7 / 58
第一部・一章
愚直な剣です。
しおりを挟む「ん、偶然」
背の高い女性はアレクセイと目があってしまってから、少しばつが悪そうにしてから、物陰から出てきた。
いやいやどう見ても偶然じゃない。アレクセイをつけてきた感じしかない。
しかもこの女性、自分から話しかけてきておいて、そこで言葉が止まってしまった。なにを言ったらいいのか分からないのか、2,3度まばたきをした後、ただこちらを見ている。
よく見ると本当に騎士の称号のバッヂをつけていた。
やっぱり本物なんだなぁ。
「ええと、騎士団の人ですよね。もう一人の方は……」
「あれ団長。うさんくさくな、い」
そう言われると、なおさらうさんくさい。
もっともあなたも相当うさんくさいけど。
それにしてもこの女性、だいぶ話し方がただたどしい。
外国なまりがあるというわけではないので、これが素の話し方のようだけど。
「俺を勧誘って何かの間違いですよね。なんのとりえもないし」
もしかして、俺の能力が騎士団に気づかれている――そんな疑問が頭に浮かぶ。
だとしたらどこから?
女性は首を横に振った。視線が握った剣にうつる。
「剣、見せ、て」
彼女に言われて、そっと差し出した。
自慢じゃないけど、手入れだけはかかしていない。ゲンが悪いって言われて突っ返された剣だけど、そこは自信がある。
でも、女性にはアレクセイのそんな思いなど関係なく、受け取らずにまた首を横に振った。
「構え、て」
「――ッ!?」
ここで抜刀して構えろと?
最強と言われる騎士団の騎士を相手に?
つい今とりえがないと自分でも言ったし、弱さを隠す気もなかったはずなのに、自分のふがいなさが完全に露呈してしまうと、ついためらってしまった。
でも、そうか。
団長が勧誘している相手の実力を知りたいのも、彼女にとっては当たり前のことか。
目の前の女性は真っすぐにアレクセイの目を見ていた。
迷いも弱さもきっと見抜かれてるんだろう――とそんな気がして剣を抜く。
アレクセイは剣の型を一つしか知らない。
――荷物持ちのお前のところまでは敵は通させねえよ。だが、もし俺達を超えていくようなヤツがいたら、お前じゃどうやったって守りながらじゃ生き残れねえ。だから、これだけは覚えろ。初撃にかけるんだ。身を捨ててこそってヤツだ。
そう言ってその型を教えてくれたのは、今日自分を追放したおやっさんことイゴールだ。
武器も扱うことが下手なアレクセイは、そのたった一つの型だけを何年もずっと繰り返してきた。
――おお、いいねえ。愚直ってやつだ。簡単にものになるって才能もすげえことだが、ただひたすらに信じて繰り返せるってのも、すげえ才能なんだよ。
イゴールは毎日繰り返す自分にそう言ってくれた。
他を教えてくれなかった本当の理由は、俺が役立たずだったからなのだろうけど……。
フーッと息を吐き、鞘を地面に落とした。
剣を右手で握り、左手は添えるのみ。
上段に持ち上げていき、自分の耳の辺りで止めた。
剣は中段に構えることが基本であり、様々なことに対応できると聞く。
その基本こそが究極なのだと剣の熟練者は言う。
だが、対応力だとか究極だとか、そんなものは捨てている。
ただ一振りでいい。二撃放つ気など毛頭ない。
それがアレクセイの知る唯一の型だ。
構えは成った。
真っすぐと相手の視線をとらえる。
「ん……いい、顔」
女性も構えた。
武器はない。無手の構えだ。両の拳を軽く握り、軽く左手を前に出す。
――いつでも、こい。
――はい。お願いします。
そんな<音のない言葉>で意思の疎通をしたかのような感覚。
「――ッ!」
アレクセイの呼吸音と踏み込み、剣が空気を切り裂く音が短く、だが鋭く響く。
綺麗な動きだった。
剣の才能はなくとも、教わったことをそのままに、この型だけを繰り返してきた。そんな愚直な動きだ。だが、それゆえにその年齢からは信じられないくらいに、この一撃だけは洗練された剣だった。
でも、届かない。
アレクセイには、どうかわされたのかも分からなかった。
ただ、前から顔に向かって風が吹き抜け、女性のその拳が眼前に止まっていた。
全く相手にならなかった。
そう認識した後、至近距離のこの女性から、花のようなやわらかい匂いがして鼻腔をくすぐった。香水にしてはとても自然で、男性のアレクセイにとっても心地いい匂いだ。
「ん。よかった」
女性はその言葉と共に拳をひいた。
多分、怪我させないでよかったという意味なのだろう。
アレクセイはこういう結末になるような気がしていた。いや、そうなると分かっていた。
だから、当たったら大けがではすまないのに、思いっきり振りぬけた。
むしろこの女性を前にして、よく攻撃できたなと思う。
憑依という特殊な力があるので分かる。この女性は魂の大きさが自分のとはまったく違う。
魂のサイズとは生物としての格の差そのものだ。
悔しくはない。
むしろ清々しい気分だった。
……まあ、街の中で斬りかかるなんて、今更ながらどうかしているとは思うけど。
「こんな程度ですみません」
「ううん。よかった」
女性の表情がほころんだ。
あ、さっきのよかったって褒め言葉だったんだ。
ヤバい。こんなすごい人に褒められると泣きそうになる。
うさんくさいし、変な人だけど……。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
Chivalry - 異国のサムライ達 -
稲田シンタロウ(SAN値ぜろ!)
ファンタジー
シヴァリー(Chivalry)、それは主に騎士道を指し、時に武士道としても使われる言葉である。騎士道と武士道、両者はどこか似ている。強い精神をその根底に感じる。だが、士道は魔法使いが支配する世界でも通用するのだろうか?
これは魔法というものが絶対的な価値を持つ理不尽な世界で、士道を歩んだ者達の物語であり、その中でもアランという男の生き様に主眼を置いた大器晩成なる物語である。(他サイトとの重複投稿です。また、画像は全て配布サイトの規約に従って使用しています)
三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します
冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」
結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。
私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。
そうして毎回同じように言われてきた。
逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。
だから今回は。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
二重のカーテン (スカートの下の黒い意志)
MisakiNonagase
青春
洗濯物の隙間に隠したのは、母としての祈りと、娘のプライド。
かつて、女子高生という生き物はもっと無防備で、自由だった。
44歳の主婦、愛子が朝のベランダで手にするのは、娘たちが毎日履き替える漆黒のオーバーパンツ、通称「黒パン」。それは、令和を生きる娘たちが自らの尊厳を守るために身に着ける、鉄壁の「鎧」だった。
小学校時代のママ友たちとのランチ会。そこで語られるのは、ブルセラショップに下着を売っていた奔放な50代、無防備なまま凛と歩くしかなかった40代、そして「見せないこと」に命を懸ける10代の、あまりに深い断絶。さらには、階段で石像のように固まる父、生徒の背後に立たないよう神経を削る教師……。
一枚の黒い布を通して浮き彫りになる、現代社会の歪さと、その根底にある不器用なまでの「優しさ」。
ベランダに干された黒いカーテンの向こう側に、あなたは何を見ますか?
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる