聖騎士の盾

かすがみずほ@理想の結婚二巻発売中

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【続編・神々の祭日】騎士と甘橙(オレンジ)

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「……っ」
 無意識のうちに尻込みしてしまう。
 やはりカインの言う通り謹慎が解かれてから、神殿の離れにある彼らの屯所に訪ねて行くべきだろうか。
 しかしそれをすれば軍服を着ず、しかも情けなく謝っている姿を他の兵士たちにも見られる事になる。
(やはり、今だな)
 固唾を呑み、対面の壁に掛かっている錆びた牢の鍵束を手に取った。
 鍵穴に鍵を差し込み、金属の擦れる鈍い音をさせながらそれを回す。
 その気配にピクリと反応して、中の男が僅かにこちらに顔を向けた。
「……誰だ」
「……」
 私服で部下に名乗るのが気恥ずかしく、黙ったまま中へ長靴を踏み入れる。
 オレンジの籠を肩がけで隠し、灯火で中を照らすと、ジメジメした剥き出しの石壁が光を反射した。
 ヴィクトルがひどく眩しそうに手の甲をかざす。
 この場所には一条の光も無いものだから、慣れていない目にはキツいのだろう。
 手の下の顔には痛々しい痣が出来ていて、髪で隠れていても酷く腫れ上がっているのが分かる。
 レオンはランタンを足元に置いてフードを背中に払った。
「……シェンク……俺だ」
 顔を明らかにして名乗ると、相手は酷く驚き、動揺したように口を開けたまま固まった。
「そ……総長……?」
 余りに驚いているのか、いつもの反抗的な態度が吹き飛んでいる。
「何だ……そんなに驚くような事か?」
 こちらの方が面食らってしまって、はにかみながら尋ね返す。
「そりゃあそうだろう……あんた、こんな場所に来た事など無かったし……なんというか」
 ヴィクトルは首を上下させ、長い前髪の下の琥珀色の目でこちらをジロジロと眺めた。
「そんな格好もするんだな……」
 うっと胸がつかえる。
 農村で気楽に暮らしている時ならともかく、部下を持った以上、寛いでいる時の姿など出来れば見せたくは無かった。
「隣、いいか」
 尋ねると、相手は黙って寝台の端に移った。
 その事にホッとしながら腰を下ろし、至近距離で相手を見つめる。
「……お前、顔と足は大丈夫か」
 おずおずと尋ねると、相手は機嫌を害したようにそっぽを向いた。
「この顔が大丈夫に見えるか。足もあんたが折れる寸前まで締めてくれたからな。未だにおかしい」
「……悪かった……やり過ぎた。許してくれ……」
 瞼を伏せながら素直に謝ると、相手はビクッと肩を跳ねあげてこちらを向いた。
「気味が悪い……一体どういう風の吹き回しだよ」
 自分でも気持ちが悪かったが、我慢して言葉を続ける。
(ええと、あとは何を言うんだったか……?)
「その……。……お前がいないと、俺は困るらしい」
「困る?……らしい?」
 相手は怪訝な顔をしている。
(い、言うことを間違えたか……?)
 カーッと頬が熱くなり、しどろもどろになりながら懸命に考えて言葉を繋げる。
「その、つまり、だから、ちゃんと訓練に出て欲しい……お前は剣も格闘も他の兵士とは段違いだし、……他の兵士のいい指導役になれる、はずだ」
 思い付いたことを適当に話したので、セリフのような棒読みになった。
 ヴィクトルが溜息をつきながら前髪を掻きあげ、あらわになった鋭い釣り目でこちらを睨み付ける。
「誰の入れ知恵だ? 例の伯爵様か」
 心臓が凍りそうになった。
(かっ、カイン、バレてるんじゃないか……!? いや、俺の受け答えが不味かったのか!?)
 余りの恥ずかしさに冷や汗がダラダラと額から落ちる。
「違う……本当に悪かったと思って……来たんだ……」
 しどろもどろになりながら言うも、嘘がバレているのか、興味なさそうに視線を外されてしまった。
 シーンと会話が続かなくなってしまい、困り果てる。
 この空気で突然贈り物を出すのもどうかと思われて、レオンは周囲を見回して必死に話題を探した。
 視線を落とすと相手の膝の上に、娼館で投げつけられたあの本がある事に気付き、会話を必死で繕う。
「そ……それは共通語の本だろう? 投げられた時に少し見えた……。お前、共通語が分かるんだな?」
 すると、相手は面倒そうにではあるが、反応を返してきた。
「分かっちゃ悪いか。……あんたが伯爵様と話してる内容も大体分かるぜ。共通語で話す時は敬語を使ってないだろ」
 ドキッと心臓が跳ねる。
「単なる騎士と伯爵様って感じがしねえんだよ。一体あんたらどういう関係なんだ」
(……っ、なんてカンのいい男だ)
 味方になればいいが敵にするには余りに恐ろしい。
「俺は元々彼に仕えていた訳じゃない。この国で出会って、彼に命を助けられたんだ。オスカーとは最初友人だったから、今も2人の時にはそんな風に接している……」
 少なくとも嘘ではない、と念じながら言い訳をする。
「成る程ね。あんた、元々どこの出身なんだ」
「タルダンだ」
 答えた途端、ヴィクトルの顔色が少し変わった。
「異国人じゃなかったのか?」
「いや、俺は異国人だ。信じては貰えないだろうが、百年以上前のタルダンの出身だから」
「あんたも、魔物だったのか……」
 驚いたように相手が目を見開く。
「それは少し違う。でも、同じようなものかな」
 説明するのが難しい上に真相を話すのが恥ずかしいので、言葉を濁した。
「喋る共通語が妙に古めかしいと思ったんだ。それに、色んな意味で人間離れしているからな。納得したぜ……」
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