主神の祝福

かすがみずほ

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夢奏でる夜の庭

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 その夜、ヴィクトルは酔いの冷めぬまま、天幕の中でふかふかの寝台に倒れこんだ。
 双子はいつのまに金縛りが解けたのか、火の前でずっと楽器の練習を続けていたし、バアルは相手をしてやらないうちに酔いつぶれて外の花園の中で転がり、長い髪を地面に散らしてぐっすりと眠りこんでいた。
 それなら、一つしかない寝台を自分が使ってもバチは当たらないだろうと思ったのだ。
 素足を濡れた布で拭き、軍服のズボン一枚だけで羽布団の上に横になった途端、気を失うようにして眠りの世界に襲われた。
 音楽と踊りがよほど懐かしかったのか、不思議と、幼い頃の思い出が次々と夢に現れ、蘇る。
 小鳥のような母の歌声と、頭を撫でてくれる父の大きな手。
 父が行商に出た先で亡くなったという知らせを受け取った日の、泣き崩れる母の後ろ姿。
 少年兵として軍隊に入ることになり、僅かな荷を負って家を去る時、自分を見送った母の泣き顔。
(あの時、軍隊になど行かず、一緒に居れば良かった……)
 何度後悔したか分からない。
 人間に戻ってからやっと帰った小さな家は廃墟になっていて、ただ、母が床下に隠していた、共通語で書かれた本だけがそのままだった。
 それは彼女が故郷から持ってきたもので、ヴィクトルはその古い本だけを形見代わりに持ち、この王都に送られた――。



