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貴公子と騎士
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――どんなに罪深い夜にも、等しく朝が来てしまう。
翌朝、レオンは自分の荷物の中に毛布を隠し、オスカーに謝った。
「すまない……。昨日借りた毛布をちゃんと洗ってから返したいんだが……」
出発の為に荷を馬に載せていたオスカーは、驚いたように肩を竦め、レオンを見つめた。
「お前は本当に潔癖なんだな。そんなこと気にせずに返していいんだぞ」
「いや、洗いたい」
「気にするなら仕方がない。ではそうしてくれ」
オスカーがそう言ってくれて、心底ほっとした。
馬に水を飲ませる為、一日に一度はルートをはずれ、川沿いへ降りて休憩をしていた。
その時に洗い、夜焚火で乾かせば恐らく朝には乾いているだろう。
馬上で前を行くオスカーの後ろ姿をぼんやりと眺めながら、レオンは不思議な気持ちになった。
昨日の夜手首を掴まれた時の彼は、どこか彼らしくなかった。
もちろん自分もおかしくなっていたので人のことは言えないが……。
(本当に、何故俺はあんなことを……)
よくよく考えると、カイン以外のことを思い浮かべてあんなことをしてしまったのは生まれて初めてだ。
自分が一層、友人を汚した人でなしのように思えて、罪悪感に震えた。
つい人肌に飢えたりするのがいけないのだ。
もう二度と、あんな間違いを犯してはいけない――。
固く胸に誓う。
――街道が近いせいか、進む内に少しずつ木がまばらになった。太陽が高くなると、光をさえぎるものが少なく、旅支度の厚着では汗ばむほどの陽気になる。
一番気温が熱くなり馬が乾きでへたばり始めた頃、二人は川沿いに降りた。
二頭の馬から荷や鞍を下ろして自由にしてやってから、オスカーが襟の詰まった自分の服を剥ぐように脱ぎ落し始める。
「今日は随分暑くなったな。お前が服を洗うなら、私は横で水浴びでもしよう」
その言葉にウッと喉が詰まった。
オスカーから見えないような少し離れた場所で、一人でこっそりと洗いたかったのに、何ということだろう。
――とにかく、彼に分からないように全てを終わらせなければ。
緊張感で無表情になってしまいながら、レオンは自分の荷物から昨日借りた毛布を丸まったまま引きずり出した。
もたもたと洗う場所を探している内に、オスカーが下着も全て脱いで全裸になり、横を通り過ぎて川へ向かう。
腰ほどの深さのある川面へざぶざぶと入っていくのを、レオンは視界の端で見た。
初めて見る彼の裸体は、やはり非の打ちどころのない素晴らしい肉体だった。
その無駄のない、美しく隆起した筋肉に、慣れ知った誰かの躰を思い出す気がして、慌てて視線を逸らす。
――早く、洗ってしまおう。
清らかな水の流れに濃緑色の毛布を晒すと、水を吸ってほとんど黒っぽい色に変化してゆく。
指を使って擦り、何度も何度も布をひっくり返しては洗うことを繰り返している内に、水で濡れた蜜色の髪を絞りながら、オスカーが声を掛けてきた。
「そんなに神経質に洗わなくても、もう汚れていないだろうに。――ほら、お前も来い。ずっと風呂に入っていないし、今日は随分汗をかいただろう」
「いや俺はいい……っ」
ブルブルと首を振ると、ざぶざぶと波を起こしながらオスカーが近づいてきて、ばしゃりと派手に水を掛けられた。
「何するんだ……っ!」
怒って抗議の声を上げると、相手は悪戯をしたばかりの子供のように陽気に笑い、レオンの腕を強引に引っ張った。
「やめっ……!」
どうにか踏みとどまろうとしたのがかえって仇となり、川の中に前のめりに転がり落ちる。
