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第一章 出会い編
土曜日
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夕日が沈み、すっかりあたりが暗くなっていた頃。剣道部の道場から女性の声が漏れ聞こえていた。
そこには二人の女子、鬼瓦荊と壬生来沙羅が、一人は止めてほしそうに、もう一人は強引に抱きしめて離さないようにしている。
「お願い、もう止めて」
「無理だよ。壬生さんは可愛すぎる。私なら、あんな彼氏より気持ち良くさせられるよ」
「そんなことないよ。彼のことバカにしないで」
「あはは、ごめんごめん」
鬼瓦荊はそう言うと壬生来沙羅の制服の中にそっと手を入れて、彼女のお腹のあたりを指でなでる。すると、「ん」と我慢するような吐息が壬生来沙羅から漏れる。
「ダメだよ、こんなの。私、彼氏がいるって言ったでしょ」
「じゃあ、逃げたらいいよ」
「え?」
「私は確かに鍛えてるけど、それでも女の子。力なんて大して無いよ。壬生さんが本気で抵抗したら、私から逃げるなんて簡単だよ。でも抵抗しないなら、イエスと受け取るよ」
「そんなの、卑怯だよ…」
「壬生さん、好きだよ」
鬼瓦荊は壬生来沙羅の制服のボタンを丁寧にはずし、はだけさせ、形の良い双丘が露わになる。鬼瓦荊はたおやかな手つきで彼女のピンク色のブラジャーのホックを外そうと…
「……またこの夢かよ」
目が覚めたら自分の部屋だった。今回の悪夢は相手の顔を知っているだけに、やけにリアルだった。
っていうかなんで悪夢の中の壬生さんはいつもピンク色のブラジャーしてるんだ?壬生さんに似合うのは清純な白やろが!
…まあ、黒なら黒で逆にギャップがあって興奮するけど…って違う。そんなことじゃねえ!今日は壬生さんといちゃいちゃラブラブのデート日だ!
僕はスマホの電源をオンにして時間を確認する。よかった、タイマーの一時間も早く起きれた。悪夢のおかげで早起きできた、そこだけは感謝しても良いかもしれない。
軽く朝食を済ませてから着替えると、家を出て駅前の西口へと向かうことにした。
駅前の西口は飲食店や娯楽施設などが多く、このあたりではかなり栄えている地域だ。それだけに奥の方へと進んでいくと、ラブホテルやら風俗店など、大人向けの施設も多く存在する。
若い人から中年の人まで、幅広い年齢層の人達が多く集まる場所なのだ。そんな人で賑わう場所なだけに…やっぱりナンパが多かった。
チャラそうな人が多いな。ああいう人たちにナンパされないように、僕が壬生さんを守らないと!
そう硬く決心していると、駅のホームから見知った顔の人がやってきた。壬生さんだ。
「あ、おーい、おはよう根東くん。待った?」
「ううん、今きたところ…だよ」
「そう?遅刻しないで良かった。じゃあ行こうか」
「う、うん」
壬生さんは、普段はとても清楚で清純そうな雰囲気のある女の子だ。この一週間で確かに清純とはかけ離れた一面を多く知ったわけだが、ただ基本的に黙ってなにもしなければ清楚さの塊のような女性なのだ。
だからてっきり、もっとこう、清楚な雰囲気のあるワンピースとか着てくるのかなあ、なんてイメージしていた。
そんな僕のイメージを裏切るように、すごく遊んでいそうなギャルファッションでやってきた。っていうか、デニムのショートパンツの丈がガチでショートすぎて、足が丸見えだった。
壬生さんって、すごく綺麗な足してるな。
「今日どこ行こうか?」
壬生さんは僕の右側にくると、右腕に彼女の左腕を自然な動きで組み、ぎゅっと抱きついてくる。そんな接近されたら、彼女の体の感触が直に右腕に伝わってくるじゃないか!
女の子の柔らかい体の感触が、右腕に!どうしよう?壬生さんの胸の感触が気になって会話に集中できない。
「う、うん、どうしようか?壬生さんはどこか行きたいところある?」
「根東くんが行きたいところでいいよ」
と言われてもなあ。正直、こうやって可愛い彼女と腕を組んで街中を歩くだけで十分に幸せだから、あんまりどこかに行きたくない。むしろずっとこうやって歩きたい気分なんだよなあ。
でも流石にずっと歩き続けるわけにもいかないか。なにか会話のキッカケを作らないと!
僕はそう思って焦るあまり、
「そういえば、壬生さんて、どんな色のブラジャーしてるの?」
とアホなことを聞いてしまった。
あ、やばい。なにを変態みたいな質問してんだ僕は?空気が、空気が凍り付いてしまったじゃないか。
「え、うん。それ答えないとダメかな?」
「いや違うんだって!今のはその、いやらしい意味じゃなくて!もっと心理テスト的な意味で聞いた質問だから!決して今つけてるブラの色を知りたいとか、そういうのじゃないから!」
「ああ、心理テストなんだ。ブラの色で何がわかるの?」
「あの、僕の深層心理がわかります」
「私のブラの色と根東くんの心理との間にどんな因果関係があるのかしら?」
さすにが成績優秀な才女の壬生さんでも、この難題に答えるのは無理のようだった。
ふぅ。ちょっと無理があった気もするけど、とりあえず変態の烙印を押される心配はなさそうだ。
それにしても、どうしよう?僕は「うん?」とこちらを見つめる壬生さんの綺麗な瞳を見つめながら考える。
正直に話してみるか。
「あの、実は最近、壬生さんの夢をよく見るんですよ」
「え、また見たの?」
まあ流石に二夜連続で彼女の夢を見てるなんて言われたら引くかもね。なぜ正直に話そうなんて思ったのだろう。数秒前の過去の自分を呪いたい。
「で、毎回壬生さんのブラが出てくるんだけど、いつもピンク色なんだよね」
「へえ、そうなんだ。でも私、ピンク色のブラなんて持ってないよ」
「あ、そうなんだ」
ま、しょせん夢だな。別にがっかりしてないよ。
「私、黒と赤しか持ってないよ」
なんですと!壬生さん、普段はあんなにも清楚そうな制服姿で登校しているのに、その下にはそんなセクシーカラーな下着をつけてたんですか!
やばい、なんか想像したらちょっと興奮してきた。っていうか今日の服装といい、壬生さんって派手なファッションが好きなのかな?
