たとえば禁忌からはじまる小さな英雄譚

おくり提灯LED

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第一部・二章

府主教庁の空に一羽の鳥が飛ぶ

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 神の正義を掲げた教会の馬車が遠ざかってゆく。その後ろを見送りながら、

「あの異端審問官のヤツ、ちょっと勘づきそうだったね」
「うん。でも、これで……」
「アレクセイ、仇はとったぞー!」

 三人は大喜びで手を叩きあった。

 ここで起きたことは、全部この三人がやったことだ。
 道の外のぬかるみに誘導するように木を切り倒したのは女戦士。
 彼女が体を強化するマナを使った時、大声で<古い言葉>を使ったのは、書状の入っている筒の中に、シーフが自分の水筒の水を移すために使った<古い言葉>を聞かれないようにするためだ。
 マナを感じ取ることが得意な人間は個人差まで判断できるので、念のためにこの二人には前もって軽戦士がマナを渡しておき、それだけを使った。

 こうしてアレクセイのために教会に手を出すという危険を冒した三人は、無事にやり遂げたのだった。

 やってやったという達成感が三人を包む。
 これまで疑問ばかりだった。どうして仲間のアレクセイが一人で出て行かなければならないのか。傷つけたくも傷つきたくもなかったのに、どうして。どうして。そんなどうしてばかりが増えた。
 でも、今やっと一つその元凶に少しの仕返しができた。
 
 あとはあの威丈高な聖堂騎士が、府主教庁でどんな顔をするか。
 結末まで見れないのが非常に残念だ。
 そうしてひとしきり達成感に笑顔を見せていたが、

「いつかあいつが騎士になったら、絶対に謝りにいこう」

 女戦士のその一言で二人も顔が引き締まった。

「ああ」

 そして三人は倒した木を見た。

「その前にひとまず……」

 通りかかる人が困らないように後片付けだ。



 ~ ↑ ↑ ↓ ↓ ← → ← → B A ~



「な、な、なんだこれは!?」

 コンスタンティンの野太い声に、驚愕が大げなビブラートをかける。
 府主教への謁見が叶い、異端審問官ヤロスラフと共に書状の筒を差し出した後、それは発覚した。
 筒をあけるとぼたぼたとこぼれてくる水。

「どういうことですかな、これは?」

 府主教はこの書状が水浸しであることに、顔には出さないが安堵していた。
 聖堂騎士だけではなく、異端審問官が共にいる。
 ということは、これは異端認定に関わる書状だということは容易に想像できた。

 この管理区を任されている府主教は、古くからこの地域の教会で敬虔な神の僕として尽くしてきた人間だ。教会内で決まったことだから黙認しているが、そもそも異端審問などという残虐行為が本当に必要かは懐疑的だった。
 決定的だったのは、今ここにきているヤロスラフという異端審問官の行ったことだ。

 この男は十余年前に魔女の子として赤子を焼き殺した。

 教会中枢の人間の多くが、普遍派そこまでやるのかと震えあがったものだ。だから、あの一件以降、異端審問にかけるべき相手かどうかの認定をすることに、大主教以上にまで話を通すべきと定めたのだった。

 権力の暴走を自浄せねば、西部地方で広がっている普遍派が犯した悪行と同じく、この地でもいたずらに多くの命が奪われかねない。

 今回、大主教より更に上の自分にまで書状がきたとということは、相当に手を出しづらい相手なのだろうと、府主教は思案する。
 伯爵以上の貴族か、もしくは王国の騎士団といったところか。
 とはいえ、相手が誰にせよ、ここで強く出ておくべきだと判断する。

「主教、大主教、そして府主教である私の時間を使わせてまで、こんな水浸しの紙切れをもってきた理由について聞いているのです」
「い、いや、それは……、あ、これもきっと、異端の妨害によって」

 妨害は事実なのだが、今のコンスタンティンにはまるで説得力がない。
 慌てるコンスタンティンとは違い、ヤロスラフはもうこの時点で府主教の説得は諦めるしかないと判断をした。

「コンスタンティン殿、書状はずっと貴方が肌身離さずもっておられた。お疲れで水筒と間違えたのではないか?」
「そんなことは……。府主教様、お待ちください、これは……!」

 あの冒険者達が思い浮かんだ。だが、一体何のために、しかもどうやって書状を水浸しにしたのか。そんな答えはもちろん出てこない。

「どういうつもりかもお話できないのですね。教会はあなたの悪戯のためにあるのではない。主教や大主教をさげすむような今回の行為、きちんと報告しておきます。二度と神と聖堂のための騎士を名乗れるとは思わないことです」

 府主教から厳しい言葉がかけられた。

「異端審問官ヤロスラフ、貴方もです」

 ヤロスラフは府主教の厳しい目を向けられて、深々と頭を下げた。
 内心は腸が煮えくり返る思いだ。再度根回しをして書状をもってきたところで、この府主教は今回の件を理由に異端認定は出さないだろう。
 書状さえあれば、この府主教であっても丸め込めた。それだけの搦め手は用意してあった。
 まさか利用しようとした聖堂騎士が、書状一つ守れないような愚図だったとは……。
 忌まわしい。だが、これでは少しの間は大人しくしているほかない。

 府主教庁を追い出されるように出たコンスタンティンは、もう抜け殻のような顔をしていた。

「なぜ……どうして、こうなった……?」

 落胆するコンスタンティンの横を、ヤロスラフは声をかけることもなく通り過ぎていく。

 その頭上を灰色の鳥が短く回っていたが、すぐにつがいと一つになるべく飛び去っていった。
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