たとえば禁忌からはじまる小さな英雄譚

おくり提灯LED

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第一部・二章

暗躍には、明るく暗躍で

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 教会の紋章をつけた馬車が走る先で、ヒトリツガイの片割れを迎えた三人の冒険者がいた。

「おやっさんから伝言がきたよ」

 三人は神妙な面持ちで、その灰色の鳥から連絡を受ける。

 <――教会馬車書状>

 伝わってきた言葉はこれだけだった。が、彼らは互いの顔を見合わせて、その表情を喜びで染めた。

「よしッ。これで一つアレクセイに恩返しができる!」

 斧を背負った女戦士。

「これくらいじゃぜんぜん足りないけどな」

 派手なことはできないが、<古い言葉>によって妨害ができるシーフ。

「アレクセイの仇をとるぞ」

 マナの扱いが器用で、仲間とマナによる連携をしたり、支援ができる軽戦士。

 いや、死んでねえし、と笑い合い、全員がうなずく。

 彼らはアレクセイと同期だった。いつまでも強くなれずに荷物持ちをしているアレクセイを、三人ともしばらくは大丈夫か心配したものだ。だが、自分の命がアレクセイに助けられたのだ分かった時、同時に気づかないふりをしなければならないことも分かり、悔しさにも似たもどかしい気持ちを味わい続けてきた。

 いつか、どんな形であってもあいつを助ける。恩を返す。

 そんな風に思っていたのに、禁忌だからと解雇。アレクセイが荷物を取りにきた時も、この間冒険者ギルドの近くで会った時も、どこに教会の目があるのか分からないために、慰めるどころか声をかけることすら許されなかった。

 もう、あんな思いはするのもさせるのもごめんだ。

 だが、教会の馬車を襲うことはさすがにできない。
 どうするかと思案をしはじめ、それからすぐにまるで悪戯を思いついた子供のような悪い顔をすると、押し殺した声で笑い合った。



 ~ ↑ ↑ ↓ ↓ ← → ← → B A ~



 教会の印を掲げた馬車は王都から南の大主教庁を出た後、王都近郊四つの領を管区とする府主教庁へと進んでいた。
 順調に大主教から異端に関する書状を受け取れたようで、コンスタンティンは上機嫌だった。だが、彼も異端審問官のヤロスラフも休む間を惜しんで、この数日は馬車の中にいつづけている為に、だいぶ疲れていた。

 と、指示も出していないのに馬車が止まった。

「どうした?」

 コンスタンティンは馬車の屋形の物見窓から顔を出して、御者に声をかけた。
 返事は必要なかった。
 木が倒れて道を塞いでしまっている。
 こんな時に――と憤りを覚えるものの、だからと言って現状は仕方がない。道から外れて木を避けろと命じて、再び物見窓を閉めた。
 するとすぐに動き出した馬車は、小さな衝撃と共にまた止まってしまった。

「一体どうしたというのだ!?」

 今度はドアを開けて身を乗り出すと、道から外れたためにぬかるみに車輪がとられてしまっていた。馬が鼻息を荒くして踏み出そうにも、車輪はうまく出ない。

「降りて押した方がよさそうですな」

 その状況を見たヤロスラフは言葉と共に小さなため息をこぼした。コンスタンティンは頷いた後に御者を烈火のごとく罵った。自分が道から外れろと命じておきながら。
 ぬかるみに足を入れて確認する。だいぶ車輪は沈み込んでいる。

 一度、ヤロスラフと共に押してみたが、出せそうにない。仕方なく、馬車を軽くするために荷物も下ろし始めた。
 重い物から順に出していったが、コンスタンティンは腰ひもに挟んだ筒に手をかけた。これまで肌身離さず大切に大切にしてきた。こんなぬかるみに落としては大変だ、こちらから働きかけて主教や大主教を動かしたのだ。その書状を駄目にしたら、下手したら自分の首が飛ぶ。そんなことを思って、馬車から下ろした袋にしまった。

「大丈夫かい? よかったら手伝うよ」

 荷下ろしをしていると、前方から声がかかった。まだ若い冒険者風の三人組だ。

「これは助かる。ぜひお願いしたい」とヤロスラフ。
「運が悪かったね。こりゃ相当もぐってる。ちょっとマナを使ってもいいかな?」

 女戦士が二人にたずねる。他人の前でマナを使う時は驚かせないように、または攻撃の意思はないと伝えるために、こうして確認をすることも多い。

「ほぉ。古い言葉を扱えるとは、なかなかの腕の者だな」

 コンスタンティンが感心そうにうなずくと、女戦士は仲間に一度目配せをしてから、自分の体を強くする。

 <もっと力強くもっともっと>

 気合を入れているのか、相当に大きな声で古い言葉を口にした。

 ふとヤロスラフがもう二人の方を向いた。この女戦士以外にも微妙にマナが動いたような気がしたのだ。
 二人は特に何もおかしい様子はなく、馬車に手を当てて、押し出す掛け声を待っている。

 さっき感じた気がしたのは女戦士と同じマナだった。マナには個人の特徴がある。疲れているせいで何か錯覚したのだと思い、自分も押し出すために彼らと並んだ。

 冒険者の協力もあって、ようやく馬車はぬかるみから出て道に戻った。

「助力感謝するぞ。神のご加護が汝らにもあるように」

 コンスタンティンは上から目線な礼を言って、再び馬車を走らせた。

 もう馬車の中の彼らには見えない聞こえない。
 あの三人の冒険者達が今どんな顔で笑っているのかが。
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