きたいねって話していたところなんです」
 
その時は考えてみますって言って追い返したけど、姉ちゃんが「楽しいよ。行ってみなよ」って言うんだ。

「もし嫌だったら連絡しておいでよ。電車で迎えに行ってあげる」って。
 
結局、俺は行くことにした。母さんも喜んでくれた。

でもやっぱり行ってみると俺は馴染めなかった。

前日の夜には沢山シミュレーションもしたんだけどさ。

なのに、いざ話しかけられると、おどおどするし。緊張で舌が空回りして上手く言葉が出なかった。
 
それを見たクラスの一人がそれを弄ってさ。

そこからクラス中に伝染して、あっという間に俺をからかっても良い空気が出来上がった。

担任は注意したけど、一度調子に乗り出した雰囲気は止められるわけも無くてさ。

結局俺は姉ちゃんに電話を掛けたんだ。

「姉ちゃんは高校を早退して迎えに来てくれた。おかえり。頑張ったね、偉いよって」
 
桜木さんは「それで……」とゆっくり深呼吸する。きつく噛みしめた下唇が白く変色した。

「家の近くの交差点で事故に遭った。姉ちゃんは咄嗟に俺だけ歩道に突き飛ばして。脇見運転だったよ。メール打ってたら、青信号の横断歩道に突っ込んでたんだってさ」
 
そこまで一気に言いきると、悲痛な面持ちで歯を食いしばった。

俺は黙って聞いているしかできない。
 
美雨さんは芝生に膝をついたまま静かに桜木さんを見つめていた。

まるで少しでも弟の姿を目に焼き付けようとでもしているみたいだ。
 
鼻筋の通った横顔は、桜木さんとよく似ている。

その瞳が、僅かに光を持って揺れた。

「姉ちゃんが亡くなって、母さんも塞ぎこんじゃってさ。当たり前だよ。俺よりもしっかりして、母さんにとっては唯一の心の支えだったと思う。住んでたあのアパートと事故現場が近くて、それもまた辛くて引っ越したんだ」
 
俺が美雨さんと初めて出会ったアパートだ。

美雨さんはあの日、アパートの前で立ち尽くしていた。
 
事故への憎しみだろうか。成仏できないまま、家族に着いてきてしまったのだろう。
 
でも、だからって、なんで俺に付きまとうんだ。そのせいで俺は――。

「結局、母さんは精神的に壊れちゃってさ。しばらく頑張ってくれたけど、俺を育てるのも難しくなって、祖母ちゃんの家に預けられたんだ。鷹取を窓から見かけた時、声を掛ける勇気なんて無かった。姉ちゃんが俺のせいで事故に遭ったから尚更だ」

