たとえば禁忌からはじまる小さな英雄譚

おくり提灯LED

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第一部・二章

龍の危機と、ずれてしまった争いと 2

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 王城の巨大な門扉の前が騒がしい。
 十人以上の人間が集まって、何か騒いでいるようだ。

 アレクセイはサーシャと共に王城付近までやってきたところで、何やら大声でまくしたてている声が聞こえてきて、何事だろうと顔を見合わせた。
 足早に近づいてみると、それはよく知った顔の集まりだった。

 イゴールを中心とした“龍へと至る道”のメンバーが、衛兵に対して「白鉄騎士団を出せ」と騒いでいる。

「おやっさん、なんで……!?」

 後ろから声をかけると、全員が振り返った。すぐにその人混みの中心が割れ、イゴールが一歩出てきた。

「いいところにきた。お前を連れて帰る」

 その言葉にはアレクセイよりも先にサーシャが反応した。鋭い目つきでイゴールを見すえ、アレクセイをかばって前に出る。

「いや、サーシャ待って。大丈夫」
「ん。でも、なにかあったら絶対に守、る」

 アレクセイはサーシャにうなずき、イゴールの真正面に立った。
 あの日からのことが頭をよぎる。イゴール達の態度や言葉に傷ついていないと言ったら、それは大嘘だ。

「今更なんですか。俺は白鉄騎士団の一員だし、そもそも俺を捨てたのはおやっさんじゃないですか」
「お前が白鉄だぁ? たったこれだけの間で、あのクソ共の仲間ヅラか。いいからついてこい」
「おやっさん……。俺のことならともかく、騎士団の皆を悪く言うのは、いくらおやっさんでも――」
「あぁ?」

 イゴールは怒りを隠そうとせずに、アレクセイを睨みつけた。
 熟練の冒険者であるイゴールの威圧感に身がすくむ。

「俺のこと役立たずだからって追い出したんじゃないか。今はもう騎士団の皆が仲間なんだ。もうこれ以上、俺から居場所を奪わないで……ッ!」

 イゴールは感情の昂りに拳を強く握った。

「クソが……。一度ずれたらずっと狂いっぱなしじゃねえか。だがよ、それがお前の言い分だってんなら仕方ねえ」

 その言葉が終わった瞬間、アレクセイは頬に衝撃を感じた。
 イゴールがポケットからグローブを取り出し、おもむろにアレクセイの頬を張ったのだ。
 唖然としたアレクセイは一瞬なにが起きたのか分からなかった。
 だが、すぐに理解した。

 手袋で頬の叩く意味を――。

「どうしても俺の言うことを聞けねえってんなら、決闘といこうじゃねえか、小僧」

 おやっさん……。
 Aランク査定がダメになったなんて嘘をついて追い出したくせして……。
 決闘までして、まだ俺から居場所を奪いたいのか。

「……分かりました。受けて立ちます。その代わり、俺が勝ったらもう二度と……」

 かつて同じ釜の飯を食った仲間達との時間が頭によぎる。
 でも、もうあの頃は戻ってこない。
 白鉄騎士団の一員なんだ。

「もう二度と俺にかまわないでください……!」

 その言葉にイゴールが奥歯を噛みしめる。
 歯ぎしりがここまで聞こえてきそうだ。

 その時――。

「待て! その決闘、ひとまずこの私が預かる!」

 つんざくようなその声の主はライヤだった。同時に衛兵が通り道をあける。城の中から金属を打つような足音と共に姿を現わした。

「決闘を預かるたぁ、ずいぶんかっこつけてくれるじゃねえか、白鉄ぇ……。てめえらはアレクセイを、俺達の家族を殺す気かぁ!?」

 イゴールの叫びはアレクセイにとっては全く予想外のものだった。

 家族……?

 ライヤはアレクセイを家族と呼ぶ冒険者達の厳しい視線を真正面から受け、神妙な面持ちで彼らに一礼をした。
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