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【続編・神々の祭日】囚われの貴公子
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驚いたレオンの前で、ヴィクトルが足元にカンテラを置き懐を探る。
「待ってて下さい、今開けます」
そう言うと、彼は傭兵達に持っていかれたはずの鍵束で牢の鍵を開け始めた。
「鍵があったのか」
「地下への階段の前で眠りこけてる怪しい男がいたんで、そいつから失敬しました」
彼が出会ったのは恐らく、時折レオンの様子を見に来て居た見張りの傭兵だろう。
ギレスが警戒し置いて行ったのだろうが、恐らく少人数で寝ずの番をするには手に余ったのかもしれない。
ガチャンと音を立てて牢の扉が開き、ヴィクトルが大股で中へ入ってきた。寝台に膝を掛け、軍服の衣嚢《いのう》から折り畳みのナイフを出し、レオンの手首の縄を切り始める。
「一体何があったんです。伯爵殿は突然ギレスにくっついて東部に行っちまったって言うし、総長は付いてった訳でもなくどこにも見当たらないしで……心配して探しに来たらこれだ」
ズキンと心の痛みを感じ、レオンは肩を震わせた。
「オスカーは東部へ発ったのか……」
「昨日のうちに、恐ろしい速さで。――ほら、やっと切れました。酷い縛り方をしたもんだ」
きつく縛められた腕が解放され、血流の戻る痺れた感覚が冷たい指に回ってゆく。
やっと腕を動かせるようになったのに、レオンはぼんやりと空を見つめていた。
(カインはもう、王都にはいない……)
ヴィクトルが気付いて助けてくれたのは心底有難いが――ここから解放されたとて、自分は一体どうすれば良いのだろう。
そもそも、カインの正体の絡むあの出来事を誰にどう相談したら良いのかも分からない。
「おい、大丈夫か」
急に乱暴な共通語で話しかけられてハッとした。
振り返るとヴィクトルが真剣な顔でこちらを見つめている。
彼はレオンの表情を見た途端、驚いたように肩を竦めた。
「あんた、何て顔してんだよ……」
「え……」
一晩牢に入れられていたとはいえ、そんなに憔悴した顔をしているのだろうか。
レオンが戸惑っていると、頬を両手で挟まれた。
そのまま優しく親指で撫でるようにされ、冷え切った皮膚にヴィクトルの熱い体温が伝わる。
彼の美しい形の瞳が一瞬どこか切なげに伏せられ、形のいい唇が開いた。
「……飼い主に置いてかれた犬みたいな顔してる」
「!」
思わずムッとして、頬にくっついている相手の手を払った。
「人を犬扱いするな! それから言葉遣い!」
「はいはい。せっかく助けて差し上げたのにつれねえ人ですね」
また半端な敬語のエルカーズ語に戻り、相手が肩を竦めて立ち上がる。
「取り敢えず詳しい話を聞くのは後だ。出ましょう、総長殿」
レオンはヴィクトルと共に牢を出ると、寝ている見張りの傭兵を一度起こしてから殴って気絶させ、自分の牢に代わりに入れた。
仲間がいるかもしれないが、気付いてギレスが知るところになるまでは多少時間がかかるだろう。
王城を出ると外は暗かった。――オスカーが連れ去られてからやはり一日以上が経過している。
闇に紛れて丘を下り、レオンはヴィクトルを連れたまますぐに神殿へと向かった。
そこへ行けば、普段から神官用の控え室に寝泊まりしているマルファスとハルファスがいるはずだ。
カインと同じ神である彼らなら、彼を助ける方法を相談できるかもしれない――。
レオンが神殿の入り口をくぐった途端、奥の内陣の扉から、そばかすの散った顔面を蒼白にしたティモが走り出て来た。
「レオン……! 随分探してたのだぞ……!」
「ティモ」
小柄なティモが泣き出さんばかりにレオンに抱きついてくる。
「アビ……オスカー様が王都を捨てて、東部なんかに行ってしまうはずがないよな!? しかも、あのギレスの娘と結婚するためにだなんて……っ。一体どういうことなんだ!?」
