【第2部開始】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~

ちくわぱん

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8章 我慢はみんな大変です

1.

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 先生の待つ応接間に行ったのは、それから一度部屋に戻ってからだった。
 くしゅんとひとつ、くしゃみが出た瞬間「お召し物を着替えましょう」と抱っこされたまま部屋に逆戻り。

 汗が引いてくれば、くしゃみ1つくらい出る。大げさだ。しかしさっきいくらでも心配すればいいと言ってしまった手前拒否は出来なかった。

 ちなみに服は貴族服でも僕1人で着替えられるようになった。まだ時間は少々かかるけど。
 待ち人がいる今日は、カシルに手伝ってもらい素早く着替えた方がいいのは理解してる。でも、好きな人に裸を見られる事が恥ずかしくてたまらない。だからカシルには部屋の外で待ってもらった。
 少し前までは平気だったのに、この気持ちの変化に自分自身ついていけてない。
 成長しカシルみたいに筋肉のある体になれば、恥ずかしさは消えるだろうか。しかしこんな呪いのつるだらけの体なんて、人に見せるものじゃないな。

 着替えが終わったら、扉までゆっくり歩いて行ってノックする。まだ扉を一人で開けられないから。
 カシルがそれを合図に開けてくれて、そして僕を再度抱き抱える。縦抱っこはカシルを見下ろせるからちょっと好き。
 いつも見上げてる顔を上から見るのはすごく新鮮だ。
 サラフワの白髪まじりの銀髪に天使の輪がみえる。カシルは僕を天使とか言うけど、ほんとは僕のことじゃないと思う。
「ハルトライア様、お体辛くはございませんか? もう寒くはありませんか?」
 と見上げてくる。上目遣いにときめいた。でも心配しすぎてしかめっ面。
「そんなに心配してたら、シワ増えちゃうよ」
 おでこと眉間をさっと指で撫でた。
「……申し訳ありません。シワは少ないほうが良いですよね」
 ん? もしかして、どこまで心配すればいいのか分からない、といった感じ? カシルはいつも心配し過ぎなくらいだから、控えてくれたほうが嬉しいけど。
「シワはお前が今まで生きてきた証だろう? 多い少ないは関係ないよ。僕は、お前が辛くてシワが増える事がなければいい。お前が僕といて、笑ってくれたら僕は嬉しいから」

 笑いジワはウエルカムだよ。カシルはものすごく優しい笑顔だからね。

 すると
「ハルトライア様は、私を喜ばせる天才でございますね」
 と、しかめてた顔が一瞬でそんな笑みに変わった。カシルが可愛いカッコ良すぎて僕は天井を見上げることとなってしまった。

 応接間に着くとカシルが僕を片手で支え、器用に扉を開ける。
「お待たせいたしました、カルシード公爵夫人」
「うんうん! そう、上手だねえユア君っ。わかる? じんわりあたたかい感じ。それが体内魔力。意識できたらもう勝ったも同然だよ。必要なところに必要なだけ流して高めれば魔力節約にもなるし筋力負荷も少ない。ユア君ならもっと力持ちになれるよ~。岩をも投げ飛ばせるメイドなんてめちゃくちゃかっこいいよね!」

 先生はまたもユアに絡んでいる。
 ユアも興味津々だしなんなら嬉しそうだ。岩は投げ飛ばせられなくて全然いい思うけど。
 そんなのメイドの仕事じゃないよ、ユア。

 先生は開いた扉に気付き、こっちに振り向いた。

「やあお二人さんっ。相変わらず仲良しだねぇ。おっ、トラ君朝と違う服着てるねっ。オシャレさん! でももっと仲良くするならペアルックがいいんじゃない? トラ君は毎回違う服着てるからいいけどルゥは黒い燕尾服ばっかだし、見ててつまんないよ」 
 軽い口調で仲良しとからかわれた。先生にからかわれると僕のカシルへの気持ちを知られているせいで、どうしてもかぁっと赤くなってしまう。
 でもカシルは平然と言い返した。
「あなたを楽しませるためにハルトライア様はお着替えになられたわけではございません。燕尾服も楽しむものではございません」

 あ、でも僕は楽しんでるよ、カシルの燕尾服。
「僕カシルの燕尾服姿好きだけど? だってすごいカッコいい」
 ポロリ本音が出た。
 するとちょっとびっくりした顔のカシルが
「ハルトライア様はお優しくいらっしゃいますね。ありがとうございます、とても嬉しく思います」
 再度破顔した。
 う、マジイケメン老紳士だ。そして笑顔なまま僕を車いすにそっと降ろしてくれる。所作ひとつひとつが丁寧だし本当に頼りになる執事。
 やっぱり燕尾服似合い過ぎてる。年の割に筋肉質で、でも細身だから嫌味なく美しい。
 ああ、カッコいいなぁ。僕も早く筋肉質体形になりたい!

 そんな風にカシルに見とれてる僕のことなんて気にせず、先生は話す。
 軽く怒られたことももちろん気にしてない。
 ユアに弾丸のように話していた勢いを変えることもない。

「トラ君に聞きたいことあるんだよ! あのフォレストベアの罠周辺のことなんだけどね! ルゥに聞いたら詳細はトラ君に聞けって言われてさぁ。だから教えてほしい!!」

 えっと、まず先生。報告が先じゃないでしょうか。
 カシルについ見とれてた僕だけど、すぐ気持ちを切り替えた。

「ファリア先生、僕も聞きたいことがあるのですが、誰が罠を仕掛けたか」
「えぇ~、私が先だよ! だってトラ君の魔法すっごい興味あるもん! 教えて教えて!」

 この人は、魔法に関する欲望をどうも我慢できないようだ。
 困るなぁ。まあしょうがないか。先生だから。

「わかり「公爵夫人、あなたはご自身の立場をご理解していないのでしょうか? 侯爵子息であるハルトライア様を差し置いて自分のご意見を優先することは許されざる行いです」」

 僕があきらめようとしたとき、ズバッとカシルが言い返した。眉間のしわが少々多い。怒ってるなぁ。
「今日の結果の報告をよろしくお願いいたします。出来ないのであれば、早急にご退出いただきます」

 手厳しい。でもこの世界では侯爵が完全に上なのだ。
 過去には公爵のほうが上だった。公爵と名乗れるのは離籍した王族だけだから。しかし後に王位継承で揉めることを恐れた数代前の王が、位を一つ下げると名言したため、侯爵のほうが上になったのだ。王家は公爵家から嫁を娶ることは絶対ないし、公爵は2代目までしか名乗れない。ちなみにカルシード公爵は二代目だ。

 そんなわけでカシルはきつく言ったのだが、先生はけろっとした顔。

「あっはっはっ。仕方ないなぁ。ルゥに止められたら諦めるしか無いよ。沈黙の狂騎士ベルセルクに睨まれたらおしまいだもんね」
 あー怖い怖い。とまた笑う。

 しかし僕は耳慣れない言葉に首をかしげた。そこに食いついてしまったのは仕方ない。
「沈黙?」
 疑問形で声が出た。
「あれ? トラ君知らなかったの? ルゥはね、貴族学園時代は首席で騎士になってからも魔物討伐や賊討伐で1番の手柄をあげてたけどものすごく寡黙だったから、沈黙の狂騎士ベルセルクって言われてたんだよね。トラ君や私の前ではこんなに饒舌なんだけどねっ」

 何その二つ名!
 中二病がうずく!

 
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