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神と騎士
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ずっと姿を見せなかったくせに悪びれもなくそう言った男を、レオンはわざと強く睨み付けた。
「……っ。今更、こんな時に現れて何のつもりだ。俺が逃げ帰るのを待ってるんじゃなかったのか」
まるで自分の葛藤をぶつけるようにキツい口調になってしまう。
これでは八つ当たりだ。自分でもそう分かっているのに、止められなかった。
「随分な言い方するじゃねえか。そろそろお前が泣いている頃だと思って、一足早く来てやったんだろ」
カインがクッと喉を鳴らし、意地の悪い調子で続けた。
「慰めてやろうか? お前……欲しいんだろう。男が……」
カッと頬が熱くなり、レオンは激昂した。
「欲しくない! お前とはもう、二度とあんな事はしない! この先永遠にだ……!」
これ以上カインの顔を見ている事が辛くなり、視線を外したまま激しい言葉をぶつける。
そうしなければ――カインの顔を真正面から見てしまったら、またその腕にすがり抱擁を求めてしまいそうだった。
思い出してしまう。
気紛れに与えられる温もりや、一緒に過ごした幾つもの夜や、髪を撫でる手を。
その上もし恋人がこの場に帰ってきたりしたら、どんな事態が起きるか分からない。
早くカインを帰らせなければと焦る気持ちがつのった。
「お前とは金輪際もう会わない! 俺のことは放って、早く帰ってくれ……っ」
あからさまな拒絶の言葉を浴び、カインの整った顔に炎のような怒気が浮かび上がる。
「おいおい、一体どういう風の吹き回しだよ。――ああ。男が出来たからか……」
嘲笑うような視線を向けられ、カインの指がレオンの顎に触れる。
唇を親指の腹で撫でられ、至近距離からじっとこちらの瞳を覗き込まれた。
「この前まで俺の上に跨ってヒイヒイよがってたくせに、突っ込んでくれそうな奴が出来た途端その態度……お前、分かりやすいなあ――」
「……っ!」
侮辱的な言葉に羞恥と絶望を煽られ、何も言い返すことができない。
「そろそろ、お前の長旅も終わりって訳だ……」
カインの尾がしゅるりと太腿に巻き付いてきて、その唇が熱を帯びた耳朶に近付き囁く。
「分かってんのか……? お前、あの男とヤッたら、俺の付けてやってる守りが消え失せるんだぞ」
「……それでも、俺は構わない。だからもう、お前とは二度と会わな――」
全て言い終わらない内に、レオンの内腿に鋭い痛みが走った。
「いっ……つ……!」
余りにも深く針を刺された感覚があり、肉を裂かれるような痛みに膝から地面に崩れ落ちる。
いつもならすぐに引っ込むそれは、ずっとレオンの体内に止まったまま、熱を放ってドクドクと何かを血管に放出し出した。
心臓の動悸が急激に激しくなり、目の前の視界がユラユラと歪む。
「な……何……を……」
身体中の血管が心臓になったかのように脈打ち、下半身がマグマのように熱く疼く。
全力疾走した後のように呼吸が激しくなり、話すこともままならずレオンは地面に倒れ伏した。
余りの動悸に微細な血管が破れたのか、鼻の穴からつうっと血が溢れて頬に落ち、地面に染みていく。
「バカ、あんまり怒らせるから加減を間違えちまっただろうが……っ」
カインが苛立った口調で吐き捨て、倒れたレオンの胸を抱きおこす。
「ふぁあっ……!」
その腕がちょうど硬くなった乳首に当たって擦れた――それだけで、強い性感が体を駆け抜けて下半身を直撃し、射精で下着が汚れていくのが分かった。
開きっぱなしの唇の端から涎がダラダラと零れ落ち、麻薬のようなカインの体液が身体中で暴れ、レオンを支配していく。
涎と涙がボトボトと垂れ落ち、顔がぐちゃぐちゃに汚れている。
身体はカインにグイグイと強く引き摺られてゆき、やがて、先刻まで寝ていた毛布の上に身体が仰向けに放り出された。
衝撃が走り、地面に後頭部と背中を強く打ち付ける。
今はその痛みさえ、甘い愛撫のように身体を悦ばせた。
「落ち着くまで待ってやる……。今ヤるとお前の心臓が止まっちまうからな」
カインが覆いかぶさるようにしてレオンの顔を覗き込み、頬についた血と涙を舌で乱暴に舐め上げる。
「……っん……!」
その感触は酷く甘美で、懐かしい。
カインはそれ以上レオンに触れることはせず、隣に沿うように体を横たえながら、揶揄するように囁いた。
「……変わったもんだな、レオン。――お前の神は、恋愛も男の恋人も許さないんじゃなかったのかよ」
その言葉に、レオンは首を彼の方に向けた。
苦しい呼吸の下で初めて相手の顔を見つめ、答える。
「……。俺はオスカーと会って……俺が正しいと思っていたことが、誰にとっても絶対的に正しいということはない、と知ったんだ……。信仰を捨てたわけではないが、人を愛すること自体を、禁忌とは思えない……お前のことももう、悪魔だとは……思わない……」
カインが驚いたように瞳を見開き、そして、見たことも無いような切ない表情を浮かべた。
「今更そんな事を言やがって……お前の方がまるで悪魔だぜ、レオン……」
白い指が壊れ物に触れるように優しく頬を撫で、カインが独り言のように呟いた。
「……お前の願いを全部残らず叶えて、与えられるもんは全てお前に与えても、……お前が俺を愛することなんてねえのにな……」
「……? どう言う事だ……」
意味が分からずに聞き返すが、彼は答えない。
暫く沈黙が二人の間に降り積もり、やがて、カインが口を開いた。