ティモの言葉に横のヴィクトルの方が驚いた。
「……伯爵様、結婚すんのか? 総長」
射抜くような琥珀の瞳で見られ、何も答えられない。
何も知らないヴィクトルを神殿に伴って来てしまったことを後悔したが、命の恩人を無碍《むげ》にもできなかった。
「ティモ……。その話、どこで知った」
呻くように尋ねる。
「法王様にギレスから使いの者が来て……だが到底信じられない。だってあの方はあんなにお前を溺――もが」
レオンは真っ赤になってティモの口を抑えた。
会議期間中の例の「儀式」のせいで、自分と彼がそういう仲だと言うことはすっかりこの男に知られてしまっている。だが、それを部下にまで知られるのは流石にまずい。
「マルファス達はどこにいる?」
慌てて話題を変えると、ティモがはっとして視線を背後に流した。
「えっ……あのお二人は、昨日の昼過ぎから他国の建築物の視察に行くとかで王都を出られている。私もこの事を相談したかったが、どこまで遠くへ行ったかも分からない」
「そうか……」
がっくりして溜息が出た。
マルファス達は神の特別な力と道具を使い、かつてカインがそうだったように、千里の距離も1日で移動することが出来る。
どこに行ったのか分かったとしても、恐らく追いかける事は不可能だろう。帰りを待つしかない。
孤立無援になってしまった気分で身体が重くなる。
それでも一人きりでどうにか今後のことを考えようと思った時だった。
「レオン、黙っていたら分からない。何があったのか教えてくれないか」
「その通りだ。総長、そんな顔をしていないで話してくださいよ」
萎えた肩にティモとヴィクトルが触れてきて、レオンはハッとした。
カインが居なくなっても、今の自分には温かな繋がりがあるという事に気付かされる。
胸が熱くなり、二人の顔を交互に見た。
「ありがとう……二人とも。話すから、俺がこれから明かす話は内密にしてくれ……」
二人が同時に頷く。
「結婚の為と言うのは表向きの話だ。――オスカーはギレスにさらわれた」
「待ってて下さい、今開けます」
そう言うと、彼は傭兵達に持っていかれたはずの鍵束で牢の鍵を開け始めた。
「鍵があったのか」
「地下への階段の前で眠りこけてる怪しい男がいたんで、そいつから失敬しました」
彼が出会ったのは恐らく、時折レオンの様子を見に来て居た見張りの傭兵だろう。
ギレスが警戒し置いて行ったのだろうが、恐らく少人数で寝ずの番をするには手に余ったのかもしれない。
ガチャンと音を立てて牢の扉が開き、ヴィクトルが大股で中へ入ってきた。寝台に膝を掛け、軍服の衣嚢《いのう》から折り畳みのナイフを出し、レオンの手首の縄を切り始める。
「一体何があったんです。伯爵殿は突然ギレスにくっついて東部に行っちまったって言うし、総長は付いてった訳でもなくどこにも見当たらないしで……心配して探しに来たらこれだ」
ズキンと心の痛みを感じ、レオンは肩を震わせた。
「オスカーは東部へ発ったのか……」
「昨日のうちに、恐ろしい速さで。――ほら、やっと切れました。酷い縛り方をしたもんだ」
きつく縛められた腕が解放され、血流の戻る痺れた感覚が冷たい指に回ってゆく。
やっと腕を動かせるようになったのに、レオンはぼんやりと空を見つめていた。
(カインはもう、王都にはいない……)
ヴィクトルが気付いて助けてくれたのは心底有難いが――ここから解放されたとて、自分は一体どうすれば良いのだろう。
そもそも、カインの正体の絡むあの出来事を誰にどう相談したら良いのかも分からない。
「おい、大丈夫か」
急に乱暴な共通語で話しかけられてハッとした。
振り返るとヴィクトルが真剣な顔でこちらを見つめている。
彼はレオンの表情を見た途端、驚いたように肩を竦めた。
「あんた、何て顔してんだよ……」
「え……」
一晩牢に入れられていたとはいえ、そんなに憔悴した顔をしているのだろうか。
