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夜明けのうたごえ
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日が落ちて暗くなった頃、微かな外の物音で目が覚めた。
毛布を剥ぎ、低い寝台をゆっくり起き上がって、辺りの音に聞き耳を立てる。
キリムが迎えにきたのだろうか?
それにしては足音が重い。
まるで足を引き摺っているようだ。
老人か、怪我人といった風情に思える。
音を立てないよう、テントの入り口にかかっている布を上げて密かに外に出た。
星あかりを頼りに周囲を見回すと、誰もいない寂しい荒地の上を、フラフラしながらこちらに歩いてくる影がある。
目を凝らすと、それは毛皮のマントを羽織った老女だった。
酷く腰が曲がり、顔の深い皺に影が落ち、杖を握った手がブルブルと震えている。
俺に呪いをかけた張本人――オルファンの祖母のジュマリだった。
彼女は閉じ込められていた坑道から移されて、最近はイルゼン・ロカのテントに預かられている。
よく日を浴びるようになったせいか、初めて会った時より顔色は良くなっているが、心の方は以前に増して現世から遠のいていた。
「ジュマリ、イルゼンの所にいたはずだろう。こんな所まで来てしまったのか?」
優しく尋ねると、彼女は俺の方を見て、ニッコリ嬉しそうに笑った。
俺自身を見ているのではなく、もっと遠くの何かを見ているような目つきだ。
彼女の目には一体、何が見えているのだろう。
それにしても、イルゼンも居るオルファンの拠点からはかなりの距離があると言うのに、弱った足でここまで歩いてくるとは恐れ入る。
「こんな所まで来て、仕方ないな。馬で送るから、こちらに来るといい」
そう言うと、彼女は嬉しそうにいそいそとついて来た。
物音で既に眠りから覚めていた葦毛の馬の横に立ち、老女を乗せる為、その腰を抱き上げる。
彼女の体は酷く軽く、軽々と馬の背に乗った。
俺も馬を繋いでいた縄を外し、ランプを片手に後ろに乗った。
灯火を掲げながら、月のない夜の山道を並足で進み始める。
長く伸びた白髪頭を後ろから眺めていると、彼女と坑道で出会ってからの色々な出来事が、ぼんやりと記憶に蘇ってきた。
「……あの時……あなたの目には、俺がこうなることが見えていたのか?」
腕の中にすっぽりおさまる小さな背中に問いかける。
「……ふふふ……楽しみだね……」
案の定、老婆は楽しげに笑うばかりだ。
――彼女の目に楽しそうな未来が見えているなら、それで良いか。
のんびりした気分で、白い息を吐きながらしばらく馬を進めてゆく。
その内に、ジュマリが、柔らかいマウラカ語で歌を歌い出した。
不思議で、優しい響きの旋律が冷たい空気に伝わる。
何の歌なのだろう。
何故か心地いい。
ふと首をもたげて見上げると、宵闇に浮かぶ無数の星に抱かれるような気持ちになり、身体が溶けてしまいそうだった。
うっかり馬から落ちてしまいそうになって、慌てて姿勢を正す。
今俺が落ちてしまったら、ジュマリまで巻き添えだ。
長い吐息をつきながら遠くを見渡すと、草原の先にストーブの煙が見え始めた。
オルファンのいる集落から上がっているものだ。
そして、その煙の方角から、逆にこちらに近づいて来る人影があることに気付いた。
相手は馬には乗っておらず、とても背が高い。
響きの低い声が、俺に尋ねた。
「――イアン。何故そいつと一緒にいるんだ」
声と呼び名ですぐに誰だか分かった。
「俺のテントの周りでウロウロしていたんだ。……自分の祖母をそいつ呼ばわりするとは、感心できないぞ、オルファン」
小言を言ってから馬を止め、腕を伸ばした相手に小さな痩せた身体を手渡した。
近くに寄ったオルファンの端正な顔が、夜目にもよく見えるようになった。
今は髪をほどき、まなじりや頬からは戦化粧が落とされている。
