聖騎士の盾

かすがみずほ@理想の結婚二巻発売中

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【続編・神々の祭日】騎士の目覚め

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「久々だな、ここは」
 気が付けば2人の馬は王城のある丘のふもとの神殿に近付いていた。
 階段が付けられ少し高くなった土台の上に、上下に彫刻の装飾のついた柱の並び立つ出入り口が見える。
 まだ屋根の崩れかけた部分がガラス窓の並ぶ側面に垣間見え、レオンは何気なく呟いた。
「神官が戻っているのに、まだ天井が壊れたままなんだな」
 見上げながらレオンが言うと、オスカーが肩を竦めた。
「王城もそうだが、こういった切石で構築された建造物の修復は、相当に力量のある建築家と石工職人が必要だ。この地方ではそんな人材はとっくに亡命して、外国で既に職についている。他から呼んできて雇うにも莫大な金額が要るだろうな」
 それを聞くと、こうした建物にまで復興の手が回るのは何百年後なのだろうという気がしてくる。
 今のこの地方は、やっと食べるのに困らなくなって来たという所なのだから。
 神殿の前で馬を降りていると、柱の間から黒い巻き毛と、そばかすを散らした顔が特徴的な、小柄な中年の神官が走り出て来た。
「アビゴール様! レオン!」
「ティモ、その名前で呼ぶな」
 慌ててオスカーが注意すると、神官――ティモは少年のようにぺろっと舌を出してはにかんだ。
「これは失礼、オスカー様。お待ちして居ましたよ。レオンもよく来たな! 久しぶりに会えて嬉しいぞ」
 小躍りするほどはしゃぎながらティモがレオンに抱きついてくる。
「ん。お前、ちょっと痩せたのではないか? 食べるものがないなら、神殿からまた幾らでも供物を届けるぞ」
「いや、家庭菜園が意外と上手くいってるから、今のところは……神殿修復の費用が大変なんだろ、俺のところは気遣わなくていい」
 親しく肩を抱かれながら間近で話している内に、オスカーの表情がみるみる凍りつく。
 彼らしからぬ空気を出し始めているのを見て、流石にレオンも気付き、目配せした。
(こいつは元からこういう性格なんだ、そんなんじゃない)
「さあさあ、来てくれ。以前よりかはずっと綺麗にしたんだ。仮ごしらえだがお前が落っこちてきた床の穴も塞いだし、魔物避けに窓に目張りしていたのも取っ払ったから、見違える様になってるからな」
 腕を掴んで引っ張られ、神殿の身廊に連れ込まれる。
「これは……」
 以前の、穴が開いている場所以外は闇に包まれた神殿を想像していたので、驚いた。
 奥の祭壇まで続く長い身廊が、側壁に並べるように設けられた縦長の窓のステンドグラスの五彩の光に照らされている。
 ずっと昔、じぶんの育ったタルダンの首都の教会を思い出し、懐かしく温かい気持ちになった。
「こんなに美しい神殿だったんだな……」
「この国1番の神殿だぞ、異国人。さあさあ、お前たちの部屋は奥だ」
 強引にどんどん奥へ連れて行かれるレオンをよそに、背後ではオスカーが、いつのまにか現れた老神官ベアリットに呼び止められていた。
「オスカー様。誠に誠に、おいで頂いて心強う思います……」
「神官長殿、会いたいと思っていた所だ。少し2人で話をしたい」
 振り向くと、2人は踵を返してレオン達とは別の方向へ行ってしまう所だった。
「オスカー……」
「お前はこっち、こっち。荷は神官見習いに運ばせておくから、ゆっくりくつろげ」
 ティモに強引に連れて行かれ、彼らを追い掛ける事も出来ない。
 柱の影に消えてしまった恋人の行き先がわからないまま、レオンは奥の部屋に引き摺られて行った。


 ――結局その日、オスカーは終日神殿に帰ってこなかった。
 王都での滞在にあてがわれた部屋は、皮肉にも、いつか再会したカインと結ばれたあの部屋だ。
 二つ並んだベッドの片方に腰掛け、一人きりのままでは思い切って出かけることも出来ず、ずっと待ちぼうけを喰らう羽目になった。
 最後には部屋に籠っているのもバカらしくなり、神官たちに夕食を馳走になった後は部屋に帰らず、ふらりと歩きで街へ出かけた。
 大通りは酒場を中心にまだ賑わっていて、以前来た時とはまるで別の場所のようだ。
 酒は昔戒律で遠ざけていて、今に至るまで殆ど飲んだことが無い。だが今夜はひどくふて腐れた気分だったので、どこかに入ってやろうかという気分になった。
 人の間をブラブラとゆっくり歩いて、いくつかの営業中の店に目星を付ける。
 なるべくトラブルに巻き込まれなさそうな場所を探していると、急に後ろから腕を掴まれた。
「カッコいい騎士のお兄さん。あたしと遊んで行かない?」
 振り向くと、豊かな胸を露わにした赤いドレスを身に付けた妙齢の女が微笑んでいる。
「いや、俺は……」
 戸惑いながら腕をもぎ離した。
 よくよく見れば、そこは昼間に見た娼館の前だ。
 袖にされた女が残念そうに濃い化粧の眉を下げる。
「あら、あんたはカタブツなのねえ。昼間あんたと一緒にいた綺麗な貴族様はお楽しみの真っ最中なのに」
 その言葉にレオンは凍りついた。
「オスカーが……?」
「そうよ、あの素晴らしい金髪の、信じられないくらいカッコいい貴族様。あんたのご主人なんでしょ」
 呆然としていかがわしい館のファサードを見上げる。
 その開け放した窓には、白い胸を露わにした女達が腕を広げ、男達に声を掛けては笑い声を上げていた。
(あいつが、ここで女を……)
「だからさあ、あんたも遊んでいきなよ。割引するよ」
 一瞬ついて行って中に入り、オスカーを探そうかと思った。
 だが、探してどうなるだろう。
 女を抱いている彼の前に出て行って、何故こんな所にいる、浮気者と詰問するのかーーそんな事をこの場所でしたら、良い笑いものだ。
 自分が男の愛人だという事を宣伝することになり、貴族としてのオスカーの顔にも泥を塗る。
 それがどれだけ人間としての彼にとってマイナスになるか、それくらいのことは自分にもわかる――。
「俺はいい……帰る」
「あんたは真面目なのねえ、残念だわ。気が変わったら来てね」
 手を振った娼婦に振り返ることなく、レオンは沈んだ表情で俯き、神殿への道を戻り始めた。 
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