「そうだったんだ……」
 
こういう時、どう声を掛けるのが正解なのだろう。

励ますのも違う気がする。

だからと言って、気持ちがわかるなんて無責任な事を言う気にもなれない。

 ただ、俺ができるとすれば……。

「桜木さん。うたたねに行って待っててくれませんか。あなたもです。美雨さん」

「ちょ、おい。何言ってんだよ」

「敦士君はどこ行くのよ」
 
それまで黙っていた翼さんが、俺の後を追いかけてきた。

「翼さんは――翼さんも店に行っててください。別に帰っても良いですけど」

「何よそれ。そりゃあたしは部外者だけど……だけど……」
 
公園を出てからも大股で歩き続ける俺に、むっとした顔で自転車に乗って着いてくる。

「あたしだって、あんたに聞きたい事があるんだからっ」


一度アパートに戻り、リュックを持って店に向かう。
 
その間も翼さんは着いて来たが、何か文句を言ってくることも無かったのが幸いだ。

俺の頭の中はいま、桜木さんと美雨さんの事でいっぱいいっぱいだった。

「お待たせしました」
 
手前のソファ席では小野さんがオムライスを食べていて、一番奥の指定席にはケンさんが珈琲カップを前にくつろいでいる所だった。
 
そしてその二人の間の席で桜木さんが。テーブルを挟んだ向かいには美雨さんが待ってくれていた。

「すみません、お待たせしました。シンさんも……その……」
 
休みを貰っておいて店に来てしまった。

こんなことが出来るのはここしかないと勢いで提案したが、今になってとんでもなく非常識な事をしてしまったと後悔した。

「今日は敦士君もお客さんだよ。ほら座って。何か食べる?」

「いや、えっと」
 
リュックを下ろし、カウンター席に座ってスケッチブックを取り出す。

「あの――」
 
声を上げたのは桜木さんだ。

隣に座った翼さんは、俺がこれから何をするのか興味があるのか手元に釘付けだ。

そんなに見られたら、ページを開けるのを躊躇ってしまう。

「なんて言うんだっけ……喫茶店ってありますよね。プリンに果物が乗ってるやつ」

「プリンアラモードかな」

「あ、そうです。それです。それを、ふたつ……お願いします」
 
そう聞いてシンさんはどんな顔をするだろう。それに小野さんも。
 
一瞬、時間が止まったような感覚になった。

開いた窓から流れ込んだ鳥のさえずりが、俺を現実に引き戻す。

「ふたつね。すぐに作るから待ってね」
 
シンさんはいつもと変わらない穏やかな表情でほほ笑み、冷蔵庫に向かった。
 
小野さんは、ちらりと俺の手元を見ただけで、すぐに新聞に視線を戻した。
 
プリンアラモードはとても豪華だった。

昔ながらの固めのプリンに、ウサギの耳を模して剥いた皮付きのリンゴ、キウイが二切れ、ミカンとバニラアイス。生クリームにミントがひとつ添えられて、中央にはサクランボが乗っていた。

「お待たせ。もう一つはこっちで良いのかな」

「ありがとうございます。凄いな、俺の知ってるのよりすげぇ豪華」
 
桜木さんの顔に笑みがこぼれる。

「うち貧乏だったんだけどさ。俺の誕生日に姉ちゃんがプリンを作ってくれたんだ。おつとめ品の果物とか缶詰を買ってきて。でもリンゴだけは絶対このウサギの切り方。まぁ、こっちのが上手いけど」
 
ははっ、と笑いながら、スプーンの先でウサギの耳を突く。

「事故以来、食べられなかったんだ。姉ちゃんに対する罪悪感でいっぱいだったから」

桜木さんは「でも……」と、見えていないはずの向かいの席を見つめる。

「さっきの鷹取の話を聞いてわかった。姉ちゃんは俺の事心配してくれてたんだなって。俺を恨んでるなんて事もなくて、俺はただ心配かけてたんだろうな。勿論、罪悪感は消えないけどさ。でも、だからこそ――」
 