その穏やかな瞳と目が合い、馬上から微笑みかけた。
「……俺は見張りに出る。お前は少しでも休んでおけ。最近忙しくてあまり眠れてないのだろう」
馬の腹を蹴り、すれ違うようにして進み始めると、頭がぐいと斜め後ろに引っ張られた。
振り向くと、洗いざらしのまま放ってある俺のうねった髪をオルファンの指が掴んでいる。
「おい! 危ないだろう」
驚き、うわずった声が出た。
オルファンが下から俺を睨む。
「……お前の髪、酷い絡まり方をしているじゃねえか。放っておくとどこかに引っ掛けて、時と場合によっては死ぬぞ。ちょっとこっちに来い」
真剣な顔で言われて、密かに心臓が跳ねた。
「じゃあ、後でどうにかする……」
「お前、そう言ってどうせ放っておくんだろう。俺がやってやる。――今夜のうちにお前に話しておきたいことがあるしな」
話しておきたいこと……。
何だろう。
仕方なく、俺は馬から降り、手綱を引いて彼とジュマリと一緒に歩き出した。
……そういえば、マウラカに帰ってからオルファンは俺のことを他人行儀に「あんた」とは言わなくなった。
名前を呼ぶか、俺が彼を呼ぶような呼び方で話しかけて来る。
今はオルファンが俺の上司になってしまった訳だから、そういう道理かもしれない。
密かに最近嬉しいことのひとつだ。
そういえば、こうして並んで歩むのも久しぶりな気がする。
一緒にジュマリをイルゼンのテントまで送り届けてしまうと、二人きりになり、急に静かになった。
黙ってオルファンのテント向かい歩いていると、彼がぽつりとつぶやいた。
「……未だに元に戻してやれていないのは、悪いと思っている。あの婆さんは前にも増して……あの通りだし」
予想外に謝られて、思わず微笑んだ。
「……まだそんなことを気にしていたのか? 俺のことなど、マウラカの二の次で構わない」
こんな風に、傷付け合うことなく話が出来る事が、何よりも嬉しい。
だから、俺の身体の事なんてもう、死ぬまでどうでもいいとさえ思う。
……最近少し不便なことがあるのが難点だが。
オルファンのテントまで辿り着くと、彼は俺から馬の手綱を奪い、入り口の布を上げて俺を先に中に入らせた。
人気のないテントの中を改めて眺めると、家具も衣類も食糧もきちんと整頓されていて、色んなものが無頓着に放り出されて巣のようになっている俺のねぐらとは正反対だ。
オルファンにそんな時間は無いだろうから、世話をしている娘がしっかりしてくれているのだろう。
流石にほんの少しだけ胸が痛む。
コートを脱ぎ、ストーブの前に膝をつくと、外からオルファンが入ってきた。
木製の大きな櫛を物入れに取りに行き、俺の後ろであぐらをかいて座り込む。
黙って頭を差し出すと、後ろでうーんと低く唸られた。
「……お前の髪は細くて柔らかいから、伸ばすのに向いていない」
ため息混じりに言いながら、オルファンが俺の髪を毛先からとかし始める。
「でも、髪が長い方が英雄ヴァランカの名前には相応しいだろう? その内髭も伸ばしてやるかな」
「おい。これ以上鳥の巣を増やすのは勘弁してくれ」
ボサボサに絡んだ部分と格闘しながらぼやかれて、声を立てて笑ってしまった。
梳く部分が少しずつ上にのぼっていくにつれて、オルファンの手が背中に触れるようになり、身体の芯がぼうっと熱くなってゆく。
まだ、俺の中にこんな熱が残っていたのかと、自分でも不思議になった。
でも、これはもう蓋をしておかなければならない種類の感情だ。
もしかしたら、あの娘とオルファンは既に夫婦の仲になっているのかも知れないし……。
なるべく心を無にして頭を任せていると、急にオルファンの手が止まった。
「……?」
わずかに振り返って視線を後ろにやる。
黒々とした長い睫毛を伏せ、オルファンが俺の金色の髪を持ち上げ、口付けているのが視界の端に飛び込んできて――ハッと顔を前に戻した。
……何だ、今のは。