「うーん、でもそうか」
壬生さんはなにか考えるような仕草をして、「彼氏が好きな色の下着をするってのも良いかもね」と言い、僕の腕を組みながら首を傾けて僕の耳元に口を寄せる。
「一緒にピンクの下着、買いに行こうか」
今日、僕は人生初のデートで、一緒に彼女の下着を買いに行くことになった。
それは例えるなら、子供向けの映画に大人が一人で鑑賞しに行くような場違いな感じがした。
「いらっしゃいませー」
と明るく挨拶をしてくれる女性の店員さん。そんな店員さんがいるお店は、可愛らしい女の子向けの下着がたくさん売っているランジェリーショップだった。
へえ、ランジェリーショップってこんな感じなんだ。初めて知ったよ。だって僕、男だもん!男一人でランジェリーショップに行く経験なんて今まで一度も無かったから、もうすべてが新鮮だよ。もしも今この瞬間、僕がランジェリーショップにいる姿を知り合いの誰かに見られたら、恥ずかしさで死んでしまいそうだよ!
「ねえ根東くん。これ可愛くない?」
「うん、そだねー。可愛いね。凄く似合ってる!」
「ちゃんと見て評価してる?」
いや無茶言わないでよ。だってそれ…
「Tバックをそんなちゃんと評価できないよ」
「うん?根東くんはセクシー系は嫌かな?」
「ううん、大好きだよ。ただ刺激が強すぎて」
「ふーん」壬生さんはなんだか意地の悪そうな笑みを浮かべ、「そうなんだあ」
「今度学校で、すごーくエッチな下着つけて登校しようかな」
「え!」
それは、えーと、まずくないのか?いや、僕は嬉しいんだけど。
「あ、そっか」
壬生さんはまるでなにか納得したような表情を浮かべる。
「根東くんは、他の男の人に下着を見られる方が嬉しいんだっけ?」
「ええ!」
「あ、本当に嬉しいんだ。さっきより顔が悦んでる」
「そんなことないよ!」
否定しないと!でないとこの彼女、本当にやりかねん!
「お願いだから学校でTバックは止めて」
「うーん、うん。わかった。学校では止めるね」
はあ、よかった。これで将来の寝取られの禍根を事前に潰すことができた。もうこんな、だってこれ、え、これヒモしかなくね?大事な部分しか隠せないよね?
「あっちに根東くんの大好きなピンク色のブラあるよ」
「もう勘弁してよ。それじゃあ僕がブラをつけたいみたいじゃん」
「あはは。本当だね!根東くんが私に着せたいんだよね!」
「うんうん、そうだったね…ハッ!」
あれ?間違ってないんだけど、今の会話の内容は内容でちょっと変態っぽくないか。
さっと後ろを振り向けば、他の女性客たちがすっとこちらから視線を反らした気がする。
早く、一刻も早くブラだけ買って帰らないと。
「じゃあ試着するからちょっと待っててね」
そう言い残すと、壬生さんは僕だけを残して試着室に入っていく。当然、そうなるとこのランジェリーショップにいる男は僕だけになる。
壬生さん、お願いします。早く出てきて!この、え、なんでこの男、このお店にいるの?っていう周囲の女性客からの圧にとてもではないが耐えられない!
やがて試着室から出てくる壬生さん。
「どうだった?」
「うん可愛かったよ」
壬生さんはすっと僕の耳元に口を寄せて「あとで下着姿、撮って送るね」と囁いた。
なんて破壊力のあるパワーワードを言うのだろう、この美少女は。そんなこと言われたら期待で心臓が激動しちゃうじゃないか。
壬生さんはそう言うと会計しに行く。ようやく解放されそうだ。
「壬生さん、僕、先に外に出てるね」
「うん、待っててね」
本当ならここは男らしく僕が買ってあげた方が良いのかもしれない。しかし、もうこの重圧に精神が耐えられない。
だって僕、チャラくないもん。そんな女の子と楽しくランジェリーショップでお買い物できるようなチャラい精神持ってないもん!
ごめん、壬生さん。他は全部僕が驕ります。だからここだけは勘弁してください。
僕はランジェリーショップを出ると、すこし歩いて人気の少ない場所で深呼吸した。
ふー、はー。よし、もう大丈夫。壬生さんを迎えに行こう。
そう思って振り返り、ランジェリーショップがあった方を見る。ちょうど壬生さんが会計を済ませて出てきたところだった。
そんな彼女に近づく男の影。なんだかチャラそうな男が壬生さんに話しかけていた。
……え、ナンパ?
そんな!ちょっと目を離しただけじゃん。こんなすぐナンパされるとかありうるの?いや、でも、うーん、確かに今日の壬生さんの服装とか、完全にナンパされる女性の典型みたいなファッションだし、ありうるかな…
いや、わざとじゃね?
今思えば、彼氏とのデートであんな丈の短いショートパンツで来るか?
その時、脳内にある推理が浮かんだ。もしかして、寝取られイベントを発生させるためにわざとあんな恰好を?
普通の女性ならありえない。だが、壬生さんならありえる。
って悩んでる場合か?ナンパなんて追い払えばいいんだ。
僕は速足で壬生さんのところへ向かい「壬生さん、なにしてるの?」と声をかけた。
「あ、もしかして彼氏さんですか?今開店記念でマッサージの無料体験してるんですよ。よかったら彼女さんと一緒にマッサージ受けませんか?」
ただの仕事熱心な勧誘の人だったわ。
「ねえ根東くん。タダだって。受けようよ」
「え、ああ、うん、そうだね」
よく見たらこのお兄さんの後ろにちょっと高級感のありそうなマッサージ店があった。
こういうところってかなり高そうだし、無料なら良いのかな?ただなにか引っかかるんだよなあ。
そう、なにかとんでもないことを忘れているような、致命的なミスをしているような、そんな危険な匂いがした。
「じゃあ二名様、ご案内で。こちらへどうぞー」
チャラいけと、接客の態度は意外と紳士的なお兄さんに案内され、僕らはマッサージを受けることになった。
あ、ようやく違和感に気づいた。これあれだ、企画もののAVでよくあるナンパのテクじゃん。
はは、まさか街中でまるでAVみたいなイベントに遭遇するだなんて夢にも思わないよね。ホント、壬生さんと一緒にいると普通なら起こらないようなイベントばかりに遭遇するよ!
…え、違うよね?これたまたまAVみたいな事態が発生しているってだけで、これAVじゃないよね?
