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【続編・神々の祭日】騎士と甘橙(オレンジ)
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(色んな意味?)
引っかかったが、敢えて訊くのはやめた。
「なあ、バルドルには行ったことがあるか。タルダンから近いだろ」
急に相手が積極的に質問してきたので、驚いた。
「ある。ずいぶん昔だが」
「バルドルは俺の母の故郷だ」
初めて身の上らしき事を言い出した相手に驚きつつも微かな希望を感じた。
「そう、みたいだな」
ぎこちなく相槌を打つと、ヴィクトルが驚いて問い返してきた。
「あんた、知ってたのか?」
「部下の身上書に目を通すのは当たり前だ」
「ほんとにクソ真面目なんだな……」
クスクスとヴィクトルが笑い出した
笑顔を見たのは初めてで、心の底から驚く。
「それで、真面目なあんたがその可愛いケープの下に隠してるのは、何なんだ」
「えっ、あっ……」
先に気づかれてしまい少し恥ずかしくなりながら、肩がけの下からオレンジの籠を取り出て相手に押し付ける。
「その……お前にやる」
ヴィクトルの表情から笑みが消えた。
「こんな北のほうじゃ普通手に入らない筈のものだ。……これ、あんたが?」
嘘がつけないので、ただ無言で頷く。
ヴィクトルがぼんやりと手元を見下ろしたまま、独り言のように呟いた。
「これはバルドルでしか採れない果実だと……旅商人の父がよく、母の故郷からこれを土産に持って帰ってきた……母は懐かしいと喜んで、俺に切って食わせてくれた……」
そこまで話すと、彼はハッと口を噤んでバツの悪そうな顔をした。
「余計な事を話させやがって……! あんたが妙な格好で妙な真似をするから」
その様子に初めてレオンの緊張が解け、思わずくすっと笑みが浮かんだ。オレンジを一つ手に取り、問い掛ける。
「腹が減っていないか? 俺が切ってやろうか」
「いや、いい。……もう、放っておいてくれ……」
俯き急に沈んだようになった相手に密かに狼狽し、レオンは謝った。
「……。辛いことを思い出させたなら、悪かった。もう俺は戻ろう」
どうやらカインの作戦は失敗だったらしい。これ以上いるとまた余計なことをしてしまいそうで、レオンは寝台から立ち上がりかけた。
――が、ヴィクトルの手が伸びてきてレオンの手首を掴み、留める。
どうしたらいいのか頭が真っ白になって焦っていると、下を向いたまま彼が唇を開いた。
「……俺の母は、俺が魔物になり、頭がおかしくなっていた数十年の間に、もう……」
触れられている指の冷たさと、その吐き出すような言葉に、レオンの腕が震えた。
「旅先で死んだ親父の代わりに、俺が軍で出世して、楽に暮らさせてやる筈だったんだ……」
彼の背負う孤独に、どんな声を掛けてやればいいのだろう。
答えが出ないまま、ただ思ったことを言葉を紡ぐ。
「……俺には父も母も居たことがないから分からないが、家族を失うのは、最初から持たないよりも、ずっとずっと辛いんだろうな……」
自分はカインに出会い、オスカーに救われて、今は以前よりずっと心穏やかに暮らしている。
けれどこの男には、つるむ仲間はいても、心を許す相手が居ない。
そう思うと気の毒で仕方がなくなり、俯いたヴィクトルの肩に触れて抱いた。
途端に握られていた腕をぐいと引き寄せられ、じっと透き通った瞳で見つめられる。
「あんたは何で俺にそんな風に言えるんだ……! 国までなくなっちまって、あんたの方がよっぽど辛い人生だろうに――」
レオンは柔らかに微笑み、首を振った。
「いや、俺はこの国で、今まで生きてきた中で1番幸せに暮らしているから辛くはない。俺はお前の言う通り異国人かもしれないが、俺を幸せにしてくれたこの国と、この国の人々が好きだ……」
ヴィクトルの琥珀色の瞳が揺れる。
「……。あんたはきっと……。あんたみたいなのを共通語で……と、言うんだろうな」
「え?」
早口で一部を聞き取れず、首をかしげる。
相手はしばらく押し黙り、ぱっと首を振った。
「いや何でもない……。引き留めて悪かった。もう帰ってくれ、あんたの気持ちは分かったから」
肩を押されるようにして遠ざけられる。
レオンは頷き、籐籠からナイフを取った。
「これは牢内には置いてはおけないから、持って帰るぞ」
「ああ、構わない。ここでは食わない……勿体無いからな」
そう言った彼の表情は、今まで見たことのないほど穏やかなそれだった。
床のランタンをとり、会釈して牢を出て、鍵を閉める。
「規則は規則だからな。また三日後に」
急にかしこまったレオンを、ヴィクトルは苦笑して見送った。
「そう言うところはあんたらしいな……」
背後で彼が寝台の藁の上に横になる気配がする。
相変わらず奥の牢からはいびきが聞こえていて、くすりと笑みがこみ上げた。
光を掲げて牢を離れ、帰り道を歩む。
