たとえば禁忌からはじまる小さな英雄譚

おくり提灯LED

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第一部・二章

俺の家族を頼むと男は泣いたんだ 1

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 龍への緊張が王城の空気を張り詰める中、ライヤを筆頭に一団が足早に進む。
 アレクセイは訳が分からないまま、“龍へと至る道”の面々と一緒に白鉄騎士団の詰所へと入った。

 龍が出現したからとはいえ、すぐに何ができるというわけではない。それこそ数日、何もしないまま報告だけ待つということも十分ありえる。

 だからと言って、龍が出た時にこんなトラブルは……。

 そう思いながらもアレクセイは今の緊迫した状態に何も言えなかった。

 中にはすでに騎士が集まっており、すぐに冒険者達とばちばちとしたにらみ合いが始まった。どうやら門の前で彼らが騒いでいたのを知っていたようで、団長を出せと言われては騎士達も黙っていられないのだろう。
 アレクセイを連れて帰ると目の前で言われたサーシャも、完全に相手を敵扱いしている。

「やめるんだ」

 と、ライヤが騎士達を制す。冒険者達に向き直った。

「イゴール殿、おそらく我々の間には誤解がある」
「誤解だぁ? 入団を認める前に、てめえんとこの団員助けるために最前線送りにしやがったヤツがなに言ってやがる」

 イゴールは怒りをおさめようとはしない。

「ちょ、ちょっと待ってください! ライヤさんとおやっさんはなにを言ってるんですか? これって俺の話なんですよね? まず俺に分かるように説明してください」

 アレクセイが二人に割って入ると、ライヤは頷き、イゴールは一度舌打ちをしてから、同じように頷いて見せた。

「アレクセイ、キミが“龍へと至る道”を解雇されたことには、少し事情があるんだ」

 そして解雇に至るまでに何があったのか、二人の口から語られ始めた。



 ~ ↑ ↑ ↓ ↓ ← → ← → B A ~



 イゴールとライヤが白鉄騎士団のパトロンが経営する会員制のレストランで会ったのは、あの解雇の日の二日前だった。
 用件はもちろんアレクセイの禁忌についてだ。
 最初、イゴールは知らぬ存ぜぬを貫いていたが、すぐに顔色が変わった。

「私の調べではもう一年も前から、教会によって異端の査定が始まっている」

 これはイゴールには予想外だった。まさかそんなに前から目をつけられていたとは。

「異端審問官から、冒険者である貴方達にあの少年を守れるのか?」

 異端審問官の残酷さは有名だ。個人の強さではイゴールも引けをとることはないが、教会を敵にまわしたら、アレクセイを守ることはできない――悔しいがそれが事実。

 この国には信教の自由はない。名目上は国民全員が聖教徒だ。国には従いたくないが、神には従うという者もまた多い。だからこれだけの巨大国家であっても、教会の力を無視できずに国家運営がなされている。
 冒険者だって同じだ。イゴールのクランでもほとんどの人間が聖教徒なのだ。
 教会がアレクセイを禁忌だとはっきり認定すれば、“善意”で差し出す人間が必ず出てくる。それが正しさなのだから。

「だが、騎士爵を授与されれば、あの少年を守れる」
「ライヤさんよ、うちのアレクセイを白鉄に渡せってことか?」

 ライヤはただ頷いた。どう言葉を取り繕ってみたところで、要望はまさにそれだからだ。

「あんたらが、あいつの禁忌の力が欲しいだけじゃねえって言えるのか? あいつが使い捨てにされねえって保証はどこにある?」
「あの力がなければ、勧誘はしないというのも事実だ。だが、イゴール殿、私はあの少年に希望を見たのだ。使い捨てになどするものか。教会からは我々が必ず守る」

 希望か――とイゴールは内心でつぶやく。
 もうあいつを守ってやれなくなってしまったのだと、その現実を改めて思う。

「だが、ただ笑って送り出すだけって訳には、もういかなくなっちまってるんだよな」

 現実に対する嘆きのようなつぶやき。

 アレクセイをただ騎士団に送り出すには、時期が遅くなってしまった。
 教会がそこまで目をつけているのでは、イゴール達だって匿っていると疑われているはずだ。その力について一切知らなかったと思わせる必要がある。
 騎士になれたとして、それ以前に禁忌を匿っていたとなれば、今度は教会はイゴール達に難癖をつけて何かしてくるだろう。そうなったら、今度はアレクセイではなくクランメンバーを守れなくなる。
 いや、冒険者ギルドと教会との関係が悪化する可能性さえある。教会との対立となれば、その責任はイゴール達には負えるものではない。

「そこはイゴール殿、アレクセイ少年にも事情を話し、一芝居打つというのはどうだろうか?」

 例えば、こっぴどく言ってクビにしたところを、白鉄騎士団が勧誘する――そんなことをライヤは提案したが、イゴールは首を横に振った。

「あいつはいいヤツ過ぎてな、嘘なんてつきとおせるたまじゃねえんだ」

 イゴールは静かに目を瞑った。

 ずっとイゴール達は、影ながらクランを守ってくれているアレクセイに感謝をしていた。
 禁忌であるために、その感謝を明確に伝えることのできないことが歯がゆかった。

 あの不器用な剣は、まるで若い頃のイゴールの生き写しだった。毎日、ただ一つの型を繰り返す姿を、自然と自分を重ねて見ていた。もっと褒めてやるべきだった。

 本当は大声で誰彼はばかれることなく、「アレクセイ今日もありがとうな。お前の力最高だな」と言いたかった。

 禁忌で守ってくれている時は気絶してしまうから、連携のない荷物持ちのままにするしかなかった。だが、「お前はただの荷物持ちじゃねえ。俺らの要だ」と、そう言って全てを肯定してやりたかった。

 もうそれらの機会は永遠に失われたのだと思い知る。

「あいつには打ち明けずに追放する。そこを拾ってやってくれ」
「それでは貴方達だけが悪者に……」
「それでいい。たいしたこともしてやれなかった。その上、もう守ってやれねえってのに、最後の最後にあいつを傷つけちまう。そんなだらしねえ大人だからな」

 最悪から守るには教えないほうがいい。
 もしアレクセイの下手くそな嘘が暴かれ、そのせいで誰か犠牲が出たりしたら、あいつは自分を責めるだろう。自分の生まれを呪うだろう。生まれてくるべきじゃなかったとそう思うだろう。
 教えなければ、そんな事態も確実に防げる。

 そしてイゴールは涙声で更に告げた。

「あいつは俺の息子みてえなもんなんだ。俺達の家族だ。そんな家族に裏切られたと傷ついて、あんたらのところに行くことになる。どうか助けてやってくれ……」
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