激しい水しぶきを上げ、レオンは服からブーツの中まで、全てが水びたしになる大惨事に見舞われた。
「ああもう……っ! 何てことをっ」
よろけながら川の中で立ち上がり、手から離れそうになったオスカーの毛布をしっかりと脇に挟む。
「どうせ洗濯するなら、丸ごと洗ってしまえばいいじゃないか」
からかうようにそう言ったオスカーに、レオンは思わず小言を投げ付けた。
「後で干すのを手伝え! このバカ貴族!」
その言葉に、心底楽しそうなオスカーが朗らかに笑う。
それから、急に真面目な顔になり、言った。
「――もちろん。……朝からずっと暗い顔をしていたから心配していたんだが、そんな風に怒れるくらいなら大丈夫そうだな」
「え……」
感情がそんなに顔に出ていたとは知らなかった。
心を見透かされたような気分になり急に不安になる。
レオンが微妙な表情で黙っていると、川面を波立たせながら、彼が黙って目の前に近づいてきた。
その輝くような裸身が酷く眩しくて目が合わせられない。
鼓動が高まったままどうすることも出来ないでいると、彼の手が伸びてきて、濡れてレオンの額に張り付いた髪を撫で付けた。
「お前の髪はとても綺麗だな……」
心臓が止まる程驚いた。
オスカーが日中そんな風にレオンに触れてきたのは初めてで、そして、そのしぐさが余りにもカインと同じだったからだ。
セックスが終わった後で、カインはいつもそうやって髪を撫でてくれた。
どんなに屈辱的な交わりの後でも、そうされると堪らなく心地よくて、何もかもどうでも良くなる程、それが好きだった――。
オスカーが長い睫毛を伏せたまま、レオンの髪を撫で続ける。
川の水に冷やされた冷たい指先が、こめかみを降り、うなじに触れ、首筋に降りていく。
「……っ……!」
触れられている部分から、またあの謎の陶酔が流れ込んで来る。
ゾクゾクと身体が震え、撫でられているだけなのにまるで深い部分に愛撫を受けているような感覚が走り、淫らな声を上げそうになった。
翌朝、レオンは自分の荷物の中に毛布を隠し、オスカーに謝った。
「すまない……。昨日借りた毛布をちゃんと洗ってから返したいんだが……」
出発の為に荷を馬に載せていたオスカーは、驚いたように肩を竦め、レオンを見つめた。
「お前は本当に潔癖なんだな。そんなこと気にせずに返していいんだぞ」
「いや、洗いたい」
「気にするなら仕方がない。ではそうしてくれ」
オスカーがそう言ってくれて、心底ほっとした。
馬に水を飲ませる為、一日に一度はルートをはずれ、川沿いへ降りて休憩をしていた。
その時に洗い、夜焚火で乾かせば恐らく朝には乾いているだろう。
馬上で前を行くオスカーの後ろ姿をぼんやりと眺めながら、レオンは不思議な気持ちになった。
昨日の夜手首を掴まれた時の彼は、どこか彼らしくなかった。
もちろん自分もおかしくなっていたので人のことは言えないが……。
(本当に、何故俺はあんなことを……)
よくよく考えると、カイン以外のことを思い浮かべてあんなことをしてしまったのは生まれて初めてだ。
自分が一層、友人を汚した人でなしのように思えて、罪悪感に震えた。
つい人肌に飢えたりするのがいけないのだ。
もう二度と、あんな間違いを犯してはいけない――。
固く胸に誓う。
――街道が近いせいか、進む内に少しずつ木がまばらになった。太陽が高くなると、光をさえぎるものが少なく、旅支度の厚着では汗ばむほどの陽気になる。
一番気温が熱くなり馬が乾きでへたばり始めた頃、二人は川沿いに降りた。
二頭の馬から荷や鞍を下ろして自由にしてやってから、オスカーが襟の詰まった自分の服を剥ぐように脱ぎ落し始める。
「今日は随分暑くなったな。お前が服を洗うなら、私は横で水浴びでもしよう」
その言葉にウッと喉が詰まった。
