【第2部開始】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~

ちくわぱん

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5章 中二病がうずきました

7.

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 しかし、ぎゅうぎゅうくっつくために来たわけではない。杖を使いたいからここまで来たわけで。

「ユア、そろそろ離れて」と伝えたら「帰りは私の背中でお願いしますっ」と言われた。
 すぐさま「ぶるるるるん!」とタイリートの鼻が鳴った。聞こえていたらしい。

「タイリートがすねるから、屋敷に帰ったら屋根の上に連れて行ってよ」
「わかりました!」
 笑顔で離れたユアからカシルに視線を移す。

 僕は本来の目的を達成するまでは帰りたくなかった。やっぱり中二病だな。

「カシル、お前の知っている範囲でいいから教えてほしい。魔力を通すという原理は理解した。その通すためのよい方法はある?」

「そうでございますね。ハルトライア様は魔力を繊細に動かすことができますので、魔力を細く細くしてこの杖の魔回路に通るサイズにまで出来れば、杖は反応すると思います。クモの糸くらいの細さをイメージしていただくと良いかと」

「わかった。やってみるよ」

 僕は目をつむった。そして自分の魔力を想像する。想像するとずるずるとつるが動き始めた。いつもの紫玉生成と同じだが紫玉を作るためじゃない。さっきのブルークロウにつるを伸ばした時より、もっと細くつるを伸ばすことを想像しよう。つるの先端から小さな芽が出て、それがゆっくりと細く細く細く……っ

「うっ!」
 パチッと手に衝撃が来た。
「ハルトライア様?!」

 カシルの声に目を開ける。
「いや。小さな衝撃が手に来たんだ」
「入りかけた魔力と入り切らなかった魔力が反発しあったのを感じたのでしょう」
「てことは手応えがあったったこと?」

 コクンと頷くカシルに励まされ、もう一回やってみようと僕は再度目をつむった。
 もっと小さくイメージするんだ。赤血球くらい、いや、もう分子原子の域に。そうだ、魔力の小さな小さな粒子。ひと粒ひと粒は目に見えないが集まれば見えるくらいの。
 その粒子がサラサラと動いてほんの小さな隙間に流れていく。
 あ……魔力がするりと杖の中に侵入した。そのままゆっくり杖の先端まで粒子で満たしていこう。きっと大丈夫、先生の作った杖だから先まで進んでも怖くはない。
 ……あと少しで、先まで……

 ーーポン!

「っわっ!」

 和楽器のつづみのような可愛らしい音が鳴り、驚いて目を開けた。
 眼の前には赤、青、黄、紫、など色とりどりにコスモスの形に似た野花達が20本くらい空を舞っている。

「わぁ~!! 綺麗です! ハル坊ちゃますごい!!」

 風に揺らめきながら落ちてくる花を見てユアが歓声をあげた。

「……いや、僕がすごいわけじゃない、先生がすごいんだ」

 こんな仕掛けを杖に仕込んでるなんて。一体どんな魔法陣を先端に埋め込んだのだろう?

 尊敬の念が湧き上がったのと同時に、僕はもの凄い喜びを感じていた。
 僕の魔力で花が咲くなど想像すらしたことが無かったから。

 実のところ、僕は闇の魔力をどう使っていいか全くわかっていない。
 前世を思い出してから沢山魔導書を読んだが、実は闇属性用の魔導書は一冊も無かった。そりゃ、あるわけない。闇属性という言葉も魔物化した人間や動物が使う魔法が紫に光っているからそう呼ばれているだけなのだ。

 例えばカシルの緑属性用の魔導書ならば、植物の成長促進したり植物を操ったりといった方法が載っている。上級魔導書になると植物の記憶を読む方法も載っているのだ。

 現状闇属性の魔法について全く情報がないなかで、今こうして僕の魔力で花が咲いた。もしかして杖を使えば、僕でも世間一般の人のように闇属性と気づかれずに魔法を行使できるかもしれない。

「そうだっ、地面に向けてもう一回やってみよう! そしたら切り花でなく植わっている花が咲くかもっ」

 今度は目を開けて、杖の先端を目の前の地面に向けて同じことをやってみる。僕の魔力が小さな粒子になって杖を満たしていくのが感覚で分かった。うん、出来る。大丈夫。

 ――ポン!

 ふわわと色とりどりの花が咲く。
 そのまま魔力を途切れさせることなく杖に通し続け、地面を右から左に指し示していった。

 ッポンッポンッポン!!とつづみの高い音が連続でなり、僕たちの立つ草原はあっという間にかわいらしい花畑になった。

「お花いっぱいで可愛いです~っ、すごい! きれい!」

 ユアの喜びの声に僕も笑顔になる。

 このような野に咲く小さな花たちは、見る人が見れば貧相だと思うかもしれない。でもあの王城の薔薇や百合に負けず美しいと僕は思う。
 丁寧に育てられた美しさとは違う、逞しさがどこかにあるような気がして。

 僕も要らない子供として生きているけれど、たとえ道ばたに咲いて見向きもされなくても、頑張らないなんて選択肢はない。
 雑草でも、こうして誰かを喜ばせることが出来る。
 だからこそ頑張れる。今みたいに。
 一歩ずつ進もう。

「きれいだねっ、っカシルっ!?」

 振り返って、僕は息をのんだ。カシルの頬に一筋涙がこぼれたからだ。

「あ、……っ、申し訳、ございませんっ、少々、嬉しくてっ」

 慌ててポケットからハンカチを出し、頬をぬぐった。本当におじいちゃんは泣き虫だな。

「カシル、お前の指導のおかげだ。お前は本当に良い教師だね。ありがとう!」
「い、え、っ、滅相もございませんっ、ハルトライア様の努力が、すべてでございます」
 頭を深々と下げるカシルは「こんな短期間で杖に魔力を通すなど、ハルトライア様は素晴らしすぎます。感動いたしました」とまた目元をぬぐった。

「帰ろうか、屋敷に」
「はい坊ちゃま!」
「ええ、帰りましょう」

 僕はそれから帰路の間もずっと杖に魔力を通す練習をした。
 スリングの赤ちゃん抱っこをであることを意識すると恥ずかしすぎたので練習に没頭した、とも言える。

 振り返れば僕らの歩いたところには野花の道ができていた。
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