――胸の中にも小さな光が灯ったような気がして、その足取りは軽かった。
引っかかったが、敢えて訊くのはやめた。
「なあ、バルドルには行ったことがあるか。タルダンから近いだろ」
急に相手が積極的に質問してきたので、驚いた。
「ある。ずいぶん昔だが」
「バルドルは俺の母の故郷だ」
初めて身の上らしき事を言い出した相手に驚きつつも微かな希望を感じた。
「そう、みたいだな」
ぎこちなく相槌を打つと、ヴィクトルが驚いて問い返してきた。
「あんた、知ってたのか?」
「部下の身上書に目を通すのは当たり前だ」
「ほんとにクソ真面目なんだな……」
クスクスとヴィクトルが笑い出した
笑顔を見たのは初めてで、心の底から驚く。
「それで、真面目なあんたがその可愛いケープの下に隠してるのは、何なんだ」
「えっ、あっ……」
先に気づかれてしまい少し恥ずかしくなりながら、肩がけの下からオレンジの籠を取り出て相手に押し付ける。
「その……お前にやる」
ヴィクトルの表情から笑みが消えた。
「こんな北のほうじゃ普通手に入らない筈のものだ。……これ、あんたが?」
嘘がつけないので、ただ無言で頷く。
ヴィクトルがぼんやりと手元を見下ろしたまま、独り言のように呟いた。
「これはバルドルでしか採れない果実だと……旅商人の父がよく、母の故郷からこれを土産に持って帰ってきた……母は懐かしいと喜んで、俺に切って食わせてくれた……」
そこまで話すと、彼はハッと口を噤んでバツの悪そうな顔をした。
「余計な事を話させやがって……! あんたが妙な格好で妙な真似をするから」
その様子に初めてレオンの緊張が解け、思わずくすっと笑みが浮かんだ。オレンジを一つ手に取り、問い掛ける。
「腹が減っていないか? 俺が切ってやろうか」
「いや、いい。……もう、放っておいてくれ……」
俯き急に沈んだようになった相手に密かに狼狽し、レオンは謝った。
「……。辛いことを思い出させたなら、悪かった。もう俺は戻ろう」
どうやらカインの作戦は失敗だったらしい。これ以上いるとまた余計なことをしてしまいそうで、レオンは寝台から立ち上がりかけた。
――が、ヴィクトルの手が伸びてきてレオンの手首を掴み、留める。
どうしたらいいのか頭が真っ白になって焦っていると、下を向いたまま彼が唇を開いた。
「……俺の母は、俺が魔物になり、頭がおかしくなっていた数十年の間に、もう……」
触れられている指の冷たさと、その吐き出すような言葉に、レオンの腕が震えた。
「旅先で死んだ親父の代わりに、俺が軍で出世して、楽に暮らさせてやる筈だったんだ……」
彼の背負う孤独に、どんな声を掛けてやればいいのだろう。
答えが出ないまま、ただ思ったことを言葉を紡ぐ。
「……俺には父も母も居たことがないから分からないが、家族を失うのは、最初から持たないよりも、ずっとずっと辛いんだろうな……」
自分はカインに出会い、オスカーに救われて、今は以前よりずっと心穏やかに暮らしている。
けれどこの男には、つるむ仲間はいても、心を許す相手が居ない。
そう思うと気の毒で仕方がなくなり、俯いたヴィクトルの肩に触れて抱いた。
途端に握られていた腕をぐいと引き寄せられ、じっと透き通った瞳で見つめられる。
「あんたは何で俺にそんな風に言えるんだ……! 国までなくなっちまって、あんたの方がよっぽど辛い人生だろうに――」
レオンは柔らかに微笑み、首を振った。
「いや、俺はこの国で、今まで生きてきた中で1番幸せに暮らしているから辛くはない。俺はお前の言う通り異国人かもしれないが、俺を幸せにしてくれたこの国と、この国の人々が好きだ……」
ヴィクトルの琥珀色の瞳が揺れる。
「……。あんたはきっと……。あんたみたいなのを共通語で……と、言うんだろうな」
「え?」
早口で一部を聞き取れず、首をかしげる。
相手はしばらく押し黙り、ぱっと首を振った。
「いや何でもない……。引き留めて悪かった。もう帰ってくれ、あんたの気持ちは分かったから」
肩を押されるようにして遠ざけられる。
レオンは頷き、籐籠からナイフを取った。
「これは牢内には置いてはおけないから、持って帰るぞ」
「ああ、構わない。ここでは食わない……勿体無いからな」
そう言った彼の表情は、今まで見たことのないほど穏やかなそれだった。
床のランタンをとり、会釈して牢を出て、鍵を閉める。
「規則は規則だからな。また三日後に」
急にかしこまったレオンを、ヴィクトルは苦笑して見送った。
「そう言うところはあんたらしいな……」
背後で彼が寝台の藁の上に横になる気配がする。
相変わらず奥の牢からはいびきが聞こえていて、くすりと笑みがこみ上げた。
光を掲げて牢を離れ、帰り道を歩む。
――胸の中にも小さな光が灯ったような気がして、その足取りは軽かった。
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