レオンが戸惑っていると、頬を両手で挟まれた。
そのまま優しく親指で撫でるようにされ、冷え切った皮膚にヴィクトルの熱い体温が伝わる。
彼の美しい形の瞳が一瞬どこか切なげに伏せられ、形のいい唇が開いた。
「……飼い主に置いてかれた犬みたいな顔してる」
「!」
思わずムッとして、頬にくっついている相手の手を払った。
「人を犬扱いするな! それから言葉遣い!」
「はいはい。せっかく助けて差し上げたのにつれねえ人ですね」
また半端な敬語のエルカーズ語に戻り、相手が肩を竦めて立ち上がる。
「取り敢えず詳しい話を聞くのは後だ。出ましょう、総長殿」
レオンはヴィクトルと共に牢を出ると、寝ている見張りの傭兵を一度起こしてから殴って気絶させ、自分の牢に代わりに入れた。
仲間がいるかもしれないが、気付いてギレスが知るところになるまでは多少時間がかかるだろう。
王城を出ると外は暗かった。――オスカーが連れ去られてからやはり一日以上が経過している。
闇に紛れて丘を下り、レオンはヴィクトルを連れたまますぐに神殿へと向かった。
そこへ行けば、普段から神官用の控え室に寝泊まりしているマルファスとハルファスがいるはずだ。
カインと同じ神である彼らなら、彼を助ける方法を相談できるかもしれない――。
レオンが神殿の入り口をくぐった途端、奥の内陣の扉から、そばかすの散った顔面を蒼白にしたティモが走り出て来た。
「レオン……! 随分探してたのだぞ……!」
「ティモ」
小柄なティモが泣き出さんばかりにレオンに抱きついてくる。
「アビ……オスカー様が王都を捨てて、東部なんかに行ってしまうはずがないよな!? しかも、あのギレスの娘と結婚するためにだなんて……っ。一体どういうことなんだ!?」
ティモの言葉に横のヴィクトルの方が驚いた。
「……伯爵様、結婚すんのか? 総長」
射抜くような琥珀の瞳で見られ、何も答えられない。
何も知らないヴィクトルを神殿に伴って来てしまったことを後悔したが、命の恩人を無碍《むげ》にもできなかった。
「ティモ……。その話、どこで知った」
呻くように尋ねる。
「法王様にギレスから使いの者が来て……だが到底信じられない。だってあの方はあんなにお前を溺――もが」
レオンは真っ赤になってティモの口を抑えた。
会議期間中の例の「儀式」のせいで、自分と彼がそういう仲だと言うことはすっかりこの男に知られてしまっている。だが、それを部下にまで知られるのは流石にまずい。
「マルファス達はどこにいる?」
慌てて話題を変えると、ティモがはっとして視線を背後に流した。
「えっ……あのお二人は、昨日の昼過ぎから他国の建築物の視察に行くとかで王都を出られている。私もこの事を相談したかったが、どこまで遠くへ行ったかも分からない」
「そうか……」
がっくりして溜息が出た。
マルファス達は神の特別な力と道具を使い、かつてカインがそうだったように、千里の距離も1日で移動することが出来る。
どこに行ったのか分かったとしても、恐らく追いかける事は不可能だろう。帰りを待つしかない。
孤立無援になってしまった気分で身体が重くなる。
それでも一人きりでどうにか今後のことを考えようと思った時だった。
「レオン、黙っていたら分からない。何があったのか教えてくれないか」
「その通りだ。総長、そんな顔をしていないで話してくださいよ」
萎えた肩にティモとヴィクトルが触れてきて、レオンはハッとした。
カインが居なくなっても、今の自分には温かな繋がりがあるという事に気付かされる。
胸が熱くなり、二人の顔を交互に見た。
「ありがとう……二人とも。話すから、俺がこれから明かす話は内密にしてくれ……」
二人が同時に頷く。
「結婚の為と言うのは表向きの話だ。――オスカーはギレスにさらわれた」
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