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【続編・神々の祭日】囚われの貴公子
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ギレスの言葉は途中から、頭の上で響くミシミシという不穏な音で掻き消えた。
着飾った貴族たちが怪訝な顔をして広間の高い天井を見上げる。
「鼠か何か……?」
密集した彼らが騒ついた瞬間、会場の誰かが悲鳴に近い声で叫んだ。
「シャンデリアが!!」
気付けば直径10フィート(3メートル強)はある鉄製の王冠型シャンデリアが、揺れる炎の軌跡を描きグラグラと左右に振れている。
「危ない……!! 落ちるぞ……!?」
蜘蛛の子のように人々が散り、絹を裂くような貴婦人たちの悲鳴が上がった。
次の瞬間、ヒュオッという風を切る音がして密集した炎が一気に落下する。
木の裂ける破壊音と共に酒や料理の載っていた中央のテーブルが、鉄の重みで真っ二つに割れた。
同時に棘のような楔に固定されていた大量の蝋燭がバラバラに倒れ、ガラスと一緒に飛散する。
炎があちこちに飛んで燃え散り、割れたワイン樽と、酒の染み込んだテーブルクロスが一気に燃え上がった。
(ヴィクトル……!)
恐らく彼はシャンデリアの昇降装置のある近くの部屋に忍び込み、巻き上げ機の鎖を切ったに違いない。
「私の……私の美しいシャンデリアが!! 高価なガラス細工があああっ! ああっ、タペストリーにも燃え移ってしまう! 火を消せ、誰か!!」
ギレスが半狂乱で雄叫びを上げて走り回り、着飾った客達が慌てふためいて逃げ惑う。
レオンはすぐさま火焔の内側へ飛び込み、オスカーがいるはずの奥のテーブルに足を掛けて登った。
彼を探すが、上から見渡しても彼の座っていた席はもぬけのからだ。
煙の中で見回すと、傭兵に四方を囲まれ、会場から奥の間へと連れて行かれる金髪の後ろ姿が視界に入った。
「オスカー……っ!!」
その背中を追い、声の限り名を叫ぶ。
だがその華麗な衣装を纏った背中は振り返らない。
「……カイン……!!」
気付いてくれと悲痛な思いを込め、もう一度恋人の名を呼んだ。
すると、編まれた長い髪と飾り布を翻らせ、彼が一瞬こちらを振り返った。
その明るい緑の瞳がはっきりと自分を見て、驚きの表情を浮かべる。
形の良い唇が、声には出さずに言葉を形作った。
――お前は ここから すぐに 去れ。私に 構うな
その言葉を読み取った瞬間、レオンは大きなショックを受けた。
逃げるなら今しかないというこの状況で、何故彼がそんな事を言うのか分からない。
(カイン……何故……!)
頑なに自分の助けを必要としていないという態度を取る相手に、レオンは炎の中で呆然とした。
カインはまさか東部へ行くつもりだったのだろうか。
ギレスが神を召喚したとしても、結局の所、助力が得られるのは神の心に叶ったものだけだ。
神の力を欲する大公を誤魔化し、自分の欲しいものだけを手に入れる事など、もしかするとカインにとっては造作も無い事なのかもしれない。
けれど、その為にレオン一人が王都に残されるのだとしたら。
彼に連れられるままにここまで来てしまった自分は、一体どうすれば良いのか。
あの平穏で穏やかな屋敷の暮らしを捨て、彼の望むままに神殿騎士となったのに――。
王都に来てから、ずっと我慢に我慢を重ねてきた。
肌に合わないと何度も自覚しながら慣れない長の仕事を辛うじてこなし、相当な無理をしながら人の上に立つものであるように振る舞ってきた。
彼が執務室にこもり夜も帰らなくても文句も言わず、寂しくても辛くても我儘を言わないよう、一人寝の夜を何晩も耐えた。
ギレスの前でも、彼の意思を尊重して剣を抜きたくても辛抱し、縛られて牢に入れられても歯を食いしばり、抵抗すらしなかった。
たとえ彼が自分の考えをつまびらかに話してくれなくとも、問いただしたいのをこらえ、どんな時もずっと彼の思惑と立場を一番に考えて行動してきた――。