そうだよ、違うに決まってる。だって、AVの企画の九割近くがヤラセだって、セクシー女優のお姉さんがSNSで言ってたもん。
いくらエロいことが好きだからって、本当にガチな素人をナンパしてAVに出演させるなんてあるわけないよ。
あ、でも九割ヤラセってことは一割は本当なのかな?…いやいや、ないよ。たとえ一割のガチがあったとしても、その一割に僕らが該当する確率なんてツチノコを発見する確率より低いだろ!
どうしよう?行きたくない。断りたい。でもAVの企画っぽいから止めますなんて、そんな意味不明な言い訳ある?
なにより壬生さんがノリノリだ。なんか楽しそうに鼻歌までしてる。
「じゃあこちらでマッサージ用の施術着に着替えてください」
「はーい」
壬生さんは女性用の着替え室へ。僕は男性用の着替え室に行き、そこで施術着に着替える。
着替えた後に部屋を出ると、ちょうど壬生さんも着替え終わった後らしく、扉を開けて部屋から出てきた。
「あ、タイミング良いね。一緒に行こう」
「う、うん」
壬生さんは、可愛いだけでなく、体のスタイルも凄く良い女の子だ。特に今はボディラインがハッキリわかる施術着を着ているということもあってか、胸や腰、お尻などのラインが衣服の上からでもハッキリわかった。
なんかはっきりとボディラインがわかる分、裸よりエロいような気がした。
「じゃあこちらへどうぞ」
と案内されるがままにマッサージルームへ連れていかれる僕たち。一応個室もあるみたいだが、僕らが恋人同士ということで、同じ部屋で施術を受けられるみたいだ。
ちょっとホッとした。これなら壬生さんにいかがわしいことがされないように、僕がしっかり監視することができる。
マッサージ台が二つあり、僕と壬生さんはそれぞれの台へ移動。その上に促されるままにうつ伏せになった。
「あのー、カーテンで仕切ってもらっても良いですか?」
突然、壬生さんはそんな注文をマッサージ師のお兄さんに出した。なぜに?
「はい、いいですよ」
「え、壬生さん、なんで?」
「だってマッサージしている時の顔、根東くんに見せたくないんだもん」
そんな口調のキャラだったっけ、君?
壬生さんは頬を赤らめ、まるで恥じらう乙女みたいな顔をする。いや、君、そんなキャラじゃないじゃん。僕がち〇こ見せても平然と踏みつけるようなタイプじゃないですか。
「あ、すいません気が利かなくて。カーテンで仕切りますね」
マッサージ師のお兄さんはテキパキと動いて僕と壬生さんとの間にカーテンを引いて仕切りを設けた。
そんなー。これじゃ壬生さんがマッサージされる姿が見れないじゃないですか!
「じゃあこれから施術に入りますね。先輩はそちらのお嬢様をお願いします」
「はいよ、じゃあお嬢さん、よろしくね!」
なんか、やけに野太い声がするな。
見ると、四十代ぐらいの、焼けた浅黒い肌をしたマッチョ系のおじさんが壬生さんのマッサージ台へと向かっていった。
え、あのチャラい感じのお兄さんは?
「じゃあよろしくお願いしまーす」
どうやらチャラい感じのお兄さんが僕の施術をするみたいだ。え、なにこの展開。
いや、チャラいお兄さんにマッサージされるのも嫌だけど、あんなAV男優みたいなマッチョ系のおじさんにマッサージされる方がもっと嫌なんだけど!
ちょっと待って、これ本当にたまたまAVの企画に似てる状況が発生しただけなんだよね!え、違うよね!
あのおじさんはたまたまAV男優のような見た目をしているだけで、その正体はただの健全なおじさんなんだよね!誰か、そうだと言ってよ!
ハッ!そうだ!これがAVかどうか確かめる簡単な方法があるじゃないか!もしこれがAVの企画ならカメラがあるはず!カメラがなければただのマッサージってことだよね!
ということで僕はさっと部屋を見渡した。うん、よかったどこにもカメラがない。
ふぅ、ただの取り越し苦労だったみたいだ。よかった、そう思って天井を見たら、監視カメラがあった。
……あれは、防犯のためのカメラだよね?中に撮影用のカメラがあるとか、そういうのじゃないよね。
いや、防犯カメラだってちゃんと録画の機能はあるのだから、あの監視カメラでも問題なく撮影はできるのか。
…え?ガチ?これガチなの?え、違うよね。やべえ、マジで頭が破壊されそうなんだけど!
「じゃあお嬢さん、さっそくやるよ。ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね。すぐ気持ち良くしてあげるから」
「はーい」
「じゃあまずはオイルから塗るね。ちょっと冷たいかもしれないけど、我慢してね」
「わかりましたー」
オイルってまさか、それAVでよく出る感度が百倍になる魔法の媚薬なのか!
ハッ!なにを考えているんだ、僕は。対魔〇じゃないんだから、そんな感度が上がる媚薬なんて本当にあるわけないだろ。ただのオイルだよ。
「じゃあ彼氏さんの方も始めますね」
「はい、お願いします」
「じゃあいきますよー、フン!」
「え、ちょ、あの、い、いたい、いた、いたたたた!」
足の裏にとんでもない激痛が入った。マジで痛い、本当マジで痛い、いくらタダだからってなんでこんなダメージを負わないと…あれ、なんか途中から気持ち良くなってきたなあ。
「あ、痛いですか?」
「いや、うん、大丈夫、っていうか気持ち良くなってきました」
「そうですか!じゃあ続けますね」
このチャラそうなお兄さん、もしかして凄腕なのかもしれない。痛いのは最初だけなのに、だんだん気持ち良く…
「あ、うん、すごい、ああ、ダメ、くぅん、ああん、気持ち良いよ~」
隣から壬生さんの嬌声が聞こえた。え、これマッサージだよね?
いや、確かにこのマッサージ、すごく気持ち良く、今にも天に召されそうな心地よさなのだが、え?本当に同じマッサージ受けてる?
「お嬢さん、けっこう凝ってるね。こことかどうだい?」
「ああん、あん、おじさん、凄いです。おじさん、気持ち良いよ~」
おじさん、壬生さん相手になにしてるんですか?本当にマッサージしてる?なんか別のことしてない?
「うわあああん、ダメダメ、そこダメだよ、あ、あん、くぅん、ダメなのに、もうなんでこんなに気持ち良いの?」
「そんなに喜んでもらえるとこっちも嬉しいね!よし、じゃあ次は上半身行こうか」
「はあ、はあ、はあ、…はい、おじさん、お願いします」
え、上半身?それってお胸とかある方の上半身ですか?