幻覚か。
もう一度ちゃんと振り返ろうとして、根元の方の絡みを力任せにとかれ、悲鳴を上げた。
「痛い!」
「うるさい。こんなに風になるまで放置しているお前が悪い」
怒り口調で叱られてしまった。
どうやら、キスされたと思ったのは勘違いだったらしい。
絡まりがあんまり酷いから、顔を近付けて凝視していたのだろう。
変に鼓動が激しくなって、我ながら心臓に悪い思い違いだ……。
「……全部梳いたぞ」
おかしな汗が出ている背中をポン、と叩かれた。
「あ、ありがとう。――ところで、話ておきたいこととはなんだ」
振り向き、向かい合うように座り直す。
すると、オルファンは何故か少し目を逸らしながら話を始めた。
「……明日、帝国の軍と合流して、偽ヴァランカの本陣に夜襲をかけることになった。……イアン、お前はここにいて、女子供を守れ」
「……。俺も行きたいと言ってはダメか? ……今は俺がヴァランカだし、俺が奴らを倒すことでこちらの正当性を主張するというのは」
駄目元で請うと、彼は首を横に振った。
「駄目だ。ディヴィス少佐が来る」
「……。ロバートか。髪と顔を隠せば問題ないだろう」
「いや。お前の姿を一目でも見たら、あの男なら分かってしまう」
「……そんなに心配しなくても、俺は裏切らない。捕まるようなヘマもしない」
「……そういう意味で言っている訳じゃねえ……。とにかく、お前は来るな。分かったな」
有無を言わさない語調で言い切られて、戸惑った。
ロバートが来るとなると逆に心配だ。
オルファンの顔を直に見たら、今からでも逮捕して拷問でもしかねないのではないか。
そんなことを聞いたらかえって、大人しく留守番などしていられない。
「……覚えておく」
俺はそれだけを言って立ち上がった。
「では、そろそろ俺は見回りに行って来る。お休み、オルファン」
まだ何かものを言いたそうな相手を置き去りにして、足早に暗いテントの外へと出た。
首の後ろに両手を伸ばし、長く伸びた自分の髪に指を通す。
それはまるで別の生き物の一部のように優しい感触がして――何故だか、涙が出そうになった。
毛布を剥ぎ、低い寝台をゆっくり起き上がって、辺りの音に聞き耳を立てる。
キリムが迎えにきたのだろうか?
それにしては足音が重い。
まるで足を引き摺っているようだ。
老人か、怪我人といった風情に思える。
音を立てないよう、テントの入り口にかかっている布を上げて密かに外に出た。
星あかりを頼りに周囲を見回すと、誰もいない寂しい荒地の上を、フラフラしながらこちらに歩いてくる影がある。
目を凝らすと、それは毛皮のマントを羽織った老女だった。
酷く腰が曲がり、顔の深い皺に影が落ち、杖を握った手がブルブルと震えている。
俺に呪いをかけた張本人――オルファンの祖母のジュマリだった。
彼女は閉じ込められていた坑道から移されて、最近はイルゼン・ロカのテントに預かられている。
よく日を浴びるようになったせいか、初めて会った時より顔色は良くなっているが、心の方は以前に増して現世から遠のいていた。
「ジュマリ、イルゼンの所にいたはずだろう。こんな所まで来てしまったのか?」
優しく尋ねると、彼女は俺の方を見て、ニッコリ嬉しそうに笑った。
俺自身を見ているのではなく、もっと遠くの何かを見ているような目つきだ。
彼女の目には一体、何が見えているのだろう。
それにしても、イルゼンも居るオルファンの拠点からはかなりの距離があると言うのに、弱った足でここまで歩いてくるとは恐れ入る。
「こんな所まで来て、仕方ないな。馬で送るから、こちらに来るといい」
そう言うと、彼女は嬉しそうにいそいそとついて来た。
物音で既に眠りから覚めていた葦毛の馬の横に立ち、老女を乗せる為、その腰を抱き上げる。
彼女の体は酷く軽く、軽々と馬の背に乗った。
俺も馬を繋いでいた縄を外し、ランプを片手に後ろに乗った。
