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イーサンの隠れ家に来てから一週間。
俺は空間転移の魔法を使えるようになった。
きっかけは殺されそうになったから。
俺はそれまでイーサンとエリィとアイル君しか入れない最上階の4階にずっといたんだけど、その日は3階で簡単な書類の手伝いをしていた。
仕事の手伝いは自分からしたいとお願いした。
イーサンもエリィもアイル君も朝早くから夜遅くまで本当に忙しそうだったから。
毎日大勢の人たちが出かけたり帰ってきたりするのを窓から見てた。
あの人数をまとめるのさえ大変だろうに、アイル君が出かけていない時はイーサンかエリィどちらかが残って、必ず誰かが俺のそばについていてくれる。
それに3人はボタンをはずす魔力さえ出せない俺を本当に心配してくれて、記憶がないのや魔法が使えないのは一過性のショックのためだろうって慰めてくれた。
出来ないのは俺がテオじゃないからなんだけど、それをまだ言ってないことにも罪悪感があった。
だからせめて恩返しに何か役に立つことがしたいと思って言い出したことなのに、まさかあんな事が起きるなんて。
その日はアイル君が一緒で、大きな机を囲んだ仕事部屋には10人くらいの人がいた。
3階といえども警備は厳重で、主要メンバーしか入れない。
そこを、イザベラっていう女の子がお茶を持って入ってきた。
アイル君はイザベラが入ってくる前にはもう俺をかばうように立ちあがってて、俺やみんなはそんなアイル君を見てもまだ状況判断が出来ずに座ったままだったんだけど、俺たちに真っ直ぐに近づいてくるイザベラがアイル君に茶器をぶちまけてから一気に反応しだした。
アイル君が片手で茶器を叩き落としながら、もう片手で胸元のベストから取り出した短銃でイザベラを打つ。
パン!パン!と2回。
弾はイザベラの足と腕に当たった。
致命傷を与えずに動きを止めようとしてる。
騒動に気付き、外に救援を呼ぶ人。
イザベラを拘束しようとする人。
それでも向かってくるイザベラと入り乱れる人々が、スローモーションのように流れる。
銃で打たれてるのに、全くひるまないイザベラがナイフを手に俺の目を見ながら突進してきた。
アイル君が蹴りあげたナイフが天井に刺さり、ビーンと不愉快な振動音をたてる。
どん!という衝撃とともにぶれる視界。
イザベラがアイル君ごと俺に体当たりしてきて、背後の窓から外へと突き飛ばされた。
すごい力だ。
女の子が出せる力じゃない。
目の前をびゅんびゅんと建物の壁が過ぎていく。
まだ落ちていく。
窓の外は建物の裏手だった。
建物の裏は崖だ。
土や岩の山肌をかすめながら、どんどん落ちていく。
「アイル君・・・っ」
「大丈夫です。貴方は俺が守る」
そう。
俺と一緒に落ちたアイル君は、俺をしっかり抱き締めてくれてて。
ずっと守ってくれてて。
驚異的な身体能力でくるりと俺を上に回す。
自分が下敷きになって落ちるつもりなんだ。
やだよ、そんなの。
上に見える建物が遠くなる。
窓から人がなにか叫んでる。
どこまでも崖が伸びていく。
空が小さくなる。
目の前のアイル君はとても冷静だった。
アイル君はまだ10歳だっていってた。
この前誕生日がきたばっかりだって。
崖下までまだ相当ある。
落ちたらひとたまりもない。
俺はこんな小さな子の未来まで奪うのか。
なぜこの世界に来たのか存在意義の分からない俺なんかのために。
アイル君の青い瞳を見たときに、何かが体の中でぶわりと膨張した。
絶対に死なせない!
体が熱くなる。
力がみなぎる。
なんでも出来る気がした。
そう、なんでも。
ぎゅっと目をつぶる。
アイル君を強く抱きしめる。
なぜかあの美しい人の顔が思い浮かんだ。
どうか!
どうか俺に力を貸して!
同時刻、別の場所で。
「殿下、どうしました」
窓の外に広がる王宮の庭。
そこを一陣の風が過ぎ、木の葉をざわめかせる。
金の髪を揺らしながら、憂い気に開かれる唇。
それを見守る臣下2人。
「いま、私の小鳥が鳴いた気がした」
青い瞳が窓の外を見る。
それはどこまでも遠く、空の向こうにある何かを探すような目で。
「・・・」
声に出さずに愛しい者の名を呼んだ。
「テオ!」
「っ!」
「テオ、もう大丈夫だ」
「え」
「ありがとうテオ、テオのおかげで助かった」
「・・・」
見渡したら、いつも使ってる4階の部屋だった。
アイル君を抱きしめたまま、まだ体がこわばっている。
「助かった・・・?」
「そうだ。窓から落ちてる間にテオが空間転移をしてくれた。テオは命の恩人だ」
空間転移?
俺が?