ふわりと店内を流れた春風が美雨さんの長い髪をなびかせた。

黒い髪の表面は、陽光を浴びて艶めく。

「俺、大丈夫だよ。姉ちゃん。見てくれよ、あの頃よりずっと体もでかくなって、力も付いて……友達だってできた」
 
そうだろ、と桜木さんが俺を見た。

 友達――。
 
前にも一度言われたのに、やっぱりなれなくて一瞬戸惑う。

だが、その真っ直ぐな視線に、俺は迷いなく頷いた。

「食べて良いかな」
 
桜木さんが手を合わせる。

「は、はい。どうぞ」
 
頂きますと静かに言って、桜木さんはプリンを口に運んだ。
 
美雨さんはもちろん食べられるわけもない。
だが、俺はその光景に思わず息を呑んだ。
 
そしてすぐに色鉛筆を手に取った。

隣で翼さんが見ているのはわかっていた。

すぐ後ろのキッチンにシンさんが立っている事も。

でもそんなのを気にする余裕も無いまま、俺の手は目の前の事を絵に落とし込んでいく。

 もう良い。もう翼さんにもばれたって良い。
 
お尻のポケットで振動したスマホも無視して色鉛筆を。

そして水筆を滑らせていく。

はっきり言って関わりたくなかった。

人には見えないものが見えるせいで、これまで嫌な思いも、寂しい思いも散々したけれど。

それでも――。

「できた」
 
ふと顔を上げて視界に入った時計の針は、絵を描いている間に一周回っていた。

「敦士君……」
 
隣にいた翼さんが息を呑んだ。

それ以上言葉にならないのか、絵と俺を交互に見るばかりだった。

「桜木さん、これ」

少し前に食べ終わっていた桜木さんにスケッチブックを手渡す。

絵を見た桜木さんは驚いたように目を見張り、そして美雨さんがいた場所を見つめ、俺に視線を向ける。

今にも泣きだしそうに、顔を歪めながら。

「本当か?」

「はい。信じて貰えないかもしれないけど……。これが……」
 
そう、この絵。俺にとってなんの偽りも無い。

「これが、俺が見てる世界です」
 
プリンアラモードを食べる桜木さんと、その向かいに座る美雨さんの絵。

大きな口でリンゴをかじる桜木さんと、それを楽しそうに満面の笑みで見つめる美雨さんだ。

ありふれた幸せな会話でも聞こえてきそうな、姉弟の絵。

だが、それはもう現実には叶うことのない、俺にしか見えない姉弟の姿だ。

彼女はずっと弟の事を気に掛けていたのだ。

成仏できないでいる間もずっと。
 
自我を失っても尚、孤独な俺を弟と重ね合わせて。

「美雨さんとは、アパートの前で出会いました。俺が四歳の時でした」
 
その当時の事を話した。

自分もずっと一人だったこと。

美雨さんが友達になってくれると言った時は、とても嬉しかったこと。

「そっか、友達に……。そういう優しい所は変わってないんだな。でも、そのせいで鷹取が怖い思いもしたんだろうな。悪かったよ、本当」

「そんな別に――」 
 
否定はできなかった。そんな事ないですとは、やっぱり言えなかった。

「正直言うと、怖い事もありました。今だって、当たり前に見えている人が実は存在しない人じゃないかと思うと怖いです。そうだと知った時、とても寂しいです」

寂しい。そうだ、俺はずっと寂しかった。

ずっと苛立ちという強い感情の裏で隠れていたのは寂しさだ。

友達ができない。

母親にも捨てられた俺に話しかけてくれた相手が、もうこの世に存在しない者だと知った時の寂しさ。虚しさ。

「でも、そのお陰で誰かに喜んでもらえる事もあったんです。それに気づいたのはこの店に来てからですけど」
 
ちらりと見た小野さんと目が合った。
新聞を下ろし、力強く頷いてくれた。

シンさんもまた、窓辺に腰かけたままゆっくりと瞬きをする。

「俺もだよ」
 
桜木さんは、もう一度スケッチブックに視線を落とし、美雨さんの顔をそっと親指の腹で撫でる。

「姉ちゃん、もういないのか?」

「はい。さっき、消えてしまいました。でも今まで見たことも無いくらい、安心した顔をしていました」
 
消えてしまった美雨さんがどこへ行ったのかは俺にはわからない。

成仏したのか、それとも、もしかしたら昔の俺みたいな孤独な子供の傍に行ったのかもしれない。

そうだとしても、もう俺を追いかけていた時ような自我を失った彼女ではないだろう。

本来の彼女の、穏やかで優しい姿で寄り添ってあげるのだと思う。

「美雨さん、言ってました。友達が出来て良かったって。元気そうで良かったって」

美雨さんは消える間際、桜木さんと俺を見て言ったのだ。
 
桜木さんは「そうか」と涙声で言うと、背を向けて目を拭った。

「これ、貰って良いかな」
 
こちらを振り返った桜木さんは、涙ひとつ流していなかった。

「もちろんです」

「ありがとう」
 