灯火を掲げながら、月のない夜の山道を並足で進み始める。
長く伸びた白髪頭を後ろから眺めていると、彼女と坑道で出会ってからの色々な出来事が、ぼんやりと記憶に蘇ってきた。
「……あの時……あなたの目には、俺がこうなることが見えていたのか?」
腕の中にすっぽりおさまる小さな背中に問いかける。
「……ふふふ……楽しみだね……」
案の定、老婆は楽しげに笑うばかりだ。
――彼女の目に楽しそうな未来が見えているなら、それで良いか。
のんびりした気分で、白い息を吐きながらしばらく馬を進めてゆく。
その内に、ジュマリが、柔らかいマウラカ語で歌を歌い出した。
不思議で、優しい響きの旋律が冷たい空気に伝わる。
何の歌なのだろう。
何故か心地いい。
ふと首をもたげて見上げると、宵闇に浮かぶ無数の星に抱かれるような気持ちになり、身体が溶けてしまいそうだった。
うっかり馬から落ちてしまいそうになって、慌てて姿勢を正す。
今俺が落ちてしまったら、ジュマリまで巻き添えだ。
長い吐息をつきながら遠くを見渡すと、草原の先にストーブの煙が見え始めた。
オルファンのいる集落から上がっているものだ。
そして、その煙の方角から、逆にこちらに近づいて来る人影があることに気付いた。
相手は馬には乗っておらず、とても背が高い。
響きの低い声が、俺に尋ねた。
「――イアン。何故そいつと一緒にいるんだ」
声と呼び名ですぐに誰だか分かった。
「俺のテントの周りでウロウロしていたんだ。……自分の祖母をそいつ呼ばわりするとは、感心できないぞ、オルファン」
小言を言ってから馬を止め、腕を伸ばした相手に小さな痩せた身体を手渡した。
近くに寄ったオルファンの端正な顔が、夜目にもよく見えるようになった。
今は髪をほどき、まなじりや頬からは戦化粧が落とされている。
その穏やかな瞳と目が合い、馬上から微笑みかけた。
「……俺は見張りに出る。お前は少しでも休んでおけ。最近忙しくてあまり眠れてないのだろう」
馬の腹を蹴り、すれ違うようにして進み始めると、頭がぐいと斜め後ろに引っ張られた。
振り向くと、洗いざらしのまま放ってある俺のうねった髪をオルファンの指が掴んでいる。
「おい! 危ないだろう」
驚き、うわずった声が出た。
オルファンが下から俺を睨む。
「……お前の髪、酷い絡まり方をしているじゃねえか。放っておくとどこかに引っ掛けて、時と場合によっては死ぬぞ。ちょっとこっちに来い」
真剣な顔で言われて、密かに心臓が跳ねた。
「じゃあ、後でどうにかする……」
「お前、そう言ってどうせ放っておくんだろう。俺がやってやる。――今夜のうちにお前に話しておきたいことがあるしな」
話しておきたいこと……。
何だろう。
仕方なく、俺は馬から降り、手綱を引いて彼とジュマリと一緒に歩き出した。
……そういえば、マウラカに帰ってからオルファンは俺のことを他人行儀に「あんた」とは言わなくなった。
名前を呼ぶか、俺が彼を呼ぶような呼び方で話しかけて来る。
今はオルファンが俺の上司になってしまった訳だから、そういう道理かもしれない。
密かに最近嬉しいことのひとつだ。
そういえば、こうして並んで歩むのも久しぶりな気がする。
一緒にジュマリをイルゼンのテントまで送り届けてしまうと、二人きりになり、急に静かになった。
黙ってオルファンのテント向かい歩いていると、彼がぽつりとつぶやいた。
「……未だに元に戻してやれていないのは、悪いと思っている。あの婆さんは前にも増して……あの通りだし」
予想外に謝られて、思わず微笑んだ。
「……まだそんなことを気にしていたのか? 俺のことなど、マウラカの二の次で構わない」
こんな風に、傷付け合うことなく話が出来る事が、何よりも嬉しい。
だから、俺の身体の事なんてもう、死ぬまでどうでもいいとさえ思う。
……最近少し不便なことがあるのが難点だが。