「う、ああん、もうそんなとこダメだよ、おじさん。うん、うあん、ダメだってばあ。あ、ダメダメ!そこだけは絶対にダメ!ダメって言ったのに、なんでそんなに責めるの?うん、あ、やだ、…気持ち良い」
おじさああああん!それマッサージだよね!お願いだからマッサージだってちゃんと宣言して!でないと僕の、僕の脳が破壊されるから!
「じゃあそろそろ本番いくよ」
「はい、お願いします」
パンパンパンとなにか肉と肉が叩き合う音がした。
え?本番ってそういうこと?ちょっと待って。本当に本番してる?え、違うよね。
「うん、うん、うん、あん、すごい、これすごいよ、根東くん、すごい気持ち良いよ」
「え、壬生さん、そんなに気持ち良いの?」
「あ、じゃあこっちも叩打法やりますね」
チャラい感じのお兄さんはそう言うと、拳をつくって背中をパンパンって叩いてくる。
あ、これ、なんだろう。ちょうど良い感じに筋肉が解されていって、なかなか気持ち良い。へえ、こういうマッサージもあるんだあ。
なるほど、ようやく音の正体がわかって一安心。ただ…
パンパンパン
「あん、あん、あん」
音の正体がわかったはずなのに、壬生さんがやたらとエロい嬌声をあげるせいで、どうしても違う意味の本番をしているような気がしてならなかった。
そんなこんなで三十分ほど施術を受け、ようやくマッサージは終わった。
「うーん、気持ち良かった…根東くん、なんでそんな疲れた顔してるの?」
「いや、予想以上に刺激的で、ちょっと心がやられたみたい」
「ふーん、そうなんだ」
壬生さんはそっと僕の傍によると、「私が寝取られたって思った?」と囁いた。
あ、この人、わざとあんな声あげてたんだ。
そうだよね、明らかにおかしいもんね。
結論から言えば、このお店は極めて合法的なマッサージ店だった。AVの企画なわけがなかった。
むしろとても優良なサービスを受けられるお店といっても過言ではない。唯一難点をあげるなら、壬生さんのことが気になり過ぎてサービスの内容はほとんどわからなかったことぐらいだ。
「つ、次行こうか」
「うん」
その後、昼食に安いイタリアンのお店でパスタを食べて、ゲーセンで遊んで、書店で参考書を探すなど、自由に楽しく壬生さんと一緒にデートを楽しんだ。
「ちょっと遊びすぎじゃったかな」
日が沈み始めるころ。そろそろ帰ろうかなって話をしている時に、壬生さんはそう言った。
「じゃあ明日は受験勉強でもしようか?」
「そうだね。今日はもう帰ろうか」
なにも言ってないのに自然と僕らは手を握り、帰路につく。
今日は本当にいろいろあった。正直、すごい疲労感である。でも僕は、もっと彼女といたい、家に帰るのを先延ばしにしたい、このままずっと一緒にいたい、そんな気分に支配されていた。
「ねえ壬生さん」
「なに?」
「キスして良い?」
僕は壬生さんの腕を引っ張ると、彼女を抱きしめた。
「うん?抱きたくなったの?」
「抱かないよ。約束だから。でもキスは良いんでしょ」
「うん、確かにそう言ったね」
繁華街から離れた帰り道。たまたま人気の少ない場所だったから、誰にも見られることなく僕は壬生さんにキスをした。
最初は唇と唇が触れるくらいの、簡単なキスだった。しかし、だんだん感情の抑えが効かず、最後には貪るようにキスしてしまった。
壬生さんの唇はとても柔らかく、キスをすると頭が幸福感に満たされておかしくなりそうだった。キスってこんなにも気持ち良いのか。
ようやくキスが終わり、彼女から顔を離す。そこには魔性の女のような怪しい笑顔を浮かべる壬生さんがいた。
「激しすぎ。犯されるかと思っちゃった」
「しないよ。約束だから。でも高校を卒業したら壬生さんのこと、めちゃくちゃにしても良いかな?」
「うん、いいよ。恋人同士なんだもん。この体、好きにして良いよ」
――ちゃんと最後まで約束守れたらね、と彼女は囁いた。
その後、僕らは特に会話をすることなく家に帰った。ただその無言は決して嫌なものじゃない。むしろ居心地の良ささえ感じた。
途中で壬生さんと別れ、僕は一人で自宅に帰る。自室に戻り、ベッドに寝転がり、天井をじっと見つめていると、急に冷静になってとんでもないことをしたような気分になった。
やっばい、どうしよう、自分からキスしちゃった。それもあんな動物みたいに激しいやつを。しかも壬生さん、嫌がるどころかちゃんと受け入れてくれたし。
感情が激しく波打っていて頭がどうにかなりそうだった。
やっぱり僕、壬生さんのこと大好きだ。絶対手放したくない。
ブーブー、スマホが振動する音がした。壬生さんからメッセージが来たみたいだ。
『今日買った下着、見てね』
ピロンと新しいメッセージが来る。そちらは画像データだった。
そこには、右手で服をめくり、左手でスカートをめくって中の下着を披露する壬生さんが写っていた。
すごくエッチだった。わざわざ服を捲って下着を見せるという構図のせいで、ただでさえ下着姿でエロいのに、余計に扇情的だった。
「壬生さん、ホント可愛いな…なんで男と一緒に写ってるんだろ?」
そんな下着姿を見せる壬生さんの背後には、年上っぽい雰囲気のある男性が写り込んでいる。
その男は右手を前に突き出し、まるで自分たちを撮影しているかのようなポーズをとっている。
ああ、なるほね。そっか、壬生さん、右手と左手が塞がってるもんね。これじゃあ確かに誰かに協力してもらわないとスマホで撮影なんてできないよね!やっぱり壬生さんは賢いなあ。
「ははは、はははは、うわああああああああああああ!」
ピロン、とまたメッセージが来たことを知らせる着信音がした。
『根東くん』
壬生さんからのメッセージだ。
『明日、勉強会をしましょう。頑張って勉強したら、ご褒美になんでも答えてあげる』
一体どこの世界にそんなモチベーションの上げ方ある?でも哀しいかな、その方法は僕にのみ有効に働く。
僕の精神はズタズタに切り裂かれ、心臓をわしづかみにされるような苦痛に苛まれた。しかし一方で、もっと見たい、壬生さんが他男と一緒にいる姿をもっと感じたいという、厄介な衝動に駆られていた。
そこには二人の女子、鬼瓦荊と壬生来沙羅が、一人は止めてほしそうに、もう一人は強引に抱きしめて離さないようにしている。
「お願い、もう止めて」
「無理だよ。壬生さんは可愛すぎる。私なら、あんな彼氏より気持ち良くさせられるよ」
「そんなことないよ。彼のことバカにしないで」
「あはは、ごめんごめん」
鬼瓦荊はそう言うと壬生来沙羅の制服の中にそっと手を入れて、彼女のお腹のあたりを指でなでる。すると、「ん」と我慢するような吐息が壬生来沙羅から漏れる。
「ダメだよ、こんなの。私、彼氏がいるって言ったでしょ」
「じゃあ、逃げたらいいよ」
「え?」
「私は確かに鍛えてるけど、それでも女の子。力なんて大して無いよ。壬生さんが本気で抵抗したら、私から逃げるなんて簡単だよ。でも抵抗しないなら、イエスと受け取るよ」
「そんなの、卑怯だよ…」
「壬生さん、好きだよ」
鬼瓦荊は壬生来沙羅の制服のボタンを丁寧にはずし、はだけさせ、形の良い双丘が露わになる。鬼瓦荊はたおやかな手つきで彼女のピンク色のブラジャーのホックを外そうと…
「……またこの夢かよ」
目が覚めたら自分の部屋だった。今回の悪夢は相手の顔を知っているだけに、やけにリアルだった。
っていうかなんで悪夢の中の壬生さんはいつもピンク色のブラジャーしてるんだ?壬生さんに似合うのは清純な白やろが!