 真夜中にふと目を覚ますと、天幕の中のランプが、テーブルの上に一つ置かれたものを残し全て消えていた。
 美しい魔法の庭に面した出入り口の布は閉じている。
 バアルはどこへ行ったのだろう、と辺りを見回したが、天幕の中には居なかった。
 酒を飲んでそのまま寝たせいか、喉が渇く。
 水を探そうとベッドを降りかけた時、透明な液体を満たした木製のゴブレットが横から差し出された。
 気付くと、銀色の巻角をぼんやりと光らせながら双子のうちの一人がベッドの脇に立っている。
 上下の繋がった、身体にぴったりとしたシンプルな黒い服を着ているのは、寝間着だろうか。
 ゴブレットを受け取りながら、相手の跳ねた短い黒髪と真っ白な顔をちらりと見た。
 造形は美しいが、仮面のような無表情な顔。
 双子の区別はつきにくいが、なんとなく、相手はマルファスではないかと思われた。
 ハルファスよりもほんの少しだけ、巻角の先端が内側を向いているのだ。
「マルファス、有難うな」
 妙に甘く感じる水を飲み干し、一息をつく。
 目の前の神は手を差し伸べてゴブレットを再び受け取り、それを手の平の上でふっと消した。
「……! すげえ特技だな」
 素直に感心していると、ベッドの反対側でぎしりと音が上がる。
 ハッとそちらを向くと、双子のもう一人、ハルファスが寝台に片膝を乗せていた。
 やはりマルファスと同じような、薄い布で出来た服を着ている。
「……悪い。お前らのベッドだったのか?」
 どくから、と言おうとした途端、ヴィクトルは強い力でベッドの上に押し倒されていた。
「……!? なんだ……!?」
 驚いていると、マルファスが上から顔を覗き込み、優しい手つきでヴィクトルの額を撫でてくる。
「……オマエト」
 ハルファスもベッドに上がり、左隣からヴィクトルの腰に両腕を巻きつけた。
「……イッショニネムル」
「はぁ!?」
 驚愕していると、抱きついているハルファスが目を閉じ、動かなくなってしまった。
「!?」
 全く事態が把握できない。
 キョトンと天蓋を眺めているうちに、マルファスがどさりと寝転んで右隣に収まり、腕枕でもするように肩のあたりにギュッと両腕で抱きついてきた。
「……オヤスミ」
 優しく囁きながら片頰にキスされて、ハッと我に返る。
 それなりに体格のある男二人に両脇を固められ、ベッドの上が異常に狭い。
 身じろぎひとつ出来ない上、ハルファスのゴツゴツした角が腹に当たって、痛くて眠るどころではなかった。
「ちょっ……勘弁しろよ」
 逃げよう、と身体を起こし掛けたが、二人の腕ががっちりと胴と肩をホールドしていて動けない。
 困惑していると、二人の腰から伸びている白い尾がシュルシュルと蛇のように両足に絡まってきて、ますますがんじがらめになった。
「おいっ、アミュっ! どっかにいるんだろ、これどうにかしろ!」
 必死で叫ぶが、天幕の中はシンとするばかりだ。
「……マルファス、ハルファス! 放せ!」
 叫んでも、二人は死んでいるかのように微動だにしない。
 ただ、二人の蛇のような尾だけが、ヴィクトルに懐くようにスリスリと両太腿を撫でている。
 その感触が妙に艶めかしく、ゾクッとするような妙な感覚が走った。
 まるで、バアルの触手のような……。
「何だ、一体……っ」
 起き上がれず、手を伸ばして尾を撥ね除けることも出来ない。
 やがて二本の白い尾は、両側から股間のほうに這い上り始めた。
 細いその先が太腿のより内側を擽り始めて、ひっと息を飲む。
 ――本人達は寝ているのに。
「寝ぼけてんのかこいつらっ、……あ」
 恐ろしくなって本気で身悶えしたが、二人ともまるで石のようにビクともしない。
 ただ、その二つの白い尾だけが大胆に、二方向からヴィクトルの股間の膨らみを辿り始めた。
「……っ……!」
 ズボンの上から交互に懐くように優しくそこを撫でこすられて、妙な気分になってくる。
「おいそこは……っ!」
 やめろ、と叫ぼうとすると、マルファスの尾だけがすっと外れ、腹の方へと移り始めた。
 腹筋の溝を遊ぶように左へ右へ寄り道しながら上にのぼり、胸筋の膨らみを持ち上げ、細い先端がその頂点にある乳首を弾くように弄ぶ。
「……ン……っ!」
 尻尾の器用さに慄きながら身悶えていると、今度はハルファスの尾がズボンの中に忍び込んできた。
 尾はウエストを締めている紐を器用に緩め、下着の中に潜り、陰毛をとかすように少しずつ奥へ入ってくる。
「あ……ッ、くそ、何してんだ……っ!」
 苦し紛れに腰を浮かすが、それがかえって侵入を許すことに繋がった。
 シュルシュルと陰茎に巻きつかれ、皮をズリズリとずらすように絶妙な力加減でそこがしごかれ始める
「んン……っ!」
 同時に乳首を尾の先でツンツンと優しくつつかれて、むず痒いような快感がビリビリと下腹に伝わった。
「あァ……! ばか、それ、……はっ」
 否応無くペニスが充血して、尻尾の締め付けが堪らなくなる。
 身体を拘束されながら受ける辱めは、バアルから受ける愛撫のようで、性器が勝手に反応していくのを止められない。
「アミュっ、っはぁ……っ、」
 頭だけを左右に向け、バアルの姿を探す。
 もう一度叫んで呼ぼうかとも思ったが、こんな姿を見られることへの躊躇が邪魔をした。
 その間もトロトロと先走りが溢れるほど激しく擦られ、亀頭を舐めるように尻尾の表面で擦られて、甘い喘ぎが止まらない。
 チュプ……と先端を鈴口に浸されて、浅くほじるようにされると、太腿が痙攣する程の性感で叫びそうになった。
「――っ……ッい……!」
 イッてしまう。
 こみ上げる射精感に唇を噛んだ瞬間、ギュッと根元をひきしぼられて動きを止められた。
「……っはっ……!」
 苦しさと安堵に溜息をつくが、今度は腫れぼったくなった乳首に尾の先が絡められ、引っ張られる。
「くぅ……っ」
 身体に刻まれた快楽が、否応もなく蘇っていく。
 バアルの触手で吸われ、噛まれた、――つい数日前の記憶が。
 乳首を触手で両方吸われながら、珍しく人間の口での口淫を受け、あっけなくイかされてしまった……。
『ヴィクトル、お前私のこの顔が好きなのだな……』
 そう言って調子に乗ったバアルが、尻の穴に有り得ない深さまで舌を入れてきたのを思い出して、ゾクゾクと鳥肌が立った。
(クッソ、変なこと思い出させやがって……っ)
 無意識にヒクヒクと尻の奥が疼き、止めようと尻たぶに力を入れる。
 と、ハルファスの白い尾が何かに気付いたようにびくんと先端をもたげた。
 濡れそぼった茎の根元に一部を巻きつかせたまま、それが迷いなく尻の狭間へと向かってくる。
「……は……っ!?」
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