オルファンのテントまで辿り着くと、彼は俺から馬の手綱を奪い、入り口の布を上げて俺を先に中に入らせた。
人気のないテントの中を改めて眺めると、家具も衣類も食糧もきちんと整頓されていて、色んなものが無頓着に放り出されて巣のようになっている俺のねぐらとは正反対だ。
オルファンにそんな時間は無いだろうから、世話をしている娘がしっかりしてくれているのだろう。
流石にほんの少しだけ胸が痛む。
コートを脱ぎ、ストーブの前に膝をつくと、外からオルファンが入ってきた。
木製の大きな櫛を物入れに取りに行き、俺の後ろであぐらをかいて座り込む。
黙って頭を差し出すと、後ろでうーんと低く唸られた。
「……お前の髪は細くて柔らかいから、伸ばすのに向いていない」
ため息混じりに言いながら、オルファンが俺の髪を毛先からとかし始める。
「でも、髪が長い方が英雄ヴァランカの名前には相応しいだろう? その内髭も伸ばしてやるかな」
「おい。これ以上鳥の巣を増やすのは勘弁してくれ」
ボサボサに絡んだ部分と格闘しながらぼやかれて、声を立てて笑ってしまった。
梳く部分が少しずつ上にのぼっていくにつれて、オルファンの手が背中に触れるようになり、身体の芯がぼうっと熱くなってゆく。
まだ、俺の中にこんな熱が残っていたのかと、自分でも不思議になった。
でも、これはもう蓋をしておかなければならない種類の感情だ。
もしかしたら、あの娘とオルファンは既に夫婦の仲になっているのかも知れないし……。
なるべく心を無にして頭を任せていると、急にオルファンの手が止まった。
「……?」
わずかに振り返って視線を後ろにやる。
黒々とした長い睫毛を伏せ、オルファンが俺の金色の髪を持ち上げ、口付けているのが視界の端に飛び込んできて――ハッと顔を前に戻した。
……何だ、今のは。
幻覚か。
もう一度ちゃんと振り返ろうとして、根元の方の絡みを力任せにとかれ、悲鳴を上げた。
「痛い!」
「うるさい。こんなに風になるまで放置しているお前が悪い」
怒り口調で叱られてしまった。
どうやら、キスされたと思ったのは勘違いだったらしい。
絡まりがあんまり酷いから、顔を近付けて凝視していたのだろう。
変に鼓動が激しくなって、我ながら心臓に悪い思い違いだ……。
「……全部梳いたぞ」
おかしな汗が出ている背中をポン、と叩かれた。
「あ、ありがとう。――ところで、話ておきたいこととはなんだ」
振り向き、向かい合うように座り直す。
すると、オルファンは何故か少し目を逸らしながら話を始めた。
「……明日、帝国の軍と合流して、偽ヴァランカの本陣に夜襲をかけることになった。……イアン、お前はここにいて、女子供を守れ」
「……。俺も行きたいと言ってはダメか? ……今は俺がヴァランカだし、俺が奴らを倒すことでこちらの正当性を主張するというのは」
駄目元で請うと、彼は首を横に振った。
「駄目だ。ディヴィス少佐が来る」
「……。ロバートか。髪と顔を隠せば問題ないだろう」
「いや。お前の姿を一目でも見たら、あの男なら分かってしまう」
「……そんなに心配しなくても、俺は裏切らない。捕まるようなヘマもしない」
「……そういう意味で言っている訳じゃねえ……。とにかく、お前は来るな。分かったな」
有無を言わさない語調で言い切られて、戸惑った。
ロバートが来るとなると逆に心配だ。
オルファンの顔を直に見たら、今からでも逮捕して拷問でもしかねないのではないか。
そんなことを聞いたらかえって、大人しく留守番などしていられない。
「……覚えておく」
俺はそれだけを言って立ち上がった。
「では、そろそろ俺は見回りに行って来る。お休み、オルファン」
まだ何かものを言いたそうな相手を置き去りにして、足早に暗いテントの外へと出た。
首の後ろに両手を伸ばし、長く伸びた自分の髪に指を通す。
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