…まあ、黒なら黒で逆にギャップがあって興奮するけど…って違う。そんなことじゃねえ!今日は壬生さんといちゃいちゃラブラブのデート日だ!
僕はスマホの電源をオンにして時間を確認する。よかった、タイマーの一時間も早く起きれた。悪夢のおかげで早起きできた、そこだけは感謝しても良いかもしれない。
軽く朝食を済ませてから着替えると、家を出て駅前の西口へと向かうことにした。
駅前の西口は飲食店や娯楽施設などが多く、このあたりではかなり栄えている地域だ。それだけに奥の方へと進んでいくと、ラブホテルやら風俗店など、大人向けの施設も多く存在する。
若い人から中年の人まで、幅広い年齢層の人達が多く集まる場所なのだ。そんな人で賑わう場所なだけに…やっぱりナンパが多かった。
チャラそうな人が多いな。ああいう人たちにナンパされないように、僕が壬生さんを守らないと!
そう硬く決心していると、駅のホームから見知った顔の人がやってきた。壬生さんだ。
「あ、おーい、おはよう根東くん。待った?」
「ううん、今きたところ…だよ」
「そう?遅刻しないで良かった。じゃあ行こうか」
「う、うん」
壬生さんは、普段はとても清楚で清純そうな雰囲気のある女の子だ。この一週間で確かに清純とはかけ離れた一面を多く知ったわけだが、ただ基本的に黙ってなにもしなければ清楚さの塊のような女性なのだ。
だからてっきり、もっとこう、清楚な雰囲気のあるワンピースとか着てくるのかなあ、なんてイメージしていた。
そんな僕のイメージを裏切るように、すごく遊んでいそうなギャルファッションでやってきた。っていうか、デニムのショートパンツの丈がガチでショートすぎて、足が丸見えだった。
壬生さんって、すごく綺麗な足してるな。
「今日どこ行こうか?」
壬生さんは僕の右側にくると、右腕に彼女の左腕を自然な動きで組み、ぎゅっと抱きついてくる。そんな接近されたら、彼女の体の感触が直に右腕に伝わってくるじゃないか!
女の子の柔らかい体の感触が、右腕に!どうしよう?壬生さんの胸の感触が気になって会話に集中できない。
「う、うん、どうしようか?壬生さんはどこか行きたいところある?」
「根東くんが行きたいところでいいよ」
と言われてもなあ。正直、こうやって可愛い彼女と腕を組んで街中を歩くだけで十分に幸せだから、あんまりどこかに行きたくない。むしろずっとこうやって歩きたい気分なんだよなあ。
でも流石にずっと歩き続けるわけにもいかないか。なにか会話のキッカケを作らないと!
僕はそう思って焦るあまり、
「そういえば、壬生さんて、どんな色のブラジャーしてるの?」
とアホなことを聞いてしまった。
あ、やばい。なにを変態みたいな質問してんだ僕は?空気が、空気が凍り付いてしまったじゃないか。
「え、うん。それ答えないとダメかな?」
「いや違うんだって!今のはその、いやらしい意味じゃなくて!もっと心理テスト的な意味で聞いた質問だから!決して今つけてるブラの色を知りたいとか、そういうのじゃないから!」
「ああ、心理テストなんだ。ブラの色で何がわかるの?」
「あの、僕の深層心理がわかります」
「私のブラの色と根東くんの心理との間にどんな因果関係があるのかしら?」
さすにが成績優秀な才女の壬生さんでも、この難題に答えるのは無理のようだった。
ふぅ。ちょっと無理があった気もするけど、とりあえず変態の烙印を押される心配はなさそうだ。
それにしても、どうしよう?僕は「うん?」とこちらを見つめる壬生さんの綺麗な瞳を見つめながら考える。
正直に話してみるか。
「あの、実は最近、壬生さんの夢をよく見るんですよ」
「え、また見たの?」
まあ流石に二夜連続で彼女の夢を見てるなんて言われたら引くかもね。なぜ正直に話そうなんて思ったのだろう。数秒前の過去の自分を呪いたい。
「で、毎回壬生さんのブラが出てくるんだけど、いつもピンク色なんだよね」
「へえ、そうなんだ。でも私、ピンク色のブラなんて持ってないよ」
「あ、そうなんだ」
ま、しょせん夢だな。別にがっかりしてないよ。
「私、黒と赤しか持ってないよ」
なんですと!壬生さん、普段はあんなにも清楚そうな制服姿で登校しているのに、その下にはそんなセクシーカラーな下着をつけてたんですか!
やばい、なんか想像したらちょっと興奮してきた。っていうか今日の服装といい、壬生さんって派手なファッションが好きなのかな?