……だがそれももう、――限界だ。
「……っ!」
心中の葛藤の果てに、何かが頭の中でぶちりと千切れた音がした。
羽根の帽子と美しいマントをかなぐり、炎の中に投げ捨てる。
相手の耳に届くかも分からないまま、燃え盛る紅蓮の炎の中で高々と叫んだ。
「カイン……! もう俺は、我慢などしない! お前の言うことなど聞くものか……! 俺は俺の望む通りに行動する……お前がたとえ許さなくても、死体の山を築いてでも、俺はお前を取り戻すからな……!!」
エルカーズの未来も、平和も、神々の安寧も、カインの守ろうとするものも何もかもが、目の前にいる彼よりも大事だとどうしても思えない。
そんな自分を人でなしだと思いながらも止めることが出来なかった。
床に落ちた黒いガラスの破片を踏みにじり、体から陽炎のようにのぼり立つ激情を背負い歩き出す。
広間から奥の間の暗い廊下へ足を踏み入れると、レオンの叫びに反応したと思しきギレスの傭兵達が剣を抜いて待ち構えていた。
「何だぁお前は!? こっから先はギレス様の私室だぞ、分かってんのか!」
「こいつ剣を持ってやがる! お貴族様のフリした賊だな、てめえ……この火事はお前の仕業かあ!?」
一番手前に立つ、頬に向こう傷のある男がこちらに足を向けて迫ってくる。
「……邪魔をするなら切るぞ……命が惜しければそこを退け」
レオンは剣を抜き放ちながら、氷のような声音で警告した。
殺気立ったその気迫に一瞬相手の表情が消える。
「なんだ、やる気かコラ……!」
だが男はすぐに威勢を取り戻し、残忍な視線をこちらに向けた。
その武骨な手が刃をこちらに向けて大きく振りかざし、レオンを襲う。
「誰がどいてやるかよ! 死ねえ!」
着飾った貴族たちが怪訝な顔をして広間の高い天井を見上げる。
「鼠か何か……?」
密集した彼らが騒ついた瞬間、会場の誰かが悲鳴に近い声で叫んだ。
「シャンデリアが!!」
気付けば直径10フィート(3メートル強)はある鉄製の王冠型シャンデリアが、揺れる炎の軌跡を描きグラグラと左右に振れている。
「危ない……!! 落ちるぞ……!?」
蜘蛛の子のように人々が散り、絹を裂くような貴婦人たちの悲鳴が上がった。
次の瞬間、ヒュオッという風を切る音がして密集した炎が一気に落下する。
木の裂ける破壊音と共に酒や料理の載っていた中央のテーブルが、鉄の重みで真っ二つに割れた。
同時に棘のような楔に固定されていた大量の蝋燭がバラバラに倒れ、ガラスと一緒に飛散する。
炎があちこちに飛んで燃え散り、割れたワイン樽と、酒の染み込んだテーブルクロスが一気に燃え上がった。
(ヴィクトル……!)
恐らく彼はシャンデリアの昇降装置のある近くの部屋に忍び込み、巻き上げ機の鎖を切ったに違いない。
「私の……私の美しいシャンデリアが!! 高価なガラス細工があああっ! ああっ、タペストリーにも燃え移ってしまう! 火を消せ、誰か!!」
ギレスが半狂乱で雄叫びを上げて走り回り、着飾った客達が慌てふためいて逃げ惑う。
レオンはすぐさま火焔の内側へ飛び込み、オスカーがいるはずの奥のテーブルに足を掛けて登った。
彼を探すが、上から見渡しても彼の座っていた席はもぬけのからだ。
煙の中で見回すと、傭兵に四方を囲まれ、会場から奥の間へと連れて行かれる金髪の後ろ姿が視界に入った。
「オスカー……っ!!」
その背中を追い、声の限り名を叫ぶ。
だがその華麗な衣装を纏った背中は振り返らない。
「……カイン……!!」
気付いてくれと悲痛な思いを込め、もう一度恋人の名を呼んだ。
すると、編まれた長い髪と飾り布を翻らせ、彼が一瞬こちらを振り返った。
その明るい緑の瞳がはっきりと自分を見て、驚きの表情を浮かべる。
形の良い唇が、声には出さずに言葉を形作った。
――お前は ここから すぐに 去れ。私に 構うな
その言葉を読み取った瞬間、レオンは大きなショックを受けた。
逃げるなら今しかないというこの状況で、何故彼がそんな事を言うのか分からない。
(カイン……何故……!)