スケッチブックから切り取った絵を、大事そうに胸に抱いた桜木さんは、今度は白い歯を見せて「ありがとう」と笑った。


「ねえ、さっきの事なんだけど」

桜木さんを駅まで見送り、翼さんと一緒に店に戻っていると、公園に入ってすぐ足を止めた。

「あれ、本当なんだよね」

「桜木さんとお姉さんの事ですか」

翼さんが立ち止まったまま「そう」と頷く。

森をざわつかせる風が、翼さんの斜めに分けた前髪を大きく持ち上げる。

「本当ですよ」
 
改めて言うと、翼さんの喉が動いた。

 そしてその後ろに――

「この人、見た事……ないよね」
 
赤いサコッシュからスマホを取り出し、画面を見せてきた。

「この人……」

「知ってるの?」
 
俺はスマホから視線を剥がして、顔を上げた。

翼さんじゃなく、その後ろの人。

「知ってます」
 
まだあどけない、小学生くらいの翼さんと映った男性。

背景には、タイヤがたくさん積み上げられていて、その特徴的なオブジェがこの森の池であることは一目瞭然だった。

翼さんは、俺の視線の先を辿るように振り返る。

「さっきから何なの? もしかして……」
 
俺と、翼さんの視線の先にいるのは笹井さんだ。

黙ったまま、穏やかな表情を崩すことも無く俺たちのやりとりを見ている。
 
勘付いたのか、翼さんの顔が僅かに引きつる。

信じたくないとでもいうように、首を左右に振った。

「そこにいるの? お父さん」

「お父さん?」
 
思わず聞き返した。笹井さんは、せいぜい三十代半ば。

翼さんの年齢の子供がいるには若すぎる。
 
だが、確かに写真の人は何度見返しても笹井さんだった。

写真はスーツこそ来ていないが、清潔感のある白いシャツにグレーのジャケットを羽織っていて、雰囲気もまるで変わっていない。

「嘘つき」

「え?」

「嘘つきだよ。いるわけない。敦士君、最低」

「ちょっと待ってください。そんなわけ――」

「お父さんは生きてるもん。人の気を引きたいんだか知らないけど、生死をネタにするなんて最低だよっ」

俺の手からスマホを奪い取ると、そのまま公園を出て行ってしまった。

「あの、笹井さん」
 
翼さんの背中を見つめていた笹井さんの頬を、樹々の合間を縫う斜陽が照らす。

「ごめんね」

「待ってください」

来た道を戻る笹井さんを追いかけた。

笹井さんは池の前まで来ると、そのまま消えてしまった。

薄暗い池の水面は枯れ葉に覆われ、鳥の声ひとつしない。

踏んだ枝が割れる乾いた音だけが、虚しく空気を震わせた。


「おかえり敦士君。翼は?」

「えっと、帰ってしまったみたいで」
 
店に戻ると、小野さんも帰った後だった。

片付けを済ませたシンさんと、ケンさんがいるだけだ。

フェリックス・メンデルスゾーンの春の歌が、軽やかにピアノの音を奏でていた。

「何か飲む?」

「あ、自分でやります」

「良いの良いの。今日はお客さんって言ったでしょ」

「すみません。じゃあアイス珈琲をお願いします」
 
カウンターの奥の席に座ろうとして、ふと違和感を覚えた。

いや、実際には今に始まった事じゃない。

この店に来るたび、この光景を見るたびに感じていた。
 
俺にはこれが当たり前過ぎて気が付かなかっただけだ。

こんなの、普通の人が見たら異様でしか無い。
 
ケンさんはシンさんが珈琲を淹れるのを頬杖をついて眺めていた。

「シンさん」

「ん?」
 
珈琲豆を計量していたシンさんが、視線だけをこちらに向ける。

「どうしてあそこだけ指定席なんですか」

 それに――

「どうしてこの席に珈琲を淹れて置いてあるんですか」
 
そうだ。違和感の正体はこれだった。

普通に考えて、誰も座る事のないテーブルを指定席にし続けるのもおかしな話だ。

空席に珈琲が置いてあるなんて、それこそもっと妙な事だ。

コンロの上でくつくつと音を立ててお湯が沸いた。

細口のケトルからとろりと流れ出るお湯が珈琲を膨らませ、馥郁たる香りで店内を満たしていく。

「自己満足みたいなものだよ。はい、おまたせ」
 
透明な氷が浮かぶ澄み切った珈琲は、苦みの中にも深い味わいがあり、酸味が少ない。

ストローでくるりとひと回しすると、カラン、と氷が転がる音が涼しく心地良い。

「この店は、もともとケンさんって人が始めたんだ。僕も最初は客のひとりだった。もう二十年近く前になるかな」
 
言いながら、キッチンの作業スペースの水滴を布巾で拭く。

「当時、僕は四十七歳。ケンさんは還暦前だったかな。ここに来たのは開店してすぐだったよ。その頃の僕は妻を三年前に亡くしていてね。突然の病だった。その日の朝はいつも通りだったのにね。帰ってきたら、リビングに倒れてたんだ。くも膜下出血だった」
 