「うーん、でもそうか」
壬生さんはなにか考えるような仕草をして、「彼氏が好きな色の下着をするってのも良いかもね」と言い、僕の腕を組みながら首を傾けて僕の耳元に口を寄せる。
「一緒にピンクの下着、買いに行こうか」
今日、僕は人生初のデートで、一緒に彼女の下着を買いに行くことになった。
それは例えるなら、子供向けの映画に大人が一人で鑑賞しに行くような場違いな感じがした。
「いらっしゃいませー」
と明るく挨拶をしてくれる女性の店員さん。そんな店員さんがいるお店は、可愛らしい女の子向けの下着がたくさん売っているランジェリーショップだった。
へえ、ランジェリーショップってこんな感じなんだ。初めて知ったよ。だって僕、男だもん!男一人でランジェリーショップに行く経験なんて今まで一度も無かったから、もうすべてが新鮮だよ。もしも今この瞬間、僕がランジェリーショップにいる姿を知り合いの誰かに見られたら、恥ずかしさで死んでしまいそうだよ!
「ねえ根東くん。これ可愛くない?」
「うん、そだねー。可愛いね。凄く似合ってる!」
「ちゃんと見て評価してる?」
いや無茶言わないでよ。だってそれ…
「Tバックをそんなちゃんと評価できないよ」
「うん?根東くんはセクシー系は嫌かな?」
「ううん、大好きだよ。ただ刺激が強すぎて」
「ふーん」壬生さんはなんだか意地の悪そうな笑みを浮かべ、「そうなんだあ」
「今度学校で、すごーくエッチな下着つけて登校しようかな」
「え!」
それは、えーと、まずくないのか?いや、僕は嬉しいんだけど。
「あ、そっか」
壬生さんはまるでなにか納得したような表情を浮かべる。
「根東くんは、他の男の人に下着を見られる方が嬉しいんだっけ?」
「ええ!」
「あ、本当に嬉しいんだ。さっきより顔が悦んでる」
「そんなことないよ!」
否定しないと!でないとこの彼女、本当にやりかねん!
「お願いだから学校でTバックは止めて」
「うーん、うん。わかった。学校では止めるね」
はあ、よかった。これで将来の寝取られの禍根を事前に潰すことができた。もうこんな、だってこれ、え、これヒモしかなくね?大事な部分しか隠せないよね?
「あっちに根東くんの大好きなピンク色のブラあるよ」
「もう勘弁してよ。それじゃあ僕がブラをつけたいみたいじゃん」
「あはは。本当だね!根東くんが私に着せたいんだよね!」
「うんうん、そうだったね…ハッ!」
あれ?間違ってないんだけど、今の会話の内容は内容でちょっと変態っぽくないか。
さっと後ろを振り向けば、他の女性客たちがすっとこちらから視線を反らした気がする。
早く、一刻も早くブラだけ買って帰らないと。
「じゃあ試着するからちょっと待っててね」
そう言い残すと、壬生さんは僕だけを残して試着室に入っていく。当然、そうなるとこのランジェリーショップにいる男は僕だけになる。
壬生さん、お願いします。早く出てきて!この、え、なんでこの男、このお店にいるの?っていう周囲の女性客からの圧にとてもではないが耐えられない!
やがて試着室から出てくる壬生さん。
「どうだった?」
「うん可愛かったよ」
壬生さんはすっと僕の耳元に口を寄せて「あとで下着姿、撮って送るね」と囁いた。
なんて破壊力のあるパワーワードを言うのだろう、この美少女は。そんなこと言われたら期待で心臓が激動しちゃうじゃないか。
壬生さんはそう言うと会計しに行く。ようやく解放されそうだ。
「壬生さん、僕、先に外に出てるね」
「うん、待っててね」
本当ならここは男らしく僕が買ってあげた方が良いのかもしれない。しかし、もうこの重圧に精神が耐えられない。
だって僕、チャラくないもん。そんな女の子と楽しくランジェリーショップでお買い物できるようなチャラい精神持ってないもん!
ごめん、壬生さん。他は全部僕が驕ります。だからここだけは勘弁してください。
僕はランジェリーショップを出ると、すこし歩いて人気の少ない場所で深呼吸した。
ふー、はー。よし、もう大丈夫。壬生さんを迎えに行こう。
そう思って振り返り、ランジェリーショップがあった方を見る。ちょうど壬生さんが会計を済ませて出てきたところだった。
そんな彼女に近づく男の影。なんだかチャラそうな男が壬生さんに話しかけていた。
……え、ナンパ?
そんな!ちょっと目を離しただけじゃん。こんなすぐナンパされるとかありうるの?いや、でも、うーん、確かに今日の壬生さんの服装とか、完全にナンパされる女性の典型みたいなファッションだし、ありうるかな…
いや、わざとじゃね?
今思えば、彼氏とのデートであんな丈の短いショートパンツで来るか?
その時、脳内にある推理が浮かんだ。もしかして、寝取られイベントを発生させるためにわざとあんな恰好を?
普通の女性ならありえない。だが、壬生さんならありえる。
って悩んでる場合か?ナンパなんて追い払えばいいんだ。
僕は速足で壬生さんのところへ向かい「壬生さん、なにしてるの?」と声をかけた。
「あ、もしかして彼氏さんですか?今開店記念でマッサージの無料体験してるんですよ。よかったら彼女さんと一緒にマッサージ受けませんか?」
ただの仕事熱心な勧誘の人だったわ。
「ねえ根東くん。タダだって。受けようよ」
「え、ああ、うん、そうだね」
よく見たらこのお兄さんの後ろにちょっと高級感のありそうなマッサージ店があった。
こういうところってかなり高そうだし、無料なら良いのかな?ただなにか引っかかるんだよなあ。
そう、なにかとんでもないことを忘れているような、致命的なミスをしているような、そんな危険な匂いがした。
「じゃあ二名様、ご案内で。こちらへどうぞー」
チャラいけと、接客の態度は意外と紳士的なお兄さんに案内され、僕らはマッサージを受けることになった。
あ、ようやく違和感に気づいた。これあれだ、企画もののAVでよくあるナンパのテクじゃん。
はは、まさか街中でまるでAVみたいなイベントに遭遇するだなんて夢にも思わないよね。ホント、壬生さんと一緒にいると普通なら起こらないようなイベントばかりに遭遇するよ!
…え、違うよね?これたまたまAVみたいな事態が発生しているってだけで、これAVじゃないよね?