オスカーから見えないような少し離れた場所で、一人でこっそりと洗いたかったのに、何ということだろう。
――とにかく、彼に分からないように全てを終わらせなければ。
緊張感で無表情になってしまいながら、レオンは自分の荷物から昨日借りた毛布を丸まったまま引きずり出した。
もたもたと洗う場所を探している内に、オスカーが下着も全て脱いで全裸になり、横を通り過ぎて川へ向かう。
腰ほどの深さのある川面へざぶざぶと入っていくのを、レオンは視界の端で見た。
初めて見る彼の裸体は、やはり非の打ちどころのない素晴らしい肉体だった。
その無駄のない、美しく隆起した筋肉に、慣れ知った誰かの躰を思い出す気がして、慌てて視線を逸らす。
――早く、洗ってしまおう。
清らかな水の流れに濃緑色の毛布を晒すと、水を吸ってほとんど黒っぽい色に変化してゆく。
指を使って擦り、何度も何度も布をひっくり返しては洗うことを繰り返している内に、水で濡れた蜜色の髪を絞りながら、オスカーが声を掛けてきた。
「そんなに神経質に洗わなくても、もう汚れていないだろうに。――ほら、お前も来い。ずっと風呂に入っていないし、今日は随分汗をかいただろう」
「いや俺はいい……っ」
ブルブルと首を振ると、ざぶざぶと波を起こしながらオスカーが近づいてきて、ばしゃりと派手に水を掛けられた。
「何するんだ……っ!」
怒って抗議の声を上げると、相手は悪戯をしたばかりの子供のように陽気に笑い、レオンの腕を強引に引っ張った。
「やめっ……!」
どうにか踏みとどまろうとしたのがかえって仇となり、川の中に前のめりに転がり落ちる。
激しい水しぶきを上げ、レオンは服からブーツの中まで、全てが水びたしになる大惨事に見舞われた。
「ああもう……っ! 何てことをっ」
よろけながら川の中で立ち上がり、手から離れそうになったオスカーの毛布をしっかりと脇に挟む。
「どうせ洗濯するなら、丸ごと洗ってしまえばいいじゃないか」
からかうようにそう言ったオスカーに、レオンは思わず小言を投げ付けた。
「後で干すのを手伝え! このバカ貴族!」
その言葉に、心底楽しそうなオスカーが朗らかに笑う。
それから、急に真面目な顔になり、言った。
「――もちろん。……朝からずっと暗い顔をしていたから心配していたんだが、そんな風に怒れるくらいなら大丈夫そうだな」
「え……」
感情がそんなに顔に出ていたとは知らなかった。
心を見透かされたような気分になり急に不安になる。
レオンが微妙な表情で黙っていると、川面を波立たせながら、彼が黙って目の前に近づいてきた。
その輝くような裸身が酷く眩しくて目が合わせられない。
鼓動が高まったままどうすることも出来ないでいると、彼の手が伸びてきて、濡れてレオンの額に張り付いた髪を撫で付けた。
「お前の髪はとても綺麗だな……」
心臓が止まる程驚いた。
オスカーが日中そんな風にレオンに触れてきたのは初めてで、そして、そのしぐさが余りにもカインと同じだったからだ。
セックスが終わった後で、カインはいつもそうやって髪を撫でてくれた。
どんなに屈辱的な交わりの後でも、そうされると堪らなく心地よくて、何もかもどうでも良くなる程、それが好きだった――。
オスカーが長い睫毛を伏せたまま、レオンの髪を撫で続ける。
川の水に冷やされた冷たい指先が、こめかみを降り、うなじに触れ、首筋に降りていく。
「……っ……!」
触れられている部分から、またあの謎の陶酔が流れ込んで来る。
ゾクゾクと身体が震え、撫でられているだけなのにまるで深い部分に愛撫を受けているような感覚が走り、淫らな声を上げそうになった。
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