シンさんは空気を和らげるように「僕も飲もうかな」と珈琲を淹れ、出窓を大きく開いた。

さらりと頬を撫でる風がどことなく甘い。
 
花壇では、黄色、白、ピンクの可愛いチューリップが、揃って頭をゆらゆらと揺らしている。
 
ふわりと立ち上った珈琲の湯気が、シンさんのため息を包み込んだ。

「妻が亡くなってからは仕事にも身が入らなくてね。息子も家を出ていたし、独りの家は本当に虚しかったよ。それでも三年、なんとか耐えた。会社と家の往復以外、どこにも行かない三年だった」

シンさんはカップに口を付け、ほう、と丸みのある息を吐いた。

「ある日、ふと休みの日に出かけてみようって思ったんだ。仕事帰りの道で、新しい喫茶店がオープンするって貼り紙を見たんだよ」
 
丸椅子に腰かけ「それがこの店だった」と、珈琲カップを窓辺に置いた。

「週末には必ず通うようになって、十年経つ頃だったかな。店を閉めるなんて突然言い出したんだ。僕が困るって言ったら、ケンさんも本当は続けたいけど……」

「けど……?」

シンさんは「いや」と珈琲に静かに息を吹きかけてから、ほんの少し口に含んだ。

「まあ、とにかく続けられないって言うから、それなら僕が継ぎたいって言ったんだ。珈琲を淹れるなんて素人レベルだし知識も無い。料理も自分の食事すら弁当で賄ってきた人間が無茶な話なんだけどね」

懐かしむようにキッチンを見渡し、肩を揺らしながら笑う。

「短期間で必死に修行させてもらったよ」と。それを機に、定年前だった会社も辞めたのだと言う。

「彼は僕に全てを教えてすぐ、店に立つのを辞めた。結局、七年後に亡くなった。桜が満開だった日だよ。今でも覚えてる」
 
シンさんは、窓の向こうに見える桜の木を見上げた。

大きく広がる灰色の枝に付いた沢山の桜のつぼみ。

彼の目はきっと今、ケンさんが亡くなった日を見ているのだろう。

「敦士君。シロちゃん、覚えてるよね」
 
急に話が飛んで、一瞬間が空いた。

「あの子、本当はただの猫じゃなかったでしょ」

シンさんは俺の反応を見てすぐ「やっぱりね」と納得するように頷く。

「僕はね、敦士君みたいには見えないけれど、何となく不思議なものは見えるんだよ。本当に何となくね。僕にはあの白猫ちゃんは左右の目の色が違うオッドアイで、胸元に四つ葉のクローバーの模様があるように見えていたんだ」

「クローバーですか……」

シンさんはゆっくりとケンさんの席に視線を移す。

「あの指定席にもね、何となく見えるんだ。でも猫ちゃんみたいにはっきりしたものじゃない。ただ、何となく白い靄が見えるだけなんだけど――」

そう言って、俺の目を真正面から捉えた。

「僕には、あれはケンさんなんじゃないかと思うんだ」
 
不確かな事を、そうであって欲しいと願うような切実な瞳だった。

だがすぐに

「教えてくれなくて良い」

と肩をすくめた。

「どうしてですか」

「……ミヤコさんと同じ理由だよ」
 
ミヤコさんは、俺が旦那さんを見たいかと聞いたら、首を横に振ったのだ。

 会いたくなってしまうからと――。

「そうですか」

「僕はね、まだ会うわけにはいかないんだよ」
 
そう言うと、シンさんは「ごめん」と立ち上がる。

「ちょっと二階で休んでくる」と言うと、まだ珈琲が半分残ったカップを流しに置いてしまった。

「敦士君。翼の事なんだけど」
 
階段の前で、シンさんが俺の方を向き直った。

「翼にも見えてるんだ。僕と似たようなものが」

「え――」

「あの子は今、色々あってね。とても辛い状況にあるんだ」

「辛い状況……」

「それで、近頃は君にきつく当たるんだと思う」

「それでって、どういう事でしょうか」

シンさんはエプロンのポケットから手のひらサイズのメモ帳を出し、そこにボールペンを走らせた。

「ここに行ってやってくれないか。翼もきっとそこにいる」
 
渡されたメモには県立医療センターの名前と部屋番号。

そして患者の名前は

「笹井、航平」


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