そうだよ、違うに決まってる。だって、AVの企画の九割近くがヤラセだって、セクシー女優のお姉さんがSNSで言ってたもん。
いくらエロいことが好きだからって、本当にガチな素人をナンパしてAVに出演させるなんてあるわけないよ。
あ、でも九割ヤラセってことは一割は本当なのかな?…いやいや、ないよ。たとえ一割のガチがあったとしても、その一割に僕らが該当する確率なんてツチノコを発見する確率より低いだろ!
どうしよう?行きたくない。断りたい。でもAVの企画っぽいから止めますなんて、そんな意味不明な言い訳ある?
なにより壬生さんがノリノリだ。なんか楽しそうに鼻歌までしてる。
「じゃあこちらでマッサージ用の施術着に着替えてください」
「はーい」
壬生さんは女性用の着替え室へ。僕は男性用の着替え室に行き、そこで施術着に着替える。
着替えた後に部屋を出ると、ちょうど壬生さんも着替え終わった後らしく、扉を開けて部屋から出てきた。
「あ、タイミング良いね。一緒に行こう」
「う、うん」
壬生さんは、可愛いだけでなく、体のスタイルも凄く良い女の子だ。特に今はボディラインがハッキリわかる施術着を着ているということもあってか、胸や腰、お尻などのラインが衣服の上からでもハッキリわかった。
なんかはっきりとボディラインがわかる分、裸よりエロいような気がした。
「じゃあこちらへどうぞ」
と案内されるがままにマッサージルームへ連れていかれる僕たち。一応個室もあるみたいだが、僕らが恋人同士ということで、同じ部屋で施術を受けられるみたいだ。
ちょっとホッとした。これなら壬生さんにいかがわしいことがされないように、僕がしっかり監視することができる。
マッサージ台が二つあり、僕と壬生さんはそれぞれの台へ移動。その上に促されるままにうつ伏せになった。
「あのー、カーテンで仕切ってもらっても良いですか?」
突然、壬生さんはそんな注文をマッサージ師のお兄さんに出した。なぜに?
「はい、いいですよ」
「え、壬生さん、なんで?」
「だってマッサージしている時の顔、根東くんに見せたくないんだもん」
そんな口調のキャラだったっけ、君?
壬生さんは頬を赤らめ、まるで恥じらう乙女みたいな顔をする。いや、君、そんなキャラじゃないじゃん。僕がち〇こ見せても平然と踏みつけるようなタイプじゃないですか。
「あ、すいません気が利かなくて。カーテンで仕切りますね」
マッサージ師のお兄さんはテキパキと動いて僕と壬生さんとの間にカーテンを引いて仕切りを設けた。
そんなー。これじゃ壬生さんがマッサージされる姿が見れないじゃないですか!
「じゃあこれから施術に入りますね。先輩はそちらのお嬢様をお願いします」
「はいよ、じゃあお嬢さん、よろしくね!」
なんか、やけに野太い声がするな。
見ると、四十代ぐらいの、焼けた浅黒い肌をしたマッチョ系のおじさんが壬生さんのマッサージ台へと向かっていった。
え、あのチャラい感じのお兄さんは?
「じゃあよろしくお願いしまーす」
どうやらチャラい感じのお兄さんが僕の施術をするみたいだ。え、なにこの展開。
いや、チャラいお兄さんにマッサージされるのも嫌だけど、あんなAV男優みたいなマッチョ系のおじさんにマッサージされる方がもっと嫌なんだけど!
ちょっと待って、これ本当にたまたまAVの企画に似てる状況が発生しただけなんだよね!え、違うよね!
あのおじさんはたまたまAV男優のような見た目をしているだけで、その正体はただの健全なおじさんなんだよね!誰か、そうだと言ってよ!
ハッ!そうだ!これがAVかどうか確かめる簡単な方法があるじゃないか!もしこれがAVの企画ならカメラがあるはず!カメラがなければただのマッサージってことだよね!
ということで僕はさっと部屋を見渡した。うん、よかったどこにもカメラがない。
ふぅ、ただの取り越し苦労だったみたいだ。よかった、そう思って天井を見たら、監視カメラがあった。
……あれは、防犯のためのカメラだよね?中に撮影用のカメラがあるとか、そういうのじゃないよね。
いや、防犯カメラだってちゃんと録画の機能はあるのだから、あの監視カメラでも問題なく撮影はできるのか。
…え?ガチ?これガチなの?え、違うよね。やべえ、マジで頭が破壊されそうなんだけど!
「じゃあお嬢さん、さっそくやるよ。ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してね。すぐ気持ち良くしてあげるから」
「はーい」
「じゃあまずはオイルから塗るね。ちょっと冷たいかもしれないけど、我慢してね」
「わかりましたー」
オイルってまさか、それAVでよく出る感度が百倍になる魔法の媚薬なのか!
ハッ!なにを考えているんだ、僕は。対魔〇じゃないんだから、そんな感度が上がる媚薬なんて本当にあるわけないだろ。ただのオイルだよ。
「じゃあ彼氏さんの方も始めますね」
「はい、お願いします」
「じゃあいきますよー、フン!」
「え、ちょ、あの、い、いたい、いた、いたたたた!」
足の裏にとんでもない激痛が入った。マジで痛い、本当マジで痛い、いくらタダだからってなんでこんなダメージを負わないと…あれ、なんか途中から気持ち良くなってきたなあ。
「あ、痛いですか?」
「いや、うん、大丈夫、っていうか気持ち良くなってきました」
「そうですか!じゃあ続けますね」
このチャラそうなお兄さん、もしかして凄腕なのかもしれない。痛いのは最初だけなのに、だんだん気持ち良く…
「あ、うん、すごい、ああ、ダメ、くぅん、ああん、気持ち良いよ~」
隣から壬生さんの嬌声が聞こえた。え、これマッサージだよね?
いや、確かにこのマッサージ、すごく気持ち良く、今にも天に召されそうな心地よさなのだが、え?本当に同じマッサージ受けてる?
「お嬢さん、けっこう凝ってるね。こことかどうだい?」
「ああん、あん、おじさん、凄いです。おじさん、気持ち良いよ~」
おじさん、壬生さん相手になにしてるんですか?本当にマッサージしてる?なんか別のことしてない?
「うわあああん、ダメダメ、そこダメだよ、あ、あん、くぅん、ダメなのに、もうなんでこんなに気持ち良いの?」
「そんなに喜んでもらえるとこっちも嬉しいね!よし、じゃあ次は上半身行こうか」
「はあ、はあ、はあ、…はい、おじさん、お願いします」
え、上半身?それってお胸とかある方の上半身ですか?