頑なに自分の助けを必要としていないという態度を取る相手に、レオンは炎の中で呆然とした。
カインはまさか東部へ行くつもりだったのだろうか。
ギレスが神を召喚したとしても、結局の所、助力が得られるのは神の心に叶ったものだけだ。
神の力を欲する大公を誤魔化し、自分の欲しいものだけを手に入れる事など、もしかするとカインにとっては造作も無い事なのかもしれない。
けれど、その為にレオン一人が王都に残されるのだとしたら。
彼に連れられるままにここまで来てしまった自分は、一体どうすれば良いのか。
あの平穏で穏やかな屋敷の暮らしを捨て、彼の望むままに神殿騎士となったのに――。
王都に来てから、ずっと我慢に我慢を重ねてきた。
肌に合わないと何度も自覚しながら慣れない長の仕事を辛うじてこなし、相当な無理をしながら人の上に立つものであるように振る舞ってきた。
彼が執務室にこもり夜も帰らなくても文句も言わず、寂しくても辛くても我儘を言わないよう、一人寝の夜を何晩も耐えた。
ギレスの前でも、彼の意思を尊重して剣を抜きたくても辛抱し、縛られて牢に入れられても歯を食いしばり、抵抗すらしなかった。
たとえ彼が自分の考えをつまびらかに話してくれなくとも、問いただしたいのをこらえ、どんな時もずっと彼の思惑と立場を一番に考えて行動してきた――。
……だがそれももう、――限界だ。
「……っ!」
心中の葛藤の果てに、何かが頭の中でぶちりと千切れた音がした。
羽根の帽子と美しいマントをかなぐり、炎の中に投げ捨てる。
相手の耳に届くかも分からないまま、燃え盛る紅蓮の炎の中で高々と叫んだ。
「カイン……! もう俺は、我慢などしない! お前の言うことなど聞くものか……! 俺は俺の望む通りに行動する……お前がたとえ許さなくても、死体の山を築いてでも、俺はお前を取り戻すからな……!!」
エルカーズの未来も、平和も、神々の安寧も、カインの守ろうとするものも何もかもが、目の前にいる彼よりも大事だとどうしても思えない。
そんな自分を人でなしだと思いながらも止めることが出来なかった。
床に落ちた黒いガラスの破片を踏みにじり、体から陽炎のようにのぼり立つ激情を背負い歩き出す。
広間から奥の間の暗い廊下へ足を踏み入れると、レオンの叫びに反応したと思しきギレスの傭兵達が剣を抜いて待ち構えていた。
「何だぁお前は!? こっから先はギレス様の私室だぞ、分かってんのか!」
「こいつ剣を持ってやがる! お貴族様のフリした賊だな、てめえ……この火事はお前の仕業かあ!?」
一番手前に立つ、頬に向こう傷のある男がこちらに足を向けて迫ってくる。
「……邪魔をするなら切るぞ……命が惜しければそこを退け」
レオンは剣を抜き放ちながら、氷のような声音で警告した。
殺気立ったその気迫に一瞬相手の表情が消える。
「なんだ、やる気かコラ……!」
だが男はすぐに威勢を取り戻し、残忍な視線をこちらに向けた。
その武骨な手が刃をこちらに向けて大きく振りかざし、レオンを襲う。
「誰がどいてやるかよ! 死ねえ!」
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