「レオン……お前には辛い話かも知れねえが、――あの男は、この先も絶対にお前を抱かねえよ」
「……っ。今更、こんな時に現れて何のつもりだ。俺が逃げ帰るのを待ってるんじゃなかったのか」
まるで自分の葛藤をぶつけるようにキツい口調になってしまう。
これでは八つ当たりだ。自分でもそう分かっているのに、止められなかった。
「随分な言い方するじゃねえか。そろそろお前が泣いている頃だと思って、一足早く来てやったんだろ」
カインがクッと喉を鳴らし、意地の悪い調子で続けた。
「慰めてやろうか? お前……欲しいんだろう。男が……」
カッと頬が熱くなり、レオンは激昂した。
「欲しくない! お前とはもう、二度とあんな事はしない! この先永遠にだ……!」
これ以上カインの顔を見ている事が辛くなり、視線を外したまま激しい言葉をぶつける。
そうしなければ――カインの顔を真正面から見てしまったら、またその腕にすがり抱擁を求めてしまいそうだった。
思い出してしまう。
気紛れに与えられる温もりや、一緒に過ごした幾つもの夜や、髪を撫でる手を。
その上もし恋人がこの場に帰ってきたりしたら、どんな事態が起きるか分からない。
早くカインを帰らせなければと焦る気持ちがつのった。
「お前とは金輪際もう会わない! 俺のことは放って、早く帰ってくれ……っ」
あからさまな拒絶の言葉を浴び、カインの整った顔に炎のような怒気が浮かび上がる。
「おいおい、一体どういう風の吹き回しだよ。――ああ。男が出来たからか……」
嘲笑うような視線を向けられ、カインの指がレオンの顎に触れる。
唇を親指の腹で撫でられ、至近距離からじっとこちらの瞳を覗き込まれた。
「この前まで俺の上に跨ってヒイヒイよがってたくせに、突っ込んでくれそうな奴が出来た途端その態度……お前、分かりやすいなあ――」
「……っ!」
侮辱的な言葉に羞恥と絶望を煽られ、何も言い返すことができない。
「そろそろ、お前の長旅も終わりって訳だ……」
カインの尾がしゅるりと太腿に巻き付いてきて、その唇が熱を帯びた耳朶に近付き囁く。
「分かってんのか……? お前、あの男とヤッたら、俺の付けてやってる守りが消え失せるんだぞ」
「……それでも、俺は構わない。だからもう、お前とは二度と会わな――」
全て言い終わらない内に、レオンの内腿に鋭い痛みが走った。
「いっ……つ……!」
余りにも深く針を刺された感覚があり、肉を裂かれるような痛みに膝から地面に崩れ落ちる。
いつもならすぐに引っ込むそれは、ずっとレオンの体内に止まったまま、熱を放ってドクドクと何かを血管に放出し出した。
心臓の動悸が急激に激しくなり、目の前の視界がユラユラと歪む。
「な……何……を……」
身体中の血管が心臓になったかのように脈打ち、下半身がマグマのように熱く疼く。
全力疾走した後のように呼吸が激しくなり、話すこともままならずレオンは地面に倒れ伏した。
余りの動悸に微細な血管が破れたのか、鼻の穴からつうっと血が溢れて頬に落ち、地面に染みていく。
「バカ、あんまり怒らせるから加減を間違えちまっただろうが……っ」
カインが苛立った口調で吐き捨て、倒れたレオンの胸を抱きおこす。
「ふぁあっ……!」
その腕がちょうど硬くなった乳首に当たって擦れた――それだけで、強い性感が体を駆け抜けて下半身を直撃し、射精で下着が汚れていくのが分かった。
開きっぱなしの唇の端から涎がダラダラと零れ落ち、麻薬のようなカインの体液が身体中で暴れ、レオンを支配していく。
涎と涙がボトボトと垂れ落ち、顔がぐちゃぐちゃに汚れている。
身体はカインにグイグイと強く引き摺られてゆき、やがて、先刻まで寝ていた毛布の上に身体が仰向けに放り出された。
衝撃が走り、地面に後頭部と背中を強く打ち付ける。
今はその痛みさえ、甘い愛撫のように身体を悦ばせた。
「落ち着くまで待ってやる……。今ヤるとお前の心臓が止まっちまうからな」
カインが覆いかぶさるようにしてレオンの顔を覗き込み、頬についた血と涙を舌で乱暴に舐め上げる。
「……っん……!」
その感触は酷く甘美で、懐かしい。
カインはそれ以上レオンに触れることはせず、隣に沿うように体を横たえながら、揶揄するように囁いた。
「……変わったもんだな、レオン。――お前の神は、恋愛も男の恋人も許さないんじゃなかったのかよ」
その言葉に、レオンは首を彼の方に向けた。
苦しい呼吸の下で初めて相手の顔を見つめ、答える。
「……。俺はオスカーと会って……俺が正しいと思っていたことが、誰にとっても絶対的に正しいということはない、と知ったんだ……。信仰を捨てたわけではないが、人を愛すること自体を、禁忌とは思えない……お前のことももう、悪魔だとは……思わない……」
カインが驚いたように瞳を見開き、そして、見たことも無いような切ない表情を浮かべた。
「今更そんな事を言やがって……お前の方がまるで悪魔だぜ、レオン……」
白い指が壊れ物に触れるように優しく頬を撫で、カインが独り言のように呟いた。
「……お前の願いを全部残らず叶えて、与えられるもんは全てお前に与えても、……お前が俺を愛することなんてねえのにな……」
「……? どう言う事だ……」
意味が分からずに聞き返すが、彼は答えない。
暫く沈黙が二人の間に降り積もり、やがて、カインが口を開いた。
「レオン……お前には辛い話かも知れねえが、――あの男は、この先も絶対にお前を抱かねえよ」
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