「う、ああん、もうそんなとこダメだよ、おじさん。うん、うあん、ダメだってばあ。あ、ダメダメ!そこだけは絶対にダメ!ダメって言ったのに、なんでそんなに責めるの?うん、あ、やだ、…気持ち良い」
おじさああああん!それマッサージだよね!お願いだからマッサージだってちゃんと宣言して!でないと僕の、僕の脳が破壊されるから!
「じゃあそろそろ本番いくよ」
「はい、お願いします」
パンパンパンとなにか肉と肉が叩き合う音がした。
え?本番ってそういうこと?ちょっと待って。本当に本番してる?え、違うよね。
「うん、うん、うん、あん、すごい、これすごいよ、根東くん、すごい気持ち良いよ」
「え、壬生さん、そんなに気持ち良いの?」
「あ、じゃあこっちも叩打法やりますね」
チャラい感じのお兄さんはそう言うと、拳をつくって背中をパンパンって叩いてくる。
あ、これ、なんだろう。ちょうど良い感じに筋肉が解されていって、なかなか気持ち良い。へえ、こういうマッサージもあるんだあ。
なるほど、ようやく音の正体がわかって一安心。ただ…
パンパンパン
「あん、あん、あん」
音の正体がわかったはずなのに、壬生さんがやたらとエロい嬌声をあげるせいで、どうしても違う意味の本番をしているような気がしてならなかった。
そんなこんなで三十分ほど施術を受け、ようやくマッサージは終わった。
「うーん、気持ち良かった…根東くん、なんでそんな疲れた顔してるの?」
「いや、予想以上に刺激的で、ちょっと心がやられたみたい」
「ふーん、そうなんだ」
壬生さんはそっと僕の傍によると、「私が寝取られたって思った?」と囁いた。
あ、この人、わざとあんな声あげてたんだ。
そうだよね、明らかにおかしいもんね。
結論から言えば、このお店は極めて合法的なマッサージ店だった。AVの企画なわけがなかった。
むしろとても優良なサービスを受けられるお店といっても過言ではない。唯一難点をあげるなら、壬生さんのことが気になり過ぎてサービスの内容はほとんどわからなかったことぐらいだ。
「つ、次行こうか」
「うん」
その後、昼食に安いイタリアンのお店でパスタを食べて、ゲーセンで遊んで、書店で参考書を探すなど、自由に楽しく壬生さんと一緒にデートを楽しんだ。
「ちょっと遊びすぎじゃったかな」
日が沈み始めるころ。そろそろ帰ろうかなって話をしている時に、壬生さんはそう言った。
「じゃあ明日は受験勉強でもしようか?」
「そうだね。今日はもう帰ろうか」
なにも言ってないのに自然と僕らは手を握り、帰路につく。
今日は本当にいろいろあった。正直、すごい疲労感である。でも僕は、もっと彼女といたい、家に帰るのを先延ばしにしたい、このままずっと一緒にいたい、そんな気分に支配されていた。
「ねえ壬生さん」
「なに?」
「キスして良い?」
僕は壬生さんの腕を引っ張ると、彼女を抱きしめた。
「うん?抱きたくなったの?」
「抱かないよ。約束だから。でもキスは良いんでしょ」
「うん、確かにそう言ったね」
繁華街から離れた帰り道。たまたま人気の少ない場所だったから、誰にも見られることなく僕は壬生さんにキスをした。
最初は唇と唇が触れるくらいの、簡単なキスだった。しかし、だんだん感情の抑えが効かず、最後には貪るようにキスしてしまった。
壬生さんの唇はとても柔らかく、キスをすると頭が幸福感に満たされておかしくなりそうだった。キスってこんなにも気持ち良いのか。
ようやくキスが終わり、彼女から顔を離す。そこには魔性の女のような怪しい笑顔を浮かべる壬生さんがいた。
「激しすぎ。犯されるかと思っちゃった」
「しないよ。約束だから。でも高校を卒業したら壬生さんのこと、めちゃくちゃにしても良いかな?」
「うん、いいよ。恋人同士なんだもん。この体、好きにして良いよ」
――ちゃんと最後まで約束守れたらね、と彼女は囁いた。
その後、僕らは特に会話をすることなく家に帰った。ただその無言は決して嫌なものじゃない。むしろ居心地の良ささえ感じた。
途中で壬生さんと別れ、僕は一人で自宅に帰る。自室に戻り、ベッドに寝転がり、天井をじっと見つめていると、急に冷静になってとんでもないことをしたような気分になった。
やっばい、どうしよう、自分からキスしちゃった。それもあんな動物みたいに激しいやつを。しかも壬生さん、嫌がるどころかちゃんと受け入れてくれたし。
感情が激しく波打っていて頭がどうにかなりそうだった。
やっぱり僕、壬生さんのこと大好きだ。絶対手放したくない。
ブーブー、スマホが振動する音がした。壬生さんからメッセージが来たみたいだ。
『今日買った下着、見てね』
ピロンと新しいメッセージが来る。そちらは画像データだった。
そこには、右手で服をめくり、左手でスカートをめくって中の下着を披露する壬生さんが写っていた。
すごくエッチだった。わざわざ服を捲って下着を見せるという構図のせいで、ただでさえ下着姿でエロいのに、余計に扇情的だった。
「壬生さん、ホント可愛いな…なんで男と一緒に写ってるんだろ?」
そんな下着姿を見せる壬生さんの背後には、年上っぽい雰囲気のある男性が写り込んでいる。
その男は右手を前に突き出し、まるで自分たちを撮影しているかのようなポーズをとっている。
ああ、なるほね。そっか、壬生さん、右手と左手が塞がってるもんね。これじゃあ確かに誰かに協力してもらわないとスマホで撮影なんてできないよね!やっぱり壬生さんは賢いなあ。
「ははは、はははは、うわああああああああああああ!」
ピロン、とまたメッセージが来たことを知らせる着信音がした。
『根東くん』
壬生さんからのメッセージだ。
『明日、勉強会をしましょう。頑張って勉強したら、ご褒美になんでも答えてあげる』
一体どこの世界にそんなモチベーションの上げ方ある?でも哀しいかな、その方法は僕にのみ有効に働く。
僕の精神はズタズタに切り裂かれ、心臓をわしづかみにされるような苦痛に苛まれた。しかし一方で、もっと見たい、壬生さんが他男と一緒にいる姿をもっと感じたいという、厄介な衝動に駆られていた。
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