「そっか、良かった・・・」
「ああ、ありがとうテオ」
へなへなと体から力が抜けていく。
ぽんぽんと優しく背中をたたかれた。
「俺は状況を確認してくる。テオはここにいてくれ。ここは俺の結界内だから誰も入ってこれない」
アイル君がいなくなった部屋のなかで一人、へなへなと崩れ落ちる。
アイル君の腕は緑色に変色してた。
きっとあの紅茶は毒だったんだ。
大丈夫だろうか。
ぐらりとめまいがして床に倒れこむ。
手足の先が冷たい。
意識が遠のく。
俺死ぬのかな。
せっかく助かったのに・・・。
俺は空間転移の魔法を使えるようになった。
きっかけは殺されそうになったから。
俺はそれまでイーサンとエリィとアイル君しか入れない最上階の4階にずっといたんだけど、その日は3階で簡単な書類の手伝いをしていた。
仕事の手伝いは自分からしたいとお願いした。
イーサンもエリィもアイル君も朝早くから夜遅くまで本当に忙しそうだったから。
毎日大勢の人たちが出かけたり帰ってきたりするのを窓から見てた。
あの人数をまとめるのさえ大変だろうに、アイル君が出かけていない時はイーサンかエリィどちらかが残って、必ず誰かが俺のそばについていてくれる。
それに3人はボタンをはずす魔力さえ出せない俺を本当に心配してくれて、記憶がないのや魔法が使えないのは一過性のショックのためだろうって慰めてくれた。
出来ないのは俺がテオじゃないからなんだけど、それをまだ言ってないことにも罪悪感があった。
だからせめて恩返しに何か役に立つことがしたいと思って言い出したことなのに、まさかあんな事が起きるなんて。
その日はアイル君が一緒で、大きな机を囲んだ仕事部屋には10人くらいの人がいた。
3階といえども警備は厳重で、主要メンバーしか入れない。
そこを、イザベラっていう女の子がお茶を持って入ってきた。
アイル君はイザベラが入ってくる前にはもう俺をかばうように立ちあがってて、俺やみんなはそんなアイル君を見てもまだ状況判断が出来ずに座ったままだったんだけど、俺たちに真っ直ぐに近づいてくるイザベラがアイル君に茶器をぶちまけてから一気に反応しだした。
アイル君が片手で茶器を叩き落としながら、もう片手で胸元のベストから取り出した短銃でイザベラを打つ。
パン!パン!と2回。
弾はイザベラの足と腕に当たった。
致命傷を与えずに動きを止めようとしてる。
騒動に気付き、外に救援を呼ぶ人。
イザベラを拘束しようとする人。
それでも向かってくるイザベラと入り乱れる人々が、スローモーションのように流れる。
銃で打たれてるのに、全くひるまないイザベラがナイフを手に俺の目を見ながら突進してきた。
アイル君が蹴りあげたナイフが天井に刺さり、ビーンと不愉快な振動音をたてる。
どん!という衝撃とともにぶれる視界。
イザベラがアイル君ごと俺に体当たりしてきて、背後の窓から外へと突き飛ばされた。
すごい力だ。
女の子が出せる力じゃない。
目の前をびゅんびゅんと建物の壁が過ぎていく。
まだ落ちていく。
窓の外は建物の裏手だった。
建物の裏は崖だ。
土や岩の山肌をかすめながら、どんどん落ちていく。
「アイル君・・・っ」
「大丈夫です。貴方は俺が守る」
そう。
俺と一緒に落ちたアイル君は、俺をしっかり抱き締めてくれてて。
ずっと守ってくれてて。
驚異的な身体能力でくるりと俺を上に回す。
自分が下敷きになって落ちるつもりなんだ。
やだよ、そんなの。
上に見える建物が遠くなる。
窓から人がなにか叫んでる。
どこまでも崖が伸びていく。
空が小さくなる。
目の前のアイル君はとても冷静だった。
アイル君はまだ10歳だっていってた。
この前誕生日がきたばっかりだって。
崖下までまだ相当ある。
落ちたらひとたまりもない。
俺はこんな小さな子の未来まで奪うのか。
なぜこの世界に来たのか存在意義の分からない俺なんかのために。
アイル君の青い瞳を見たときに、何かが体の中でぶわりと膨張した。
絶対に死なせない!
体が熱くなる。
力がみなぎる。
なんでも出来る気がした。
そう、なんでも。
ぎゅっと目をつぶる。
アイル君を強く抱きしめる。
なぜかあの美しい人の顔が思い浮かんだ。
どうか!
どうか俺に力を貸して!
同時刻、別の場所で。
「殿下、どうしました」
窓の外に広がる王宮の庭。
そこを一陣の風が過ぎ、木の葉をざわめかせる。
金の髪を揺らしながら、憂い気に開かれる唇。
それを見守る臣下2人。
「いま、私の小鳥が鳴いた気がした」
青い瞳が窓の外を見る。
それはどこまでも遠く、空の向こうにある何かを探すような目で。
「・・・」
声に出さずに愛しい者の名を呼んだ。
「テオ!」
「っ!」
「テオ、もう大丈夫だ」
「え」
「ありがとうテオ、テオのおかげで助かった」
「・・・」
見渡したら、いつも使ってる4階の部屋だった。
アイル君を抱きしめたまま、まだ体がこわばっている。
「助かった・・・?」
「そうだ。窓から落ちてる間にテオが空間転移をしてくれた。テオは命の恩人だ」
空間転移?
俺が?
「そっか、良かった・・・」
「ああ、ありがとうテオ」
へなへなと体から力が抜けていく。
ぽんぽんと優しく背中をたたかれた。
「俺は状況を確認してくる。テオはここにいてくれ。ここは俺の結界内だから誰も入ってこれない」
アイル君がいなくなった部屋のなかで一人、へなへなと崩れ落ちる。
アイル君の腕は緑色に変色してた。
きっとあの紅茶は毒だったんだ。
大丈夫だろうか。
ぐらりとめまいがして床に倒れこむ。
手足の先が冷たい。
意識が遠のく。
俺死ぬのかな。
せっかく助かったのに・・・。
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